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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第26章 帰還座標シード――ただいまの声は罠

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友達フロア再戦――本物はログルを見えない

友達の姿が、ログルを見て言いました。

その時点で、偽物です。

見破ったあとも、逃げるまでが攻略です。

 昇降口のフロアに戻った時、コヨリは最初よりずっと慎重だった。


 下駄箱の前で止まり、返事はしない。視線もむやみに合わせない。小石で床を叩き、白い線の呼吸を確認する。ログルは肩に乗り、宝石を薄く光らせている。


「勇者様、正面に友達擬態が三体。右奥にワープ床。左の傘立ては安全寄りです」

「学校の傘立て、また安全マスなんだ」

「傘が優秀です」

「傘に感謝しよ」


 友達に似た子が、笑顔で近づいてきた。


「こよりちゃん」

「返事しない」

「どうして黙ってるの?」

「返事しない」

「その子、置いていこうよ」


 コヨリは、ぴたりと止まった。その子、とはログルのことだ。


 元世界の友達なら、ログルを知らない。見えないかもしれないし、見えたとしても、まず驚くはずだ。なのに目の前の友達擬態は、最初からログルを邪魔なものとして扱った。


 コヨリは、にっと笑った。


「はい偽物!」

「こよりちゃん?」

「わたしの友達、ログル知らないもん! 知らない白い神獣をいきなり『その子』呼ばわりしないもん!」


 友達擬態の顔が割れた。笑顔の下から、黒い目がのぞく。三体が同時に倍速反応へ切り替わった。


「見破った後、逃げてください!」

「分かってる!」


 コヨリは左の傘立てへ走らない。走ると校則罠がある。早歩きで一マス、次に横跳び。傘立ての横に滑り込む。三体の腕が空を切った。


「よし!」

「まだです。見破られた擬態は、最後に本名呼びを使います」


 その瞬間、三体が同時に言った。


「天野こより」


 異世界名ではない。勇者コヨリではない。元世界の名前。名前因子が、胸の奥で震えた。


 コヨリの足が、止まった。


「勇者様!」

「痛っ!」


 ログルが尻尾で頬を叩いた。


「返事保留です」

「ありがとう!」


 止まりかけた足を動かす。だが、名前因子に触れられた反動で、足元のマス目が一瞬ずれた。安全だったはずの傘立ての横に、ワープ床がにじむ。


「床、変わった!」

「右へ」

「右、敵!」

「敵より床です」

「選択肢がぜんぶ嫌!」


 コヨリは右へ一マス動いた。友達擬態の爪が肩をかすめる。HPが少し削れる。生きている。まだ生きている。


 出口まであと二マス。そこで、コヨリは一瞬だけ勝ったと思った。


 慢心。ログルがよく言うやつだ。


 昇降口のドアノブが、口を開けた。


「出口も!?」

「出口擬態です!」


 気づいた時には遅かった。ドアノブが手首を噛み、友達擬態の腕が背中に触れる。


【死亡ログ】

【総死亡回数:1043 → 1044】

【死因:偽物を見破ったあと、出口まで信用した】

【評価:正解後の一手が雑】

【拠点側保存:本人死亡ログ】


【新規獲得:見破った後も逃げる Lv.1】


 友達フロア再戦では、ログルが珍しく作戦名をつけた。


「作戦名、知らない相手にログルの話をされたら疑う、です」

「長い」

「正確です」

「略して、ログル知らない作戦」

「やや雑になりました」


 コヨリは、拠点で小さなリハーサルをした。リュシアが友達役、ネムが無関心な通行人役、ゼルドがなぜかクラスメイト役である。


「こよりちゃん、その白い獣、置いていこうよ」

「はい偽物!」

「余、台詞を言っただけで偽物扱いか」

「魔王さんがクラスメイト役の時点で偽物だよ!」


 ベルが横で採点表を持っていた。


「反応速度は良好です。ただし、偽物を見破ったあとに勝利宣言で硬直する癖があります」

「そこまで見られてるの?」

「勇者様は、正解した直後に少し誇ります」

「誇るくらいいいじゃん!」

「その一手で死にます」

「ぐうの音も出ない!」


 再突入した友達フロアでは、通学路の角に数人の子どもがいた。前よりも自然に見える。笑い声、ランドセルの揺れ方、靴音。コヨリの記憶が、敵の衣装係になっている。


