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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第4章 属性迷宮と魔法使いクラス

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魔法名を間違えたら、世界が違う命令を聞きました

魔法名は大事です。

一文字間違えると、火球が牛になります。

つまり、牛です。

 属性迷宮四階は、今までより静かだった。


 赤い光が壁を流れ、床には古い文字が刻まれている。火、水、氷、雷。その属性記号の間に、見慣れない文字が混ざっていた。


「ログル、これ何?」

「魔法名の記録に見えます。ただし、崩れています」

「崩れた魔法名って、読んだらどうなるの?」

「違う効果になる可能性があります」

「誤字で死ぬ世界!」


 ルーメは壁の文字を見て、ぱっと顔を明るくした。


「思い出しました。強い魔法です」

「効果は?」

「火の球を出します」

「お、珍しく具体的」

「たぶん」

「最後の二文字で信頼が消えた!」


 前方には、油床がある。

 その奥に、火に弱そうな草スライム。


 普通なら、火球を撃ちたい場面だ。普通なら。


「ころころ火球は油床で死んだ」

「はい」

「でも、敵は火に弱そう」

「床を避ければ有効です」


 ルーメが詠唱を始める。


「小さき炎よ、丸く集まり、敵を焦がす小炎球(しょうえんきゅう)......」


 そこで、床の文字がぴかっと光った。

 ルーメが首をかしげる。


「あれ。小炎牛(しょうえんぎゅう)でしたっけ?」

「牛!?」


 詠唱が完成した。


 杖の先から、小さな火の牛が生まれた。


 牛だった。

 火の球ではなく、四本足で、角があって、もー、と鳴いた。


「牛ううううううううううううううう!」

「魔法名が変化しました」

「一文字違いで生き物になるの!?」

「世界は命令を文字通りに受け取ったようです」


 火の牛は草スライムへ突進した。

 スライムは燃えた。

 そこまではよかった。


 問題は、牛が止まらなかったことだ。


 火の牛は油床へ突っ込み、床に火をつけ、そのままこちらへ戻ってきた。


「かわいいけど危険!」

「勇者様、退避を」

「牛が! 燃えながら! 帰ってくる!」


 わたしは右へ一歩。牛も一歩。左へ一歩。牛も曲がる。


「追尾するな! 牛なのに賢い!」

「召喚体のようです」

「召喚体なら飼い主の言うこと聞いて!」

「ルーメさん、制御を」

「ええと、牛を止める魔法名を忘れました」

「ルーメさああああん!」


 火の牛が突っ込んでくる。

 わたしは鍋のふたを構えた。


 でも、火の牛は鍋のふたを見て、なぜか嬉しそうに角を向けた。


「待って! 鍋じゃない! 焼肉じゃない!」


 どん、と衝撃。

 炎。

 白。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】


死亡回数:26回目

死因:【魔法名を間違えて炎の牛を呼び、油床で追い回された】

評価:【一文字違いで別物です】

新規獲得:【魔法名確認 Lv.1】


 白い拠点で、わたしは天井を見上げていた。


「ログル」

「はい」

「火球が牛になった」

「はい」

「球と牛、似てる?」

「字面は一文字違いです」

「世界、融通きかなすぎ!」


 リュシアが笑いすぎて、厨房の鍋をかき混ぜる手を止めていた。


「火の牛に追い回されたの?」

「笑わないで!」

「ごめん。でも、ちび勇者ちゃんの死因ログ、店に貼ったら人気出そうね」

「死因ログをメニューにしないで!」


 ログルは、死因図鑑の横に新しいメモを貼った。


【魔法名】

名前が違えば、世界は違うものを返す。

命令には、正確な名前が必要。


 わたしは、その文章をじっと見た。


「名前が違えば、世界は違うものを返す」

「はい」

「じゃあ、帰る場所の名前も、間違えたら違う場所に行くのかな」

「可能性はあります」

「......わたしの名前は?」

「天野こより。勇者コヨリ。記録されています」


 少しだけ、胸がざわっとした。


 わたしは帰りたい。元の世界へ。家へ。

 でも、何を、どこまで、ちゃんと覚えていれば帰れるんだろう。


「大丈夫。わたし、天野こより。忘れてない」

「はい。記録にもあります」

「記録だけじゃなくて、わたしが覚えてるのが大事」

「はい」


 リュシアが、そっとスープを置いた。


「名前って、帰るための目印みたいなものかもね」

「目印......」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 再挑戦で、わたしはルーメに詠唱メモを書いてもらった。


【小炎球】

小さな火の球。

牛ではない。


「牛ではない、まで書く必要ありますか?」

「ある! すごくある!」


 ルーメは真剣にうなずいた。


「では、牛ではありません」

「よし」


 わたしは詠唱前に、魔法名を指差し確認した。


「小炎球。球。丸いやつ。牛じゃない」

「確認できています」


 火の球が生まれる。

 今度は本当に球だった。

 油床を避け、石床を転がり、草スライムだけを焼く。


「やった! 牛じゃない!」

「魔法としては低い喜び方ですが、正しいです」


 奥の壁に、迷宮の管理端末らしき石板が浮かび上がった。

 文字が一瞬だけ読める。


【命令には名前が必要】

【名前が違えば、世界は違うものを返す】

【帰る場所にも、名前が必要】


 わたしは息を止めた。


 その瞬間、背後から小さな火の牛が、もー、と鳴いた。


「まだいたああああああああ! シリアス中に牛が来るなあああああ!」


 わたしは全力で階段へ走った。



【今回の死亡ログ】


死亡時レベル:Lv1

死亡時HP:0/15

死亡時満腹度:52/100

今回の死因:【魔法名を間違えて炎の牛を呼び、油床で追い回された】

評価:【一文字違いで別物です】

ロスト:【未登録探索成果】

新規獲得:【魔法名確認 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】


現在シード:シード019

次回開始:Lv1/HP15

死亡回数:26回

クラス:勇者

クラス適性:魔法使い適性 強化

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】


【危険察知 Lv.2】

【足元確認 Lv.2】

【未識別警戒 Lv.3】

【詠唱前確認 Lv.1】

【魔法誤爆警戒 Lv.1】

【範囲魔法警戒 Lv.1】

【属性床警戒 Lv.1】

【属性仮名づけ Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:【魔法名確認 Lv.1】

帰還伏線:【名前】因子 初期反応前兆

管理端末ログ:【帰る場所にも、名前が必要】


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