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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

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拠点時計会議――神様、深すぎる

時間ダンジョンは99F。説明不足の神様を、ベルが会議室で詰める。

杖、時間停止、未識別事故の基本ルールを整理。

勇者の心得が、ほぼ不審者対策になった。

 拠点の会議室に、時計が二十個並べられた。


 並べたのはベルだった。秒針の音がうるさいからではない。アドミニスが時間について説明を逃げないよう、証拠品として並べたのだ。


「主神様。時間停止系エネミーについて、事前説明はございましたか」

「危険な敵がいる、とは言った気がする」

「一秒止められて死亡する敵を、危険な敵、で済ませるのは説明ではなく感想です」


 ベルの声は穏やかだった。穏やかすぎて、アドミニスの白い窓が少し小さくなる。


 コヨリは椅子の上に正座し、両手を上げた。


「神様」

「はい」

「九十九階って何」

「時間因子は細かいから」

「細かいなら階数を細かくしないで! わたしの命で単位変換しないで!」


 ゼルドが腕を組んでうなずいた。


「余の魔王城でも、九十九階など管理が面倒だ。せめて幹部会議で反対が出る」

「魔王城のほうが民主的!」

「民主的というより、階段掃除の予算が死ぬ」

「理由が現実的!」


 ネムは死亡受付票をめくっていた。すでに新しい欄が増えている。


「死亡種別に、停止時間中死亡、未識別杖誤認死亡、チャイム加速死亡を追加しました」

「やめて、受付がどんどん専門化してる」

「専門化しないと追いつきません」

「わたしのせい?」

「主に神様のせいです」

「よし」


 ログルは机の上に地図を広げた。紙の上で、時間ダンジョンの階層がうっすら動いている。


「勇者様。現在分かっていることを整理します」

「はい、先生」

「まず、杖は振れば基本必中です。投げると投擲扱いになり、外れる、壊れる、ロストする可能性があります」

「杖は振る。投げない」

「次に、時間停止中に動けるのは発動した敵だけです。他の敵、罠、環境、ぼく、勇者様は止まります」

「他の敵が動かないのは、まだ優しさ?」

「いえ。発動者だけが一方的に殴れるようにする悪意です」

「言い方あああああ!」


 ベルが白い窓へ視線を戻す。


「主神様。今後、敵の能力が段階的に上がる可能性は」

「ある。一秒、三秒、五秒」


 会議室が沈黙した。


 コヨリだけが椅子の上で固まる。


「五秒?」

「章ボス級だと思う」

「今、一秒で死んだんだけど」

「だから、今から対策を」

「神様ァ! 消防訓練を火事のあとに始めるなああああああああああ!」


 ログルは地図の横に大きく三つの文字を書いた。


【見られない】

【隣接しない】

【未識別を信じない】


 コヨリはそれを見て、真顔になった。


「勇者の心得というより、不審者対策みたい」

「生存には有効です」

「じゃあ採用」


 ネムが受付票の下に、さらに小さく書き加える。


【死亡時、温存アイテムは使えません】


「ネム、それは刺さる」

「今後、深層では大事になると思います」


 コヨリは、懐の杖をぎゅっと握った。


 帰りたい。早く帰りたい。けれど、早く進むだけでは死ぬ。待つこと、見ること、逃げること。子供の体には似合わない慎重さが、今は命綱だった。


 ベルはさらに、会議室の壁へ大きな紙を貼った。


【九十九階までの注意】

【一、急ぐな】

【二、でも遅れるな】

【三、欲張るな】

【四、必要な杖は使え】


 コヨリは四つ目を指差した。


「これ、いちばん難しい」

「はい。使うべき時と温存すべき時の判断は、ローグライク攻略の核心です」

「ログル、言い方が急に攻略本」

「勇者様が死にすぎて、ぼくも詳しくなりました」

「わたしの死亡で育つ相棒!」


 アドミニスは申し訳なさそうに手を挙げた。


「一応、深層には救済アイテムも出る」

「救済って、使ったら死ぬ未識別品じゃないよね?」

「識別できれば救済」

「できなければ?」

「事故」

「救済と事故の距離が近い!」


 ゼルドが地図をのぞきこむ。


「勇者よ。敵を倒すことに固執するな。魔王城の防衛でも、倒す必要のない敵に時間を使う兵はよく罠にかかる」

「魔王城の防衛ノウハウ、今めちゃくちゃ役に立ってる」

