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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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視界外射撃が味方に当たる

射線は敵だけを見るものではありません。味方も、います。

 射線の谷で死にまくったおかげで、わたしは遠距離攻撃を信用しすぎない子になった。

 直線、壁、貫通後、跳ね返り、味方の位置。ぜんぶ見る。


 前方五マスに帰還弓コボルト。

 小石袋改で届く。


「ログル、射線」

「前方一直線。障害物なし」

「普通小石で撃つ」


 小石を握った瞬間、ログルが肩から飛び降りた。


「左前方に床反応」


 いつもなら助かる動き。

 でも今、わたしの腕は投擲動作に入っていた。


【現在の盤面】

コヨリ:Lv1/HP15/15

敵:帰還弓コボルト 前方五マス

味方:ログル 射線内

次の一手:投擲中断可能/敵射撃発生


「ログル、射線!」

「すみません。罠反応を優先しました」

「謝るの早い! まだ死んでない!」


 小石を止める。

 その一手で敵が動き、帰還矢が飛ぶ。


「伏せて!」


 ログルを抱える。

 矢は頭上をかすめ、後ろの壁に刺さった。壁が歪み、座標がずれる。

 足元が知らない色に変わった。


「ここどこ」

「前回の地図にはありません」

「新規生成やめて!」


 四隅に帰還弓コボルト。

 全員こちらを見ている。


「味方かばったら矢部屋に来た!」


 右、罠。左、射線。前、矢。後ろ、壁。

 詰んでる。


「ログル、次は?」

「ぼくを置いて、右奥の弓コボルトを」

「置かない」

「ですが」

「置かない」


 敵の弓が引かれる。

 小盾を出そうとした。でもログルを抱えているので片手が足りない。


「片手足りない!」

「すみません」

「謝るな! 相棒が片手使うのは普通!」


 矢が四本。

 視界が白くなった。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【死因:視界外射撃の射線に同行者が入った】

【評価:敵だけでなく味方の位置も見ましょう】

【総死亡回数:1088回】

【新規獲得:味方射線確認 Lv.1】


 拠点で、ログルはしっぽを下げていた。

「ぼくの確認不足です」

「違う。ログルは罠を見に行ってくれた。わたしが味方の位置まで見なかった」


 額の宝石を指でつつく。

「次は二人で見る」

「はい」

「射線に入ったら、ログルも叫ぶ」

「分かりました」

「わたしも投げる前に味方見る」

「かなり大事です」

「今ちょっと反省してるから、冷静に言わないで」


 射線は見えていた。

 床に赤い線が走り、敵の位置も、壁の角度も、跳ね返りの危険も、だいたい読めている。射線の谷で何度も遠くから死んだおかげで、わたしは遠距離攻撃を「安全な攻撃」とは思わなくなった。


 問題は、味方が線を読んでくれるとは限らないことだった。


「右奥、矢ガラス。距離五マス。小石で落とす」

「はい。射線は通っています」

「ログル、動かないでね」

「分かっています」


 ログルは肩から降り、壁際に寄った。わたしは小石袋改を構える。矢ガラスは部屋の奥で羽を広げ、次のターンに撃つ構えだ。こっちが先に投げれば落とせる。小石の軌道は、赤い線ではなく青い線。安全。


 そう思った時、床に落ちた白い札が風で滑った。


【ログル個体記録:仮写し】


 札は、わたしと矢ガラスの射線上へ入った。ログルが反射的に飛び出す。


「ログル、だめ!」


 叫んだ瞬間、世界が一手進んだ。矢ガラスが羽をしならせる。わたしの小石はまだ手の中。ログルは射線上。


「撃てません」

「分かってる!」


 撃たなければ、矢が飛ぶ。撃てば、ログルに当たる。こういう盤面を、神様はどういう顔で作っているのか。たぶん「仲間がいるとドラマになるね!」くらいの軽い顔だ。許せない。


