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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第25章 帰還門ダンジョン――神様、今さら案内役になる

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帰還門仮起動

扉は開きかけた。

けれど、開くためには拠点との接続を切るかもしれなかった。

 仮起動の表示は、祝福より先に警告を連れてきた。帰還門の輪郭に取っ手が生まれ、蝶番が光り、向こう側に元世界らしい夜の色が揺れる。だが次に浮かんだ文字で、コヨリの息は止まった。


【帰還門:仮起動】

【安定因子:名前/記憶/縁/扉】

【不足因子:座標/時間】

【警告:帰還時、拠点接続が切断される可能性あり】


「拠点接続が、切断」

「可能性です」

「可能性、嫌いになりそう」

「ぼくも、あまり好きではありません」


 アドミニスが言う。


「拠点接続を切れば、帰還成功率は上がる」


 刃物みたいにまっすぐな言葉だった。コヨリは怒鳴る前に、ログルを見た。ネム、ゼルド、ベル、返還ログ倉庫、死因図鑑室、停止した千回カウンターを見る。全部が拠点の床にある。


「それ、置いていけってこと?」

「選択肢の一つだ」

「今の言い方、嫌い」

「分かっている。でも隠す方がもっと悪い」

「それはそう。だから余計に腹立つ」


 ベルが警告文の下へ紙を貼る。


【拠点接続切断:拒否】

【代替案:細線接続/分割参照/帰還後再接続】


「ベル、ありがとう。文字があるだけで息ができる」

「選択肢は神様に出されるものではありません。こちらで増やすものです」


 ネムは受付票を置き、ゼルドは影を扉の下へ流す。コヨリは羽ペンで警告の横へ書き足した。


()()()()()()()


「難しくなる」とアドミニス。

「知ってる」

「帰還成功率は下がる」

「それも知ってる」

「それでも?」

「帰りたい。でも、置いていきたくない。どっちかだけ本当ってことにしない」


 仮起動の熱が強くなる。近づきすぎれば焼かれる。コヨリは一歩下がるつもりだった。だが床の警告が反転する。


【拠点接続確認】

【接続線に触れますか?】


「触れません!」

「声だけでは入力になりません」

「拒否ボタンを足元に出すなあああああ!」


 拒否ボタンを踏むための一歩が、熱の縁へ引っかかった。


死亡ログ(しぼうログ)

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1023回 → 1024回】

【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】

【神様側送信:遮断】

拠点(きょてん)側保存:実行】

死因(しいん):仮起動した帰還門の熱に近づきすぎ、拠点接続警告ごと焼かれた】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 仮起動の白い熱から戻ると、コヨリはすぐに拠点の床を触った。ある。まだつながっている。停止カウンターは黒いまま、帰還門だけが奥で低く鳴っていた。


「拠点、まだある?」

「あります」

「ログルも?」

「ここにいます」

「ネムもベルも魔王さんも?」

「全員、接続確認中です」

「よかった......死んだけど、そこはよかった」


 アドミニスは成功率の話を続けなかった。言えば正しいかもしれない。でも、正しいだけの言葉で何度も傷つけたことを、ようやく覚え始めている。

 仮起動の表示は、まるで成績表のように冷たかった。


帰還門(きかんもん):仮起動】

【安定因子:名前/記憶/縁/扉】

【不足因子:座標/時間】

【警告:帰還時、拠点接続(きょてんせつぞく)が切断される可能性あり】


「最後の一行、見なかったことにしていい?」

「できません」とログル。

「だよね! 見えちゃったもんね!」


 アドミニスは、しばらく黙っていた。言うべきかどうか迷っている顔だった。コヨリはその迷いに気づき、先に言う。


「隠したら怒る」

拠点接続(きょてんせつぞく)を切れば、帰還成功率は上がる」

「ほら怒るやつ!」


 ベルの羽ペンが折れそうな音を立てた。ネムは受付票を伏せ、ゼルドは低く唸る。ログルだけが、コヨリを()()()()。コヨリはすぐに怒鳴れなかった。怒鳴るには、言葉の中身が重すぎた。


拠点接続(きょてんせつぞく)を切るって、ログルは?」

()()()()()()

「ネムは」

()()()()()()