「こよりちゃん、こっち」

「今日は一緒に帰ろう」

「その白い子、なに?」


 コヨリは少しだけ肩に力を入れた。来る。そう思った瞬間、友達擬態の一人が、ログルを指差した。


「その子、置いていこうよ」


 コヨリは即答した。


「はい偽物!」


 言った瞬間、ログルが尻尾を膨らませる。


「勇者様、勝利宣言で一手です」

「しまった!」


 友達擬態たちの顔が、一斉に黒く割れる。正解された敵は、正体を隠すのをやめるらしい。倍速化した一体が、ランドセルを盾みたいに構えて突っ込んできた。


「正解したら褒めてよ! 襲わないでよ!」

「このフロア、採点が厳しいです」

「ベルより厳しい!」


 コヨリは一マス後退しようとして、後ろのマンホールに気づいた。丸い蓋に、にこにこした顔が描いてある。罠だ。絶対罠だ。


「後ろもだめ!」

「右に植え込み。小型敵が潜んでいます」

「左は?」

「安全に見えますが、二マス先がワープ床です」

「この通学路、登校班が泣く!」


 選べる一手は少ない。コヨリは【身代わりぬいぐるみ】を取り出した。小さな勇者ぬいぐるみ。顔が妙にコヨリに似ている。


「ごめん、ぬい!」

「それは消耗品です」

「消耗品に罪悪感を覚える作りにしないで!」


 ぬいぐるみを置くと、友達擬態の突進がそちらへ吸われた。ランドセル盾がぬいぐるみを抱え込み、黒い腕が絡む。コヨリはその隙に左へ一マス、そしてすぐ立ち止まる。二マス目へ行けばワープ床だ。


「見破った後も逃げる。逃げた後も止まる」

「良いです」

「忙しい!」


 ログルの宝石が、細く光った。


【見破った後も逃げる Lv.1】


「名前がそのまますぎる!」

「今回の反省が明確です」


 偽物たちは、背後でぬいぐるみを奪い合っている。コヨリは少しだけ胸が痛んだが、命のほうが大事だ。


「ログル」

「はい」

「本物の友達なら、ログルを知らない。偽物はログルを知ってる」

「はい」

「でも、本物に戻ったら、ログルのこと話したい」


 ログルは少し間を置いた。


「ぼくは、聞いてみたいです」

「うん。ちゃんと帰って、自慢する」


 そのために、今は走る。正解しても、油断しないで。


 ぬいぐるみを回収できなかったことを、コヨリは少し気にしていた。


「ログル、ぬい、ロスト?」

「はい。身代わり消耗品です」

「ごめん、ぬい......」

「拠点で再作成できます」

「そういうことじゃない」


 友達擬態が遠くで、まだぬいぐるみを抱えている。コヨリに似た顔の布人形が、敵の腕の中でぐったりしていた。


「勇者様」

「うん。行く」


 助けに戻れば死ぬ。分かっている。分かっているけれど、見捨てる練習はいつも苦い。


「帰ったら、ぬいにお礼言う」

「再作成品に、ですか」

「うん。身代わりでも、助けてくれたから」


 ログルは、その記録を成功ログ棚へ送った。


 出口の看板には、友達と仲良くしましょう、と書かれていた。いい言葉のはずなのに、今は罠の匂いがする。


「仲良くしたい相手を選ぶ権利、あるよね」

「あります」

「偽物とは仲良くしない」

「はい」


 コヨリは看板の横に、小さく書き足した。


【ログルを知ってる友達は要確認】


「元世界に戻ったら、このメモは消してください」

「うん。戻ったら、ただの変なメモだもんね」

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還座標シード

クラス:帰還者見習い/地図師適性再発現

総死亡回数:1044回

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【神様案内警戒 Lv.2】

【返事保留 Lv.1】

【親友擬態識別 Lv.1】

【ただいま保留 Lv.1】

【帰る意思固定 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【見破った後も逃げる Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ

友達擬態を見破ったが、出口まで信用して死亡。詰めが甘い。


ログル

本名呼びへの反応を叩いて止めた。最後に少し嬉しそうだった。


友達擬態

ログルを知っている時点で偽物。見破られると倍速化する。


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