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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

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停止時間騎士――三秒停止と装備はがし罠

八十階、中層の山場。

HPが上がっていても、装備を剥がされて三回殴られたら死ぬ。

封印杖、識別、視界切り、変化の杖が命綱。

 八十階に着く頃には、コヨリは強くなっていた。


 レベルは十五。最大HPは百三十二。盾もある。腕輪もある。封印杖、鈍足杖、変化の杖。保存壺にはパンと巻物。初期HP十五で震えていた頃とは違う。


 だからこそ、油断した。


 広い部屋の中央に、黒い騎士が立っていた。停止剣士より大きい。鎧の肩に砂時計が三つ。剣は長く、床に触れた先から時計の音が消えていく。


【警告】

停止時間騎士(ストップタイムナイト)

【停止時間:三秒】


「三秒」

「はい。三秒の間、発動者だけが三手行動します」

「隣にいたら?」

「三回攻撃されます」

「HP百三十二あるよ?」

「盾があれば、耐える可能性はあります」


 その時、足元が鳴った。


【装備はがし床】


 盾が外れた。腕から落ち、床を滑る。コヨリの顔から血の気が引く。


「盾」

「拾うには一手必要です」

「騎士は?」

「隣接しています」


 音が消えた。


 一秒目。斬られる。

 二秒目。斬られる。

 三秒目。斬られる。


 コヨリは一度も動けなかった。


【死亡ログ】

【死亡回数:1068回目】

【死亡時レベル:Lv15】

【死亡時HP:132/132】

【死因:装備はがし床で盾を落とした直後、停止時間騎士(ストップタイムナイト)に三回斬られた】

【評価:HPはありました。防御力が足りませんでした】


 拠点で目覚めたコヨリは、起き上がるなり盾を抱えた。


「盾、大事! 盾ほんと大事! 盾、もう家族!」

「装備はがし後は、まず距離を取るべきです」

「盾を拾いたくなる!」

「隣接状態で拾うと死にます」

「分かった! 盾を愛しても、拾うタイミングを間違えない!」


 再挑戦。コヨリは装備はがし床を避け、封印杖を構えた。射線は通っている。振れば基本必中。今度こそ止める。


 だが、手の中の杖は未識別だった。仮名は【たぶん封印】。コヨリの背中に冷たい汗が流れる。


「ログル。これ、封印?」

「未識別です」

「でも振らないと止められる」

「識別巻物は残り一枚です」

「ボス用に温存したい」

「死亡時に温存アイテムは使えません」

「それ、刺さるからやめて!」


 コヨリは識別巻物を使わずに振った。


 杖の光が騎士へ当たる。必中。効果も発動。


【引き寄せ】


 停止時間騎士が、コヨリの目の前に来た。


「また招待したあああああああああ!」


【死亡ログ】

【死亡回数:1069回目】

【死因:封印杖だと思って未識別の引き寄せの杖を振り、停止時間騎士を目の前に呼んだ】

【評価:封印のつもりが招待状でした】


 三度目。コヨリは識別巻物を使った。杖は本当に封印だった。


「温存しない」

「はい」

「今使う」

「はい」

「ボスで困ったら?」

「その時は、その時のアイテムで考えます」

「ローグライク、毎回人生相談みたいなこと言う!」


 封印杖を振る。


【封印成功】

停止時間騎士(ストップタイムナイト):停止時間使用不可】


 勝った、と思いたい。だが騎士は普通に強い。通常攻撃でHPが削れる。コヨリは角へ逃げ、視界を切った。魔法の小矢で一発。下がる。もう一発。警戒状態になった騎士が近づく。欲張らない。二発で逃げる。


 途中、変化の杖を振る選択肢が浮かんだ。敵種を変える。弱くなるかもしれない。もっとひどくなるかもしれない。


「使う?」

「危険です」

「でも封印中でも強い」

「射線は通っています」


 コヨリは変化の杖を振った。


【変化】

【停止時間騎士は、腹時計スライムに変化した】


「ぷるぷるになった!」

「満腹度を吸います」

「三回斬られないだけ好き!」


 コヨリは離れて小石ではなく魔法で削った。腹時計スライムが消える。


 停止時間騎士を処理したあと、床に落ちた盾を拾うかどうかで、コヨリはまた迷った。落ちた盾は大事だ。大事だから拾いたい。けれど、盾の横には装備はがし床の影がまだ残っている。


