王都グランベル、歓迎だけで五回死ぬ
王都に到着しました。
歓迎されました。
歓迎で死にます。
拠点の白い部屋で、わたしは火属性石から三歩離れていた。
「勇者様。そこまで離れなくても、属性石は爆発しません」
「火は信用しない。前にころころ転がってきたから」
「今回のシード候補は王都です」
「王都!」
わたしはぴょんと跳ねた。
王都。お城。噴水。きれいな石畳。たぶんパン屋さんもある。食べ物が叫ばない。魔法が床を燃やさない。そんな文明の匂いがする。
「ただし、罠反応が非常に多いです」
「都会ってそういう意味じゃない!」
白い床が光る。
ログルが肩に乗る。
【開始状態】
シード027
Lv1
HP15/15
満腹度100/100
死亡回数26回
「よし。床を見る。壁も見る。火は撃つ前に考える」
「良い姿勢です」
「そして王都でおいしいものを食べる!」
「目的が混ざっています」
「帰るために生きる。生きるために食べる。完璧!」
転送の光が弾けた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
次に足がついた場所は、白い石壁の前だった。
高い門。青い旗。門の上には金色の紋章。通りの奥には噴水が見える。
「まとも! ログル、まともな街!」
「罠反応があります」
「まだ見てないのに現実を刺さないで!」
門の前には、大きな赤いマットが敷かれていた。
【WELCOME HERO】
「見て! 歓迎されてる!」
「勇者様。マットが不自然に厚いです」
「でも歓迎って書いてあるよ?」
「文字は安全の保証ではありません」
「疑いすぎだよ。王都だよ? 文明だよ?」
わたしは一歩踏み出した。
マットが沈んだ。
門の上から花吹雪が舞った。
「ほら歓迎......」
床が抜けた。
「歓迎の下に落とし穴あああああああああ!」
落ちた先には、やわらかいクッションがあった。
助かった、と思った。
クッションが目を開けた。
「クッションが呼吸してるううううううう!」
クッション型スライムに跳ね返され、天井にぶつかり、また落ちて、また跳ねた。
三往復目で、視界が白くなった。
【死亡ログ】
死亡回数:27回目
死因:【王都の歓迎マットを踏んで、クッション型スライムに三回跳ね返された】
評価:【歓迎と安全は別です】
新規獲得:【歓迎マット警戒 Lv.1】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
二回目。
「マットは踏まない」
「はい」
「横を通る」
「右の石畳に矢印床反応」
「じゃあ左」
「左に落とし穴反応」
「どこ歩くの!?」
わたしは門の壁ぎわをそろそろ進んだ。
壁から棒が出た。
「壁も!?」
棒に押され、わたしはきれいに赤マットへ戻された。
「王都の壁、接客が強引!」
【死亡ログ】
死亡回数:28回目
死因:【マットを避けたら、壁の押し戻し棒でマットへ返送された】
評価:【壁も見ましょう】
新規獲得:【壁ぎわ警戒 Lv.1】
三回目。
わたしは壁から離れた。マットも避けた。石畳のすき間だけを歩く。
「いける!」
「勇者様。旗の影」
「影?」
旗の影に入った瞬間、上から網が落ちた。
わたしは網に包まれたまま、門番人形の前へ転がされた。
「身分証を提示してください」
「幼女勇者に身分証を求めるな!」
「提示なし。強制退去」
人形の腕がばねみたいに伸びた。
「退去方法が物理いいいいいいいい!」
【死亡ログ】
死亡回数:29回目
死因:【旗の影の対侵入網に捕まり、門番人形に強制退去された】
評価:【影も床の一部です】
新規獲得:【影確認 Lv.1】
四回目。
「もう地面を信用しない。跳ぶ」
「勇者様、危険です」
「床が殺すなら空中を使う!」
わたしはマットの手前から全力で跳んだ。
門の上から、対空網が開いた。
「空も王都の管轄なの!?」
【死亡ログ】
死亡回数:30回目
死因:【床を避けて跳んだら、対空網に捕まった】
評価:【上も見ましょう】
新規獲得:【上方確認 Lv.1】
五回目。
わたしは地面も壁も影も空も見た。
そして、門の前に立った。
「ログル。答えは?」
「門番人形の足元に、一マスだけ安全地帯があります」
「門番の足元!?」
「行動後、すぐ右へ移動してください」
「王都入場、難しすぎる!」
一歩。門番の足元。
一歩。右。
一歩。壁の切れ目。
成功した、と思った瞬間、門の内側から水が流れてきた。
足が滑る。
転ぶ。
転んだ先に、赤マットの裏面。
「裏にも歓迎って書いてあるううううううう!」
【死亡ログ】
死亡回数:31回目
死因:【門内の水流で滑って、歓迎マット裏面へ戻された】
評価:【罠は表裏で二度おいしい】
