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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第27章 帰還時間シード――ただいまは一秒待って

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停止剣士――一秒で足りる

十階で出たのは、一秒だけ止めてくる剣士。

杖は振れば基本必中。でも未識別を信じると、必中で地獄を呼ぶ。

封印ではなく招待でした。

 十階に降りた時、廊下は急に静かになった。


 壁も床も、白い石でできている。時計はない。チャイムもない。だから安全、とは思わない。コヨリはもう、時計がない時間フロアほど怪しいと学び始めていた。


 通路の奥に、剣を持った人影が立っている。鎧は軽く、兜の額に小さな砂時計がついていた。


【警告】

停止剣士(ストップソード)

【停止時間:一秒】


「一秒停止?」

「勇者様側の一秒を停止し、その一秒の間に発動者だけが行動します」

「一秒なら......」

「油断しないでください」

「分かってる。分かってるけど、一秒って、くしゃみしたら終わる長さだよ?」


 コヨリは一歩近づいた。停止剣士(ストップソード)も一歩近づく。まだ距離は二マス。剣士の砂時計が、かちりと止まった。


 音が消える。


 ログルの宝石の光も止まる。コヨリの瞬きも途中で止まる。動けない。声も出ない。ただ、停止剣士だけが滑るように近づいた。


 一秒。


 剣が、肩から斜めに入った。


【死亡ログ】

【死亡回数:1054回目】

【死因:一秒止められて一方的に斬られた】

【評価:一秒あれば幼女勇者は死にます】


 拠点で起きたコヨリは、両腕を振り回した。


「一秒!? 一秒で死ぬの!? わたしの耐久、砂糖菓子!?」

「初期HP15では厳しいです」

「でも、くしゃみ一回分だよ!?」

「剣士にとっては攻撃一回分です」

「一秒の価値観が暴力寄り!」


 再挑戦では、コヨリは近づかない。拾った石を投げる。外れた。投げた物は外れる。床を転がった石の音に、停止剣士がこちらを向く。


「投げたら外れるの!?」

「投擲です。必中ではありません」

「杖は?」

「振れば、射線が通っている限り基本必中です」

「杖すごい! 杖を信じる!」


 コヨリは未識別の杖を構えた。木札には、自分でつけた仮名がある。


【たぶん封印】


「ログル、これ封印杖かな」

「未識別です。危険です」

「でも今振らないと、一秒で斬られる!」


 コヨリは振った。効果は必中だった。


 停止剣士が、目の前に引き寄せられた。


「来た!」

「引き寄せの杖です」

「来なくていいいいいいいいいい!」


 停止剣士の砂時計が止まる。隣接状態。一秒。剣が振られる。


【死亡ログ】

【死亡回数:1055回目】

【死因:封印杖だと思って未識別の引き寄せの杖を振り、停止剣士を目の前に呼んだ】

【評価:止めるつもりで呼びました】


 三度目。コヨリは杖に仮名をつけ直した。


【これは引き寄せ。絶対振るな】


「ログル、学習した」

「はい。非常に重要です」

「杖の効果は当たる。だから中身を間違えると、必中で地獄」

「正確です」


 次に拾った杖は、今度こそ封印だった。コヨリは通路の角から射線だけを通し、停止剣士がこちらを見る前に振った。


【封印成功】

停止剣士(ストップソード):停止時間使用不可】


「止まらない敵になった!」

「普通に剣を持っています」

「普通の暴力は、まだ人間のルール!」


 停止剣士は接近してきたが、コヨリは角を回り、石ではなく魔法の小矢で削った。相手に視界を取らせない。近づかれたら一歩引く。攻撃ではなく、見られない位置取りが命になる。


