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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

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深層停止時間騎士――杖をケチるな

九十四階は、停止時間騎士の深層型。

封印杖を温存すると死ぬ。変化の杖も、必ず救いになるとは限らない。

二発で逃げる勇気が、三発目の欲を止める。

 九十四階は、停止時間騎士の巡回階だった。


 しかも深層型。装備はがし床、秒針線射撃、時空猟犬の足音まで混ざっている。普通に戦えば死ぬ。正々堂々戦えば、もっと早く死ぬ。


 コヨリは階段の陰にしゃがみ、深呼吸した。


「ログル。倒す?」

「倒す必要はありません。階段に到達すれば突破です」

「でも、道にいる」

「視界を切って削るか、変化の杖で敵種を変えるか、封印して通路へ誘導するかです」

「選択肢が全部こわい」


 停止時間騎士が部屋の中央を歩いている。床には装備はがし罠。壁の向こうでは、時空猟犬が爪を鳴らしている。


 コヨリは封印杖を持っていた。識別済み。本物。使えば止められる。だが残り回数は一。


「ボスまで持っていきたい」

「死んだあとでは、温存した杖は振れません」

「分かってる! 分かってるけど、ボスの顔がちらつく!」


 コヨリは封印杖を温存した。代わりに変化の杖を振る。


【変化】

【停止時間騎士は、三倍速秒針ウサギに変化した】


「別の理不尽!」


 ウサギは三倍速で来た。装備はがし床をぴょんと越え、コヨリの横へ回り込む。


【死亡ログ】

【死亡回数:1077回目】

【死因:変化の杖で停止時間騎士を三倍速秒針ウサギに変えた】

【評価:変化は救いとは限りません】


 再挑戦。今度は封印杖を使う。躊躇はある。けれど、温存して死ぬより使って進む。


【封印成功】

【停止時間使用不可】


 騎士は普通の強敵になった。コヨリは通路へ逃げ、角で視界を切る。魔法の小矢を一発。騎士が振り向く。二発目。警戒状態。ここで逃げるべきだった。


「あと一発いける」

「危険です」

「あと一発!」


 三発目を撃った瞬間、騎士が視認した。停止は封印されている。だが、通路の奥から時空猟犬が来る。壁を抜け、倍速で。


「欲張り射撃の罰が犬!」


【死亡ログ】

【死亡回数:1078回目】

【死因:視界外から削っていたが、三発目を欲張って時空猟犬に挟まれた】

【評価:二発で逃げれば勝ちでした】


 三度目。コヨリは二発で逃げた。封印済みの騎士を通路に置き、時空猟犬には眠り杖を振る。射線が通る一瞬だけ体を出し、すぐ引っ込む。


「見られない」

「はい」

「隣接しない」

「はい」

「欲張らない」

「非常に重要です」


 騎士は倒さない。犬も倒さない。罠を避け、階段へ向かう。途中、宝箱がある。()()()。見ない。見ない。


「ログル、宝箱が視界に入った」

「見なかったことにしてください」

「見たものを見なかったことにするスキルほしい」

「欲張り警戒で代用してください」


 階段前で、停止時間騎士が最後に一歩届きかけた。だが封印中。時間は止まらない。コヨリは一歩だけ先に階段へ飛び込んだ。


「杖を使ったら、生きてる」

「はい」

「温存より命」

「かなり正解です」


 九十四階の途中、コヨリは一度だけ通路の影で足を止めた。敵は倒せる。けれど、倒しきるまでに道具が減る。倒さなければ、背後が怖い。


「ログル、倒す敵と逃げる敵の見分けって、どうするの」

「階段までの距離、所持アイテム、敵の速度、視界、罠位置で判断します」

「多い!」

「九十階台の仕様です」

「またそれ!」


 コヨリは自分で指を折った。階段まで十二手。騎士まで五マス。犬の足音は壁の向こう。封印杖残り一。鈍足杖残り二。パンは一個。


「倒すと杖が減る。逃げると犬が来る。じゃあ、騎士を封印して、犬を眠らせて、階段へ行く」

「正解に近いです」

「近い、って何」

「宝箱を見なければ正解です」

「先回りして欲を刺すな!」


 その時、本当に宝箱が視界の端に入った。コヨリは首を反対へ向けた。


「見てない」

「見ました」

「見たけど、見ない」

「それで進みましょう」


 視界の制御まで攻略になる。深層は、目に入れたものがそのまま死因になる場所だった。

