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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第26章 帰還座標シード――ただいまの声は罠

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拠点反省会――本物はこんなに都合よく呼ばない

家族、友達、先生、遊び声。

やさしいものほど、罠にされるとつらい。

拠点で一度、きちんと怒ります。


 反省会テーブルの上に、死因ログが山のように積まれていた。


 友達の手招き。親友の声。母親のごはん。父親の迎え。公園の遊ぼう。先生の校則。


 コヨリは椅子に座り、両腕を組んだまま、しばらく何も言わなかった。怒っている。泣きそうでもある。どちらか一つにできない顔だった。


 ネムが死因ログの束を抱えて、眠そうに現れた。


「死亡受付番号、またコヨリさんですね。今回は家族風味と学校風味が多めです」

「言い方!」

「では、家庭学校複合型死亡ログ」

「もっといや!」


 ゼルドが紅茶を置きながら、眉間にしわを寄せた。


「余でも、家族の姿で敵を出す作戦は部下に止められるぞ」

「魔王さんの部下、倫理ある」

「少なくとも、神々の一部よりは勤務倫理がある」


 白い窓の中で、アドミニスが縮こまった。主神なのに、いまだけ職員室で怒られている子どもみたいだった。


 ベルが眼鏡を押し上げる。


「主神様。未成年者の脳内記憶を使用した帰還座標照合について、事前同意書はございますか」

「......ないです」

「では、後ほど正式に燃やします」

「燃やすんだ」

「複写も燃やします」

「徹底してる!」


 コヨリはテーブルの上の紙を一枚取った。そこには、自分の字で書いた反省が並んでいる。


【手招きされても床を見る】

【名前を呼ばれても返事を保留】

【本物ならログルを捨てろとは言わない】

【ごはんは未識別】

【抱きしめ距離は射程】

【かわいい声でも通路封鎖】

【校則より命】


「これ、普通の子どもが読んだらダメな反省ノートだよ」

「勇者様用です」

「勇者って大変」


 リュシアが湯気の立つ甘い飲み物を持ってきた。


「ちび勇者ちゃん。飲みな。これはあたしがここで作ったやつだから、未識別じゃないよ」

「ほんと?」

「ログ坊、鑑定」

「安全です。甘味、温度、精神回復、すべて拠点側登録済みです」

「飲む」


 コヨリは両手でカップを持った。温かい。さっきの台所フロアとは違う。これは罠ではないと、ログルが言ってくれる。そのことが、少しだけありがたかった。


 アドミニスが、窓の中でゆっくり頭を下げた。


「勇者ちゃん。記憶を使うことを、先に言うべきだった」

「うん」

「家族や友達の形を取る危険も、僕は知っていた」

「うん」

「過去に、そこで止まった勇者もいる」

「うん」


 コヨリはカップを置いた。


「神様」

「はい」

「家族の姿を使うなら、最初に言って」

「はい」

「親友の声を使うなら、先に言って」

「はい」

「わたしが泣くかもしれないところは、笑って説明しないで」

「......はい」


 白い拠点が、少し静かになった。ログルが、反省会テーブルの端に新しい紙を置く。


【見分け方】

【姿ではなく、言葉を見る】

【声ではなく、行動を見る】

【近づく前に、床を見る】

【本物は、コヨリを急かしすぎない】


 コヨリはその最後の一行を、何度か読んだ。


「次は、わたしが見破る」

「一緒に見ます」

「うん。一緒に」


 反省会テーブルは、いつもの倍の広さに拡張されていた。ログルが置いた地図、ベルの抗議書、ネムの死亡受付票、ゼルドの魔王軍倫理規定、リュシアの差し入れ皿が、場所を取り合っている。


