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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第25章 帰還門ダンジョン――神様、今さら案内役になる

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ネム、死んだことにされたログを返す

ネムは眠そうなまま、死を仕分ける。

死んだものと、死んだことにされたものは違う。


 死亡扱い仕分け場は、ネムのために作られたような静けさを持っていた。白い机にログ札が山ほど積まれている。【死亡】【死亡相当】【死亡扱い】【死亡予定】【書類死亡】。最後の札だけ、意味が分からない。


「ネム。書類死亡って何」

「書類が死んでいます」

「書類って死ぬの!?」

「神様の書類は、よく死にます」


 ネムは一枚ずつ仕分ける。


「これは死んだ」

「これは死にかけた」

「これは死んでいない」

「これは神様が死んだ扱いにした」

「これは書類が死んでいます」


 声は眠そうなのに、迷いがない。アドミニスが小さく言い訳する。


「当時は、区別できなかったんだ。シードが崩れる直前だと、生存と死亡の境界が」

「区別できないものを、死として扱わないでください」


 ネムは怒鳴らない。だから場が静かになる。


「わたしも手伝う」

「押印は危険です」

「でも、わたしのログも混ざってるんでしょ」

「はい」

「なら見る。神様にまとめて死んだ扱いされたままなの、嫌だもん」


 ベルが説明書を読む。差し戻し印は対象を間違えると自分に返る。壺に入れる道具を間違えるのと同じで、押印ミスは取り返しがつかない。


「ログル、向き」

「印面は下。赤い三角をログ札の名前欄へ」

「名前欄、名前欄......あれ、これ誰の?」

「勇者様の袖です」

「袖!?」

「印が近いです」

「袖だけ異世界配送されるの!?」


 慌てた手が滑った。印面が、コヨリの手首へぺたりと触れる。


【死亡扱い差し戻し】


「いま、わたしに押した?」

「押しました」

「冷静に認定しないでええええええええ!」


 差し戻し箱が開き、返還ログの渦がコヨリを吸い込んだ。


死亡ログ(しぼうログ)

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1016回 → 1018回】

【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】

【神様側送信:遮断】

拠点(きょてん)側保存:実行】

死因(しいん):差し戻し印を自分に押し、死亡扱いログの渦へ返送された】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 差し戻し箱から吐き出されたあと、コヨリは自分の手首を見た。印は消えている。停止カウンターは黙っている。けれど、総死亡回数は、事務処理みたいな顔で増えていた。


「受付印で死ぬの、さすがに事務事故すぎる」

「死亡扱い差し戻し事故です」

「分類名まで事務! もっと冒険者っぽくならない?」

「印面確認を怠った結果です」

「説教まで事務!」


 アドミニスは票の山へ手を出さなかった。ネムの領域では、神様の速さより、受付の正確さが優先される。コヨリはその順番が少し好きだった。

 ネムは、いつもと同じ眠そうな顔だった。


 けれど、受付台に座った瞬間、空気が変わった。白い票、黒い票、半透明の票が流れてくる。ネムはそれを一枚ずつ見て、右、左、奥の箱へ分ける。


「これは死んだ」

「これは死んでない」

「これは死にかけた」

「これは神様が死んだ扱いにした」

「これは書類が死んでます」


「最後なに?」

「書類が死んでます」

「書類も死ぬ世界、嫌すぎる!」


 アドミニスは票の山を見て、声を落とした。


「当時は、区別できなかった」

「区別できないものを、死として扱わないでください」

「......はい」


 ネムの声は小さい。怒鳴っていない。だから、逃げ場がない。コヨリはその横で、受付印を持つ係を任された。単純作業に見えたが、票の文字は油断すると変わる。


死亡扱い(しぼうあつかい)

