帰還門ダンジョン、第一攻略完了
帰還門は完全には開かなかった。
それでも、次に探すものだけは見えた。
帰還門ダンジョンの奥で、白い地図がゆっくり畳まれていった。完全に開いたわけではない。だが、何が足りないのかは見えるようになった。見えない壁に顔からぶつかる段階は、少しだけ終わったらしい。
【帰還門ダンジョン:第一攻略完了】
【安定因子:名前/記憶/縁/扉】
【未攻略因子:座標/時間】
【主神協力権限:制限付きで登録】
「制限付き」
「妥当だと思う」とアドミニス。
「自分で言うんだ」
「無制限にすると、きみが怒る」
「怒るね。たぶんじゃなくて確定で怒る」
ログルの宝石に総死亡回数が浮かぶ。
【総死亡回数:1025回】
【千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止】
【神様側死亡ログ送信:遮断維持】
「また増えた」
「はい」
「でも神様ポイントには入ってない」
「入っていません」
「そこだけは勝ってる。死んでるけど」
ベルが書類をまとめ、ネムが未送信死亡ログを箱へ入れる。ゼルドは魔王ログ棚の接続を確認し、ログルは扉の線を数えた。みんなが当たり前のように拠点側で作業している。帰りたい。けれど、この作業場を置いていく自分を想像すると、足が重くなる。
「次は、座標シードだ」とアドミニスが言う。
「またダンジョン?」
「うん」
「神様ァ! 帰るだけで何個ダンジョン作る気いいいいいいいい!」
「作っているというより、分かれてしまっている」
「言い方が違うだけで、やることは潜るなんだよ!」
出口の横に小さな宝箱がある。コヨリは両手を握った。
「開けない」
「えらいです」
「わたしは学んだ。クリア後の宝箱ほど怖い」
だが、宝箱の横に落ちていた白い地図札がひらりと動く。宝箱ではない。だから少しくらい拾ってもいい。そう思った瞬間、コヨリは自分の手を見た。
「今、宝箱じゃないからいいって思った」
「かなり危険な思考です」
「だよね。小石で確認」
小石を投げる。地図札の手前で床が白く反転した。罠は見えた。避ければいい。避ければいいのに、反転した床の向こうから元世界の住宅街が一瞬だけ見えた。
「ずるい」
「勇者様、視線を戻して」
「見てない。帰り道っぽいのなんて見てない」
「見ています」
「見てる!」
視線が一拍、足より先に進んだ。右足が線を踏む。白い地図がばさりと開き、座標シード入口が口みたいに広がった。
「出口確認を焦るなって、さっき言ったばっかりなのにいいいいいいいい!」
【死亡ログ】
【総死亡回数:1024回 → 1025回】
【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】
【神様側送信:遮断】
【拠点側保存:実行】
【死因:出口確認を焦って白い地図罠を踏み、座標シード入口へ落ちた】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
座標シード入口から吐き出され、コヨリは床に座ったまま天井をにらんだ。停止カウンターは最後まで動かない。だが、総死亡回数は1025を示している。第一攻略完了の直後に死ぬあたり、帰還門ダンジョンは最後までローグライクだった。
「出口確認で死んだ」
「はい」
「クリア後の油断、いちばん恥ずかしいやつ」
「ただし、神様側送信は遮断維持です」
「そこだけは胸を張る。死んでるけど!」
アドミニスは何かを言いかけ、第一攻略完了の表示を見て口を閉じた。ここで余計な説明を足すより、まず結果を見せるべきだと、ようやく判断したらしい。コヨリはその沈黙を確認してから、床の白い地図をにらんだ。
表示は、勝利のファンファーレではなかった。
【帰還門ダンジョン:第一攻略完了】
【安定因子:名前/記憶/縁/扉】
【未攻略因子:座標/時間】
【主神協力権限:制限付きで登録】
【総死亡回数:1024回】
【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】
【神様側死亡ログ送信:遮断維持】
「第一攻略完了って何」
「完全攻略ではない、という意味です」
「ログル、分かってる。分かってるけど、言葉にされると腹立つ!」
「次は座標シードだ」とアドミニスが言う。
コヨリはゆっくり振り向いた。
「またダンジョン?」
「うん」
「帰るだけで、何個ダンジョン作る気!?」
「作っているというより、壊れた帰還条件を順番に修復している」
「説明を変えてもダンジョンはダンジョン!」
ログルが小さく表示を追加する。
【帰還までの必要攻略数:未確定】
「未確定って言葉、帰還門に投げ込んで燃やして!」
「燃やすと、座標情報も燃えます」
「じゃあ額に入れて呪う!」
「それは可能です」
「可能なんだ!?」
