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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

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秒針回廊――三倍速秒針ウサギ

二十階には三倍速のウサギが出る。

かわいい見た目でも、三手で詰められたら死ぬ。

逃げるだけでなく、鈍足杖と角の使い方が問われる。

 二十階は、床そのものが大きな時計だった。


 円形の部屋の中央から秒針が伸び、細い赤い線が床をなめるように回っている。壁には出口が三つ。どれも本物っぽく、どれも嘘っぽい。


「ログル、秒針が床にある」

「はい」

「踏むと?」

「敵の速度が上がる可能性があります」

「踏まない」


 コヨリが一歩引いた瞬間、部屋の端から白いウサギが飛び出した。小さい。耳が秒針みたいに長い。かわいい。かわいいのに、目が完全に殺意だった。


【警告】

三倍速秒針ウサギトリプルセカンドラビット

【行動速度:三倍】


「三倍!? 倍速を超えてきた!」

「勇者様が一手動くと、敵が三手動きます」

一手一動ワンターン・ワンアクションは!?」

「敵側に三手あります」

「敵だけ月額課金してるのおおおおおおおおおおお!」


 コヨリは横へ逃げた。ウサギが三歩来た。コヨリがもう一歩下がる。ウサギが三歩来る。距離が、考えるより早く消える。


「速い速い速い! かわいい見た目で速度が暴力!」


 ウサギが跳ねた。前歯が光る。


【死亡ログ】

【死亡回数:1056回目】

【死因:一歩逃げたら三歩詰められた】

【評価:秒針は待ってくれません】


 再挑戦で、コヨリは通路に逃げ込んだ。曲がり角なら三倍速でも曲がる必要がある。そう思った。実際、ウサギは角で一瞬止まりかけた。


「ログル、曲がり角!」

「有効です」

「勝った!」


 その瞬間、床の秒針が通路の入口をかすめた。ウサギの体が赤く光る。


【秒針床効果】

【敵速度:三倍維持】

【追加跳躍:発生】


「床が敵を応援した!」


【死亡ログ】

【死亡回数:1057回目】

【死因:秒針床で三倍速ウサギをさらに跳ねさせた】

【評価:床を敵にバフしました】


 三度目。コヨリは、逃げるだけではだめだと分かった。拾った鈍足杖を握る。杖は振れば基本必中。射線が通る一瞬を待つ。


「ログル、今?」

「まだです。ウサギが秒針の上です」

「今?」

「まだです。角度が浅いです」

「今?」

「今です」


 コヨリは杖を振った。


【鈍足成功】

三倍速秒針ウサギトリプルセカンドラビット:三倍速→通常速】


「普通のウサギになった!」

「まだ噛みます」

「普通に噛むならまだかわいい!」


 油断した。普通速になったウサギが、普通に近づき、普通に噛んだ。HPが残り一まで落ちる。


「かわいくない!」


 コヨリは慌てて小石を投げた。外れた。次に魔法の小矢を撃つ。これは命中し、ウサギが倒れる。


「投げ石、信用下がった」

「投擲です」

「杖と魔法、えらい」


 四度目ではなく、そのまま突破できた。だが、HPは残り一。階段の横に回復床が見える。コヨリは一歩踏み出しかけて、止まった。


 床の文字が、うっすら見えた。


【回復床っぽい秒飛ばし床】


「っぽい、って書くな!」


 踏まない。別の道を行く。遠回りして階段に着いた時、ログルの宝石が光った。


 三倍速ウサギの死体が光になって消えたあと、コヨリは部屋の床をもう一度見た。秒針床は、ただ回っているだけではない。一定の角度で、敵の足元にだけ赤い光を足していた。


「敵にだけバフする床、ずるい」

「勇者様も踏めます」

「踏んだら?」

「敵が速くなります」

「わたしが踏んでも敵が速くなるの、床が敵推し!」


 コヨリは鈍足杖の残り回数を確認した。あと二回。使えば安全。温存すれば怖い。さっきから、使うかどうかばかり考えている。


「ログル。杖の残り回数を見るたび、お腹が痛い」

「精神的負荷です」

「杖の回数に胃を握られてる」


 次の部屋には、秒針ウサギが二匹いた。片方は寝ている。片方だけ起きている。コヨリは起きている方に鈍足杖を振り、寝ている方へは近づかない。起こさない。経験値より命。


「倒せばレベル上がるかも」

「起こせば死ぬかもしれません」

「レベルより命!」


