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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

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時間の王――ただいまは一秒待って

九十九階、時間の王。

五秒停止は、発動者だけが動く最終理不尽。

コヨリは、早すぎず遅すぎない一秒を待つ。


 九十九階は、部屋ではなかった。


 空一面に時計が浮かび、床は透明な文字盤になっている。中心には玉座。玉座に座っているのは、王冠をかぶった細い影だった。顔は見えない。けれど、針のような指が、ゆっくり肘掛けを叩いている。


【最終警告】

時間の王(タイムキング)

【停止時間:五秒】


 コヨリは、帰還時刻ピンを握りしめた。小さな金属の針。これを正しい時刻に刺せば、帰宅猶予線が固定される。


「ようこそ、小さな帰還者」


 王の声は、時計の奥から響いた。


「お前は帰りたい。ならば、最も楽な時刻を選べばよい。召喚前へ戻れば、誰も泣かない。お前の死亡も、拠点も、獣の記録も、すべて消える」


 ログルの宝石が、少しだけ強く光る。


「勇者様」

「分かってる」


 コヨリは足を開いた。逃げ道は三つ。召喚前の扉。未来食卓の扉。消えた直後の細い線。王は、楽な扉を広く開けている。細い線だけが、頼りなく震えていた。


「わたしは、消さない」


 王の指が止まった。


 音が消える。


 ログルの宝石も、コヨリの息も、周囲の取り巻きも、床の罠も止まった。


 王だけが立ち上がる。


 一秒目。王が近づく。

 二秒目。剣のような針を抜く。

 三秒目。コヨリの前に立つ。

 四秒目。王冠の影が落ちる。

 五秒目。針が胸に届く。


【死亡ログ】

【死亡回数:1079回目】

【死因:五秒停止中に時間の王へ処理された】

【評価:五秒は、幼女勇者には長すぎました】


 最後の拠点帰還は、静かだった。


 コヨリは起き上がっても叫ばなかった。叫ぶ体力がないわけではない。叫んでも、五秒は戻らないと分かっていた。


「五秒」

「はい」

「長いね」

「はい」

「一秒でも死ぬのに、五秒は長すぎる」

「はい」


 ベルが封印杖を差し出す。ネムが身代わりぬいぐるみを置く。ゼルドが、王の移動予測線を机に描く。


「封印杖で完全封印はできないんだよね」

「五秒を三秒へ短縮できます」

「鈍足杖は」

「停止中の行動数を減らせます」

「身代わりは」

「一手だけ受けられる可能性があります」

「罠は停止中に動かない」

「解除後に処理が再開します」


 コヨリはうなずいた。


「じゃあ、止まる前に仕込む」


 再挑戦。


 九十九階。王が同じ言葉を言う前に、コヨリは動いた。取り巻きに変化の杖。秒針弓の射線をずらす。身代わりぬいぐるみを、王の進路に置く。封印杖を王へ振る。


【封印成功】

時間の王(タイムキング):停止時間 五秒→三秒】


「三秒残ってる!」

「王権限です」

「王様ずるい! 退位して!」


 鈍足杖を振る。


【鈍足成功】

【停止中行動数:三手→二手】


 王が笑う。玉座の時計を叩く。


「それでも、止まる」


 時間が止まった。


 一手目。王は身代わりぬいぐるみを斬った。

 二手目。コヨリの前まで来る。


 停止が解ける。


【停止時間領域:解除】

【仕込み処理:再開】

【秒戻し床:起動】

【曜日合わせの札:起動】

帰宅時刻ピン(きたくじこくピン):有効範囲内】


 ログルの声が戻った。


「勇者様、まだです」


 コヨリはピンを刺しかけた手を止めた。


「まだ!?」

「一秒早いです」


 王が、あと一歩で届く。コヨリの全身が動けと叫ぶ。早く刺せ。早く言え。早く帰れ。


 でも、早すぎるただいまは、召喚前へ落ちる。遅すぎるおかえりは、未来へ沈む。


 コヨリは、()()()


