表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第25章 帰還門ダンジョン――神様、今さら案内役になる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
229/340

名前の間――勇者コヨリと天野こより

最初の区画は、敵より名前が怖い場所だった。

勇者(ゆうしゃ)名と本名を間違えると、帰るのは“役割”だけになる。


最初の扉を抜けると、床一面に名前が敷き詰められていた。


 床には、二種類の札が交互に並ぶ。


勇者(ゆうしゃ)コヨリ】

天野こより(あまのこより)


 どちらも自分だ。なのに、同じものではない。コヨリは足を出しかけて止めた。どちらか一枚だけ踏めと言われたら、笑って済ませられない。


「ログル。これ、間違えたらどうなる?」

帰還門(きかんもん)が役割名だけを認識する可能性があります」

「役割名だけ帰るって何!? ランドセルだけ家に帰るみたいな怖さなんだけど!」

「比喩としては近いです」

「近いんだ!? やだよ、玄関にランドセルと勇者(ゆうしゃ)の称号だけ置いてあって、本人が異世界に残るの!」


 アドミニスは窓の中で目を伏せた。


「以前は、役割名だけでも帰還処理を通せると思っていた。勇者(ゆうしゃ)という役割が元世界へ戻れば、本人も引き寄せられる、と」

「思っていた、で人間を分割しないで」

「......うん。ここは、君の怒りが正しい」


 ベルが札の縁を調べる。ネムは【生者本人確認】と書かれた受付印を出し、ゼルドは魔王(まおう)の影を床に伸ばして札の隙間を押さえた。


勇者(ゆうしゃ)様、声に出してください。本名と、ここで使ってきた名前を、両方」

「え、今?」

「名前の間です。名前を自分で持っている証明が必要です」

「急に面接みたいにしないで。落ちたら帰還門(きかんもん)不採用なの?」


 コヨリは喉を鳴らした。笑いに逃げようとしたが、声が少し詰まる。


「わたしは、コヨリ。勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)。神様のクソゲーで千回以上死んだ幼女勇者(ゆうしゃ)

「はい」

「それで......天野こより(あまのこより)。たぶん、家に帰りたい子」

 床の白札が一瞬だけ震えた。アドミニスが何か言いかける。コヨリは手で制した。


「今のは、神様の補足いらない」

「分かった」


 踏むべき札は一枚ではなかった。ベルが二枚の名義を糸で結ぶ。ログルが死亡ログ(しぼうログ)の登録名と召喚時の欠落名を重ねる。ネムが生きている方に受付印を押す。


 コヨリは二つの名前の間へ足を置いた。だが、神様仕様(かみさましよう)は性格が悪い。札の下から三枚目が滑り出る。


【死亡対象:勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)


「またお前かああああ!」


 驚いて足がずれ、二枚の札を同時に踏んだ。体が軽くなる。腕が勇者(ゆうしゃ)側へ、胸の奥が天野こより(あまのこより)側へ引かれる。

 次の一手(いって)で、コヨリは読み違えた。


 名前の間――勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)天野こより(あまのこより)の最後で、コヨリは判断を一拍だけ遅らせた。油断とは少し違う。進むための正解に見える一手(いって)が、別の角度から死因(しいん)へ変わる。帰還門(きかんもん)の白い光が足首をさらい、さっきまで読めていた盤面を裏返した。


死亡ログ(しぼうログ)

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1002回 → 1004回】

【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】

【神様側送信:遮断】

拠点(きょてん)側保存:実行】

死因(しいん):名前の間――勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)天野こより(あまのこより)の攻略中、帰還門(きかんもん)仕様の(わな)を踏んだ】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)に戻ると、停止カウンターは相変わらず黒いままだった。名前の間――勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)天野こより(あまのこより)で死んでも、千回条件の針は動かない。けれど総死亡回数(そうしぼうかいすう)だけは律儀に増え、コヨリの機嫌を一段だけ削った。


「増えた」

「はい」

「神様側には?」

「送信されていません。座標事故として拠点(きょてん)側に保存されています」

「じゃあ神様の点数にはならない。でも、わたしの痛い記録にはなる。うれしくない種類の勝利!」


 アドミニスは何かを言おうとして、今度は少し待った。その待ち方だけは、前よりましだった。コヨリは濡れた髪を払うように頭を振り、床へ新しいメモを書き足す。

 ベルは二枚の名札を見比べ、眉間にしわを寄せた。


勇者(ゆうしゃ)様。これは名前の問題に見えて、所有権の問題です」

「名前にも所有権あるの?」

「あります。呼ぶ側が勝手に貼った役割名と、本人が持っていた名前は別物です」

「神様、わたしの名前に勝手にラベル貼ったの?」

「召喚時の登録としては、そうなります」とアドミニスが言った。


 コヨリは振り返り、両手を腰に当てた。


「人を冷蔵庫の作り置きみたいにラベル管理しないで」

「管理しないと、世界間転送で識別できなくなる」

「識別できないからって『勇者(ゆうしゃ)』って大ざっぱなラベル貼るな! せめて名前を聞いて!」

「聞く前に、召喚が始まっていた」

「それ、拉致の手順としても雑!」


 アドミニスは言葉を探した。探して、すぐ見つからなかった。コヨリは少しだけ胸がざわつく。怒鳴りたい気持ちは強いのに、床の【天野こより(あまのこより)】の文字を見ると、別の怖さが混ざる。自分の名前を、ずいぶん久しぶりに真正面から見た気がした。