「褒められているのか複雑だな」


 コヨリは紙の下に、自分で一行を書き足した。


【五、死ぬ前に逃げる】


「当たり前だけど、当たり前が一番むずかしい」

会議の終わりに、ベルはコヨリへ小さな札束を渡した。札といっても魔法の道具ではない。紙でできた、手書きの確認札だった。


【杖を振る前に名前を見る】

【床を踏む前に影を見る】

【階段を降りる前に時刻を見る】

【宝箱を見る前に欲を捨てる】


「最後だけ精神論じゃない?」

「精神論が一番の罠対策になる場面もあります」

「ベルが言うと説得力ある」


 アドミニスが小さく手を挙げる。


「僕も一枚書いていいかな」

「神様が?」


 白い窓の中で、主神は真面目な顔をした。浮かんだ文字は、たった一行だった。


【説明を先にする】


 コヨリはそれを見て、長く息を吸った。


「神様」

「はい」

「それ、今までで一番大事」

「......うん」


反省会テーブルの端では、ネムが死亡受付の紙を束ねていた。いつもより枚数が多い。いや、いつも多いのだが、時間シードの紙は妙に細長く、時計の針みたいに机からはみ出している。


「ネム、それ全部わたし?」

「はい。時間関係の死因は記入欄が長いので、紙も長いです」

「死因で紙のサイズ変えないで」

「一秒停止、三秒停止、五秒停止は別分類です」

「事務が細かい!」


 リュシアは温かいミルクを出してくれた。酒神なのに、コヨリの前にはちゃんと子供向けの飲み物を置く。コヨリはカップを両手で包み、少しだけ肩の力を抜いた。


「ちび勇者ちゃん、深い階ほど、勝たなくていい敵が増えるわよ」

「リュシアさんもダンジョン詳しいの?」

「酒場で酔った冒険者がだいたい同じこと言うの。『あそこで宝箱を見なければ』ってね」

「みんな言うんだ......」

「言うわね。宝箱は人類共通の弱点よ」


 ベルが、すかさず紙へ書き足す。


【宝箱は人類共通の弱点】


「それ正式メモにするの?」

「死亡率に関わる重要事項です」

「重要だけど恥ずかしい!」


 ゼルドは腕を組み、時計ダンジョンの九十九階という数字を見て眉間にしわを寄せた。


「九十九階とは、また雑な深さだな」

「魔王さんの城より深い?」

「余の城は防衛思想がある。これは嫌がらせ思想だ」

「魔王に嫌がらせって言われるダンジョン、もうだめだよ!」


 アドミニスは窓の中で小さくなっていた。コヨリはカップを置き、窓へ近づく。


「神様」

「はい」

「今回、帰るために必要なダンジョンなんだよね」

「うん」

「じゃあ、ひどいけど行く。行くけど、苦情は別」

「......受け付けます」

「ベル、書式」

「すでに三枚目まで用意しております」

「仕事が早い!」


 笑いが少しだけ起きた。怖い話をしているのに、笑える。それも拠点がリセットされないおかげだと、コヨリは思った。



【攻略メモ更新】

【停止系対策:停止前に仕込む】

【未識別対策:仮名だけで信じない】



コヨリは確認札を一枚、自分の袖口に貼った。見た目は少しかっこ悪い。でも、深層で忘れるよりずっといい。


「袖に貼るの?」

「うん。手が勝手に宝箱へ伸びるから、手に読ませる」

「かなり実用的です」

「わたしの手、信用されてない」


 ベルは真顔でうなずいた。


「勇者様。信用できない手には、書類を持たせるのが一番です」

「大人の管理術!」


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード

現在階層:10F突破後の拠点会議

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1056回

攻略方針:見られない/隣接しない/未識別を信じない

時間停止対策:準備中

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

更新:【未識別杖確認 Lv.1】→【未識別杖確認 Lv.2】

新規獲得:【停止前仕込み予備 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

九十九階と五秒停止予定を聞いて神様に抗議した。


ログル

杖の仕様と時間停止ルールを整理した。


ベル

アドミニスの説明不足を会議で詰めた。


ネム

死亡受付票の項目を専門化している。


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