 一秒。


 たった一秒。けれど、今まで死んできたどの一秒より長い。


「今です!」


 コヨリは、帰還時刻ピンを床に刺した。


「ただいま」


 言葉は、扉ではなく線へ届いた。召喚前の扉が砕け、未来食卓の扉が閉じる。細かった帰宅猶予線が、一本の道になる。


 時間の王が初めて顔を上げた。顔の奥には、王冠ではなく、無数の未帰還ログが回っている。


「その時刻は、楽ではない」

「うん」

「誰も泣かなかったことにはならない」

「うん」

「お前の死も、ここでの時間も、残る」

「それでいい」


 王の時計針が折れた。


【時間シード攻略完了】

【時間因子:仮安定】

【帰宅猶予線:形成】

【安定因子:名前/記憶/縁/扉/座標(仮)/時間(仮)】

【帰還門仮起動条件:達成】

【総死亡回数:1080回】


 床が、玄関の光へ変わる。


 コヨリは膝をついた。帰れたわけではない。まだ、完全ではない。けれど、場所と日付が、初めて同じ線の上に並んだ。


「ログル」

「はい」

「家、見えた。日付も、たぶん合った」

「はい」

「じゃあ、帰れる?」


 ログルは、少しだけ黙った。


「門は、開けます」

「言い方」

「帰れるかどうかは、まだ分かりません」


 コヨリは、透明な床に拳を叩きつけた。


「神様ァ! ここまで来て、まだ最終確認あるのおおおおおおおおおおおおおおお!」


 遠くで、アドミニスがとても小さな声で言った。


「ごめん」


 その声は、時計の音にかき消された。


 王の二手目がコヨリの前で止まった時、身代わりぬいぐるみの綿が空中に舞っていた。停止中は動かなかった綿が、解除後にふわりと落ちる。その一粒一粒が、仕込みが間に合った証拠みたいだった。


「ぬい、ごめん」

「後で修理しましょう」

「絶対する」


 王は、細い線になった帰宅猶予線を見下ろした。


「そこへ帰れば、お前は泣かれる」

「うん」

「心配される」

「うん」

「なぜ消えたのか、説明できないかもしれない」

「うん」

「ならば、誰も泣かない時刻の方が楽だ」


 コヨリは、震える膝を両手で押さえた。楽な方へ行きたい気持ちは、まだある。誰も泣かないなら、それが一番いいようにも思える。


 でも、その時刻にはログルがいない。ベルの苦情文も、ネムの受付票も、ゼルドの労災メモも、焦げたパンも、壊れた杖もない。


「楽だけど、違う」


 王の影が揺れる。


「幼い勇者よ。なぜそこまで、痛い時間を持ち帰る」

「痛かったから。覚えてないと、また同じところで死ぬから。あと、ログルがいたから」


 ログルの宝石が、小さく光った。


「勇者様」

「なに」

「ぼくも、います」

「うん。だから、消さない」


 その言葉で、帰宅猶予線がもう一度光った。玄関の向こうで、誰かが息を飲む気配がした。まだ帰れない。でも、今度こそ、間違った日ではなかった。


時間の王の玉座の周囲には、止まった針が浮いていた。一本一本が、今までの死因の形をしている。三倍速の針、装備はがしの針、早送りの針、宝箱の形をした針。コヨリは、それらを見て、すぐ目をそらさなかった。


「見たくないけど、見る」

「はい」

「逃げたいけど、逃げ道を見る」

「はい」


 王が指を鳴らした。世界が灰色になる。五秒停止。封印杖で三秒に短くしたはずなのに、それでも長い。コヨリは動けない。声も出ない。ログルの宝石も光ったまま止まっている。


 一秒目、王が近づく。

 二秒目、身代わりぬいぐるみが斬られる。

 三秒目、王の剣がコヨリの前髪をかすめる。


 解除。


「ログル!」

「右へ一歩!」


 コヨリは右へ跳んだ。左ではない。左には、前に自分で置いた秒戻し床がある。踏めば早すぎる。ただいまになる。右には、封印後に再起動する鈍足床。王の足が、そこへ入る。


【停止時間領域:解除】

【仕込み処理:再開】

【鈍足床:起動】

【帰宅時刻ピン:有効範囲内】


「今?」

「まだです」

「今?」

「まだです」


 王が剣を振る。遅い。封印と鈍足が効いている。それでも怖い。あと一手間違えれば、五秒停止で全部ひっくり返る。


「今!?」

「......一秒、待ってください」


 待つ。今すぐ言いたい。帰りたい。玄関が見える。向こうで誰かが息を飲んでいる。ここで言えば、たぶん届く。でも、一秒早い。


 コヨリは、()()()()()と自分の胸に言い聞かせた。


 針が、重なる。


「今です」


 コヨリは息を吸った。走らない。叫ばない。泣き声にしない。ちゃんと、その時刻へ置く。


「ただいま」


 玄関の向こうで、光が揺れた。まだ完全な帰還ではない。けれど、間違った時刻ではなかった。



【新規獲得:一秒待つ(いちびょうまつ) Lv.1】

【統合更新:停止時間対策ストップタイムたいさく Lv.1】

【統合更新:帰宅猶予線形成きたくゆうよせんけいせい Lv.1】

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード攻略完了

現在階層:99F突破

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1080回

時間因子:仮安定

帰宅猶予線:形成

帰還門仮起動条件:達成

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【一秒待つ Lv.1】

新規獲得:【停止時間対策 Lv.1】

新規獲得:【帰宅猶予線形成 Lv.1】

更新:【時間不一致警戒 Lv.1】→【時間不一致警戒 Lv.2】


【登場人物紹介】

コヨリ

五秒停止で一度死んだ。再戦で封印、鈍足、身代わり、一秒待つを組み合わせて時間因子を仮安定させた。


ログル

最後の一秒を待つよう指示した。帰れるとは言い切らず、門は開けると伝えた。


時間の王

五秒停止を使う帰還時間シードの章ボス。楽な帰還時刻を選ばせようとした。


アドミニス

最後に小さく謝った。まだ最終確認を残している。


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