レベルアップ:【足元確認 Lv.2】→【足元確認 Lv.3】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
六回目。
わたしは何も言わずに、門の横の排水溝を見た。
水の流れ。旗の影。壁棒の穴。マットの厚み。門番人形の足元。
「ログル」
「はい」
「王都、嫌い」
「まだ入っていません」
「そこが一番嫌い!」
安全地帯を踏む。水流が来る前に一歩。旗の影を避けて一歩。壁棒の穴の手前で待つ。壁棒が出た後に進む。
ようやく門の内側へ入った。
門を抜けた先には、小さな受付小屋があった。
白い石造りの壁に、青い屋根。窓口の上には【王都グランベル冒険者ギルド・臨時受付】と書かれた板がかかっている。板の文字はまともだった。まともすぎて、逆に怖い。
「ログル。あれ、爆発する?」
「今のところ爆発反応はありません」
「今のところ、ってつけないで」
窓口の向こうには、若い受付嬢が座っていた。
栗色の髪を肩のところで切りそろえ、耳の横だけ小さく編み込んでいる。青灰色の目はやさしそうなのに、机の上の書類をさばく手つきはものすごく速い。右目の下に、小さな泣きぼくろがあった。
きれいなお姉さんだ。
でも、王都の人なので油断してはいけない。
さっきの歓迎マットも、見た目はきれいだった。
「ようこそ、王都グランベルへ。勇者様ですね」
受付嬢は、にこりと笑った。
名札には【アリア】と書いてある。
「わたしのこと、知ってるの?」
「王都には勇者様到着の通達が来ています。年齢、装備、身長、死亡しやすさまで」
「最後の情報いらなくない!?」
アリアさんは、さらさらと受付票に何かを書き込んだ。
「こちらが仮入都証です。王都内では、赤い敷物、青い矢印、黄色い旗、黒い線、妙に親切な看板には近づかないでください」
「多い! 王都、危険物の色見本なの!?」
「あと、無料配布と書かれたものは有料です」
「詐欺!」
「歓迎と書かれたものは、だいたい試験です」
「知ってる! 五回死んだから!」
わたしが叫ぶと、アリアさんは少しだけ目を丸くした。
それから、困ったように笑った。
「五回で入れたなら、優秀ですよ」
「王都の基準がおかしい!」
アリアさんは受付票に判子を押した。
ぽん、と乾いた音がする。
【仮入都証を入手しました】
「この先の大通りは、初見だと少し危ないです。案内役をつけた方がいいですね」
「案内役?」
アリアさんが窓口の外へ視線を向けた。
「ほら、あそこ。壁の上にいる子です」
わたしもつられて見上げた。
路地の上から、少年の声がした。
「お嬢ちゃん、王都じゃ床を信用しちゃダメだぜ」
茶色い髪の少年が、壁の上で片足立ちしていた。短いマント。腰に細い道具袋。いかにも身軽そうだ。
「あなた誰?」
「盗賊スリップ。罠だらけの王都を案内してやるよ」
スリップは格好よく壁を蹴った。
その瞬間、上からバケツが落ちた。
ばしゃん。
「......今のは分かってた。水の温度を確認しただけだ」
「この人、本当に案内役!?」
【今回の死亡ログ】
死亡回数:27回目〜31回目
主な死因:【歓迎マット落とし穴】【壁の押し戻し棒】【旗の影の網】【対空網】【水流でマット裏面へ返送】
評価:【王都では床・壁・影・上・水流を全部疑いましょう】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード027
最終到達レベル:Lv1
現在HP:15/15
死亡回数:31回
クラス:勇者
クラス適性:罠師適性 兆候
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【恐怖耐性 Lv.1】
【危険察知 Lv.2】
【足元確認 Lv.3】
【罠感知 Lv.1】
【未識別警戒 Lv.3】
【魔法安全確認 Lv.1】
【属性識別 Lv.1】
【スープ回復 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【歓迎マット警戒 Lv.1】
新規獲得:【壁ぎわ警戒 Lv.1】
新規獲得:【影確認 Lv.1】
新規獲得:【上方確認 Lv.1】
レベルアップ:【足元確認 Lv.2】→【足元確認 Lv.3】
【登場人物紹介】
アリア:王都グランベル冒険者ギルドの臨時受付嬢。栗色の髪と右目下の泣きぼくろが特徴。親切だが、王都基準なので説明がだいたい怖い。
スリップ:王都グランベルの盗賊少年。床を信用するなと言いながら、初手でバケツを食らう。
コヨリ:王都の入口だけで五回死んだ幼女勇者。
ログル:王都の歓迎文化にだいぶ疑問を持っている解析神獣。
少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




