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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第4章 属性迷宮と魔法使いクラス

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未識別の巻物を読んだら、部屋が広くなりすぎました

未識別の巻物です。

読むだけなら安全?

そんなわけありません。

 迷宮三階の入口に、巻物が落ちていた。


 白い紙。赤い紐。魔法っぽい文字。

 見た目はかっこいい。

 でも、わたしはもう知っている。


 見た目が安全そうなものほど、だいたい死ぬ。


「ログル」

「はい」

「巻物」

「未識別です」

「読んだら?」

「効果不明です」

「捨てたら?」

「有用な可能性もあります」

「ローグライクの未識別アイテム、性格が悪い!」


 ルーメが巻物をのぞき込む。


「これは、すごい巻物です」

「効果分かる?」

「すごいことが起きます」

「だから、何が起きるの!」


 三階は、魔法を使うたびに満腹度が多めに減った。

 ころころ火球一回で、満腹度が五も減る。

 部屋鳴り雷は十。


「ログル。このまま魔法だけで進むとお腹が終わる」

「はい。魔力というより、満腹度消費魔法です」

「魔法使いなのに腹ペコ管理!」

「料理人シードの経験が活きています」

「活き方がつらい!」


 だから、巻物を使えば節約できるかもしれない。


 わたしは巻物を持った。


「勇者様。料理人シードで、未識別を口に入れて死にました」

「これは読むだけ」

「前は、魔法を撃って死にました」

「これは撃たない」

「その理屈で死ぬ可能性があります」

「でも、使わないと進めない時もあるじゃん」


 わたしは少し考え、巻物の端に仮名を書いた。


【未識別の巻物A:たぶん便利】


「勇者様。仮名が雑です」

「雑でも名前をつけた!」

「管理としては、一歩前進です」

「褒め方が渋い!」


 前方には、小さな部屋。敵は二匹。床は乾いている。

 ここなら、たぶん安全。


「読むよ」

「読み終わるまで一ターンです」

「分かった」


 巻物を開く。

 文字が光る。


「えっと......壁よ、遠慮して?」


 迷宮が、ごごご、と鳴った。


 壁が消えた。


「え」


 部屋が広がる。隣の部屋も、その隣の部屋も、壁が全部消えていく。

 小部屋だった場所が、一瞬で大広間になった。


 そして、見えなかった敵が全部こちらを向いた。


「部屋が! でかい!」

「大部屋化です」

「敵も! 全部見える!」

「はい」

「つまり全部こっちを見る!」

「はい」

「神様ァ! 見通しがいいってそういう意味じゃなあああああい!」


 ルーメが本を開いた。


「大丈夫です。部屋鳴り雷で一掃できます」

「待って。部屋がでかい」

「はい」

「わたしも部屋にいる」

「はい」

「水床もある」

「はい」

「なのに撃つの!?」

「詠唱は完璧です」

「撃つなああああああああ!」


 でも、敵が近い。

 大部屋になったせいで、射線も通っている。

 奥から雷を帯びたスライムがぷるぷる来る。


 わたしは焦った。

 焦って、ルーメを止めるより先に、自分で部屋鳴り雷を選んでしまった。


「ちょっとだけ! 弱めに!」

「勇者様、雷にちょっとだけは」


部屋鳴り雷(へやなりいかずち)!」


 大部屋に雷が広がった。

 水床を伝い、壁のなくなった迷宮を走り、敵を倒し、わたしの足元まで戻ってくる。


「帰ってきたああああああああ!」

「雷は経路を通ります」

「魔法に里帰りさせないでえええええ!」


 びり、と全身がしびれる。

 そのまま、遠くの弓スライムみたいな何かが水の矢を飛ばした。


 回避できない。


 視界が白く弾けた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】


死亡回数:25回目

死因:【未識別の巻物で大部屋化し、雷の巻き添え範囲が広がった】

評価:【読む前に深呼吸しましょう】

新規獲得:【読む前に深呼吸 Lv.1】

上昇兆候:【未識別警戒 Lv.4候補】


 白い拠点で、わたしは巻物の幻を見ながら震えていた。


「ログル」

「はい」

「読むだけでも死ぬ」

「はい」

「未識別って、食べても読んでもだめじゃん」

「使う前に、状況を選ぶ必要があります」


 リュシアがスープを差し出した。


「ちび勇者ちゃん、今度は何をやったの?」

「部屋をでっかくした」

「景気がいいわね」

「敵の視線も景気よく集まった」

「それは悪い景気ね」


 ログルは死因図鑑に新しい欄を追加した。


【大部屋の巻物】

壁を消し、周囲を一部屋として扱う。

強力だが、敵も罠も部屋範囲魔法も全部つながる。


「勇者様。仮名づけは有効でしたが、情報量が足りませんでした」

「【たぶん便利】じゃ足りない?」

「かなり足りません」

「じゃあ次は【壁が嫌いそう】にする」

「雑ですが、前回よりは具体的です」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 再挑戦。


 同じ巻物を拾ったわたしは、すぐには読まなかった。


 床を見る。敵を見る。壁を見る。逃げ道を見る。満腹度を見る。

 そして、巻物に仮名をつける。


【未識別の巻物A:壁が嫌いそう】


「読む場所は?」

「狭い袋小路ではなく、階段近く」

「読んだ後は?」

「すぐ階段へ逃げる」

「良いです」


 巻物を読む。

 壁が消える。

 敵がこちらを見る。

 でも、今回は階段が二マス先にある。


「逃げる!」


 一歩。敵も一歩。もう一歩。階段。


 わたしは三階の構造を覚えたまま、次の階へ降りた。


 ログルが宝石を光らせる。


【新規獲得:属性仮名づけ Lv.1】

【新規獲得:魔力節約 Lv.1】


「名前をつけると、ちょっと扱いやすくなるね」

「はい。魔法も、巻物も、名前で管理できます」

「世界も?」

「......可能性はあります」


 その返事だけ、ログルの声が少し静かだった。


「帰る場所にも、名前がいるのかな」

「まだ分かりません」

「そっか」


 次の階から、赤い光が差していた。

【今回の死亡ログ】


死亡時レベル:Lv1

死亡時HP:0/15

死亡時満腹度:48/100

今回の死因:【未識別の巻物で大部屋化し、雷の巻き添え範囲が広がった】

評価:【読む前に深呼吸しましょう】

ロスト:【未登録探索成果】

新規獲得:【読む前に深呼吸 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】


現在シード:シード019

次回開始:Lv1/HP15

死亡回数:25回

クラス:勇者

クラス適性:魔法使い適性 発現

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】


【危険察知 Lv.2】

【足元確認 Lv.2】

【未識別警戒 Lv.3】

【食材識別 Lv.2】

【詠唱前確認 Lv.1】

【魔法誤爆警戒 Lv.1】

【範囲魔法警戒 Lv.1】

【属性床警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:【読む前に深呼吸 Lv.1】

新規獲得:【属性仮名づけ Lv.1】

新規獲得:【魔力節約 Lv.1】

上昇兆候:【未識別警戒 Lv.4候補】


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