【死亡予定】

【死亡希望】

【死亡相当】

【死亡っぽい】


「ぽいで殺すな! 死に“ぽい”をつけるな!」


 ログルが票を押さえる。


勇者(ゆうしゃ)様、印を押す前に三秒確認してください」

「三秒はターン消費?」

「ここは受付領域なので、思考時間は消費しません」

「ありがたいけど、受付だけ優しいの腹立つ!」


 ネムが一枚の票を差し出した。


勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)死亡扱い(しぼうあつかい)差し戻し】


「これ、わたし?」

「死んでいますが、神様側の扱いは差し戻しです」

「ややこしい!」

「死はややこしいです」

「ネムが言うと説得力が重い!」


 コヨリは印を押そうとして、票の裏を見た。裏には【押した者を一時死亡扱い(しぼうあつかい)】と小さく書いてある。


「小さい字ィ!」


 気づいた時には、指が沈んでいた。


 受付台の端に、ネムが『未確認は死ではない』と小さく書いた。コヨリはその隣へ『印は袖に押さない』と書き足し、ログルに静かに見られた。


【今回の攻略メモ】

死亡扱い差し戻ししぼうあつかいさしもどし Lv.1】

【押印前に裏面と向きを見る】

【神様判断の死亡扱いは必ず差し戻し確認】


 コヨリは受付印を両手で持った。


「ネム先生、どう押せばいいですか」

「まず、読んでください」

「はい」

「次に、疑ってください」

「はい」

「最後に、押してから後悔しないでください」

「最後だけ急に人生訓!」


 ネムは眠そうな目で、票の山を()()()()。小さな手つきなのに、迷いがない。一枚ずつ、確実に死と死でないものを分ける。


 アドミニスは、それを見てぽつりと言った。


「僕は、この作業を省略した」

「省略しちゃだめなやつだよね」

「うん」

「どうして省略したの」

「時間がなかった。世界の崩壊が近かった。大量のログを処理する必要があった」

「理由は分かる。でも、だめ」

「......うん」


 ネムが一枚の票をアドミニスへ向けた。


死亡扱い(しぼうあつかい):神様判断】

【実態:未確認】


「これを、死として扱ったのですか」

「扱った」

「では、返します」

「どこへ」

「死んでいないところへ」


 その言葉に、コヨリはぞくりとした。ネムは眠そうで、淡々としている。けれど、死の境界を守る時だけ、誰よりも強い。


「ネム、かっこいい」

「眠いです」

「かっこいい眠い!」


 そしてコヨリは、かっこよさに見とれて自分の印の裏面を見落とした。


 帰還門(きかんもん)の奥で、次の区画が静かに開いた。



 仕分け場の出口で、古い受付票が石板に変わった。コヨリは『ネム、死んだことにされたログを返す』と書き、横に『印の裏を見る』を足す。二度と袖に押さないための戒めだった。


「受付印ミスで死ぬの、事務事故すぎない?」

「事務事故も死亡ログ(しぼうログ)です」

「ログル、死因(しいん)の幅が広すぎる!」

「千回を超えたため、分類幅も拡張されています」

「拡張しなくていい!」

帰還門(きかんもん)攻略には必要です」

「何でも必要って言えば通ると思うな!」


「神様」

「うん」

「区別できないなら、死にしない」

「覚えた」

「ネムの前で雑な死亡扱いしたら、わたしより先に受付票が刺さるよ」

「それは、かなり怖い」

「怖がっていいやつ」


 ネムは眠そうにうなずき、差し戻し箱を閉じた。コヨリはその音を、死亡ログより大事な音として覚えた。

【登場人物紹介】

コヨリ:ネム、死んだことにされたログを返すで帰還門攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様を刺す。


【今回の勇者ステータス】

総死亡回数:1016回 → 1018回

千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止/ネム、死んだことにされたログを返す後も不動

神様側死亡ログ送信:遮断維持/拠点保存ログ確認番号11

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

神様仕様突破:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡対象上書き Lv.1】【千回死亡条件破壊 Lv.1】

ログ・所有権:【死亡ログ返還 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】

帰還門攻略:【帰還門共鳴 Lv.1】【神様失敗ログ読解 Lv.1】【帰還門拡張案 Lv.1】【死亡扱い差し戻し Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【死亡扱い差し戻し Lv.1】

内部更新:帰還門ダンジョン攻略ログを拠点側へ保存。


【ローグライクあるあるネタ】

おはらい・識別・印押しミスの変換です。呪い装備を外そうとして対象を間違える、壺へ入れる道具を間違える、巻物を読む相手を間違えると取り返しがつきません。今回はネムの差し戻し印を自分へ押してしまい、死亡扱いログとして返送される事務事故にしています。


死んだことにされたログまで拾う旅です。面白かったら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援していただけると励みになります!

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