停止時間騎士――三秒停止と装備はがし罠
八十階、中層の山場。
HPが上がっていても、装備を剥がされて三回殴られたら死ぬ。
封印杖、識別、視界切り、変化の杖が命綱。
八十階に着く頃には、コヨリは強くなっていた。
レベルは十五。最大HPは百三十二。盾もある。腕輪もある。封印杖、鈍足杖、変化の杖。保存壺にはパンと巻物。初期HP十五で震えていた頃とは違う。
だからこそ、油断した。
広い部屋の中央に、黒い騎士が立っていた。停止剣士より大きい。鎧の肩に砂時計が三つ。剣は長く、床に触れた先から時計の音が消えていく。
【警告】
【停止時間騎士】
【停止時間:三秒】
「三秒」
「はい。三秒の間、発動者だけが三手行動します」
「隣にいたら?」
「三回攻撃されます」
「HP百三十二あるよ?」
「盾があれば、耐える可能性はあります」
その時、足元が鳴った。
【装備はがし床】
盾が外れた。腕から落ち、床を滑る。コヨリの顔から血の気が引く。
「盾」
「拾うには一手必要です」
「騎士は?」
「隣接しています」
音が消えた。
一秒目。斬られる。
二秒目。斬られる。
三秒目。斬られる。
コヨリは一度も動けなかった。
【死亡ログ】
【死亡回数:1068回目】
【死亡時レベル:Lv15】
【死亡時HP:132/132】
【死因:装備はがし床で盾を落とした直後、停止時間騎士に三回斬られた】
【評価:HPはありました。防御力が足りませんでした】
拠点で目覚めたコヨリは、起き上がるなり盾を抱えた。
「盾、大事! 盾ほんと大事! 盾、もう家族!」
「装備はがし後は、まず距離を取るべきです」
「盾を拾いたくなる!」
「隣接状態で拾うと死にます」
「分かった! 盾を愛しても、拾うタイミングを間違えない!」
再挑戦。コヨリは装備はがし床を避け、封印杖を構えた。射線は通っている。振れば基本必中。今度こそ止める。
だが、手の中の杖は未識別だった。仮名は【たぶん封印】。コヨリの背中に冷たい汗が流れる。
「ログル。これ、封印?」
「未識別です」
「でも振らないと止められる」
「識別巻物は残り一枚です」
「ボス用に温存したい」
「死亡時に温存アイテムは使えません」
「それ、刺さるからやめて!」
コヨリは識別巻物を使わずに振った。
杖の光が騎士へ当たる。必中。効果も発動。
【引き寄せ】
停止時間騎士が、コヨリの目の前に来た。
「また招待したあああああああああ!」
【死亡ログ】
【死亡回数:1069回目】
【死因:封印杖だと思って未識別の引き寄せの杖を振り、停止時間騎士を目の前に呼んだ】
【評価:封印のつもりが招待状でした】
三度目。コヨリは識別巻物を使った。杖は本当に封印だった。
「温存しない」
「はい」
「今使う」
「はい」
「ボスで困ったら?」
「その時は、その時のアイテムで考えます」
「ローグライク、毎回人生相談みたいなこと言う!」
封印杖を振る。
【封印成功】
【停止時間騎士:停止時間使用不可】
勝った、と思いたい。だが騎士は普通に強い。通常攻撃でHPが削れる。コヨリは角へ逃げ、視界を切った。魔法の小矢で一発。下がる。もう一発。警戒状態になった騎士が近づく。欲張らない。二発で逃げる。
途中、変化の杖を振る選択肢が浮かんだ。敵種を変える。弱くなるかもしれない。もっとひどくなるかもしれない。
「使う?」
「危険です」
「でも封印中でも強い」
「射線は通っています」
コヨリは変化の杖を振った。
【変化】
【停止時間騎士は、腹時計スライムに変化した】
「ぷるぷるになった!」
「満腹度を吸います」
「三回斬られないだけ好き!」
コヨリは離れて小石ではなく魔法で削った。腹時計スライムが消える。
停止時間騎士を処理したあと、床に落ちた盾を拾うかどうかで、コヨリはまた迷った。落ちた盾は大事だ。大事だから拾いたい。けれど、盾の横には装備はがし床の影がまだ残っている。
「ログル、盾」
「拾えます。ただし次の一手で床が再起動する可能性があります」
「大事なものの横に罠を置くな!」
コヨリは場所替えの杖を使った。対象は、部屋の隅にいる腹時計スライム。自分とスライムの位置が入れ替わる。盾の隣ではなく、盾へ近づくための安全な位置へ出る。
「場所替え、ちゃんと考えると便利」
「はい。対象と自分の位置を入れ替える杖です」
