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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第25章 帰還門ダンジョン――神様、今さら案内役になる

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アドミニス、案内役になる

帰還門(きかんもん)の入口には、なぜかアドミニスの案内板が立っていた。

コヨリは案内役の名前を見ただけで警戒する。


帰還門(きかんもん)建設予定地の床は、勝手に受付窓口みたいな形へ変わっていた。


 白い階段の横には、案内板があった。


帰還門ダンジョン(きかんもんダンジョン)入口】

【案内役:主神(しゅしん)アドミニス】

【信頼度:要確認】


「信頼度が自己申告じゃないところだけは褒める」

「褒められている気がしないな」

「褒めてないからね!」


 白い窓の中でアドミニスが肩をすくめた。いつもの軽い笑みはある。けれど、目の奥には疲れが残っていた。コヨリはそれを見て、少しだけ言葉を選びかけた。選びかけて、やめた。疲れているからといって、説明なしで千回殺していい理由にはならない。


「で、何。神様が今さら案内役............? 道案内アプリに低評価つけられすぎて、本人が出てきたの?」

「旧式の帰還門(きかんもん)ロックは、僕の権限がないと開かない」

「最初から出せばよかったじゃん」

「出せなかった。説明すると、帰還門(きかんもん)が拒否反応を起こす仕様があって」

「はい出た、仕様。神様の言い訳界の便利な(つぼ)

「便利な(つぼ)ではないよ。割ると、だいたい僕が痛い」

「痛いならなおさら、最初に言って!」


 ベルが椅子を引いた。座るためではない。羽ペンと契約紙を置くためだ。


「案内役としての責任範囲を明文化してください。危険情報の隠蔽、旧式ロック解除失敗、誤誘導、|たぶん発言による損害、すべて条項に入れます」

「ベルさん、僕を訴える準備が早いね」

「準備ではありません。すでに始まっています」

「うわあ、神様が法務に刺されてる。絵面だけでちょっと元気出る」


 ネムは受付票へ【案内役死亡責任】と書きかけ、途中で首をかしげた。


「案内役さんが死ぬ場合、受付はこちらですか」

「僕は死なないよ」

「そういう人ほど、だいたい書類が死にます」

「書類が死ぬという概念を、僕は今日知った」


 ゼルドは鼻で笑い、白い階段を指さした。


「案内役を名乗るなら、まず(わな)の場所を言え」

「入口すぐの床に、同意床がある」

「あるんかい! しかも入口すぐ! 神様ァ、玄関マットに地雷を混ぜるな!」


 コヨリが一歩下がった瞬間、床文字が光った。


【この説明を読んだ時点で同意しました】


「読んでない! 今、読まされた!」

勇者(ゆうしゃ)様――足元、判定が来ます」

「同意してないって叫ぶのは行動?」

「大声は微妙です」

「微妙な仕様で幼女を試すなああああ!」


 床が反転し、コヨリの足元だけが白い穴になった。

 次の一手(いって)で、コヨリは読み違えた。


 アドミニス、案内役になるの最後で、コヨリは判断を一拍だけ遅らせた。油断とは少し違う。進むための正解に見える一手(いって)が、別の角度から死因(しいん)へ変わる。帰還門(きかんもん)の白い光が足首をさらい、さっきまで読めていた盤面を裏返した。


死亡ログ(しぼうログ)

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1001回 → 1002回】

【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】

【神様側送信:遮断】

拠点(きょてん)側保存:実行】

死因(しいん):アドミニス、案内役になるの攻略中、帰還門(きかんもん)仕様の(わな)を踏んだ】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)に戻ると、停止カウンターは相変わらず黒いままだった。アドミニス、案内役になるで死んでも、千回条件の針は動かない。けれど総死亡回数(そうしぼうかいすう)だけは律儀に増え、コヨリの機嫌を一段だけ削った。