「会議が本格的すぎる」

「勇者様の脳内記憶が敵に使われておりますので、魔王軍としても見過ごせません」

「魔王軍って、敵だよね?」

「少なくとも今回の主神様よりは味方です」

「否定できない!」


 アドミニスの白い窓は、テーブルの端に小さく出ていた。なぜか窓のサイズまで遠慮している。


「勇者ちゃん、まず謝るよ。記憶層の扱いが雑だった」

「雑で済ませていい内容じゃない」

「うん」

「友達、親友、お母さんっぽい声、お父さんっぽい影、先生まで出た」

「うん」

「次は何。近所の犬?」

「可能性は」

「出すなああああああああああああああああああ!」


 叫び終えたコヨリは、椅子に座って息を切らした。リュシアが水を出し、ネムが受付票に「主神へ苦情」と書き足す。


 ログルは、反省会テーブルの中央に大きな紙を置いた。


【現実擬態フロア確認事項】


 コヨリはその見出しを見て、眉を寄せた。


「また攻略メモみたいなの?」

「いいえ。これは、勇者様が自分で書く確認表です」

「わたしが?」

「はい。ぼくが全部言うより、勇者様が書いたほうが、次の一手で思い出せます」


 コヨリは少しだけ黙ったあと、鉛筆を握った。字は丸い。線は少し震えている。それでも、一つずつ書く。


【顔より床】

【声より言葉】

【ただいまはまだ言わない】

【ログルを置いていけは偽物】

【ごはんは食べる前に聞く】

【迎えに来たより、自分で帰る】


 書き終えると、ゼルドが腕を組んでうなずいた。


「良い作戦書だ。余の部下にも配りたい」

「魔王軍で使うの?」

「家族の姿で襲ってくる敵がいないとは限らん」

「魔王さんの職場、どんどん大変そう」


 ベルがすかさず補足する。


「なお、弊軍では親しい者の姿をした敵が出た場合、まず有給申請と本人確認を行います」

「魔王軍、有給あるの!?」

「ございます」

「神様より福利厚生がある!」


 アドミニスが小さな窓の中で咳払いした。


「神々にも休暇は」

「神様は今、休暇の話をする権利ないです」

「はい」


 ネムは、死因図鑑室から分厚い帳面を持ってきた。そこには、これまでの死亡ログとは別に、成功しかけた行動が記録されている。


「死亡ログばかりだと、コヨリさんが嫌な顔をするので、成功ログ棚を仮設しました」

「ネム......!」

「まだ棚板が一枚だけです」

「少ない!」

「増やしてください」


 コヨリは立ち上がり、成功ログ棚の一枚目に札を置いた。


【偽物の親友を、言葉で見破った】


 それを見たログルの宝石が、少しだけ明るくなる。


「死亡ログではなく、成功ログを増やしましょう」

「うん。死なない回、増やす」

「でも、次のフロアもたぶん性格が悪いです」

「希望を言った直後に難易度を戻すな!」


 笑い声が少しだけ起きた。重い話を、軽くはできない。でも、笑える場所まで運ぶことならできる。


 コヨリは紙の一番下に、もう一行書き足した。


【帰りたい気持ちは、捨てない】


 誰も、その文字を茶化さなかった。


 会議の終わりに、コヨリは成功ログ棚の前で腕を組んだ。


「成功ログ、増やしたいけどさ」

「はい」

「死亡ログのほうが棚いっぱいあるの、ちょっと腹立つ」

「歴史の厚みです」

「言い方!」


 ネムが、成功ログ棚に小さな札を足した。


【返事をしなかった】

【食べる前に聞いた】

【ただいまを保留した】


「これ、成功って言っていいの?」

「生存に寄与したなら成功です」

「じゃあ、我慢も攻略なんだ」

「はい」


 コヨリは少し考えて、自分でも札を一枚書いた。


【泣いても床を見る】


 ログルはそれを見て、何も言わずに棚の真ん中へ置いた。


 最後に、ベルが反省会議事録を読み上げた。


「結論。勇者様は、優しさを捨てる必要はございません。ただし、優しさを差し出す前に、相手が口を開けていないか確認してください」

「結論が物騒!」

「実績に基づきます」


 コヨリはうなだれた。


「優しくする前に口を見るって、道徳の教科書に載らないよ」

「この世界の道徳は、やや実戦的です」

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還座標シード

クラス:帰還者見習い/地図師適性再発現

総死亡回数:1039回

拠点施設:反省会テーブル/死因図鑑室/帰還門建設予定地

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

【一フレームの神様 Lv.3】

【死亡ログ返還 Lv.1】

【ログ差し戻し Lv.3】

【親友擬態識別 Lv.1】

【母声ごはん警戒 Lv.1】

【抱擁距離警戒 Lv.1】

【校則罠警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

更新:【神様案内警戒 Lv.1】→【神様案内警戒 Lv.2】


【登場人物紹介】

コヨリ

怒りと寂しさを整理した。偽物の家に入らないため、見分け方を書いた。


ログル

反省を攻略メモに変換した相棒。今回は一緒に見ると約束した。


ネム

死亡ログを事務処理する死神。言い方が相変わらず雑。


ゼルド

神様の倫理に引いている魔王。部下のほうがまともだと思っている。


ベル

同意書と法務で主神を詰める秘書。強い。


リュシア

安全な飲み物を出した拠点の姉御枠。


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