表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
279/340

王前時計回廊――階段前で宝箱を見るな

九十八階は、死因の全部盛り。

階段前の宝箱は、開けるより無視するほうが難しい。

コヨリは誘惑を振り切って、九十九階へ降りる。

 九十八階は、王前時計回廊(キングスカウント)だった。


 長い通路の左右に、これまでの罠が並んでいる。装備はがし床。秒針床。早送り階段の影。時間差モンスターハウスの空部屋。壁の向こうから聞こえる時空猟犬の爪音。天井には、秒針処刑弓の細い射線が走っていた。


「全部盛り」

「はい」

「カレーなら嬉しいけど、死因の全部盛りは頼んでない!」


 階段は見えている。九十九階へ向かう最後の階段。その横に、宝箱が置いてある。


 金色。大きい。明らかに良い物が入っている。明らかに罠でもある。


「ログル」

「はい」

「宝箱」

「視界から消したことにしてください」

「でも、九十九階前の宝箱だよ? 絶対いい杖とか入ってるよ? たぶん封印とか鈍足とか、王に効くやつだよ?」

「死亡前の宝箱でもあります」

「言い方あああああああああ!」


 コヨリは一歩、宝箱へ向きかけた。足元の床が、かすかに沈む。装備はがし床だ。見えている。分かっている。だけど、宝箱は光っている。


 胸の中で、今までの死亡ログがざらざら鳴った。


宝箱欲張り警戒たからばこよくばりけいかい

無料品警戒(むりょうひんけいかい)

停止前打開(ていしまえだかい)

深層逃走判断しんそうとうそうはんだん


「......いらない」


 声にした瞬間、宝箱の蓋が勝手に開いた。中から、紙が飛び出す。


【中身:たぶん王殺しの杖】


「たぶんって書いてある!」

「信用してはいけません」

「でも王殺しって書いてある!」

「たぶんです」

「たぶんの殺傷力が高い!」


 宝箱を無視して進む。すると、宝箱が怒ったように跳ね、時間差モンスターハウスを起動した。三手後に敵が湧く。


「無視しても怒るの!?」

「欲望起動型です」

「欲望がなくても怒ってる!」


 コヨリは走らない。走れば秒針線に入る。左へ一歩。右から矢。しゃがむ。これは行動ではなく回避姿勢。床の影を見る。針の影は避ける。装備はがし床の前で止まり、場所替えの杖を使う。


