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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第26章 帰還座標シード――ただいまの声は罠

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自室フロア――ゲーム画面がつづきからを押させる

自室に似た部屋が出てきました。

ゲーム画面には、つづきから。

押したくなるボタンほど、帰還先を確認しましょう。

 自室に似た部屋は、静かすぎた。


 机の位置、椅子の高さ、カーテンの色。どれもコヨリの記憶に近い。けれど、窓の外には星ではなく、薄いマス目が縦に流れている。部屋の真ん中に置かれたゲーム機だけが、妙にはっきり光っていた。


 画面には、大きな文字が出ている。


【つづきから】


「ログル」

「はい」

「押したい」

「押さないでください」

「まだ何も言ってない」

「目が押していました」

「さっきも聞いた!」


 ゲーム画面の下には、セーブデータが表示されている。


【天野こより】

【最終プレイ:帰宅前】

【現在地:不思議な家】


「不思議な家って何」

「このフロア名か、罠名か、挑発です」

「挑発なら効いてる!」


 アドミニスの窓が、モニターの横に開いた。


「勇者ちゃん、ゲーム記憶も座標候補に入るんだ。君にとって、帰る前に触れていた世界だから」

「神様」

「うん」

「ゲームと現実の帰宅を混ぜるなあああああああああああああ!」


 ログルが画面を鑑定する。


【操作対象:つづきから】

【効果候補:記憶再生/座標補助/ゲーム内座標転送/帰還失敗】


「ゲーム内座標転送って出てる!」

「はい」

「絶対押しちゃダメじゃん!」

「はい」


 画面の文字が変わった。


【つづきから】

【あと一手で帰れます】


「あと一手って書いてある」

「書いてあります」

「あと一手で帰れるって、ローグライクで一番信用しちゃダメな言葉だよね」

「はい。階段前の宝箱と同じ種類です」

「分かってる。分かってるけど、押したい!」


 コヨリは、自分の右手を左手でつかんだ。指が震える。ゲーム画面は、ずっと待っていたみたいに光っている。


「押さない」

「はい」

「押さないけど、消す」

「どうやって」

「電源ボタン」


 コヨリはゲーム機の横をのぞき込んだ。電源ボタンの下、コードの根元に、小さな口がある。やっぱり罠だ。


「口あった」

「はい」

「じゃあ、小石」


 コヨリは小石を投げた。小石が電源ボタンに当たり、画面が暗くなる。


 やった。


 そう思った瞬間、暗い画面に白い文字が浮かんだ。


【リセットしますか?】


「しない!」


 叫んだ声が行動判定になった。ゲーム画面がコヨリを吸い込む。リセットという言葉に、座標シードが過剰反応したのだ。


「リセットって言葉に釣られるなあああああああああああ!」


【死亡ログ】

【総死亡回数:1044 → 1046】

【死因:つづきからを押さなかったが、リセット確認に叫んで吸い込まれた】

【評価:操作前確認はできました。音声確認で死にました】

【拠点側保存:本人死亡ログ/座標因子反動ログ】


【新規獲得:操作前確認 Lv.1】


 自室フロアの前で、コヨリは深呼吸を三回した。


「自室はやばい」

「はい。勇者様の警戒値が上がっています」

「ゲーム機がある気がする」

「あります」

「見た?」

「宝石が反応しています」

「ゲーム機の反応をする宝石、いやだなあ」


 拠点での作戦会議では、アドミニスがうっかり「ゲームって強い記憶なんだね」と言って、コヨリに椅子のクッションを投げられた。


「わたしの大事な趣味を、帰還罠の素材にしないで!」

「いや、きみがローグライクに強い理由でもあるから」

「それはそうだけど、画面に『つづきから』が出たら押したくなるでしょ!」

「押さない練習をしよう」

「神様に言われると腹立つ!」


 ログルは、ゲーム画面への対策として三つの札を作った。


【押さない】

【読む前に深呼吸】

【セーブデータは玄関ではない】


「三つ目、心に来る」

「重要です」


 自室フロアに入ると、そこは本当にコヨリの部屋に似ていた。机の位置、カーテンの色、本棚の高さ。けれど、ぬいぐるみの目が全部こちらを見ている。床には薄いマス目があり、ベッドの下から黒いケーブルが伸びている。


