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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

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昼休み食堂――三手で腐るパン

五十階は食堂。パンは三手で腐り、五手で爆発する。

保存しても巻き戻らない。

食べる、諦める、進む。食料判断も命がけ。

 五十階は、昼休みの食堂だった。


 長いテーブルにパンが並び、スープの湯気が上がっている。壁の時計は十二時ちょうど。窓の外には、帰り道の夕焼けが見える。昼なのに夕方。もうその時点で信用できない。


「ログル、ごはんがある」

「はい」

「罠?」

「可能性が高いです」

「ごはんを疑うの、心が荒む」


 コヨリの満腹度は半分を切っていた。食べないと次の階がつらい。食べると罠かもしれない。小さな手が、パンの前で止まる。


【三手で腐るパン】

【拾得後、三手目まで安全】

【四手目以降:腐敗】

【五手目以降:爆発】


「食品衛生法どこ!?」

「このシードにはありません」

「作って!」


 コヨリはパンを拾った。一手。座る。二手。祈る。三手。


「いただきます!」


 食べた。ぎりぎり安全。満腹度が戻る。勝ったと思った。


 次の皿のパンも拾う。一手。ログルに確認。二手。席を立つ。三手。敵影を見る。四手。


「しまった」


 パンが紫色になった。


【死亡ログ】

【死亡回数:1063回目】

【死因:三手で腐るパンを四手目に食べた】

【評価:一手遅かったです】


 拠点で、コヨリは自分の腹を押さえた。


「腐るの早すぎる」

「拾った時点で時間が動きます」

「パンを拾った瞬間から命のタイマーが始まるの、嫌な人生訓みたい!」


 再挑戦。コヨリはパンを拾ったらすぐ食べることにした。温存しない。保存壺に入れない。いや、保存壺なら時間が止まるかもしれない。そう考えたのが間違いだった。


 コヨリはパンを保存壺に入れた。


【保存壺】

【内部時間:停止】


「勝った!」


 しかし、壺から出した瞬間、パンは拾得から四手目として扱われた。紫色になり、ぼふんと爆ぜる。


【死亡ログ】

【死亡回数:1064回目】

【死因:保存壺で安心し、出した瞬間に腐敗パンを爆発させた】

【評価:保存は停止であって、巻き戻しではありません】


 三度目。コヨリは腹を決めた。拾う。すぐ食べる。()()()()パンは諦める。テーブルの奥にある大きなパンは明らかに魅力的で、明らかに罠だ。


「ログル、あれ食べたい」

「大きいです」

「大きいよね」

「床が沈んでいます」

「大きい罠だね」


 諦める。階段へ向かう。後ろで大きなパンが勝手に破裂し、テーブルが跳ねた。


「食べなくても爆発するの!?」

「時間切れです」

「パンが短気!」


 階段前で、ミーナに似た幻影がスープを差し出してきた。


「まだ食べていきなよ」


 優しい声だった。けれど、コヨリは首を振る。


「帰ったら食べる。今は進む」


 スープの湯気が、階段の光に変わった。


 食堂の出口近くに、給食当番の帽子が落ちていた。拾うと、周囲のパンが一斉にこちらを向く。


「パンがこっち見た」

「拾得者を給食当番と認識したようです」

「給食当番、パンに見つめられる役じゃない!」


【給食当番帽】

【食料の腐敗タイマーが見える】

【ただし、食料系敵に狙われやすい】


 便利だ。便利だが危ない。コヨリはしばらく帽子を持って悩んだ。かぶればタイマーが見える。かぶれば狙われる。


「ログル、どうする?」

「今の階では有効です。ただし深層へ持ち込むと危険かもしれません」

「便利装備の未来が怖い」


 コヨリは一時的にかぶった。パンの上に、残り三、二、一と数字が出る。見えると、判断が早い。


「見えるって大事!」

「はい」

「でも食料系敵がこっち見てる!」


 食堂の奥から、スープ鍋が足を生やして歩いてきた。コヨリは帽子を外し、保存壺へ入れた。狙いが外れる。鍋はきょろきょろしている。


「装備を外すのも攻略」

「はい。外すタイミングが重要です」

装備(そうび)はがし床は嫌いだけど、自分で外すのは好き!」

食堂の壁には、献立表が貼られていた。


