アドミニス、協力する
アドミニスが初めて、明確に鍵を外した。
ただし、隠し事はまだ残っていた。
主神ロックは、扉ではなく白い鎖の形をしていた。鎖にはアドミニスの紋章が刻まれている。コヨリは見た瞬間、顔をしかめた。
「自分の名前入りの鎖、趣味悪い」
「名前入りではなく権限印だよ」
「なお悪い。自分で閉めた鍵を、今さら『僕が開けます』って言うの、だいぶマッチポンプ感ある」
「否定しにくい」
アドミニスは白い窓から手を伸ばす。彼自身の光が少し削れて見えた。主神権限を使うと、本人にも負荷があるらしい。
「それ、罠じゃないよね」
「罠ではない」
「隠してることは?」
「ある」
「あるんかい!」
「でも、この扉を開けたいのは本当だ」
「そこまで言うなら隠してることも言って」
「言うと怒るよ」
「言わなくても怒ってるよ!」
ベルが契約紙を差し出す。協力の範囲、反動説明、失敗時の責任、隠し事の申告義務。ネムはコヨリ用と空欄の受付票を二枚置き、ゼルドは鎖を影で押さえる。
「主神よ。勇者へ反動を押しつけたら、余が神殿へ苦情文を千枚送る」
「千枚は多い」
「少ない方だ」
ログルの宝石に危険マスが浮く。鎖が外れれば白い反動が波のように来て、ログルの記録線を切る可能性がある。
「勇者様、反動が来たら、ぼくの線より先にご自身の足場を」
「いや」
「即答しないでください」
「ログルの線が切れたら、帰還門がわたしの生きた記録を読めないんでしょ」
「はい」
「じゃあ足場より線」
「それはおすすめしません」
「おすすめされない行動で生き残ったこともある」
「死んだ回数の方が多いです」
「今それ言う!?」
アドミニスが鎖へ指をかける。
「僕を信じなくていい。ただ、今から外す鍵だけは使って」
「信じないけど、使う」
最後の鎖が切れた瞬間、反動の波が記録線へ走る。コヨリは足場ではなく、線を押さえた。
【死亡ログ】
【総死亡回数:1019回 → 1021回】
【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】
【神様側送信:遮断】
【拠点側保存:実行】
【死因:主神ロック解除の白い鎖からログルの記録線を守ろうとして巻き込まれた】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
白い鎖に弾かれて戻ると、コヨリはしばらく手のひらを握ったり開いたりした。ログルの線は切れていない。停止カウンターも動いていない。痛い目に遭ったわりに、守れたものがあるのが腹立たしくも少しうれしい。
「主神ロック解除で死んだのに、主神側へは送られてない?」
「はい。かなり皮肉な保存状態です」
「ログルが皮肉を認めた!」
「拠点側では、神様協力ログとして分類されています」
「協力ログで死んでるの、協力の字に謝ってほしい!」
アドミニスは反動の痛みをごまかさなかった。痛いなら痛いと言えばいい。そんな当然のことまで、契約書に書かないと届かなかった相手なのだ。
白い鎖は、帰還門の周囲を何重にも巻いていた。
【主神権限ロック】
【解除者:アドミニス】
【代償:未表示】
「代償が未表示! そこ一番大事!」
「未表示なのは、僕にも完全には分からないからだ」
「分からないまま解除する気!?」
「解除しないと進めない」
「言い方が、未識別巻物を階段上で読む時の人!」
アドミニスは否定しなかった。窓の中から手を伸ばすと、白い鎖の一本が震える。
ログルが記録欄を開く。
【主神発言:隠していることはある】
【協力意思:確認】
【信用:未確定】
「信用、未確定」
「当然だよ」とコヨリ。
「うん」とアドミニス。
その「うん」は、少しだけ弱かった。コヨリは眉をひそめる。弱い声を聞くと、怒りにくくなる。だから腹が立つ。怒りを鈍らせる権利まで、神様に渡したくない。
「協力は受ける。でも、許したわけじゃないから」
「分かっている」
「分かってる、も信用してない」
「それも分かっている」
「会話がめんどくさい! 神様、協力者になっても面倒!」
ベルが契約紙を差し出す。
「解除前に署名を」
「僕の署名が必要なのかい」
「はい。後で『そういうつもりではなかった』と言わせないためです」
「僕、相当信用がない」