 ネムが受付印を持ち上げる。


「生きている人の名前は、生きている人が持ちます」

「ネム、それ、すごく当たり前だけど、今めちゃくちゃ効く」

「当たり前を守らないと、死んだことにされます」

「急にネム節!」


 ゼルドの影が床を押さえた。


「役割だけを帰す扉など、勇者(ゆうしゃ)を消費する穴にすぎぬ」

「ゼルドさん、魔王(まおう)なのにいいこと言う」

魔王(まおう)だから分かる。役割の名で呼ばれ続ける不快さはな」

魔王(まおう)さんも、名前を雑に使われてたもんね」

「余は魔王(まおう)だが、魔王(まおう)役の札ではない」


 その言葉で、コヨリの足は少しだけ定まった。勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)も、天野こより(あまのこより)も、どちらかを捨てるものではない。重ねて持つ。そのための一手(いって)を探す。


 そのメモは、攻略情報であり、怒りの置き場所でもあった。


【今回の攻略メモ】

名前保持(なまえほじ) Lv.1】

【神様の案内は使う。ただし、信用とは別】

【帰るための因子は、捨てるのではなくつなぎ直す】


 分離しかけた瞬間、コヨリの視界は二つに割れた。


 片方では、木の短剣を持った勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)が立っている。もう片方では、制服のような影をまとった天野こより(あまのこより)が、玄関らしき場所で振り返っていた。どちらも自分だ。どちらかを選べと言われたら、たぶん(......)泣く。泣く前に怒るかもしれない。


「両方!」

勇者(ゆうしゃ)様、声を保ってください」

「両方わたし! 勇者(ゆうしゃ)だけ帰ってもダメだし、天野こより(あまのこより)だけ帰っても、ここで死んだわたしが消える!」

「その認識で合っています」


 ログルの声が二つの視界の真ん中で聞こえた。ネムの受付印が白い札を押さえ、ベルの契約糸が名前を結び、ゼルドの影が分離の隙間へ踏み込む。


勇者(ゆうしゃ)も本名も、どちらも持て」

「ゼルドさん、命令形が似合いすぎる」

魔王(まおう)だからな」

「こういう時だけ魔王(まおう)が頼れる!」


 コヨリは歯を食いしばって、二つの名前を胸の中で重ねた。


 帰還門(きかんもん)の奥で、次の区画が静かに開いた。



 区画の端に、今回の失敗を写す小さな石板があった。コヨリはそこへ、乱暴な字で「名前の間――勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)天野こより(あまのこより)」と書きつける。きれいな攻略名ではない。むしろ、怒りと焦りと、少しだけ残った笑いをそのまま押し込んだような字だ。


「名前の練習って、あとで思い出したら恥ずかしいやつでは?」

「恥ずかしさより、本人確認が優先です」

「ログル、情緒を受付窓口に置き忘れてない?」

「帰還処理では、情緒も後で照合します」

「後で!? 今も見て!」

「現在は名前の保持を優先します」

「正論が冷たい!」


 アドミニスはそのやり取りを、今度は遮らずに待った。待てるなら最初から待ってほしかった、という文句は喉元まで来たが、コヨリは飲み込まない。ちゃんと言う。


「神様。今の待ち方は、少しだけまし。でも、最初からそうして」

「......うん。覚える」

「神様が今さら覚える側に回ってるの、変な感じ」

「君に攻略されたからね」


 コヨリは返す言葉を探し、結局、鼻で笑った。


【登場人物紹介】

コヨリ:名前の間――勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)天野こより(あまのこより)帰還門(きかんもん)攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様(かみさましよう)を刺す。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1002回 → 1004回

|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止/名前の間――勇者コヨリ(ゆうしゃコヨリ)天野こより(あまのこより)後も不動

神様側死亡ログ(しぼうログ)送信:遮断維持/拠点(きょてん)保存ログ確認番号03

クラス:帰還者候補(きかんしゃこうほ)死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

神様仕様突破:【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.3】【死亡対象上書きしぼうたいしょううわがき Lv.1】【千回死亡条件破壊せんかいしぼうじょうけんはかい Lv.1】

ログ・所有権:【死亡ログ返還(しぼうログへんかん) Lv.1】【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.3】【死亡ログ所有権確認しぼうログしょゆうけんかくにん Lv.2】

帰還門攻略:【千回後死亡ログ確認せんかいごしぼうログかくにん Lv.1】【神様案内警戒かみさまあんないけいかい Lv.1】【名前保持(なまえほじ) Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【名前保持(なまえほじ) Lv.1】

内部更新:帰還門ダンジョン(きかんもんダンジョン)攻略ログを拠点(きょてん)側へ保存。


【ローグライクあるあるネタ】

名前登録や装備名メモのミスを帰還名義に変換しました。未識別アイテムへ仮名をつける時、あとで自分のメモに騙されることがあります。今回は【勇者コヨリ】と【天野こより】を取り違えると、本人ではなく役割だけが帰りかける名前識別事故にしています。


死亡回数(しぼうかいすう)は増えますが神様ポイントには入りません。続きが気になる方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで支えていただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