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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第25章 帰還門ダンジョン――神様、今さら案内役になる

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帰還門の鍵はクリア報酬ではない

宝箱が出た。

だからこそ、開けてはいけなかった。


 金色の宝箱は、いかにも報酬ですという顔で通路の中央に置かれていた。箱の上には【帰還門の鍵】。コヨリは一歩近づき、すぐ両手を後ろへ回した。自分の手が信用できない。


「ログル、わたしの手、押さえて」

「了解しました」

「即答!?」

「この距離の宝箱は危険です。勇者様の理性より、宝箱の吸引力が強い」

「わたしの理性を弱い磁石みたいに言うな!」


 アドミニスまで慌てて止める。


「それは()()()()()()。試験だ」

「報酬箱の顔で試験するな! ミミックはまだ噛む気が顔に出てる!」


 箱の蓋に文字が浮かぶ。


【持ち帰り候補】

【名前】【記憶】【ログルとの記録】【消えた世界種】【魔王ログ】【帰還座標】

【持ち帰り枠:三】


「三って何。命より大事なものが三枠で足りるわけないじゃん」

「帰還門は軽い方が安定する」

「軽くするために誰かを落とすのは却下」


 ベルが箱を回り込み、鍵穴ではなく契約欄を見つけた。


「持ち帰りではなく、接続登録に変えましょう」

「ベル、好き。今すごく好き」

「ありがとうございます。ただし作業は面倒です」

「好きがちょっと減った」

「神様よりは信用できます」

「また増えた!」


 ベルは【手荷物登録】を【接続登録】へ、【廃棄】を【拠点保管】へ読み替える紙を貼った。アドミニスは目を丸くする。


「そんな抜け道が」

「抜け道ではありません。仕様の読み替えです」


 それでも箱は甘い声を出した。


【帰り道、入っています】


「うそでしょ」

「勇者様、手」

「手が! 手が勝手に!」

「手を敵扱いします」


 ログルが止めたが一拍遅い。コヨリの指が蓋に触れ、金色の箱が満面の報酬顔で開いた。


死亡ログ(しぼうログ)

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1021回 → 1023回】

【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】

【神様側送信:遮断】

拠点(きょてん)側保存:実行】

死因(しいん):報酬箱だと思った鍵箱を少し開け、持ち帰り枠不足で圧縮された】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 箱に押し潰されたあと、コヨリはしばらく両手を見張っていた。指は無事だ。だが、総死亡回数は無事ではない。停止カウンターは進まないのに、帰還門の報酬箱はしっかり一敗を刻んでいた。


「宝箱に負けた」

「報酬箱ではなく選択試験箱です」

「箱の種類が増えても負けは負け!」

「神様側へは送信していません。接続持ち帰り事故として保存しています」

「保存するなら、せめて『宝箱に勝ちかけた』にして」

「事実と異なります」

「事実が冷たい!」


 アドミニスは箱を閉じようとせず、ベルの読み替えを待った。神様が仕様を押し通さず、誰かの抜け道を待つ。奇妙な光景だった。

 宝箱(たからばこ)には、宝石も巻物(まきもの)も入っていない。


 蓋の隙間から見えたのは、選択肢だった。


【持ち帰るものを選んでください】

【名前】

【記憶】

【ログルとの記録】

【消えた世界種(せかいしゅ)

魔王ログ(まおうログ)

帰還座標(きかんざひょう)


