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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

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時間差モンスターハウス――空部屋が三手後に地獄

六十階は、入った時には何もいない部屋。

三手後に敵が湧き、宝箱は欲を読んでくる。

倒さない勇気と、拾わない勇気も攻略。


 六十階の部屋は、何もなかった。

 広い。明るい。宝箱がひとつ。敵はいない。罠も見えない。階段までまっすぐ。

 コヨリは入口で止まった。


「ログル」

「はい」

「何もない部屋は?」

「危険です」

「だよね!」


【|時間差モンスターハウス《ディレイハウス》】

【入室後三手で敵出現】


「見えてるなら、まだ親切?」

「見えている警告を無視すると死にます」

「圧がすごい」


 コヨリは一手目で部屋に入った。二手目で宝箱を諦めて階段へ向かう。三手目。床の時計が鳴った。


 壁が開く。何もなかった空間に、敵が湧く。時計兵、遅刻ベル番犬、秒針ウサギ。囲まれてはいない。まだ道はある。


「三手目で来るって分かってたから、これは行ける!」


 そう言って階段へ走った瞬間、宝箱が開いた。


 コヨリは開けていない。宝箱が自分で開いた。中から『欲』と書かれた紙が飛び出し、敵出現を一手早める。


「宝箱が勝手に欲を出した!」


【死亡ログ】

【死亡回数:1065回目】

【死因:空部屋だと思って進んだら、三手後に時間差モンスターハウスが湧いた】

【評価:安心の賞味期限は二手でした】


 再挑戦。コヨリは部屋に入らず、入口から魔法の小矢で宝箱を撃った。宝箱が跳ねる。ミミックだ。


「やっぱり!」

「宝箱型の起動装置です」

「宝箱ですらない!」


 ミミックは部屋の中央で暴れ、床の三手カウントを一手に縮めた。敵が湧く。コヨリはまだ入口にいる。通路へ下がれば、敵は一列に並ぶ。


「通路戦!」

「有効です。ただし秒針ウサギには注意」


 コヨリは鈍足杖を振り、最初のウサギを遅くする。次に封印杖で遅刻ベル番犬のチャイムを止める。杖は強い。振れば基本必中。だからこそ、使い時を間違えなければ頼れる。


 しかし、そこで欲が出た。


「ログル、宝箱、まだ残ってる?」

「あります」

「中身は?」

「不明です」

「ここまで対処したなら、取れるんじゃない?」

「危険です」

「一個だけ!」


 コヨリは一歩入った。


 床のカウントが再起動した。三手後、追加の敵。しかも、停止剣士が混ざっていた。


「欲を読まれてるううううう!」


【死亡ログ】

【死亡回数:1066回目】

【死因:時間差モンスターハウス処理後、宝箱を欲張って追加湧きを踏んだ】

【評価:処理したあとが一番危険でした】


 三度目。コヨリは宝箱を見ないことにした。見れば欲しくなる。だから、視界に入る前に壁際を進み、通路から階段へ射線を取る。敵を湧かせる。下がる。杖を使う。倒さなくていい敵は倒さない。


