罠職人トラッパ、壊すな直せと言い出す
罠を避けるだけでは足りません。
直して、動かして、踏ませます。
まずは自分が落ちます。
スリップに案内された先は、王都の裏通りにある小さな工房だった。
扉には札が三枚かかっている。
【入るな危険】
【用事があるなら三回ノック】
【四回ノックしたら天井が落ちます】
「帰ろう」
「早いな!」
「入口の時点で殺意が署名してる!」
ログルが扉を見上げた。
「三回で止めれば問題ない可能性が高いです」
「緊張で四回叩いたら?」
「天井です」
「天井が動詞みたいになってる!」
わたしはそっと拳を上げた。
一回。二回。三回。
手が勢いで四回目に行きかける。
ログルが尻尾で止めた。
「あっぶな! わたしの右手、王都に負けかけた!」
扉が開いた。
中にいたのは、小柄な女性だった。髪は短く、腰には工具袋。目はきらきらしているが、見ている先はわたしではなく、足元だった。
「君、いい踏み方をするね」
「褒められてる気がしない!」
スリップが手を振る。
「トラッパ。こいつ、罠で死ぬけど覚えるんだ」
「いい素材」
「素材って言われた!」
トラッパは床に小さな落とし穴の模型を置いた。
「罠は壊すものじゃない。置き場所を変えるもの」
「壊した方が安全じゃないの?」
「もったいない」
「安全よりもったいないが勝つ人だ!」
彼女は淡々と続ける。
「踏むものでもない。踏ませるもの。落とし穴は直せば、また使える」
「また使わないで!」
「敵に使う」
「それなら少し納得!」
練習場には、壊れた落とし穴があった。
板が外れ、ばねがゆるみ、横には小さな警備人形が置かれている。
「直してみて」
「罠を?」
「うん」
「勇者が罠を直す日が来るとは思わなかった」
わたしは板をはめた。ばねを戻した。踏む側と安全側を確認した。
「できた!」
「勇者様」
「なに?」
「板が逆です」
「え?」
床が抜けた。
「直したのにいいいいいいいい!」
落ちた先は、ふかふかのマットだった。
助かったと思った。
マットが、ぽよんと跳ねた。
わたしは天井の鐘に頭をぶつけた。
かーん。
「死亡演出に効果音つけるなああああああ!」
【死亡ログ】
死亡回数:33回目
死亡時レベル:Lv4
死因:【落とし穴を逆向きに修理して、自分が落ちた】
評価:【罠の向きは命の向きです】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
再挑戦。
わたしは板をはめる前に、床に指で矢印を書いた。
「こっちが敵。こっちがわたし。こっちが落ちる。こっちは落ちない」
「良い確認です」
「落ちたくないからね!」
トラッパはじっと見ていた。
「今のは、いい置き方」
「踏み方じゃなくて?」
「置き方」
「やった! 褒め方がちょっとマシになった!」
小さな警備人形を誘導する。
一歩。人形も一歩。
わたしは壁ぎわへ。人形はまっすぐ。
かたん。
人形が穴へ落ちた。
「やった!」
「罠師適性、強く反応しています」
「勇者なのに?」
「生存率に貢献しています」
「生存率が正義!」
工房の奥には、古い扉の絵があった。
錆びた金具。丸い鍵穴。周りには細かい罠の記号。
「それなに?」
「王都地下の古い大扉」
トラッパが言った。
「開かない。近づくと罠が動く。壊すと別の罠が起きる」
「悪い扉!」
「でも、古い。普通の防犯罠じゃない」
ログルの宝石が、ほんの少し光った。
「勇者様。その絵から、帰還因子に似た反応があります」
わたしは息を止めた。
「帰る、に関係ある?」
「可能性があります。ただし、確定ではありません」
「......そっか」
期待しすぎると、あとで痛い。
でも、何も思わないふりはできなかった。
トラッパが工具を一つ差し出す。
「地下へ行くなら、安全確認棒を持っていくといい」
「安全なの?」
「棒が先に死ぬ」
「名前に反して過酷!」
わたしは棒を受け取った。
「よし。扉を見る。帰るために」
「その前に罠街区」
スリップが言った。
「王都一ヤバい道だぜ」
「王都全部ヤバいのに、その中で一番!?」
【今回の死亡ログ】
死亡時レベル:Lv4
死亡時HP:0/31
死亡時満腹度:58/100
今回の死因:【落とし穴を逆向きに修理して、自分が落ちた】
評価:【罠の向きは命の向きです】
ロスト:【拾った修理釘】【練習用ばね】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード027
再挑戦後レベル:Lv4
最大HP:31
現在HP:25/31
死亡回数:33回
クラス:罠師候補
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【恐怖耐性 Lv.1】
【危険察知 Lv.2】
【足元確認 Lv.3】
【罠感知 Lv.2】
【未識別警戒 Lv.3】
【魔法安全確認 Lv.1】
【属性識別 Lv.1】
【壁ぎわ逃げ Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【落とし穴修理 Lv.1】
新規獲得:【罠移設 Lv.1】
新規獲得:【安全確認棒の使い方 Lv.1】
レベルアップ:【罠感知 Lv.1】→【罠感知 Lv.2】
【登場人物紹介】
トラッパ:罠職人。罠は壊さず直して使う派。褒め方がだいぶ変。
スリップ:王都地下へ続く道を知っている盗賊少年。
コヨリ:罠の向きを間違えて自分で落ちた幼女勇者。
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