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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第25章 帰還門ダンジョン――神様、今さら案内役になる

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縁の倉庫――持ち帰り枠が足りない

帰るために必要なものほど、倉庫に入りきらない。

持ち帰り枠は、コヨリの情緒に対して小さすぎた。


 縁の倉庫は、倉庫というより引っ越し前日の部屋だった。


 倉庫の床には、光の紐が山積みになっていた。


 ログルとの記録は小さな宝石の線。ネムとの縁は眠そうな銀色の糸。ベルのものは契約紙のリボンみたいで、ゼルドのものは黒い炎の輪に見える。消えたシードの世界種(せかいしゅ)は、抱えるには大きすぎる透明な種だった。


()()()()

「無理です」

「言う前に否定しないで!」

勇者(ゆうしゃ)様の腕は二本、()()()()()は現在八枠です」

「命より大事なものが八枠で足りるわけないじゃん!」


 アドミニスが、少し離れた場所で言った。


帰還門(きかんもん)は、軽い方が安定する。縁が多すぎると、元世界の座標へ引っかかる」

「それ、置いていけってこと?」

「違う。落とせと言っているわけじゃない。接続を減らすという意味で」

「言い方が全部捨てさせる側なんだよ!」


 ベルが静かに割って入った。怒鳴らないぶん、声が鋭い。


「選別と廃棄は違います。持てないものを捨てるのではなく、帰還門(きかんもん)へ接続登録する方法を探します」

「それ、わたしにも分かる言い方でお願い」

「手荷物に入れず、拠点(きょてん)側に保管し、扉を通じて参照させます」

「クラウド保存みたいなこと?」

「くらうど、は存じませんが、神様よりは信用できる保管方法にします」

「ベルの神様評価が地の底!」


 コヨリは笑った。けれど、目の前に並ぶ縁ログ(えにしログ)を見ると、笑いだけでは通れない。どれも拾いたい。どれも置きたくない。役に立つかどうかではなく、ここまで自分が死んで覚えた道に、誰がいたかの記録だった。


 試しにログルとの縁を抱える。軽い。ネムの糸を重ねる。まだ持てる。ゼルドの黒い輪を腕にかける。ちょっと重い。消えた世界種(せかいしゅ)を胸に抱いた瞬間、膝が沈んだ。


「重っ! 世界、重っ!」

「世界ですので」

「説明が単純!」


 アドミニスが手を伸ばしかけた。コヨリは首を振る。


「手伝わなくていい。捨てる提案しそうだから」

「今はしないよ」

「今は、が信用できない!」


 縁ログ(えにしログ)の山が崩れた。コヨリは全部を守ろうとして、両腕を広げる。守れるはずがない。光の紐と世界種(せかいしゅ)が雪崩れ込み、小さな体が倉庫の床へ沈んだ。

 次の一手(いって)で、コヨリは読み違えた。


 縁の倉庫――()()()()()が足りないの最後で、コヨリは判断を一拍だけ遅らせた。油断とは少し違う。進むための正解に見える一手(いって)が、別の角度から死因(しいん)へ変わる。帰還門(きかんもん)の白い光が足首をさらい、さっきまで読めていた盤面を裏返した。


死亡ログ(しぼうログ)

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1006回 → 1008回】

【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】

【神様側送信:遮断】

拠点(きょてん)側保存:実行】

死因(しいん):縁の倉庫――()()()()()が足りないの攻略中、帰還門(きかんもん)仕様の(わな)を踏んだ】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 縁ログの山から吐き出されたあと、コヨリは床に大の字になった。停止カウンターはぴくりとも動かない。けれど、総死亡回数だけは、引っ越し荷物の段ボールみたいに一個増えていた。