「全部!」

「その選択肢はありません」

「作って!」

「報酬箱に命令しないでください」


 アドミニスが珍しく強い声で止めた。


「それは報酬ではない。試験だ」

「報酬箱の顔で試験するな! 宝箱(たからばこ)なら宝箱(たからばこ)らしく、金貨とか巻物(まきもの)とか、分かりやすい中身でいて!」

帰還門(きかんもん)は、持ち帰るものを絞ろうとする。絞らないと、元世界へ抜けられない」

「また軽くする話?」

「そうだ」

「ほんとにその発想、何回出すの!」


 ベルは箱を見つめ、唇を引き結んだ。


「持ち帰りではなく、接続登録にしましょう」

「またそれ?」

「はい。物として持つから枠が足りません。扉に紐づけ、帰還後も参照できる状態へ移します」

「帰る時にクラウド保存、二回目」

「くらうどが何かは分かりませんが、便利そうなので採用します」

「ベルが異世界クラウドを発明し始めた!」


 ログルは箱の縁を調べる。


勇者(ゆうしゃ)様、蓋を開けないでください。見るだけでも選択処理が始まります」

「見たら始まる宝箱(たからばこ)、最悪」

神様仕様(かみさましよう)宝箱(たからばこ)です」

「全部その一言で説明しようとするな!」


 アドミニスは箱へ手を伸ばさない。伸ばしたらコヨリに怒られると分かっているのだろう。その学習だけは早い。


「僕は昔、この箱で選ばせた」

「誰に」

「帰ろうとした勇者(ゆうしゃ)たちに」

「その子たちは?」

「選べなかった子もいる。選んで、失った子もいる」

「......そういう話、先にして」


 コヨリは箱から一歩離れた。離れたのに、蓋が勝手に少し開く。


 報酬箱の蓋には、ログルが赤い紐を巻いた。コヨリは『箱が開いても手を出さない』と書いたあと、自分の手にも同じことを書きたくなった。


【今回の攻略メモ】

接続持ち帰り(せつぞくもちかえり) Lv.1】

【報酬箱の顔をした試験箱に注意】

【持ち帰り枠ではなく接続登録で抜ける】


 報酬箱の中には、選択肢の奥にさらに小さな注釈があった。


【ひとつ選ぶと、他は薄くなります】

【複数選ぶと、持ち帰り枠が破裂します】

【選ばない場合、箱が選びます】


「箱が選ぶな! 勝手に人生の断捨離するな!」

「以前は、箱に選ばせたこともある」とアドミニス。

「今すぐその箱を正座させて」

「箱に膝はない」

「神様は黙って!」


 ベルは箱の周囲を歩き、光の縁に爪を当てる。


「選択肢を選ぶ形式そのものが(わな)です」

「じゃあ、どうするの?」

「選ばず、分類を変えます。持ち帰る、捨てる、ではなく、本人に紐づける」

「また接続!」

「はい。帰還門(きかんもん)側に、勇者(ゆうしゃ)様の縁として登録します」

「わたし、だんだん人間じゃなくてネットワークみたいになってない?」

「人間だから、つなぐ意味があります」

「ベルがたまに情緒で殴ってくる!」


 ログルは箱の底を読む。


勇者(ゆうしゃ)様。蓋に手をかけると、選択処理が始まります」

「触らない。絶対触らない。わたしは宝箱(たからばこ)を見ても触らない幼女」

「その宣言は、過去ログと矛盾します」

「今からのわたしを見て!」


 その時、箱の方から少しだけ蓋が開いた。


宝箱(たからばこ)が誘惑してきた! こっちが我慢してるのに、向こうから開くの反則!」


 帰還門(きかんもん)の奥で、次の区画が静かに開いた。



 宝箱の金粉が、出口近くで板の形に固まった。コヨリは『帰還門の鍵はクリア報酬ではない』と書き、蓋の絵を描いてから黒く塗りつぶす。手が勝手に開けないよう、自分に見せるためだった。


宝箱(たからばこ)を我慢したのに宝箱(たからばこ)から開いた件、納得いかない」

「誘惑側が能動的になった記録です」

「ログル、(わな)が成長してるみたいに言わないで」

「実際、帰還門(きかんもん)側も勇者(ゆうしゃ)様に適応しています」

「ダンジョンに学習能力を持たせるなああ!」

神様仕様(かみさましよう)です」

「便利な最悪ワード!」


「神様」

「うん」

「選ばせる箱は嫌い」

「知っている」

「なら、次は箱じゃなくて説明を出して」

「努力する」

「また努力。ログル、要監視」

「記録しました」


 コヨリは宝箱から一歩離れた。開けたい気持ちを一歩ぶん押し戻せたなら、それも攻略だ。

【登場人物紹介】

コヨリ:帰還門の鍵はクリア報酬ではないで帰還門攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様を刺す。


【今回の勇者ステータス】

総死亡回数:1021回 → 1023回

千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止/帰還門の鍵はクリア報酬ではない後も不動

神様側死亡ログ送信:遮断維持/拠点保存ログ確認番号14

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

神様仕様突破:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡対象上書き Lv.1】【千回死亡条件破壊 Lv.1】

ログ・所有権:【死亡ログ返還 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】

帰還門攻略:【死亡扱い差し戻し Lv.1】【相棒記録領域 Lv.1】【神様協力ログ Lv.1】【接続持ち帰り Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【接続持ち帰り Lv.1】

内部更新:帰還門ダンジョン攻略ログを拠点側へ保存。


【ローグライクあるあるネタ】

報酬箱・ミミック・持ち帰り選択のあるあるです。クリア報酬に見える箱ほど開けたいが、ミミックや罠箱、枠不足、選択式報酬で事故ります。今回は【帰還門の鍵】を宝箱として置き、名前・記憶・ログルの記録・世界種を三枠に入れろという無茶な持ち帰り問題にしました。


報酬箱すら信用できない帰還門ダンジョンですが、楽しめたらブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援してください!

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