 剣士が倒れ、砂時計の兜が床に転がる。


 停止剣士を倒したあと、コヨリは床に座り込みたくなった。座るのも一手だから、我慢した。かわりに壁へ背中をつけ、呼吸だけ整える。


「ログル。時間停止って、止められてる間に痛いって思える?」

「停止中は思考もかなり鈍ります。痛みを自覚するのは解除後、または死亡処理後です」

「つまり、気づいたら斬られてる」

「はい」

「ひどい。ひどいけど、ちょっとだけ救いがあるのもひどい」


 コヨリは、拾った未識別杖に自分で名前を書く時、今までより丁寧に書いた。


【引き寄せ。危険。封印じゃない】


 それでも不安で、もう一度大きく書き足す。


【振るな】


「これなら間違えない」

「混乱状態では読めない可能性があります」

「さらに油性ペンで心に書く!」


 通路の奥に、もう一本の杖が落ちていた。拾いたい。だが、拾うためには停止剣士の落とした砂時計兜の横を通る必要がある。コヨリは、拾う前に一度距離を測った。


「二マス空ける」

「はい」

「射線を見る」

「はい」

「名前を書く」

「はい」

「杖、もはや宿題より慎重」

そのあと、コヨリは停止剣士のいた通路を振り返った。たった一秒。けれど、そこには確かに、考える時間を奪われる怖さがあった。


「ログル、わたし、いつも相談しながら進んでたんだね」

「はい」

「相談できないだけで、すごく怖い」

「停止系の敵は、勇者様の判断時間を奪います」

「神様、わたしの命だけじゃなくて相談時間まで課金制にしてきた」


 コヨリは、次の階へ進む前に小さく決めた。止められてから考えない。止められる前に考える。敵の名前が見えたら、距離、射線、杖、逃げ道を先に見る。


「一秒止める敵でこれなら、三秒とか五秒とか、想像したくない」

「いずれ出ます」

「想像したくないって言ったのに、未来を確定させないで!」


【新規獲得:一秒停止警戒いちびょうていしけいかい Lv.1】

停止剣士の落とした砂時計兜は、拾おうとするとさらさらと砂をこぼした。使えそうに見える。装備できそうにも見える。だからコヨリは、まず一歩下がった。


「ログル、拾ったら?」

「一秒停止を一度だけ防げる可能性があります」

「可能性」

「ただし、呪われている場合、勇者様の思考猶予が一秒削られます」

「防具なのに考える時間を盗むな!」


 コヨリは兜を拾わず、杖の先で軽くつついた。砂が逆流する。拾わなくてよかった、と全身で思った。便利そうなものほど、手に取った瞬間に所有者を選び始める。


「拾う一手で死ぬやつ、何回見ても腹立つ」

「拾う前に見たので、今回は死因になりません」

「えらい!」

「かなりえらいです」


 褒められると、コヨリは少しだけ胸を張った。八歳ぐらいの体で、砂時計兜を拾わなかっただけで胸を張る勇者。絵面は地味だが、本人にとっては大勝利だった。


 通路の先では、停止剣士の残響みたいな影がまだ揺れていた。一秒。たった一秒。けれど、その一秒があれば、剣は届く。声は出ない。ログルも止まる。


「ログル、停止中、わたしの心の中は動く?」

「感覚は残る可能性があります。ただし、判断を行動に移せません」

「分かってても動けないの、いちばん嫌」

「はい」


 コヨリは、さっき死んだ場所に小石を置いた。目印だ。そこに立つと、次も死ぬ。通路の曲がり角から二マス。剣士の射程。見た目にはただの石ころでも、コヨリには墓標に近い。


「ここ、だめ」

「はい」

「この一マス、もう嫌い」

「地図に赤で記録します」


 赤い×が増える。嫌な地図だ。でも、その×印があるから次に避けられる。コヨリは、赤い印をにらみながら階段へ向かった。


「停止系、今後もっと出るんだよね」

「はい」

「じゃあ、今のうちに決める。名前が停止っぽかったら、近づかない。かわいくても近づかない。宝箱の横にいても近づかない」

「最後が重要です」

「宝箱、ほんと敵!」



【新規獲得:未識別杖確認みしきべつづえかくにん Lv.1】

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還時間シード

現在階層:10F突破

クラス:帰還者見習い

総死亡回数:1056回

時間停止系エネミー:初確認

帰宅線:維持

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡対象上書き Lv.1】

【千回死亡条件破壊 Lv.1】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【神様案内警戒 Lv.2】

【帰還座標仮視認 Lv.2】

【記憶擬態識別 Lv.1】

【現実擬態フロア警戒 Lv.1】

【帰宅線形成 Lv.2】

【時間不一致警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【一秒停止警戒 Lv.1】

新規獲得:【未識別杖確認 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

停止剣士に一秒止められて死んだ。未識別の引き寄せ杖でも死んだ。


ログル

杖は振れば基本必中だが、未識別誤認が危険だと説明した。


停止剣士

一秒停止を使う序盤の理不尽敵。封印されると普通の剣士になる。


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