「世界を抱えて圧死、って何」

「かなり重い死因です」

「物理的にも精神的にもね!」

「神様側へは送信されていません。拠点側の持ち帰り選別ログに分類されます」

「分類名が片付け下手の通知みたいで嫌!」


 アドミニスは軽量化という言葉をもう一度使いかけ、ベルの羽ペンに刺されそうな顔でやめた。コヨリはそれを見逃さず、床へ新しいメモを書き足す。

 ログルは縁ログ(えにしログ)を計量するみたいに、ひとつずつ床へ置いた。


「この宝石線は、ぼくとの記録です。軽いですが、切れると帰還後の死因学習(しいんがくしゅう)に穴が開きます」

「絶対持つ」

「この銀色の票束は、ネムさんとの死亡受付(しぼううけつけ)ログです」

「持つ」

「この契約紙の束はベルさん」

「持つ」

「この黒炎輪はゼルドさん」

「持つ」

「この透明な種は、消えたシード群の世界種(せかいしゅ)です」

「持......重っ! 世界、重い! 小学生のランドセルより重い!」

「比較対象が急に現実的ですね」


 アドミニスは、その世界種(せかいしゅ)を見て目を細めた。


「それは、本来なら帰還門(きかんもん)から落とすべきものだった」

「本来なら、って言葉、だいたい嫌い」

「元世界へ戻る扉は、異世界側の重い記録を嫌う。だから、軽くしたかった」

「軽くするって、置いていくってことでしょ」

「......結果としては」

「言い換えてもバレるよ!」


 ベルが一歩前に出た。


主神(しゅしん)様。持ち帰り重量の問題を、廃棄で解決するのは下策です」

「代案があるのかい」

「あります。接続持ち帰り(せつぞくもちかえり)です」

「ベルさん、それは」

「荷物として持たず、拠点(きょてん)に保管し、帰還門(きかんもん)から参照できるようにします。倉庫の(つぼ)ではなく、倉庫そのものを扉へ接続する発想です」

「法務、強っ!」


 コヨリは世界種(せかいしゅ)を抱えたまま、目を輝かせた。全部を手で持つ必要はない。全部を捨てない道はある。ローグライクで保存(つぼ)の空きが足りない時、床に置けば消えるものもある。けれど拠点(きょてん)はリセットされない。なら、拠点(きょてん)そのものを()()()()()の外側に置けばいい。


 アドミニスは驚いていた。神様が驚くのを見るのは、少し気分が良い。


「そんな使い方は想定していない」

「想定してないことをやるために、わたし千回以上死んでるんだよ」

「それを言われると、返す言葉がない」

「じゃあ黙って手伝って」


 そしてコヨリは、黙って手伝わせる前に、世界種(せかいしゅ)の山へ埋まった。


 縁ログの山は、ベルの仕切りでようやく倉庫らしくなった。コヨリは『全部手で持とうとしない』と書いてから、小さく『でも捨てない』と足した。


【今回の攻略メモ】

持ち帰り選別(もちかえりせんべつ) Lv.1】

【手荷物と接続登録を分ける】

【大事なものを重さだけで判断しない】


 縁ログ(えにしログ)に埋もれたコヨリを、ゼルドの影とログルの小さな体が引っ張り出した。


「重かった......」

「全部を抱える一手(いって)は、現状では詰みです」

「分かってる! 分かってるけど、置く時に心が痛い!」

「なら、置く場所を決めましょう」とベルが言う。


 ベルは倉庫の床を四つに分けた。


【手で持つもの】

拠点(きょてん)に預けるもの】

帰還門(きかんもん)へ接続するもの】

【今は触らないもの】


「最後の箱、何?」

未識別(みしきべつ)の縁です。触ると増える可能性があります」

「縁が増えるのは良いことっぽいのに、触ると死ぬ気配がする!」

「良いものでも、今の持ち物欄を圧迫すれば死因(しいん)です」

「ローグライクの人生観、厳しすぎる!」


 アドミニスが世界種(せかいしゅ)を見て、ぽつりと言った。


「きみは、捨てるのが下手だ」

「悪い?」

「いや。僕は、捨てるのがうますぎた」

「......それは、自慢じゃないね」

「うん。自慢じゃない」


 その会話で、倉庫の空気が少しだけ変わった。


 帰還門(きかんもん)の奥で、次の区画が静かに開いた。



 縁の倉庫の扉には、重量注意の札が残った。コヨリは『縁の倉庫――持ち帰り枠が足りない』と書き、下に『全部手で持とうとしない』を追加する。自分への注意書きとして、かなり切実だった。


縁ログ(えにしログ)に埋もれた幼女って、絵面が完全に片付け下手では?」

「片付け下手ではなく、持ち帰り方の()()()です」

「ログル、フォローが事務的!」

「事務的ですが、少し優しめにしました」

「優しさ、どこ!?」

「片付け下手と言わなかった点です」

「言ったも同然!」


「神様」

「うん」

「捨てるのが上手すぎた、って言葉は覚えておく」

「うん」

「次に軽くしようって言ったら、ベルの倉庫へ放り込む」

「かなり怖いね」

「神様用の棚も作る?」

「遠慮するよ」


 コヨリは笑い、重い世界種から手を離した。手放すのではなく、つなぎ直す。その違いを、少しだけ覚えた。

【登場人物紹介】

コヨリ:縁の倉庫――持ち帰り枠が足りないで帰還門攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様を刺す。


【今回の勇者ステータス】

総死亡回数:1006回 → 1008回

千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止/縁の倉庫――持ち帰り枠が足りない後も不動

神様側死亡ログ送信:遮断維持/拠点保存ログ確認番号05

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

神様仕様突破:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡対象上書き Lv.1】【千回死亡条件破壊 Lv.1】

ログ・所有権:【死亡ログ返還 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】

帰還門攻略:【神様案内警戒 Lv.1】【名前保持 Lv.1】【記憶ログ識別 Lv.1】【持ち帰り選別 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【持ち帰り選別 Lv.1】

内部更新:帰還門ダンジョン攻略ログを拠点側へ保存。


【ローグライクあるあるネタ】

クリア後の持ち帰り枠と倉庫圧迫のあるあるです。強い剣、合成素材、白紙の巻物、保存壺、復活草、全部持ち帰りたいのに枠が足りない。そこで何を捨てるか悩む感覚を、縁ログの選別へ変換しました。捨てるのではなく接続登録にする、というベルの抜け道が今回の打開策です。


コヨリの怒りとログルの冷静さが刺さった方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで背中を押していただけると助かります!

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