「千回分です」
アドミニスは署名した。ペン先が少しだけ震えた。主神ロックが外れる。
白い鎖の欠片を、ベルは契約紙に包んだ。コヨリは『信じないけど使う』と書き、下に『許したわけじゃない』を二重線で残す。
【今回の攻略メモ】
【神様協力ログ Lv.1】
【主神ロック解除後の反動を見る】
【協力と信用と許可を混ぜない】
アドミニスが署名した瞬間、主神ロックは彼の手首にも絡みついた。
「痛いの?」
「少し」
「少しって、ほんと?」
「神様基準の少しだ」
「信用できない基準!」
コヨリは一歩近づいた。助けたい、とは思わない。いや、思ってしまった自分に腹が立つ。千回の原因のひとつである相手が、目の前で苦しそうにしている。だからといって、放っておけるほど器用でもない。
「今、助けたら、わたしが優しいみたいで嫌なんだけど」
「優しさではなく、攻略判断として助けてください」とログル。
「その言い方、助かる!」
「アドミニスが落ちると、ロック解除が中断します」
「よし、攻略判断! わたしは攻略のために神様を助ける! 許したわけじゃない!」
アドミニスは苦笑した。
「それでいい」
「いいって言うな! 神様に理解ある顔されると腹立つ!」
「難しいね」
「難しくしたのはそっち!」
白い鎖が跳ねた。コヨリはアドミニスではなく、ログルの記録線を守る位置へ飛び込む。そこが一番、帰還門攻略に必要な場所だった。感情ではなく一手。いや、感情も混ざっていた。でも今は、それでいい。
帰還門の奥で、次の区画が静かに開いた。
白い鎖の欠片が、音もなく石板へ変わる。コヨリは『アドミニス、協力する』と書き、すぐ下に『信用は別』と追記した。協力と許可を混ぜないための線引きだ。
「神様を攻略判断で助けた記録、ちょっと複雑すぎない?」
「複雑ですが、重要です」
「ログル、わたしの心の倉庫がパンパン」
「不要な怒りは整理できます」
「不要じゃない怒りばっかりなんだよ!」
「では、接続保存しましょう」
「怒りまでクラウド化するな!」
「神様」
「うん」
「痛いなら痛いって言って。隠されると、判断できない」
「分かった」
「助けるかどうかは、わたしが決める」
「うん」
「今回は攻略判断だからね」
「それでいい」
コヨリは白い鎖の欠片を見下ろした。許すかどうかは別。けれど、鍵を外した事実だけは記録に残す。
【登場人物紹介】
コヨリ:アドミニス、協力するで帰還門攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様を刺す。
【今回の勇者ステータス】
総死亡回数:1019回 → 1021回
千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止/アドミニス、協力する後も不動
神様側死亡ログ送信:遮断維持/拠点保存ログ確認番号13
クラス:帰還者候補/死因学者系統
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
神様仕様突破:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡対象上書き Lv.1】【千回死亡条件破壊 Lv.1】
ログ・所有権:【死亡ログ返還 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】
帰還門攻略:【帰還門拡張案 Lv.1】【死亡扱い差し戻し Lv.1】【相棒記録領域 Lv.1】【神様協力ログ Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【神様協力ログ Lv.1】
内部更新:帰還門ダンジョン攻略ログを拠点側へ保存。
【ローグライクあるあるネタ】
鍵開け・ロック解除・罠解除の反動事故です。扉を開ける、罠を解除する、店の出口へ向かう、どれも一手を消費します。成功しても次の敵ターンや爆風が来るので、解除後の位置取りが重要です。今回はアドミニスの主神ロック解除を、白い鎖の反動とログルの記録線防衛へ変換しました。
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