 それでも、寝ているウサギの横に巻物が落ちている。欲しい。見ない。見ない。そう思うほど見える。


「ログル、あの巻物、何かな」

「見なかった巻物です」

「ログルが現実逃避を手伝ってくれる!」

次の小部屋で、コヨリはあえて一手待った。何もしない。動かない。すると、秒針床の赤い光が通り過ぎ、ウサギが踏むはずだったマスが普通の床に戻る。


「待つと、床の効果がずれる」

「はい」

「動くのが怖いんじゃなくて、待つのが正解の時もある」

「時間シードでは重要です」


 コヨリは、自分の足元を見た。急いで走るだけなら、三倍速には追いつかれる。なら、敵が速い時間に立たないよう、こっちが遅い一手を選ぶしかない。


「速い敵に、速く逃げたら負ける」

「場合によりますが、この階ではそうです」

「じゃあ、遅く勝つ」


 言ってから、コヨリは少し笑った。遅く勝つ。帰るために急がない。この時間ダンジョンは、最初からずっと同じことを言っている気がした。


【新規獲得:三倍速警戒(さんばいそくけいかい) Lv.1】

秒針回廊の奥では、床そのものが大きな時計盤になっていた。針はただ回るのではなく、マス目の上を細い刃のように走っている。踏めば敵が速くなる。避ければ遠回り。遠回りすれば満腹度が減る。


「ログル、時間ダンジョン、すごく性格悪い」

「はい。遠回りにも費用を要求してきます」

「直進したら死ぬ、遠回りしたらお腹が減る。神様、幼女に人生の縮図を踏ませないで!」


 三倍速秒針ウサギさんばいそくびょうしんウサギは、かわいかった。耳が長く、目は丸く、鼻先がひくひく動く。だが、その足元だけがかわいくない。一歩、二歩、三歩。コヨリの一手に対して、床を刻む音が三つ鳴る。


「かわいいのに殺意が三倍」

「かわいさと危険度は無関係です」

「ピヨラを見習って! かわいくて守ってくれる方向でお願い!」


 ウサギが曲がり角に弱いことに気づくまで、コヨリは二回ほど軽く死んだ。軽く、とは言っても本人にとってはぜんぜん軽くない。死亡受付でネムに「速度違反ですね」と言われた時は、机を叩きそうになった。


【死因:三倍速秒針ウサギに直線で追いつかれた】

【評価:直線勝負をしてはいけません】


「直線がだめなら、曲がる!」

「はい。曲がり角で減速します」

「ウサギなのにカーブ苦手!」

「時計の針が直線的な処理をしているようです」

「急に理屈っぽい。でも助かる!」


 コヨリは曲がり角の手前に小石を置き、ウサギの注意をずらした。次に、秒針床が赤く光る直前で待つ。動かない。息だけを浅くする。


「今、待つ」

「はい」

「動きたい。すごく動きたい」

「待つ一手です」

「一手じゃなくて一待ち!」


 赤い光が通り過ぎる。ウサギは勢いのまま曲がりきれず、壁へごつんと頭をぶつけた。コヨリはその隙に階段へ走る。倒さない。かわいそうでも、撫でない。


「勝ったけど、ちょっとごめん」

「撫でると三倍で噛まれます」

「ごめんだけで済ませる!」



曲がり角の向こうに逃げたあとも、コヨリはすぐに走り出さなかった。床の赤い光が次にどこへ伸びるかを見る。三倍速の怖さは足の速さだけではない。焦らせて、こちらに悪い一手を選ばせるところにあった。


「急がせる敵、嫌い」

「はい」

「でも、急がないと追いつかれる」

「だから、急ぐ場所を選びます」

「急ぐにも場所代がかかる!」



【新規獲得:秒針床疑いびょうしんゆかうたがい Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード

現在階層:20F突破

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1059回

到達時レベル目安:Lv6

深層警戒:未到達

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【三倍速警戒 Lv.1】

新規獲得:【秒針床疑い Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

三倍速ウサギに二回殺され、鈍足杖と射線待ちを覚えた。


ログル

杖を振るタイミングを指示した。投擲と杖の違いも強調した。


三倍速秒針ウサギ

かわいい見た目で三手詰めてくる時間ダンジョンの理不尽枠。


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