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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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足元確認は共有されません

ベル同行テスト。有能秘書は強い。けれど足元確認は共有されません。


 ベルは試験区に入る前から完璧だった。

「私は商品に触らない、床を踏む前に確認する、魔王様の感情的発言を三割ほど聞き流す。以上を徹底いたします」

「三つ目、いつもやってるやつだ」

「業務です」


 銀色の床模様が、通路に薄く浮かんでいる。

 わたしの足元確認が警告した。


「ログル、前方」

「装備はがし床に似ています」

「右に避ける」


 わたしは右へ一歩。罠は踏まない。えらい。

 後ろで、紙がかさっと鳴った。


「ベルさん?」

「床模様を記録しております」

「どこで?」

「ここで」


 ベルの靴が銀色の床に乗っていた。


「そこ罠!」


【装備はがし床:起動】

【対象:パーティー全体】


「全体!?」


 小盾が飛び、ベルの眼鏡が飛び、ログルの首元の識別札まで浮いた。


「ログルの札まで!?」

「首元は装備判定らしいです」

「かわいい装備まで奪うな!」


 装備は前方の小部屋へ落ちた。そこには装備喰いスライムが三匹。

 ベルは眼鏡なしで目を細めた。


「勇者様。視界が少々ぼやけます」

「眼鏡キャラの弱点を今さら出してきた!」


【現在の盤面】

コヨリ:Lv1/HP15/15

装備:小盾なし

同行者:ベル/視界低下

敵:装備喰いスライム×3

注意:同行者が踏んだ罠も共有されます


「共有するな! 友情だけ共有して!」


 ベルが前へ出ようとする。

「私が囮に」

「だめ!」

「私のミスです」

「ミスでもだめ!」


 わたしはベルの手を引いた。足元を見ないまま一歩。

 床が沈む。


【転送床:起動】


 次に立ったのは、スライム部屋の中央だった。

 小盾が目の前で、ぷるんと飲まれる。


「わたしの盾ええええええええ!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【死因:自分は罠を避けたが、同行者が装備はがし床を踏んだ】

【評価:足元確認は共有されていません】

【総死亡回数:1084回】

【新規獲得:同行者足元確認 Lv.1】


 ベルは深々と頭を下げた。

「正式に反省文を提出いたします」

「やめて。紙が増える」

「紙が増えると、持ち帰り枠を圧迫しますね」

「そこ気づいてくれてよかった!」


 ベルは、同行者としては反則みたいに有能だった。

 床を見る。壁を見る。天井を見る。看板を読む。書類を出す。危険そうな契約文を見つける。ついでに、魔王軍式の小型印鑑で「要注意」と押していく。わたしより勇者に向いているのではないかと思うくらい、仕事が早い。


「勇者様、正面三マス先の床は踏まないでください」

「分かるの?」

「魔王城にも似た床がありました。踏むと装備が外れ、備品管理部が泣きます」

「備品管理部が泣く前に、わたしが泣くやつ」


 わたしはベルの指示通り、床の端を歩いた。ログルも宝石で確認している。罠は見えている。見えている罠は踏まない。ここまで何度も死んで、ようやく身についた普通のことだ。


 問題は、普通のことがパーティー全員に共有されていないことだった。


 部屋の奥に、帰還門の試験箱がある。箱の上には【拠点接続証明書】と書かれた筒。欲しい。とても欲しい。だが、箱の周囲には装備はがし床、転び床、そしてたぶん書類吸い込み床が混ざっている。


「書類吸い込み床って何」

「紙束を優先的に奪う罠です」

「ベルさん特攻じゃん」

「勇者様。わたくしは、正式書類を奪われるわけにはまいりません」

「命より?」

「内容によります」


 内容によるんだ。


 ベルはスカートの裾を乱さず、す、と横へ動いた。足運びがきれいすぎる。罠を避け、床の模様を読み、証明書の筒へ最短で近づく。わたしも後ろから続いた。


「ログル、足元」

「勇者様の足元は安全です」

「ベルさんは?」

「ベル様の足元も、今のところは」


 その時、壁の契約文が光った。


【注意:重要書類を所持する同行者は、優先保護対象です】


「いいこと書いてある?」

「いいえ。かなり嫌な文面です」


 ベルの持っていた抗議文束が、ふわりと浮いた。書類吸い込み床が起動する。ベルは反射的に書類を押さえた。その片足が、半マスだけ装備はがし床へかかった。


「ベルさん、足!」

「書類が!」

「足!」

「正式抗議文が!」

「いまは足いいいいいいいい!」


 一手が進む。

 カチリ、と床が鳴った。


 わたしの小盾が飛び、ベルの眼鏡が飛び、ログルの首につけていた小さな鑑定札まで飛んだ。部屋中に装備が散らばり、帰還門の試験箱が、まるで口を開けるようにふたを持ち上げる。