「ゼルドさんやベルは」

「保証できない」

「消えたシードのログは」

「......保証できない」


 コヨリは拳を握った。


「保証できないこと、多すぎ」

「だから、帰還成功率だけを見れば」

「だけを見れば、って言い方がもう嫌」


 帰りたい。玄関を見た。声も聞いた。胸がまだ痛い。帰りたいのは本当だ。ずっと本当だった。


 でも、ログルを見る。ネムを見る。ゼルドを見る。ベルを見る。返還ログ倉庫の奥で眠る世界種(せかいしゅ)を見る。全部が、ここで死んで覚えたものだった。


「帰りたい」

 その言葉は、思ったより小さかった。

「でも、置いていきたくない」


 帰還門(きかんもん)が、その二つの言葉に反応した。白い波が床を走る。


 警告文の横に、コヨリは『置いていかない』と書いた。ベルが代替案を並べ、ログルが接続線を数える。怒りではなく、選択肢を増やすためのメモだった。


【今回の攻略メモ】

帰還門仮起動(きかんもんかりきどう) Lv.1】

【拠点接続切断を即決しない】

【帰りたい気持ちと置いていきたくない気持ちを両方残す】


 ログルは警告表示を三度読み直した。


拠点接続(きょてんせつぞく)が切断される可能性。可能性の大小は不明」

「神様、そこを不明にしないで」

「切るつもりで作った扉だからだ」とアドミニスが言う。

「今なんて?」

「元の設計では、帰還時に異世界側の接続を切る。そうしないと、元世界へ余計なものが流れ込む可能性があった」

「余計なものって、ログルたち?」

「そう扱っていた」

「はい、怒ります」


 コヨリは怒る、と宣言してから怒った。叫びはしたが、踏み込まない。床が光っているからだ。怒りながら足元を見る。成長である。腹立つ成長である。


「余計なものじゃない! ログルは相棒! ネムは受付! ベルは法務! ゼルドさんは魔王(まおう)だけど味方寄り! 消えたシードも、わたしが覚えてる!」

「うん」

「うんじゃない!」

「分かった、では足りないね」

「足りない! 接続を切らずに帰る方法を探して!」

「成功率は下がる」

「じゃあ、成功率を上げる攻略をする! わたし、確率のために誰かを落とすのは嫌!」


 ベルが低い声で言った。


「それが、帰還門(きかんもん)改修の基本方針です」

「法務、まとめがうまい」

「議事録へ記載します」

「議事録が熱い!」


 帰還門(きかんもん)の波が、コヨリの言葉に反応して強まった。


 帰還門(きかんもん)の奥で、次の区画が静かに開いた。



 仮起動の警告文が消えたあとも、床には細い白線が残った。コヨリはそこへ『帰還門仮起動』と書き、続けて『置いていかない』を二度書いた。一度では足りなかった。


「置いていきたくないって言ったの、ログに残った?」

「残っています」

「うわ、残るんだ」

帰還門(きかんもん)の方針変更に必要な発言です」

「わたしのわがまま、仕様変更に使われるの?」

「はい」

「なら残して。わがまま採用で」


「神様」

「うん」

「成功率だけで話すの、もう禁止」

「分かった」

「帰りたい気持ちと、置いていきたくない気持ち、どっちも本物だから」

「......うん。どちらも本物だ」

「今のは、覚えて」

「覚える」


 コヨリは扉の警告から目をそらさなかった。怖い表示でも、見ないまま選ぶよりはずっといい。


【登場人物紹介】

コヨリ:帰還門仮起動で帰還門攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様を刺す。


【今回の勇者ステータス】

総死亡回数:1023回 → 1024回

千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止/帰還門仮起動後も不動

神様側死亡ログ送信:遮断維持/拠点保存ログ確認番号16

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

神様仕様突破:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡対象上書き Lv.1】【千回死亡条件破壊 Lv.1】

ログ・所有権:【死亡ログ返還 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】

帰還門攻略:【神様協力ログ Lv.1】【接続持ち帰り Lv.1】【帰還座標仮視認 Lv.1】【帰還門仮起動 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【帰還門仮起動 Lv.1】

内部更新:帰還門ダンジョン攻略ログを拠点側へ保存。


【ローグライクあるあるネタ】

脱出前の接続確認と帰還床事故です。帰還床に乗る前、持ち帰り品・装備・呪い・仲間・倉庫登録を確認しないと後悔します。今回は拠点接続を切れば成功率が上がるという神様の提案を、楽な脱出ルートに見えるが大事なものを落とす罠として処理しました。


帰還門は開きかけました。続きを追ってくださる方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援していただけると嬉しいです!

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