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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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通路詰まり――一歩下がれません

ゼルド同行テスト。強い魔王は頼もしい。ただし通路では壁です。

 魔王ゼルドは、同行テストの説明を聞いて腕を組んだ。

「余を連れていけばよい。敵は余が焼く」

「頼もしい」

「罠も余が踏む」

「それはやめて」


 黒いマント、立派な角、魔王らしい威圧感。実際にゼルドは強い。

 ただ、問題がひとつあった。

 でかい。


 試験区の一マス通路に入った瞬間、わたしは理解した。

 この人、強い壁だ。


「魔王さん、ちょっと下がれる?」

「余はすでに下がっている」

「もっと」

「マントが壁に引っかかっている」

「魔王ファッションがダンジョンに負けてる!」


 前方には停止時間騎士。こちらが動くまで止まり、動いた瞬間だけ剣が速い。

 手持ちは眠りの杖。寝かせて通る。それでいい。


「魔王さん、そこで待って」

「余は待つのは得意ではない」

「得意になって!」


 杖を振る。騎士が眠る。

 わたしは一歩進んだ。

 床が沈む。


「勇者様、石矢です!」


 本来なら一歩下がれば避けられた。

 でも、後ろには魔王。


「下がる!」

「余も下がれん!」

「なんで味方が壁なの!?」


【現在の盤面】

コヨリ:Lv1/HP15/15

前方:睡眠中の停止時間騎士

後方:魔王ゼルド

飛来物:石矢

次の一手:後退不可


「ログル、手!」

「しゃがめば頭部は避けられます」

「体は!?」

「当たります」

「当たるじゃん!」


 石矢が小盾ごと体を押し、背中がゼルドの鎧にぶつかる。衝撃が逃げない。

 その振動で、眠っていた騎士が起きた。


「寝てろおおおおおおおお!」


 剣が振り下ろされ、視界が白く切れた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【死因:同行者で通路が詰まり、一歩下がれなかった】

【評価:一歩下がろうにも、後ろが魔王でした】

【総死亡回数:1083回】

【新規獲得:隊列確認 Lv.1】


 拠点で、ゼルドは正座していた。

「すまぬ、幼き勇者」

「魔王さんが悪いというより、通路が悪い」

「余のマントも悪い」

「それはちょっと悪い」


 反省会テーブルに、わたしは大きく書いた。


【強い仲間でも、後ろに立つと壁】


 ログルが横に小さく足した。


【隊列確認:必須】


 魔王ゼルドは、通路に入る前から嫌な予感を漂わせていた。

 本人が悪いわけではない。むしろ、ゼルドはかなり気を遣ってくれている。黒いマントを片腕でまとめ、角が天井に当たらないよう首を少し傾け、わたしの歩幅に合わせてゆっくり進んでくれる。


 でも、魔王は大きい。

 一マス幅の通路では、その事実だけで強敵だった。


「魔王さん、ちょっとだけ後ろ空けて」

「空けておる」

「わたし基準では空いてない!」

「余の基準では、かなり譲歩しておる!」


 前方から、盾コボルトが三体。後ろにはゼルド。横は壁。床には、うっすら矢印が見えている。押し出し床だ。前へ踏むと敵の前に出され、後ろへ下がれば魔王にぶつかる。完璧に性格が悪い。


 ログルがわたしの肩で小さく息を吸った。


「勇者様。ここは場所替えの杖です」

「誰と替わるの」

「盾コボルトです」

「そのあと後ろに下がる」

「はい」

「後ろ、魔王さん」

「はい」


 はいじゃない。


 わたしは道具欄を開いた。持ち物は【場所替えの杖 残り1】【鈍足草】【白い持ち帰り札】【ゼルド労働改善要求書】。最後の書類が、なぜ道具欄に入っているのか本当に分からない。


