帰れるかもしれない
帰還門が、元世界らしき光を映した。
コヨリは笑おうとして、うまく笑えなかった。
帰還門の奥に、初めて異世界ではない色が浮いた。白い光の向こうに、玄関が見える。小さな靴、夜の窓、ゲーム機の青いランプ。誰かが呼ぶ声は、まだ言葉にならない。
「ログル」
「はい」
「これ、わたしの家?」
「断定はできません」
「分かってる。でも、聞きたかった」
「近い反応です。名前、記憶、縁の因子が同じ方向を向いています」
アドミニスが「可能性はある」と言いかけ、全員の視線で止まった。
「保証は、まだできない」
「うん。その言い方なら聞ける」
「前なら、可能性はあるよ、保証はしてないけど、と言っていた」
「その言い方だったら扉に投げ込んでた」
コヨリは光へ近づかない。帰還床が見えた時ほど危ない。階段の横に宝箱があり、帰還の巻物だと思ったら大部屋化し、あと一歩で出口という時におにぎりをケチって死ぬ。死因図鑑の棚が、今までの事故を一斉に思い出させる。
「帰れるかもしれない、って一番危ないね」
「はい。気持ちが先に階段を降ります」
「名言っぽいけど、わたしの事故でできた言葉だ」
ログルが言い淀む。
「こより......様」
「今、本名で呼ぼうとした?」
「はい。帰還門が本名側へ強く反応したので」
「呼んでもいいよ。でも、勇者様でもいい。どっちもわたしだから。勇者コヨリだけ帰って、天野こよりを置いていくのは嫌だけど、勇者コヨリの時間も、なかったことにしたくない」
アドミニスは目を伏せる。役割名が戻れば本人も戻ると思っていた、と小さく言った。
「思った、で済む話じゃない」
「うん」
「でも、今なら直せる?」
「直すために、ここにいる」
ゼルドが言う。
「勇者よ。帰る場所が見えたのなら、喜んでよい」
「でも」
「置いていくものを考えるのは、その後でも遅くない。喜べる時に喜べ」
コヨリは少しだけ笑った。今度は、ちゃんと笑えた。
【帰還座標仮視認 Lv.1】
【評価:近づかなかったことを成功として記録】
「成功ログ?」
「はい」
「死亡ログじゃない?」
「違います」
「......やった」
小さな声だった。けれど、拠点の壁に書いた【帰る】の文字まで届いた気がした。
【登場人物紹介】
コヨリ:帰れるかもしれないで帰還門攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様を刺す。
【今回の勇者ステータス】
総死亡回数:1023回(この話では増加なし)
千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止/帰れるかもしれない後も不動
神様側死亡ログ送信:遮断維持/拠点保存ログ確認番号15
クラス:帰還者候補/死因学者系統
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
神様仕様突破:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡対象上書き Lv.1】【千回死亡条件破壊 Lv.1】
ログ・所有権:【死亡ログ返還 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】
帰還門攻略:【相棒記録領域 Lv.1】【神様協力ログ Lv.1】【接続持ち帰り Lv.1】【帰還座標仮視認 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【帰還座標仮視認 Lv.1】
内部更新:帰還門ダンジョン攻略ログを拠点側へ保存。
【ローグライクあるあるネタ】
ゴール前で飛び込まない判断を成功ログにした回です。帰還の巻物、脱出階段、ゴール床が見えた時ほど、周囲確認・敵の射線・罠・満腹度を見落としがちです。今回は死亡ではなく、元世界の光が見えても足を出さないことをローグライク的な成功として扱っています。
帰れるかもしれない、でも怖い。そんなコヨリを見守ってくださる方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューをお願いします!




