曜日反転教室――月曜が二回来る
三十階では、日曜が消えて月曜が増える。
回復床にも満腹度の罠がある。
休日を守るため、コヨリは食料温存の誘惑と戦う。
三十階の教室には、黒板一面にカレンダーが書かれていた。
月、月、火、水、木、金、月。
コヨリは三秒ほど黙ったあと、両手で黒板を指した。
「日曜どこ!?」
「消えています」
「神様ァ! 休日を消すなああああああああああああああ!」
叫び終わるより早く、黒板の月曜が床へ落ちた。紙のように見えた文字が、ぺたりと床に張りつく。
【曜日反転教室】
【月曜床:敵出現率上昇】
【日曜床:回復。ただし現在消失】
「日曜を返して」
「曜日合わせの札があれば、戻せる可能性があります」
「札。札を探す。日曜のためなら、わたしは勇者になる」
「すでに勇者です」
「休日勇者!」
コヨリが一歩進むと、月曜床から小さな時計兵が湧いた。二歩目でも湧いた。三歩目で、床の文字が増える。
【月曜】
【月曜】
【月曜】
「増えるな! 月曜は一個でも重い!」
時計兵の槍が突き出る。HPはさっきより上がっている。レベルも少し上がった。だから一撃では死なない。けれど、敵が湧き続ければ関係ない。
【死亡ログ】
【死亡回数:1059回目】
【死因:月曜床を三回踏み、時計兵に囲まれた】
【評価:精神的にも物理的にも重い曜日でした】
再挑戦。コヨリは曜日合わせの札を拾った。札には『日』と書かれている。信じたい。けれど未識別かもしれない。ログルに見せる。
「これは本当に日曜?」
「曜日合わせの札です。使用先を間違えなければ有効です」
「間違えると?」
「月曜が増えます」
「最悪の増殖バグ!」
コヨリは黒板に向けて札を掲げた。日曜の枠が戻る。床の端に、柔らかい光が生まれる。
「回復床!」
「待ってください。日曜床は休み時間を進めます」
「回復なのに罠あるの?」
「ここは時間ダンジョンです」
「便利な言い訳!」
日曜床はHPを回復する代わりに、満腹度を一気に削った。腹が鳴る。コヨリは涙目になる。
「休日にお腹減るの、現実っぽいけど嫌!」
食料を使うか、温存するか。コヨリは一度温存して階段を目指した。途中で空腹ダメージが入り、時計兵の小突きで倒れる。
【死亡ログ】
【死亡回数:1060回目】
【死因:日曜床で回復したが、満腹度を削られて力尽きた】
【評価:休日にもごはんは必要です】
三度目。コヨリは日曜床を一歩だけ踏み、すぐ保存壺から小さなパンを出した。食べる。足りない。もう一つ食べる。温存したくなる指を、ぎゅっと止める。
「ボスまで取っておきたい」
「死亡時に持ち越せるとは限りません」
「ローグライクの真理で殴るのやめて」
食べる。動く。曜日を戻す。月曜床を避ける。黒板の横に、日直札みたいな階段が現れた。
「日曜、守った」
「はい」
「でも休んだ気がしない」
「攻略中ですので」
日曜床を戻したあと、コヨリは黒板の端に小さな落書きを見つけた。
【日曜は休みではなく準備日】
「誰が書いたの。偉そう」
「このシードの時間管理思想かもしれません」
「休みの日に準備しろって言う大人、嫌い」
月曜床を避けながら進むと、教卓の上に給食袋が置いてあった。中にはパンと牛乳。見た目は安全。匂いも普通。だからこそ、コヨリは疑った。
「給食袋も三手で腐る?」
「未確認です」
「確認したくない」
ログルが宝石を光らせ、袋の縫い目を示す。そこに小さな時計が縫い込まれていた。
【賞味期限:昨日】
「昨日!」
「食べないでください」
「食べる前に分かってよかったけど、給食に昨日を入れるな!」
コヨリは、給食袋を敵へ投げようとして止めた。投擲は外れる。外れた給食袋が床で爆発したら嫌だ。かわりに場所替えの杖で時計兵と自分の位置を入れ替え、月曜床を踏ませる。
時計兵が湧いた時計兵に囲まれる。
「敵が敵の月曜で困ってる!」
「地形利用です」
「月曜を敵に押しつける戦術、ちょっと悪いけど効く!」
曜日反転教室の奥には、日直日誌が置いてあった。ページを開くと、同じ文字が何度も並んでいる。
【月曜、また月曜、たぶん月曜】
「日誌が病んでる」
「曜日反転の影響です」
「日直さん、かわいそう」