「逃げるの、勝ち?」

「はい。階段に到達すれば勝ちです」

「倒さない勇気!」


 コヨリは最後の一手で階段に飛び込んだ。背後で宝箱が、悔しそうに開閉している。


「欲しいけど、いらない!」


 時間差モンスターハウスを抜ける時、コヨリは部屋の端に残ったアイテムを何度も振り返った。巻物、草、たぶん杖。全部、役に立つかもしれない。


「ログル、あの草、回復草かも」

「毒草かもしれません」

「巻物は」

「大部屋の巻物かもしれません」

「大部屋は今ぜったい嫌!」


 宝箱型起動装置は、コヨリが未練を向けるたびに、ぱかぱかと蓋を開け閉めした。まるで、こっちへおいでと言っているみたいだ。


「かわいく誘ってもだめ」

「かわいいですか」

「ちょっとだけ」

「危険です」

「分かってる!」


 階段へ向かう途中、部屋の床に三つの影が落ちた。まだ敵は湧いていない。影だけが先に来ている。三手後の予約だ。


「未来の敵の影?」

「はい。現在の部屋に、未来出現の兆候が出ています」

「未来まで予約して殺しにくるの、几帳面すぎる!」


 コヨリは影のないマスだけを選んだ。一手ごとに床を見る。走らない。急がない。でも遅れない。階段に届いた時、未来の敵が出現したのは、コヨリが踏まなかったマスだった。


「影、見れば避けられる」

「はい」

「見る時間を作るのが大変だけど」

階段へ着いたあと、コヨリは後ろを見ないようにした。見れば、部屋の中央で巻物が光っている。あれは本物かもしれない。深層で使える切り札かもしれない。


「ログル、見ないって、けっこう疲れる」

「はい。欲を抑えるのも行動判断です」

「手は動かしてないのに、心が一手使ってる感じ」

「表現として近いです」


 宝箱型起動装置が、最後に一度だけ蓋を開けた。中には何もない。空っぽなのに、まだ欲しくなる。空っぽかどうか、自分の目で確かめたくなる。


「空っぽを確認したい欲まで罠?」

「はい」

「このダンジョン、人間心理に詳しすぎる」


 コヨリは階段を降りた。確認しない。拾わない。倒さない。進む。それが、この階で得た一番地味で、一番強い攻略だった。


【新規獲得:時間差モンハウ警戒じかんさモンハウけいかい Lv.1】

時間差モンスターハウスの嫌なところは、最初に静かなことだった。普通のモンスターハウスなら、入った瞬間に音がする。敵がいる。絶望が見える。だが、この部屋は何もない。何もないから、コヨリの欲が元気になる。


「空部屋、宝箱、巻物。はい罠」

「かなり高確率です」

「でも、空部屋って、ちょっと期待しちゃう」

「それが狙いです」

「ダンジョン、人の心を勉強しすぎ!」


 床の中央には、薄い円が描かれていた。コヨリが一歩近づくと、円の外側に数字が浮かぶ。


【三】


「カウント出た!」

「三手後に出現です」

「親切なのか不親切なのか分からない!」


 コヨリは、まず出口を確認した。次に、出口までのマスを数える。三手。ちょうど三手。まっすぐ行けば、敵が出る瞬間に扉の外へ出られる。だが、途中に巻物がある。拾えば一手増える。


「拾わない」

「はい」

「拾わない! 聞こえた、わたしの手!」


 手に言い聞かせたのに、一度目は拾った。拾った瞬間、床の数字が【二】から【零】へ飛び、未来の敵が現在に割り込んできた。


【死因:空部屋だと思って巻物を拾い、三手後の敵を今呼んだ】

【評価:拾う一手で未来を前倒ししました】


「未来、前倒ししなくていい!」

「予定が繰り上がりました」

「死亡予定をスケジュール管理するな!」


 成功周回では、コヨリは巻物へ背を向けた。背中がむずむずする。拾いたい。でも、階段へ出る。扉を抜けた瞬間、部屋の中に敵が湧いた。壁の向こうで、遅れて爪音が鳴る。


「今の、拾ってたら?」

「囲まれていました」

「拾わないわたし、えらすぎる」

「はい。宝箱欲張り警戒たからばこよくばりけいかいが機能しています」


 褒められたので、コヨリは少しだけにやけた。拾わない勇気は、地味だ。でも、地味な勇気がないと深層には行けない。



部屋の出口には、わざとらしく『安全』と書かれた看板が立っていた。コヨリは看板を信じず、裏側を見た。裏には『三手後』と小さく書かれている。


「裏に本音を書くタイプ!」

「表だけ見ると危険です」

「看板まで二面性を持つな!」


 コヨリは看板を倒さず、そのまま目印にした。罠を壊せないなら、次に自分が引っかからない形で使う。嫌いなものでも、使えるなら使う。



【新規獲得:宝箱欲張り警戒たからばこよくばりけいかい Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード

現在階層:60F突破

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1067回

到達時レベル目安:Lv13

階段優先判断:強化

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【時間差モンハウ警戒 Lv.1】

新規獲得:【宝箱欲張り警戒 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

空部屋と宝箱欲張りで二回死んだ。三度目で拾わずに逃げた。


ログル

通路戦と杖の使い時を指示した。


宝箱型起動装置

宝箱に見えるが、追加湧きのスイッチ。欲望に反応する。


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