階段に足をかけた時、コヨリは背後の停止時間騎士を見た。封印され、鈍足になり、それでもまだこちらへ歩いている。倒していないから、怖さは残る。


「置いていくの、こわい」

「はい」

「でも、倒しきろうとしたら死ぬ」

「はい」


 コヨリは、階段へ視線を戻した。勝利の形は、敵の消滅だけではない。階段に乗ること。帰宅時刻をずらさないこと。持っている道具を使い切らずに次へつなぐこと。


「勝ち方、いろいろある」

「はい」

「死に方はもっといろいろあるけど」

「それもはいです」

「そこは否定してほしかった!」


 背後で騎士の剣が床を叩いた。時間は止まらない。封印は効いている。コヨリは、敵が残る怖さごと階段を降りた。

降りる前に、コヨリは封印杖の残り回数を確認した。数字は少ない。けれど、ゼロではない。ゼロではないなら、次の一手を作れる。


「ログル、残り一回って、心細い」

「はい」

「でも、一回あれば何かできる」

「その判断は正しいです」


 コヨリは杖を握り直した。温存するためではない。必要な瞬間に、迷わず振るために。


【新規獲得:欲張り射撃警戒よくばりしゃげきけいかい Lv.1】

九十四階の停止時間騎士は、前に見た騎士よりも鎧が黒かった。胸の時計は三つ。剣は一本。だが、剣一本で三回斬ってくることを、コヨリはもう知っている。


「ログル、装備」

「盾あり。腕輪あり。封印杖、残り二回。鈍足杖、残り一回。身代わりぬいぐるみ、使用可能です」

「パン」

「ひとつ」

「心」

「かなり嫌がっています」

「正確!」


 部屋の中央には装備はがし床。奥に階段。左に時空猟犬の影。右に宝箱。最悪の盛り合わせだ。コヨリは、まず宝箱へ背を向けた。


「見ない」

「はい」

「見たら手が伸びる」

「はい」

「手、信用ない」

「実績に基づきます」

「実績がつらい!」


 騎士が剣を上げる。時計音が消える前兆。ここで封印杖を振れば、時間停止は止まる。温存すれば死ぬ。今度は迷わなかった。


「封印!」


 光が鎧へはまり、三つの時計が止まる。騎士はまだ強い。だが、こちらの相談時間を奪う敵ではなくなった。コヨリはすぐ鈍足杖を振りたい衝動をこらえ、まず一歩下がる。装備はがし床を踏ませるためだ。


「ログル、床」

「騎士の足元、次で踏みます」

「よし。敵に剥がれてもらう!」


 騎士の盾が外れた。敵にも装備はがし床は効く。コヨリは一瞬だけ笑いそうになったが、笑うと声が大きくなるので飲み込む。


 その時、壁の向こうで時空猟犬が動いた。倍速。しかも、こちらの匂いを取っている。


「犬!」

「来ます」

「騎士を倒しきらない。犬を眠らせる。階段!」

「はい」


 眠り杖を振る。効果は必中。壁から鼻を出した猟犬が、その場でぐらりと眠る。コヨリは騎士へ二発だけ魔法を撃ち、三発目は撃たずに階段へ走った。


「三発目、撃ちたい!」

「撃つと犬が起きます」

「撃たない! えらい!」


 深層の勝ちは、我慢の形をしていた。



階段の光に届く直前、背中で宝箱が開く音がした。勝手に開いたのだ。中身は見えない。見なければ、存在しないのと同じにできる。


「見ない」

「はい」

「中身がすごい杖でも見ない」

「はい」

「でも、あとで夢に出そう!」


 コヨリは泣きそうな顔で階段を踏んだ。欲に勝つ時、いつも少し負けた気分になる。



【新規獲得:停止前打開(ていしまえだかい) Lv.1】

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード

現在階層:94F突破

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1079回

深層状態:継続

停止時間騎士深層型:突破

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【欲張り射撃警戒 Lv.1】

新規獲得:【停止前打開 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

変化悪化と欲張り射撃で二回死んだ。三度目で封印杖を惜しまなかった。


ログル

倒す必要がない敵は逃げればいいと指示した。


停止時間騎士深層型

装備はがし罠や時空猟犬と組んでくる深層仕様の停止時間騎士。


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