 わたしは小石を下ろし、【場所替えの杖】を握った。


「ログルと場所替え」

「勇者様が射線に入ります」

「ログルよりいい」

「よくありません」

「相棒を石で撃つよりはいい!」


 杖を振る。一手。視界が入れ替わり、わたしはログルのいたマスへ立った。矢ガラスの赤い射線が、わたしの胸へまっすぐ伸びる。


「勇者様、左へ」

「左、罠!」

「右は壁です」

「正面は矢!」

「はい」


 はいじゃない。


 道具欄には【目つぶし草】がある。投げれば矢ガラスの命中率を落とせる。だが、投げるには射線が必要で、射線にはログルが戻ってくる可能性がある。味方がいるだけで、使える道具が一気に減る。


「ログル、床の札、放っておいて」

「でも、ぼくの記録です」

「記録より本体!」


 ログルが止まった。その一瞬で、わたしは目つぶし草を投げる。草は矢ガラスの顔に当たり、白い粉が散った。矢ガラスの矢が放たれる。粉で照準がずれ、矢はわたしの髪をかすめて壁に刺さった。


「生きた!」


 そう言った次の瞬間、壁に刺さった矢が、反射矢だったことを思い出した。


 矢が跳ね返る。背後から、きれいに。


「背後警戒いいいいいいいい!」


 暗転の直前、ログルが仮写し札をくわえていた。かわいい。かわいいけど、今はそこじゃない。

 戻ってから、ログルは仮写し札をわたしに差し出した。札の端には矢のかすった跡が残っている。わたしは怒るつもりだったのに、その傷を見たら言葉が詰まった。射線は敵を見るためだけのものではない。守りたいものがどこにいるかを見るための線でもある。そう考えると、床の赤い線が少しだけ怖く、少しだけ大事に見えた。

 小石袋改には、ログルが小さな紐を結んだ。撃つ前にその紐が視界に入るようにするためだ。「撃つ前に隣を見る」ための、ものすごく地味なお守り。派手な必殺技ではないけれど、たぶんこういう地味な癖が、次の一手を生かす。

 わたしは反省会テーブルに、赤い線を一本引いた。その線の上に小石を置き、さらに横へログルの小さな人形を置く。敵を倒す線と、味方を守る線は、同じ場所に重なることがある。そういう時に撃たない判断もまた攻撃なのだと、ログルは言った。ちょっとかっこいいので、わたしは悔しくて「でも矢は痛かった」とだけ返した。


 射線訓練場で、ログルは床に赤い糸を張った。敵の位置、味方の位置、壁、反射矢の跳ね返り。その全部を一本ずつ糸にすると、部屋はあっという間に毛糸玉みたいになった。


「ログル、これ通れる?」

「通れません」

「訓練場なのに?」

「射線を可視化すると、通れる場所の少なさが分かります」

「知りたくなかった!」


 わたしは小石袋改を握り、糸の隙間をのぞいた。敵だけを見ている時は簡単に見える。けれど、味方の人形を置いた瞬間、撃てる線が半分以下になった。


「撃たないのも一手?」

「はい。ただし敵も一手動きます」

「じゃあ撃たない勇気も、逃げる準備とセット」

「かなり良い理解です」


 褒められたのに、あまりうれしくなかった。良い理解は、だいたい痛い死に方のあとに来る。


 わたしはログル人形を拾い、自分の肩の近くへ置いた。


「次は、ここにいて」

「はい。次は、ここにいます」


 約束みたいな訓練だった。


 赤い糸を片付ける時、一本だけログルの尻尾に絡まった。

「取るね」

「お願いします」

 そっと外すだけなのに、わたしは妙に緊張した。射線も、罠も、仲間も、近くで見れば小さな線の集まりだ。雑に引っぱれば絡まるし、急げば切れる。ログルは尻尾を整えながら、「次は絡まる前に止まりましょう」と言った。ほんと、それが一番むずかしい。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1088回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.1】

【味方射線確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【味方射線確認 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:敵だけでなく味方も射線に入ると撃てないことを学ぶ。

ログル:自分の記録札を拾おうとして射線に出る、感情が育った相棒。


【ローグライクあるある解説】

味方射線事故回。遠隔攻撃は敵に届けば強いですが、味方が射線に入ると撃てない。跳ね返り矢、位置取り、場所替えの判断も混ぜ、射線管理の難しさを出しています。 味方誤射回。遠隔攻撃は安全に見えて、射線上に味方が入ると撃てなくなります。貫通・遠投・視界外射撃の怖さを、ログルを守る判断に絡めています。


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