「部屋、似すぎ」

「記憶読取精度が上がっています」

「上がらないで。プライバシーが下がる」


 テレビ画面が、ぱっと光った。


【つづきから】


 コヨリの指が動きそうになる。ゲームを始める時の癖。何百回も押してきたボタン。帰るとか、帰らないとかより先に、体が覚えている。


「勇者様」

「分かってる。押さない。押さないけど、ボタンがわたしを呼んでる」

「呼んでいません。電気信号です」

「夢のない正論!」


 画面に、次の文字が出る。


【前回の冒険を再開しますか?】


 コヨリは唇を尖らせた。


「前回って、どの前回?」

「おそらく、勇者様が異世界へ来る直前の記憶と、こちらの死亡ログが混ざっています」

「混ぜるな危険!」


 ゲーム機の横には、コントローラーが置かれている。そのAボタンだけが、きらきら光っていた。あまりにも押してほしそうだった。


「ログル、罠?」

「罠です」

「罠って分かってても押したい」

「それが罠です」

「罠の説明が完璧!」


 コヨリは、かわりに小石を投げた。小石がAボタンに当たる。画面が一瞬暗くなり、次の瞬間、部屋全体がダンジョンの入口みたいに開いた。


【入力確認:外部投擲】

【対象:勇者コヨリではありません】

【起動失敗】


「小石、また勝った!」

「今回は投げ識別が有効でした」

「ゲーム機に小石を投げるの、元世界だったら絶対怒られる」


 しかし、画面は諦めない。


【セーブしないで終了しますか?】


 コヨリは目を細めた。


「今度は終了を押させる気?」

「どちらの入力でも、行動確定になる可能性があります」

「じゃあ、電源を切る?」

「コードが生きています」


 ベッドの下の黒いケーブルが、蛇のように動く。コヨリは【壁生成の杖】を振り、ゲーム機と自分の間に小さな土壁を作った。画面は見えなくなる。見えなければ、押したくなる力も少し弱まる。


「ゲームは好き」


 コヨリは土壁の向こうへ言った。


「でも、帰る場所はゲーム画面の中じゃない」


 ログルが隣で、静かにうなずいた。


 土壁の向こうで、ゲーム画面はまだ明滅していた。


【ロード中】

【ロード中】

【ロード中】


「ロードが長いゲーム、だいたい不安になる」

「この場合、ロード完了を待つ必要はありません」

「待ってる間に敵が出るやつ?」

「はい」


 ベッドの下から、黒いケーブルがさらに伸びた。コヨリは【トンネルの杖】で壁の反対側に小さな穴を開け、ゲーム機を見ずに部屋の出口へ回り込む。


「画面を見ないで攻略するの、変な感じ」

「見れば押したくなります」

「分かる。そこが一番怖い」


 扉の前で、コヨリは一度だけ振り返った。土壁の隙間から、青い光が漏れている。


「つづきは、帰ってから」


 そう言うと、画面の光が少し弱まった。


 部屋の出口には、攻略本に似た分厚い本が落ちていた。表紙には、帰り方完全攻略、と書かれている。


「読みたい!」

「罠です」

「早い!」

「表紙が親切すぎます」

「それはそう!」


 小石を当てると、本が開き、中から舌のようなしおりが伸びた。


「攻略本ミミック!」

「読者心理を突いています」

「わたしは読者じゃなくて被害者!」


 コヨリは本をまたいで、扉を開けた。完全攻略は、自分の死亡ログで作るしかない。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還座標シード

クラス:帰還者見習い/地図師適性再発現

総死亡回数:1046回

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【神様案内警戒 Lv.2】

【見破った後も逃げる Lv.1】

【ただいま保留 Lv.1】

【帰る意思固定 Lv.1】

【親友擬態識別 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【操作前確認 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

つづきからを押さなかったのに、リセット確認に叫んで死亡。ゲーム慣れが裏目に出た。


ログル

操作対象を鑑定したが、音声反応までは止めきれなかった。


アドミニス

ゲーム記憶も座標候補に入ると説明。苦情は正しく受理した。


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