【本日の献立】

【三手パン】

【昨日牛乳】

【たぶん安全スープ】


「たぶん安全スープって、危険って意味だよね」

「はい」

「給食だよりの信用が落ちた」


 コヨリはスープ鍋を遠巻きに見た。湯気はおいしそうだ。おいしそうなものほど怖い。けれど、満腹度が低いまま進むのも怖い。


「ログル、たぶん安全スープを識別できる?」

「匂いでは無理です。湯気に時間魔力があります」

「食べ物の湯気に魔力を混ぜるな!」


 コヨリはスープを諦め、三手パンをその場で食べた。欲張らず、一個だけ。足りない分は保存していた干し肉で補う。見た目のおいしさより、識別済みの安全。


「味気ない」

「安全です」

「安全、いま一番おいしい」

階段の手前で、コヨリは給食当番帽を少しだけ見た。便利だった。持っていけば、次の食料罠でも役に立つかもしれない。だが、深層で食料系敵に狙われる未来も見える。


「ログル、持っていく?」

「持ち帰り候補からは外した方が安全です」

「便利だったのに」

「便利さと危険度が近すぎます」

「この世界、便利の隣に死因が住んでる」


 コヨリは帽子を食堂の椅子に置いた。ありがとう、と心の中でだけ言う。道具を置いていくのも、進むための一手だった。


【新規獲得:腐敗タイマー確認ふはいタイマーかくにん Lv.1】

食堂の奥には、配膳台があった。銀色のトレイがきれいに並び、どれも同じように湯気を立てている。普通ならおいしそうな光景だ。だが、トレイの上には小さな砂時計が乗っている。


「食べ物に制限時間を乗せないで」

「昼休み食堂の基本仕様です」

「基本から間違ってる!」


 コヨリはトレイを取らず、まず周囲を見る。配膳台の横に、返却口がある。返却口の奥は黒く、何かが皿を待っていた。食べ終わった皿を入れる場所ではない。たぶん、食べ終わらなかった勇者を入れる場所だ。


「ログル、返却口」

「口です」

「口って言った」

「はい。返却対象を選ばないタイプです」

「食器以外を返却するな!」


 一度目、コヨリはパンを保存しようとして死んだ。保存壺へ入れた瞬間、三手タイマーが壺の中で進み、壺ごと膨らんで爆発したからだ。


【死因:三手パンを保存壺に入れて壺内発酵させた】

【評価:保存ではなく密閉でした】


「保存壺なのに保存できないの!?」

「食品の時間までは止めません」

「名前負けしてる!」


 二度目、コヨリはパンを拾わず、その場で一口だけ食べた。残りは置く。もったいない。ものすごくもったいない。けれど、食べきろうとして満腹度を超え、鈍足になったら次の敵で死ぬ。


「残す勇気」

「はい」

「食べ物を残すの、心が痛い」

「このパンは三手後に爆発します」

「急に痛みが減った!」


 ミーナに似た食堂のおばちゃんが、遠くから手を振った。顔は優しい。だが、このシードの人か、ただの時間幻影かは分からない。


「腹が減ってちゃ、帰るもんも帰れないよ」


 声だけは、いつものミーナに似ていた。コヨリは頭を下げる。


「ありがとう。でも、識別してから食べる」


 おばちゃんは笑った。笑って、湯気の中に消えた。



返却口がかちかち歯を鳴らしたので、コヨリはトレイを持たずに一歩下がった。食べる前から返却を待つ店は、どう考えても客商売を間違えている。



【新規獲得:食料即断(しょくりょうそくだん) Lv.1】

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード

現在階層:50F突破

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1065回

到達時レベル目安:Lv12

満腹度管理:危険域から改善

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【腐敗タイマー確認 Lv.1】

新規獲得:【食料即断 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

腐るパンと保存壺事故で死んだ。大きなパンを諦めて突破した。


ログル

保存は巻き戻しではないと説明した。


ミーナ似の幻影

スープを勧めて足を止めようとしたが、今回は見送られた。


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