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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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拠点会議――持って帰るな、つなげ

死亡なし。持ち帰れないなら、接続に変えます。

 反省会テーブルの上に、持ち帰り候補を並べた。

 帰還鍵、ログル個体記録、死因ログ圧縮束、拠点接続証明書、帰宅時刻ピン、ベルの抗議文、ゼルドの要求書、ハコベエ割引券。


 最後の一枚だけ離して置くと、割引券は自分でじりじり近づいた。


「動くな」

「いらっしゃいませ、噛みませんので」

「割引券がしゃべったみたいになるから、タイミング考えて!」


 ベルは書類を種類ごとに分けている。

「勇者様。全部を持って帰る発想が、すでに枠負けしています」

「枠負け」

「所持しない形へ変えるべきです」


 ゼルドが紅茶を置いた。

「国を持って歩く者はいない。道をつなぐのだ」

「魔王さん、今のちょっとかっこいい」

「余は常にかっこいい」

「調子に乗らなければもっとよかった」


 ログルが拠点の地図を広げた。

 帰還門を中心に、死因図鑑室、思い出ログ棚、魔王相談窓口、ハコベエ箱の店、反省会テーブルが線でつながっている。


「拠点は、持ち帰るには大きすぎます。でも、帰還門の片側として固定できれば、所持枠を使わない可能性があります」

「拠点を荷物にしないで、門のこっち側にする?」

「はい」


 死因ログ圧縮束を手に取る。

 重い。紙の重さじゃない。千回以上の失敗と、覚えた選択の重さだ。


「死因ログは?」

「物として持つと枠を使います。記憶因子へ変換できるかもしれません」

「忘れるの?」

「いいえ。引き出し方を変えます」


 ミーナのパン。カイの木剣。ネムの受付。ゼルドの正座。ベルの書類。ログルの声。

 全部を荷物にしたら枠が足りない。

 でも、なかったことにはしない。


 わたしはテーブルに太い字で書いた。


【持ち帰るんじゃない】

【つなぐ】


 ログルが隣に小さく足した。


【荷物化しない】

【接続方式を選ぶ】


「わたしの名言を事務にしないで」

「必要な分類です」


 ベルが頷く。

「正式方針として採用いたします」

「壁の落書きが正式になった!」


 でも、方針は決まった。

 帰る。でも、一人で軽くなって帰るんじゃない。つないで帰る。


 反省会テーブルの上は、戦場だった。

 死因ログ束、帰還鍵、白い持ち帰り札、ベルの書類、ゼルドの書類、ハコベエ割引券、ログルの宝石から投影された持ち物欄。そこへハコベエ箱が「噛みませんので」と言いながら商品棚を広げたせいで、もう何が反省で何が売り場なのか分からない。


