反射床の詠唱ゴーレムと、名前を呼ぶ魔法
第4章ラストです。
死に覚えた魔法事故を全部使います。
火球は、直接撃つとだいたい返ってきます。
属性迷宮の最奥には、大きな扉があった。
扉の表面には、火、水、氷、雷、土の記号が輪になって刻まれている。その中心には、名前の分からない文字が一つだけ光っていた。
「ログル。ボス部屋だよね」
「はい。反射、詠唱、属性床の反応が強いです」
「嫌な単語の詰め合わせ!」
ルーメは本を抱えて胸を張った。
「最強魔法を思い出しました」
「効果は?」
「不明です」
「禁止!」
「まだ何もしていません」
「しそうだから禁止!」
扉を開ける。
一ターン進む。
部屋の中央には、石でできたゴーレムが立っていた。胸には反射する鏡のような板があり、足元には赤と青と白の床が輪になっている。
【警告】
個体名候補:《反射床の詠唱ゴーレム》
特性:魔法反射/属性床変化/無名化波
「無名化波って何!?」
「魔法名や識別名を曖昧にする波のようです」
「名前を間違えると牛が出る階層で、それやる!?」
ゴーレムがゆっくり腕を上げた。
一ターンごとに近づくタイプだ。
正面から火球を撃てば、胸の鏡で跳ね返る。
雷を撃てば、部屋全体で自分も巻き込む。
氷を置けば、自分も滑る。
全部、もう死んだやつだ。
「ログル。直接撃たない」
「はい」
「部屋全体に撃たない」
「はい」
「氷は自分の足元に置かない」
「はい」
「未識別は即使わない」
「はい」
「魔法名は牛じゃないか確認」
「はい」
ルーメが小声で言った。
「牛ではありません」
「そこ大事!」
ゴーレムが一歩。床が赤から青へ変わる。
「まず進路だけ止める。霜ふり床!」
わたしは自分の足元ではなく、ゴーレムの前二マスに氷を置いた。
ゴーレムの足が滑り、向きが少しずれる。
「反射板の正面が外れました」
「今!」
でも、火球を直接撃たない。
右壁の水晶を見る。水晶の下には水床。
「部屋鳴り雷、壁の水晶へ。わたしは部屋の外寄り!」
「経路、確認済みです」
「部屋鳴り雷!」
雷が水晶へ走る。部屋全体ではなく、水床の線だけを通る。水晶が光り、床の属性が白から茶へ変わった。
「土床!」
「反射しにくい床です」
ゴーレムが腕を振る。無名化波が広がり、わたしの頭の中で魔法名がぼやけた。
ころころ火球。ころころ何だっけ。火牛。火玉。火......。
「勇者様、名前を」
「分かってる!」
わたしは拠点で書いたメモを思い出す。
【ころころ火球】
火の球。床を転がる。牛ではない。
「ころころ火球! 球! 牛じゃない!」
火球が生まれた。
石床を転がる。土床で少し跳ね、反射板の正面ではなく、ゴーレムの足元の属性線へ入る。
爆発。
ゴーレムの片足が崩れた。
「やった!」
「まだです」
ゴーレムが倒れながら、最後の詠唱を始める。
部屋全体の床が光る。火、水、氷、雷がぐちゃぐちゃに混ざっていく。
「ルーメさん!」
「はい。詠唱妨害ですね」
「効果分かる魔法で!」
「分かる魔法......分かる魔法......」
ルーメは本をめくり、真剣な顔で叫んだ。
「小炎球! 牛ではありません!」
小さな火の球が、ゴーレムの詠唱文字を焼いた。
無名化波が止まる。
わたしはパン切りナイフを抜き、胸の反射板に走り寄った。
「魔法って、火を出すことじゃない」
反射板の横に、名前のない小さな核が見えた。
「世界に、ちゃんと名前を呼ばせることなんだ」
わたしは叫ぶ。
「詠唱核!」
名前を呼ばれた核が、ぴくっと光る。ログルが宝石を光らせた。
「今です」
パン切りナイフで、核を外殻から切り離す。
ゴーレムは、静かに崩れた。
【攻略成功】
《反射床の詠唱ゴーレム》無力化