コヨリは日誌を閉じようとして、最後のページに気づいた。そこだけ、薄い鉛筆で書かれている。
【日曜は戻せる。でも、戻したら休み方を選べ】
休み方。そんなものまで選ばされるのか、とコヨリは思った。回復床で休む。食料を食べて休む。無理に進んで倒れる。どれも一手で、どれも結果が違う。
「ログル。休むのも攻略?」
「はい。休まない勇者は、だいたい次の罠で倒れます」
「じゃあ休む。でも、罠じゃない休み方で」
コヨリは日曜床を一歩だけ使い、残りは自分のパンで補った。甘えすぎない。怖がりすぎない。その真ん中を探すのが、この教室の授業だった。
【新規獲得:曜日確認 Lv.1】
曜日反転教室には、席順表まであった。名前の欄には、月曜、月曜、火曜、木曜、月曜。金曜の席は空いていて、日曜の席だけ黒い布がかけられている。コヨリは布をめくろうとして、手を止めた。
「ログル、日曜の席、めくっていい?」
「めくると回復床が出る可能性があります」
「いいじゃん」
「同時に、休み明け敵が湧く可能性もあります」
「休み明け敵!? 名前だけで嫌!」
黒い布の端から、白い手が少しだけ出た。『休もうよ』と書かれた札を持っている。休みたい。すごく休みたい。だが、今の休みが本当に休みかどうかは分からない。
「休みも未識別」
「はい」
「もう何なら識別済みなの!」
「勇者様の疲労は識別済みです」
「そこだけ分かりやすい!」
コヨリは、布をめくらずに日曜の席から一マス離れた。かわりに、曜日合わせの札を机の上へ置く。札はふわりと浮き、黒板の『月 月 火 水 木 金 月』の最後の月を日へ変えた。
教室の空気が、少しだけやわらぐ。だが、同時に窓の外から休み明け時計兵が顔を出した。
「出た! 休み明け!」
「日曜を戻した反動です」
「休んだら敵が来るの、社会がつらい!」
時計兵は強くない。だが、だるい。攻撃が遅れてくる。避けたと思ったあとで当たる。コヨリは一回それで転び、黒板消し罠を頭に受けた。
【死因未遂:黒板消し罠で視界不良】
【評価:昭和の罠が時間差で来ました】
「黒板消しが頭に落ちるやつ、まだ現役!?」
「この教室では現役です」
「古典芸能みたいに言わないで!」
コヨリは袖で白い粉を払い、今度は休み明け時計兵を月曜床へ誘導した。敵が敵の曜日に沈む。少しだけ申し訳ないが、月曜を増やしたのはこっちではない。
「月曜は返す」
「誰にですか」
「敵に!」
黒板の隅には、小さく『宿題』と書いてあった。内容は、今日中に明日を提出すること。コヨリは読み終わる前に黒板消しを構えた。
「明日を提出ってなに!?」
「時間因子系の課題です」
「宿題の規模が大きすぎる!」
文字を消すと、教室の時計が一つだけ静かになった。全部を直せなくても、ひとつ消せば一手ぶん楽になる。コヨリは少しだけ、黒板消しを見直した。
消した粉が指につき、コヨリは袖で拭いた。白く残った跡まで、今日は罠に見えた。
【新規獲得:満腹度温存警戒 Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還時間シード
現在階層:30F突破
クラス:帰還者見習い
総死亡回数:1061回
到達時レベル目安:Lv8
満腹度管理:重要化
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【一フレームの神様 Lv.3】
【死亡対象上書き Lv.1】
【千回死亡条件破壊 Lv.1】
【死亡ログ返還 Lv.1】
【神様案内警戒 Lv.2】
【帰還座標仮視認 Lv.2】
【記憶擬態識別 Lv.1】
【現実擬態フロア警戒 Lv.1】
【帰宅線形成 Lv.2】
【時間不一致警戒 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【曜日確認 Lv.1】
新規獲得:【満腹度温存警戒 Lv.1】
【登場人物紹介】
コヨリ
月曜増殖と日曜床の満腹度罠で二回死んだ。
ログル
曜日合わせの札の使い方と、食料温存の危険を指摘した。
時計兵
月曜床から湧く小型敵。数で押してくる。
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