「いらっしゃいませ、反省会特価です」

「反省会で商売しないで」

「命あっての割引です」

「命を割引するな」


 ゼルドは紅茶を前に、深く眉を寄せていた。ベルは紙束をそろえ、ログルはテーブルの端で宝石を光らせている。ネムは死亡受付から顔だけ出し、眠そうにこちらを見た。


「また書類のせいで死にました?」

「書類だけのせいではありません」

「ベルさん、かばい方が自分寄り!」


 わたしは白い札を四枚並べた。持ち帰り枠。たった四枚。そこに全部を入れようとして、何度も死んだ。


「ログルを入れる。死因ログも入れる。帰還鍵も入れる。拠点証明書も入れる。終わり」

「勇者様、抗議文が入りません」

「それは本当に入れなくていい」

「しかし、主神様に対する正式な追及は」

「ベルさん、今わたし、人生の荷造りしてる」


 ゼルドが静かにカップを置いた。魔王なのに、置き方が上品だ。


「幼き勇者。持って歩くという考えが、そもそも無理なのではないか」

「だって帰るんだよ。帰るなら、持って帰らないと」

「国を持って歩く王はいない。城を背負う魔王もおらん。必要なのは、門と道だ」


 ベルがうなずいた。


「勇者様。全部を持って帰る発想が、すでに枠負けしています。会計で言えば、経費科目に感情を全額入れている状態です」

「たとえが分かるようで分からない」

「要するに、持ち帰りではなく接続です」


 ログルの宝石に、拠点の図が浮かんだ。中央に帰還門。その片側に白い拠点。もう片側に、ぼんやりした元世界の玄関。二つの間に、細い線が伸びている。


「死因ログは紙束として持つ必要がありません。記憶因子として門に接続できます」

「拠点証明書は?」

「拠点そのものを、門の片側に固定できれば、紙は不要になる可能性があります」

「ベルさんの書類は?」

「別便」

「よし」

「勇者様、今うれしそうでしたね」


 わたしは目をそらした。


 でも、胸の中に引っかかっていたものが、少しだけ形を変えた。持ち帰らなければ消えると思っていた。手に持たなければ、置いていくことになると思っていた。


 違うのかもしれない。


 ミーナのパンの匂いは、パンそのものじゃなくても残っている。カイの木剣は、手元になくても、最初の一歩を覚えている。ゼルドの苦い紅茶も、ベルの怖い書類も、ネムの眠そうな受付声も、ログルの「足元を見てください」も、全部、わたしの中で道になっている。


「持ち帰るんじゃない」


 わたしは壁の【帰る】の下に、ゆっくり書いた。


「つなぐ」


 ハコベエ箱が、ぱかっと口を開ける。


「接続記念セールを」

「しない」

「噛みませんので」

「噛まなくても買わない」


 みんなが少しだけ笑った。ログルだけは、書かれた文字をじっと見ていた。


「勇者様」

「なに」

「その方針なら、ぼくは荷物ではなく、同行者として申請できます」

「する」

「通る保証はありません」

「通るまで死ぬ」

「......そこは、通るまで生きると言ってください」


 わたしは筆を置き、ログルの頭を指先で軽く撫でた。


「通るまで、生きて、だめなら死んで、また生きる」

「やや物騒ですが、勇者様らしいです」

 壁に書いた文字は、しばらく消えなかった。白い空間の光に照らされて、【持ち帰るんじゃない。つなぐ】だけが少し濃く見える。ネムが受付窓から眺めて、「死亡処理的にも、そのほうが楽です」と言った。楽かどうかはともかく、死んでも消えない拠点があるなら、それは荷物ではなく場所だ。場所は、背負うものではなく、帰る道につなげるものだった。


 会議が終わっても、反省会テーブルの周りには誰もすぐ立たなかった。ゼルドは紅茶を冷まし、ベルは書類の角をそろえ、ログルは壁の文字を何度も読み返している。ハコベエだけが、沈黙をセール開始の合図だと誤解しかけたので、ベルが無言でふたを押さえた。


「つなぐ、か」


 ゼルドが低くつぶやいた。


「余は、魔王城を持って歩けぬ。だが、門番ならできる」

「魔王さん、門番でいいの?」

「魔王とは、門の奥にいるものだ。門を守る役も、まあ似たようなものだろう」

「雑な納得だけど、魔王さんが言うとそれっぽい」


 ベルがすぐに書類へ書き込む。


「では役職名は、拠点側帰還門防衛責任者で」

「長い」

「正式にはもっと長くできます」

「しなくていい!」


 会議の空気が少し軽くなった。持ち帰れないものを、失うものにしない。言葉にすると簡単だけど、実際にやるには役職名からして大変だった。


 ログルは壁の文字を記録しながら、少しだけ声を落とした。

「勇者様。つなぐ方式なら、神様側の管理分類を避けられる可能性があります」

「可能性」

「保証はありません」

「神様みたいな言い方しないで」

「失礼しました」

 わたしは笑って、壁に小さく【保証は自分で取りに行く】と足した。帰る道まで保証なしなら、こっちで仕様書を奪うしかない。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1085回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.1】

【持ち帰り枠整理 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

方針更新:【持ち帰り】→【接続】


【登場人物紹介】

コヨリ:持ち帰る発想から、つなぐ発想へ切り替え始める。

ゼルド:魔王らしく、国や城を背負わない考え方を示す。

ベル:枠負けを会計っぽく整理する法務担当。

ハコベエ:反省会でも商売を始める。


【ローグライクあるある解説】

拠点整理回。倉庫・持ち帰り・登録・接続を整理する、ローグライクの準備フェイズにあたります。単なる説明にならないよう、会議と壁の書き込みで攻略方針を場面化しています。 反省会で攻略方針を組み直す回です。全部を持つのではなく接続へ変える発想は、持ち物欄を圧縮する保存壺・倉庫運用に近い整理術として扱っています。


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