 対象は、床の向こうの時計兵。位置が入れ替わる。敵の隣ではない。コヨリは罠の向こう側へ出た。場所替えは、使い方を間違えなければ強い。


「場所替え、今回はえらい!」

「入れ替え先を確認したためです」

「確認、大事!」


 壁を抜けて時空猟犬が来る。コヨリは封印杖を使いたいが、残り回数は王用に一本だけ。ここで使うか。使わないと階段前で噛まれる。


「ログル、王まで持っていく?」

「ここで死ねば王へ行けません」

「はい、使います!」


 封印。鈍足。身代わり。三つ使って道を作る。残りアイテムは心細い。けれど、九十九階への階段が目の前にある。


 背後で宝箱が最後の誘惑をする。


【本当に開けなくていいの?】


「いい!」


 コヨリは階段へ飛び込んだ。


 落下する直前、通路の時計が全部止まる。音が消え、遠くで王冠の影が揺れた。


【99F】

時間の王(タイムキング)の玉座】


 ログルの声が、いつもより小さく聞こえた。


「勇者様。最後の階です」

「うん」

「五秒停止が来ます」

「分かってる」

「準備は」

「完璧じゃない。でも、死んで覚えた分だけはある」


 王前時計回廊では、コヨリの手が何度も帰還時刻ピンへ伸びた。まだ使う場所ではない。分かっている。でも、持っているだけで心が急ぐ。


「ログル。ピン、今刺したら?」

「王前回廊に時刻が固定されます」

「つまり?」

「帰宅時刻ではなく、宝箱前時刻になります」

「絶対いや!」


 宝箱がまた跳ねた。たぶん王殺しの杖。たぶん。本当にたぶん。コヨリは、たぶんという言葉を見るだけで、引き寄せの杖を思い出すようになっていた。


「たぶんは危険」

「はい」

「たぶん封印で招待した」

「はい」

「たぶん鈍足で加速した」

「はい」

「たぶん王殺しは、たぶんわたし殺し」

「かなり正解です」


 階段へ向かう最後の五手。コヨリは声に出さず、心の中で数えた。声にすれば一手扱いになるかもしれない。深層では、油断した声も敵だ。


 一。装備はがし床を避ける。

 二。秒針線を待つ。

 三。場所替えで罠を越える。

 四。猟犬を身代わりへ向ける。

 五。階段。


 足が光に沈む直前、宝箱の蓋が閉じた。悔しそうだった。


「勝った」

「今回は、小さくではなく勝利です」

九十九階への階段は、これまでの階段より少しだけ重かった。踏めば戻れない。少なくとも、同じ準備では戻れない。コヨリは肩から息を抜いた。


「ログル、最後の階で死んだら?」

「戻ります」

「また九十八階?」

「可能性があります」

「それだけは嫌」


 嫌だからこそ、宝箱を()()()()。嫌だからこそ、杖を惜しまない。嫌だからこそ、足元を見る。コヨリは、怖さを急ぎに変えず、確認に変えた。

 階段の光は、急かさなかった。ただ待っていた。だからコヨリも、一手だけ呼吸を整えてから踏んだ。待ってくれる出口は、ここまでで初めてだった。


王前時計回廊の宝箱は、今までの宝箱よりずっとおとなしかった。跳ねない。呼吸しない。噛まない。だから余計に怖い。派手に怪しいものより、普通のふりをしているものの方が深層では危ない。


「ログル、あの宝箱、静か」

「はい」

「静かな宝箱って、安全?」

「深層では、静かな罠ほど高級です」

「高級罠いらない!」


 箱の上には札がある。


【王殺しの杖】


 文字だけなら、今すぐ開けたい。時間の王を倒すための切り札に見える。見えすぎる。コヨリは歯を食いしばった。


「欲しい」

「はい」

「ものすごく欲しい」

「はい」

「でも、たぶんわたし殺し」

「その推測が安全です」


 一度目は、開けた。箱の中から出たのは、王殺しの杖ではなく、王呼びの杖だった。振っていないのに、箱を開けた一手で九十九階の王の影が九十八階へ降りてきた。


【死因:王前宝箱を開けて、時間の王の影を先に呼んだ】

【評価:階段前で宝箱を見ました】


「見ました、じゃない! 開けました! ごめんなさい!」

「反省は記録します」


 成功周回では、コヨリは宝箱へ札を貼った。


【開けない】


 貼るだけでも一手だ。だが、その一手で自分の欲にふたをする。札を貼ったあと、箱の蓋がほんの少し震えた。悔しそうだ。


「宝箱が悔しがってる」

「かなり誘っています」

「誘われない!」


 回廊の床には、装備はがし床、秒針線、早送り階段の影が重なっている。全部が、ここまでの復習だった。コヨリは地図を開き、これまでの赤い×を思い出す。


「九十八階、テストみたい」

「はい。かなり悪意のある総合問題です」

「答えは?」

「階段へ行くことです」

「シンプル!」


 シンプルな答えほど、実行するのが難しい。だからコヨリは、宝箱を見ない角度で体を向け、杖を一本ずつ確認してから進んだ。



階段の手前で、コヨリは確認札を袖からはがして、地図へ貼り直した。袖に貼ったままだと、九十九階で剥がれるかもしれない。地図ならログルも見られる。


「持ち物整理、今?」

「今しないと、王の前で慌てる」

「正解です」

「深層、準備不足を許してくれないもんね」


 宝箱を開けない一手の代わりに、地図を整える一手を使う。欲を消した場所へ、準備を置く。コヨリはそれを、自分に言い聞かせるようにゆっくりやった。



【新規獲得:王前欲張り拒否おうまえよくばりきょひ Lv.1】

【帰還時刻ピン:反応】

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード

現在階層:98F突破

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1079回

深層状態:王前突破

帰還時刻ピン:反応開始

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【王前欲張り拒否 Lv.1】

更新:【深層逃走判断 Lv.1】→【深層逃走判断 Lv.2】


【登場人物紹介】

コヨリ

階段前の宝箱を拒否し、王前時計回廊を突破した。


ログル

死亡前の宝箱という表現でコヨリの欲を止めた。


王前の宝箱

たぶん王殺しの杖という危険な札で誘惑してきた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援していただけると、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