「ベルさんの書類、魔王さんに戻して」

「余に戻されても困る」

「余の労働環境の話でしょ!」

「余は改善したいが、今この通路で提出するものではない」


 盾コボルトが一歩近づく。わたしが杖を構えれば、敵も動く。ゼルドも、たぶんわたしを守ろうとして動く。その結果、通路がさらに詰まる未来が見える。


 床のマス目が青白く浮かび、ログルの宝石から危険範囲が伸びた。赤い線が、前方の盾コボルトからわたしへ。もう一本、後ろのゼルドからわたしの退路へ。


「味方の危険範囲って、見えるとつらいね」

「見えないよりは安全です」

「見えても逃げ道ないじゃん!」


 わたしは【鈍足草】を盾コボルトへ投げた。草は敵の顔に当たり、盾コボルトの動きが遅くなる。よし。これで一手稼げる。次に場所替え。そこから階段方向へ逃げる。


「勇者、右壁にヒビがある」


 ゼルドが低く言った。


「ヒビ?」

「余の魔力なら砕ける。退路を作れるやもしれん」

「それ、何ターンかかる?」

「一撃だ」


 頼もしい。頼もしいが、魔王の一撃で壁を砕く音に敵が寄ってこない保証はない。


「ログル」

「壁破壊後、隣室に敵影。数は多いです」

「多いって何匹?」

「通路詰まりが恋しくなる程度に」

「最悪の比較やめて!」


 盾コボルトがまた近づく。わたしは場所替えの杖を振った。視界が入れ替わり、敵のいたマスにわたしが立つ。予定通り、一歩下がれば安全。


 そう思った瞬間、背中が黒いマントに当たった。


「魔王さん!」

「すまぬ、守ろうと前へ出た!」

「守るために退路を埋めないでえええええええ!」


 盾コボルトの盾が、わたしの鼻先で光った。


 最後に見えたのは、ゼルドが本気で申し訳なさそうにしている顔だった。魔王なのに、反省顔が上手すぎる。

 次の試走では、わたしは床に白い線を引き、ゼルドに「ここより前に出ないで」と頼んだ。ゼルドは真面目にうなずいたが、マントの端だけが線を越えた。ログルが無言で赤い丸をつけ、わたしはそっとマントを折りたたんだ。魔王を連れて歩く攻略は、敵配置より先に衣装サイズを読むところから始まるらしい。そんな攻略、攻略本にも載っていない。

 ログルは最後に、通路幅を測る小さな紐を作ってくれた。ゼルドはそれを見て「余専用か」と少し傷ついた顔をしたけれど、わたしは大きくうなずいた。専用対策が必要な仲間は、それだけ強い。強いけど、幅も強い。


 ゼルドは、通路訓練のあと本気で落ち込んだ。魔王相談窓口の椅子に座り、黒いマントを膝の上で小さく畳んでいる。見た目は威厳のある魔王なのに、やっていることは遠足前に荷物を小さくする人だった。


「余は、同行に向いておらぬのか」

「向いてないんじゃなくて、通路が魔王さんに向いてない」

「通路にまで嫌われるとは」

「大丈夫。わたしは階段前の宝箱にも嫌われてる」

「慰めになっておらぬ」


 ログルが通路幅の紐を床へ伸ばし、ゼルドの足元に赤い印を置いた。


「魔王様は強力な壁です」

「壁か」

「ただし、味方の退路を塞ぐ壁です」

「評価が刺さる」


 わたしは紐の横に、【強い味方ほど位置が大事】と書いた。強いから近くにいれば安全、とは限らない。強い味方が後ろにいるせいで、一歩下がれないこともある。ローグライク、仲間が増えるほど盤面が急に現実的になる。


 ゼルド専用の紐には、ベルがあとから小さな札をつけた。

【魔王様ここまで】

「幼児用の迷子札みたい」

「余は迷子ではない」

「通路ではだいたい迷子の原因です」

 ログルの補足に、ゼルドが少しだけ肩を落とした。わたしは慌てて札の下に【強いので広い場所担当】と書き足す。魔王はそれを見て、ようやく少しだけ威厳を取り戻した。フォローにもターンを使う世界だったら、たぶん今ので一回死んでいる。


 そして、わたしは通路幅の紐をもう一度だけ強く結んだ。これも命綱だ。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1083回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.1】

【同行者枠確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【隊列確認 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:一歩下がる大切さを知っているのに、後ろが魔王で詰む。

ゼルド:頼れるが大きい。魔王としての存在感が通路幅に勝ってしまう。

ログル:味方の危険範囲まで冷静に見せる相棒。


【ローグライクあるある解説】

通路詰まり回。ローグライクの一マス通路は安全地帯にも地獄にもなります。味方が後ろにいるせいで一歩下がれない、場所替え後に退路がない、という隊列事故を強めています。 通路詰まり回。味方が強くても、狭い通路では退路を塞ぐ壁になります。一歩下がれば助かった状況を、同行者の位置取りミスとして使っています。


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