「ログル、盾」

「拾えます。ただし次の一手で床が再起動する可能性があります」

「大事なものの横に罠を置くな!」


 コヨリは場所替えの杖を使った。対象は、部屋の隅にいる腹時計スライム。自分とスライムの位置が入れ替わる。盾の隣ではなく、盾へ近づくための安全な位置へ出る。


「場所替え、ちゃんと考えると便利」

「はい。対象と自分の位置を入れ替える杖です」

「引き寄せとは違う。ここ大事。死亡ログに書く」


 盾を拾い、装備する。一手。床は再起動したが、もうその上にはいない。


 コヨリは盾を腕に戻した瞬間、ほっとした。HPが高いだけでは足りない。盾があるから耐えられる。腕輪があるから逃げられる。装備も、帰るための時間の一部だ。


「盾、ただいま」

「盾への帰宅挨拶ですか」

「大事なものには言っておく」


【新規獲得:装備はがし後退(そうびはがしこうたい) Lv.1】

【新規獲得:封印杖優先(ふういんづえゆうせん) Lv.1】

停止時間騎士の鎧には、時計の文字盤が重なっていた。胸、肩、膝。どこを見ても針がある。しかも全部、少しずつ違う向きだ。コヨリは視線をそらしたくなったが、そらすと予兆を見逃す。


「見たくないけど、見ないと死ぬ」

「はい」

「このダンジョン、見たくないものほど重要!」


 一度目の死亡は、ひどく単純だった。Lv16、HPは百を超えていた。盾もある。腕輪もある。だから、少しだけ強くなった気がした。次の一手で装備はがし床を踏むまでは。


【死亡時レベル:Lv16】

【死亡時HP:128/128】

【死因:盾を落とした直後、三秒止められて三回斬られた】

【評価:HPはありました。防御力が床に落ちていました】


「HPあったのにいいいいいいいいいい!」

「盾がありませんでした」

「盾! 盾のありがたみが死んでから分かる!」


 二度目、コヨリは封印杖を持っていた。だが、王まで温存したくなった。深層にはもっとひどい敵が出る。今使うのはもったいない。そう思った瞬間、騎士の剣が止まり、世界が灰色になる。


【死因:封印杖を温存して、温存したまま死んだ】

【評価:使うべき時が、使い時です】


「知ってた! わたし、これ何度も知ってた!」

「知識と実行は別です」

「冷静に刺さないで!」


 三度目、コヨリは封印杖を振った。効果は必中。光の輪が騎士の胸へはまり、時計の針が止まる。ただし、騎士の剣は止まらない。


「能力封印! 勝った!」

「通常攻撃は残っています」

「勝ってない!」


 コヨリは通路へ下がり、角を使って視界を切った。部屋の中で真正面から戦わない。壁越しに魔法の小矢を一発、二発。三発目を撃ちたくなったところで逃げる。


「欲張らない」

「はい」

「三発目は死ぬ味がする」

「かなり正確です」


 停止時間騎士は、封印されたまま通路の角を曲がりきれず、コヨリの置いた鈍足床を踏んだ。ようやく、盤面がこちらへ戻ってくる。



封印された騎士が鈍足床を踏んだ瞬間、コヨリは反射的に追撃したくなった。今なら倒せる。そう思った自分の欲に、すぐ気づく。


「ログル、倒せる?」

「倒せる可能性はあります」

「死ぬ可能性は?」

「あります」

「じゃあ階段!」


 勝てるかもしれない敵より、確実に降りられる階段。深層では、その判断がいちばん勇者っぽくないのに、いちばん勇者を生かした。



【新規獲得:視界切り射撃(しかいぎりしゃげき) Lv.1】

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード

現在階層:80F突破

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1071回

到達時レベル目安:Lv15

最大HP目安:132

停止時間騎士:撃破経験あり

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【装備はがし後退 Lv.1】

新規獲得:【封印杖優先 Lv.1】

新規獲得:【視界切り射撃 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

HP132でも装備はがしと三秒停止で死んだ。識別と封印杖の重要性を覚えた。


ログル

温存しすぎの危険と、視界切り射撃の有効性を伝えた。


停止時間騎士

三秒停止で発動者だけ三手動く中盤の理不尽敵。隣接すると三回斬る。


理不尽ダンジョンに負けないコヨリを応援してくださる方は、ブックマークや評価、コメント、レビューをよろしくお願いします!

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