ベルは安定因子の一覧を写し、ネムは未処理ログ箱を閉じた。ゼルドは魔王ログ棚を確認し、アドミニスは白い地図を広げる。その地図の端に、元世界らしき小さな光が瞬いた。
コヨリはその光を見た。帰りたい。胸の奥で、今度ははっきり言葉になる。けれど、足元には拠点があり、隣にはログルがいる。
「帰りたい」
「はい」とログル。
「置いていきたくない」
「はい」
「両方って、欲張り?」
「ローグライクでは、欲張りは死因です」
「今それ言う!?」
「ただし、攻略目標にもなります」
「......じゃあ、欲張る」
コヨリは白い地図へ手を伸ばした。出口確認を焦らず、一手ずつ。そう思った矢先、地図の端に小さな罠文字が見えた。
【出口確認】
「確認って書いてある! 絶対解除系の罠だこれ!」
避けたつもりの足が、地図の影を踏んだ。
第一攻略完了の表示の下に、コヨリは『出口も床』と書いた。勝った気分の時ほど足元が甘くなる。死因図鑑が、妙に説得力のある棚鳴りをした。
【今回の攻略メモ】
【帰還因子整列 Lv.1】
【座標シード入口確認 Lv.1】
【クリア後の地図札も小石で確認】
白い地図罠を踏んだ瞬間、コヨリは叫んだ。
「最後の最後で出口罠あああああああああ!」
「勇者様、まだ最後ではありません」
「それが一番つらい!」
視界が白く弾ける。帰還門ダンジョン第一攻略完了の表示が、死因ログの横に並んだ。勝ったのか死んだのか、いつものことながら分かりにくい。
【死亡ログ】
【総死亡回数:1024回 → 1025回】
【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】
【神様側送信:遮断】
【死因:第一攻略完了後、出口確認罠を疑いすぎて影を踏んだ】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
拠点へ戻ると、帰還門は消えていなかった。仮起動の白い枠が、床下に薄く残っている。死んでも進捗は残る。拠点がリセットされないことのありがたさを、コヨリは全身で感じた。
「死んだのに進んでる」
「はい」
「死に得?」
「死亡は得ではありません」
「真面目に返さないで!」
アドミニスは白い地図を持ったまま、少しだけ笑った。
「次は、座標シードだ」
「神様、もう一回聞くね。またダンジョン?」
「またダンジョン」
「帰宅って、そんなにエンドコンテンツだったっけ!?」
「きみにとっては、最終目標だ」
「言い方がちょっとかっこいいの腹立つ!」
ログルが尾を揺らす。
「勇者様。次の攻略では、座標と時間を扱います」
「つまり、迷子と遅刻?」
「簡略化すると、そうです」
「帰還門攻略、急に学校生活みたいになった!」
笑い声が拠点に落ちた。軽い笑いではない。疲れて、死んで、怒って、それでも次へ行くための笑いだった。
帰還門の奥で、次の区画が静かに開いた。
【登場人物紹介】
コヨリ:帰還門ダンジョン、第一攻略完了で帰還門攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様を刺す。
【今回の勇者ステータス】
総死亡回数:1024回 → 1025回
千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止/帰還門ダンジョン、第一攻略完了後も不動
神様側死亡ログ送信:遮断維持/拠点保存ログ確認番号18
クラス:帰還者候補/死因学者系統
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
神様仕様突破:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡対象上書き Lv.1】【千回死亡条件破壊 Lv.1】
ログ・所有権:【死亡ログ返還 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】
帰還門攻略:【帰還座標仮視認 Lv.1】【帰還門仮起動 Lv.1】【主神言い訳読解 Lv.1】【帰還因子整列 Lv.1】【座標シード入口確認 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【帰還因子整列 Lv.1】【座標シード入口確認 Lv.1】
内部更新:帰還門ダンジョン攻略ログを拠点側へ保存。
【ローグライクあるあるネタ】
クリア後の出口確認と次ダンジョン解放事故です。ボス後や報酬後、出口横の宝箱・地図・階段・未鑑定品に吸われて死ぬのはローグライクの甘い罠です。今回は第一攻略完了後、座標シード入口が開いた瞬間に白い地図札へ視線を吸われ、出口確認を焦った事故として締めました。
座標シードへ続く一手です。コヨリの帰宅難易度に笑っていただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューをお願いします!