「引き寄せとは違う。ここ大事。死亡ログに書く」
盾を拾い、装備する。一手。床は再起動したが、もうその上にはいない。
コヨリは盾を腕に戻した瞬間、ほっとした。HPが高いだけでは足りない。盾があるから耐えられる。腕輪があるから逃げられる。装備も、帰るための時間の一部だ。
「盾、ただいま」
「盾への帰宅挨拶ですか」
「大事なものには言っておく」
【新規獲得:装備はがし後退 Lv.1】
【新規獲得:封印杖優先 Lv.1】
停止時間騎士の鎧には、時計の文字盤が重なっていた。胸、肩、膝。どこを見ても針がある。しかも全部、少しずつ違う向きだ。コヨリは視線をそらしたくなったが、そらすと予兆を見逃す。
「見たくないけど、見ないと死ぬ」
「はい」
「このダンジョン、見たくないものほど重要!」
一度目の死亡は、ひどく単純だった。Lv16、HPは百を超えていた。盾もある。腕輪もある。だから、少しだけ強くなった気がした。次の一手で装備はがし床を踏むまでは。
【死亡時レベル:Lv16】
【死亡時HP:128/128】
【死因:盾を落とした直後、三秒止められて三回斬られた】
【評価:HPはありました。防御力が床に落ちていました】
「HPあったのにいいいいいいいいいい!」
「盾がありませんでした」
「盾! 盾のありがたみが死んでから分かる!」
二度目、コヨリは封印杖を持っていた。だが、王まで温存したくなった。深層にはもっとひどい敵が出る。今使うのはもったいない。そう思った瞬間、騎士の剣が止まり、世界が灰色になる。
【死因:封印杖を温存して、温存したまま死んだ】
【評価:使うべき時が、使い時です】
「知ってた! わたし、これ何度も知ってた!」
「知識と実行は別です」
「冷静に刺さないで!」
三度目、コヨリは封印杖を振った。効果は必中。光の輪が騎士の胸へはまり、時計の針が止まる。ただし、騎士の剣は止まらない。
「能力封印! 勝った!」
「通常攻撃は残っています」
「勝ってない!」
コヨリは通路へ下がり、角を使って視界を切った。部屋の中で真正面から戦わない。壁越しに魔法の小矢を一発、二発。三発目を撃ちたくなったところで逃げる。
「欲張らない」
「はい」
「三発目は死ぬ味がする」
「かなり正確です」
停止時間騎士は、封印されたまま通路の角を曲がりきれず、コヨリの置いた鈍足床を踏んだ。ようやく、盤面がこちらへ戻ってくる。
封印された騎士が鈍足床を踏んだ瞬間、コヨリは反射的に追撃したくなった。今なら倒せる。そう思った自分の欲に、すぐ気づく。
「ログル、倒せる?」
「倒せる可能性はあります」
「死ぬ可能性は?」
「あります」
「じゃあ階段!」
勝てるかもしれない敵より、確実に降りられる階段。深層では、その判断がいちばん勇者っぽくないのに、いちばん勇者を生かした。
【新規獲得:視界切り射撃 Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還時間シード
現在階層:80F突破
クラス:帰還者見習い
総死亡回数:1071回
到達時レベル目安:Lv15
最大HP目安:132
停止時間騎士:撃破経験あり
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【一フレームの神様 Lv.3】
【死亡対象上書き Lv.1】
【千回死亡条件破壊 Lv.1】
【死亡ログ返還 Lv.1】
【神様案内警戒 Lv.2】
【帰還座標仮視認 Lv.2】
【記憶擬態識別 Lv.1】
【現実擬態フロア警戒 Lv.1】
【帰宅線形成 Lv.2】
【時間不一致警戒 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【装備はがし後退 Lv.1】
新規獲得:【封印杖優先 Lv.1】
新規獲得:【視界切り射撃 Lv.1】
【登場人物紹介】
コヨリ
HP132でも装備はがしと三秒停止で死んだ。識別と封印杖の重要性を覚えた。
ログル
温存しすぎの危険と、視界切り射撃の有効性を伝えた。
停止時間騎士
三秒停止で発動者だけ三手動く中盤の理不尽敵。隣接すると三回斬る。
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