クラス判定:魔法使い 確定
「勝った......」
「はい」
「でも火球で自爆するのは納得いかない!」
「そこは記録済みです」
ルーメが胸を張った。
「私、役に立ちましたね」
「うん。牛じゃなかったの、えらい!」
「褒め方が独特です」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
白い拠点に戻ると、厨房の隣に新しい机ができていた。
火、水、氷、雷、土の小さな石が並ぶ、検証用の卓だ。
【拠点施設解放:属性検証卓】
【クラス解放:魔法使い】
【拠点登録:こども杖】
【拠点登録:ルーメの詠唱メモ】
【帰還因子候補:名前 初期反応】
わたしは火の石から、一歩下がった。
「勇者様。火属性を信用していませんね」
「火球で何回死んだと思ってるの」
「一回です」
「体感では五回!」
ログルは小さく笑った気がした。
属性検証卓の中央に、文字が浮かぶ。
【名前は、世界への呼びかけ】
【帰る場所にも、名前が必要】
わたしはその文字を見つめた。
「天野こより」
「はい」
「勇者コヨリ」
「はい」
「帰る場所の名前も、ちゃんと思い出す」
「一緒に記録します」
ルーメの詠唱メモは、拠点の棚に残った。
本人はこのシードの人だから、次も会えるかは分からない。
でも、牛ではない、と書かれたメモだけは残る。
「思い出ログ、雑じゃない?」
「大事な記録です」
「大事かなあ!」
わたしは杖を握り、属性検証卓を見た。
次は罠だらけの王都らしい。
「魔法で自爆した次に罠? 神様、殺意のローテーション組んでる!?」
「今回は、踏む前に見つけましょう」
「それ前からずっと言ってるううううううううう!」
第4シード、クリア。
勇者コヨリは、魔法使いになった。
【今回のクリアログ】
現在シード:シード019
クリア時レベル:Lv2
クリア時HP:11/19
クリア時満腹度:42/100
死亡回数:26回
クリア対象:《反射床の詠唱ゴーレム》
持ち帰り成功:【こども杖】【ルーメの詠唱メモ】【属性迷宮の魔法名リスト】
拠点登録:【こども杖】【ルーメの詠唱メモ】
解放施設:【属性検証卓】
帰還因子候補:【名前】初期反応
【今回の勇者ステータス】
クラス:魔法使い
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【危険察知 Lv.2】
【足元確認 Lv.2】
【未識別警戒 Lv.3】
【食材識別 Lv.2】
【満腹度節約 Lv.1】
【スープ回復 Lv.1】
【魔法安全確認 Lv.1】
【属性識別 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
クラス解放:【魔法使い】
新規獲得:【ころころ火球 Lv.1】
新規獲得:【部屋鳴り雷 Lv.1】
新規獲得:【霜ふり床 Lv.1】
統合:【詠唱前確認 Lv.1】+【魔法誤爆警戒 Lv.1】+【範囲魔法警戒 Lv.1】→【魔法安全確認 Lv.1】
統合:【属性仮名づけ Lv.1】+【属性床警戒 Lv.1】+【魔法名確認 Lv.1】→【属性識別 Lv.1】
拠点施設:【属性検証卓】
帰還伏線:【帰還因子:名前】初期反応
【登場人物紹介】
コヨリ:第4章で魔法使いクラスを解放。火球、雷、氷床、巻物、炎の牛でしっかり死んだ。
ログル:魔法を撃つ前に床と名前を確認してほしい解析神獣。
ルーメ:記憶力ゼロの賢者。詠唱は完璧。効果はだいたい不明。
リュシア:拠点厨房から果実水とスープで反省会を支える酒神。
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