「勇者様、すみません。眼鏡がないので、罠の文字がぼやけます」

「眼鏡から!? まず装備戻して!」


 前方の試験箱から、白い手が出た。箱型モンスターだ。やっぱり箱は信用できない。


 わたしは道具欄を開いた。盾はない。杖も床に落ちた。手元に残っているのは、ベルの正式抗議文だけ。


「これ、投げていい?」

「正式書類です」

「敵に効く?」

「社会的には」

「物理で効いて!」


 箱の白い手が伸びる。ベルが眼鏡を探しながら、きりっと言った。


「勇者様、右へ一歩です」

「見えてないのに!?」

「書類の気配で分かります」

「その能力、罠感知に使ってええええええ!」


 右へ一歩。そこは安全マスだった。ベルは有能だ。けれど、次の一手で彼女が自分の抗議文を拾いに行ったため、わたしは白い箱にきれいに飲まれた。

 拠点に戻ったベルは、眼鏡を直しながら反省会テーブルに小さな札を置いた。【同行者足元確認】。その横に、わたしは【書類より足】と書き足した。ベルは少しだけ不満そうにしたが、消さなかった。罠は床にだけあるわけじゃない。手に持ったもの、守りたいもの、捨てたくないものにもある。今回のベルは、その見本みたいだった。

 ログルはその札を死因図鑑室へ登録しながら、「罠感知は個人技ではなくなりました」と言った。たしかに、これからは自分の足だけ見ていても足りない。守りたい人が増えるほど、見る床も増える。安全確認の範囲が、少し広くなった。


 ベルは装備が戻るまでの数分間、眼鏡なしで書類を書こうとした。文字がまっすぐで怖い。見えていないのに、字だけは整っている。


「ベルさん、眼鏡ないのに書けるの?」

「書類は心で書きます」

「かっこいいけど、罠は心で見ないで」

「以後、同行時は足元確認を共有いたします」


 ベルはそう言って、わたしの靴の横に小さなチェック欄つきの札を置いた。


【右足確認】

【左足確認】

【同行者の右足確認】

【同行者の左足確認】


「多い!」

「人数が増えれば、足も増えます」

「正論が床から襲ってくる!」


 ログルが札を見て、妙に真剣な顔でうなずいた。


「勇者様。ベル様の方式は面倒ですが、有効です」

「面倒な正解って、一番困る」

「ローグライクは、面倒を省くと死にます」

「人生訓みたいに言わないで」


 でも、わたしは札を捨てなかった。面倒でも、生き残るための面倒なら、持ち帰る価値がある。


 わたしはチェック札を靴の横に置き、試しに右足を上げた。

「右足確認」

「安全です」

「左足確認」

「ベル様が書類を落としました」

「足じゃない!」

「同行者周辺確認です」

 ベルはすぐに書類を拾い、何事もなかったように眼鏡を押し上げる。足元確認は、足だけ見ればいいわけではない。同行者の手元、落とし物、守りたい書類。その全部が罠の入口になる。面倒だけど、たぶん必要だ。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1084回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.1】

【同行者枠確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【同行者足元確認 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:自分の足元だけではなく、同行者の足元まで見る必要を痛感。

ベル:有能すぎる秘書。ただし正式書類を守る時だけ判断が書類寄り。

ログル:安全確認はできるが、同行者の突発行動までは止めきれない。


【ローグライクあるある解説】

罠共有事故回。自分は罠を見ていても、同行者が踏めばパーティー全体が崩れる形です。見えている罠ほど踏む、装備はがし、書類吸い込み床など、罠の理不尽さをコメディ化しています。 罠は自分が避ければ終わりではなく、仲間が踏むとパーティー全体の事故になります。見えている装備はがし床や転び床ほど、油断した同行者が踏む感じを狙っています。


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