「増えた」

「はい」

「神様ポイントには入ってない?」

「送信は遮断されています。現在、神様側ポイントカードは停止しています」

「わたしが言うのはいいけど、ログルが正式名称みたいに言うと急に腹立つ!」

「正式名称ではありません。勇者様の比喩を、処理状況に合わせて引用しました」

「その冷静な引用がいちばん腹立つ!」

「なら、まあ......いや、死んでるから全然よくない! わたし、何回死ねばいいの!?」

帰還門(きかんもん)が開くまでです」

「事務回答やめて!」


 アドミニスは何かを言おうとして、今度は少し待った。その待ち方だけは、前よりましだった。コヨリは濡れた髪を払うように頭を振り、床へ新しいメモを書き足す。

 階段へ入る前に、ベルは本当に契約書を作った。


【案内役アドミニスに関する暫定契約】

【一、危険を知っている場合は黙らない】

【二、たぶんを使う場合は根拠も添える】

【三、勇者(ゆうしゃ)を試験材料にしない】

【四、隠し事がある場合は、隠している事実だけでも申告する】


「ベル、四番がすでに不穏」

「完全開示を期待できない相手への最低限の首輪です」

「首輪って言った。神様に首輪って言った」

「必要なら鎖も付けます」

「法務が魔王(まおう)より怖い!」


 アドミニスは文面を眺め、苦笑した。だが、拒否はしない。そこがまた、コヨリにはむずむずした。反省しているのか、追い詰められているだけなのか、まだ識別できない。


「きみたちは、僕を信用していない」

「そりゃそうでしょ」

「うん。信用されることを、僕は手順に入れていなかった」

「また言い訳?」

「反省のつもりだった」

「反省なら、『信用される努力をします』まで言って」

「信用される努力をする」

「棒読み! 神様、感情のチュートリアル受けて!」


 ログルが小さく尾を揺らす。


勇者(ゆうしゃ)様、案内役を完全排除すると、旧式ロックの解除に必要な情報が欠けます」

「つまり、使うしかない」

「はい。ただし、信用とは別です」

「道具扱い?」

「協力者扱いです。危険な協力者です」

「危険な協力者って、未識別(みしきべつ)腕輪(うでわ)より怖いんだけど」


 コヨリは契約書の最後に、自分で一行を書き足した。


【五、コヨリが怒った時、アドミニスは逃げない】


 アドミニスはその文字を見て、ほんの少しだけ目を細めた。


「分かった。逃げない」

「今だけじゃないよ」

「今だけではない」


 言質を取った瞬間、床の同意(わな)が発光した。神様仕様(かみさましよう)は、会話の良い空気を待っていたみたいに性格が悪かった。


 そのメモは、攻略情報であり、怒りの置き場所でもあった。


【今回の攻略メモ】

神様案内警戒かみさまあんないけいかい Lv.1】

【神様の案内は使う。ただし、信用とは別】

【帰るための因子は、捨てるのではなくつなぎ直す】


 契約書に署名したあと、アドミニスは階段の一段目を指した。


「最初の区画は、名前だ」

「名前?」

帰還門(きかんもん)は、誰を帰すかを決めなければ開かない」

「そんな当たり前のこと、今まで決めてなかったの?」

「決めていた。勇者(ゆうしゃ)、という役割で」

「はい最悪。いま最悪の答え出た」


 ログルの宝石が低く鳴った。怒りではなく、記録が反応した音だ。


勇者(ゆうしゃ)様。召喚時ログに、名前欠落があります」

「え、わたしの名前、最初から雑に扱われてた?」

「雑というより、急いでいました」とアドミニス。

「急いで誘拐したってこと?」

「......言い換えが強い」

「弱く言ったら許されると思うな!」


 階段の奥から、名前札が擦れる音がする。コヨリは深呼吸した。次の区画では、敵を殴るより、自分を自分だと言い張る方が大事になる。なんだそれ、と言いたい。でも、帰るためには避けられない。


 帰還門(きかんもん)の奥で、次の区画が静かに開いた。



 区画の端に、今回の失敗を写す小さな石板があった。コヨリはそこへ、乱暴な字で「アドミニス、案内役になる」と書きつける。きれいな攻略名ではない。むしろ、怒りと焦りと、少しだけ残った笑いをそのまま押し込んだような字だ。


「これ、契約書の余白に残したら、あとで読み返して腹立つやつでは?」

「腹立ちも記録対象です」

「ログル、感情の保管方法が雑!」

勇者(ゆうしゃ)様の怒りは、次回の(わな)回避に有用です」

「怒りを攻略資源にしないで!」

「すでに複数回、有効活用されています」

「実績で殴るな!」


 アドミニスはそのやり取りを、今度は遮らずに待った。待てるなら最初から待ってほしかった、という文句は喉元まで来たが、コヨリは飲み込まない。ちゃんと言う。


「神様。今の待ち方は、少しだけまし。でも、最初からそうして」

「......うん。覚える」

「神様が今さら覚える側に回ってるの、変な感じ」

「君に攻略されたからね」


 コヨリは返す言葉を探し、結局、鼻で笑った。



【登場人物紹介】

コヨリ:アドミニス、案内役になるで帰還門(きかんもん)攻略に振り回される。ログル:盤面と記録を照合。アドミニス:案内しつつ言い訳を重ねる。ベル・ネム・ゼルド:それぞれ契約、死の扱い、役割の被害から神様仕様(かみさましよう)を刺す。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1001回 → 1002回

|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止/アドミニス、案内役になる後も不動

神様側死亡ログ(しぼうログ)送信:遮断維持/拠点(きょてん)保存ログ確認番号02

クラス:帰還者候補(きかんしゃこうほ)死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

神様仕様突破:【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.3】【死亡対象上書きしぼうたいしょううわがき Lv.1】【千回死亡条件破壊せんかいしぼうじょうけんはかい Lv.1】

ログ・所有権:【死亡ログ返還(しぼうログへんかん) Lv.1】【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.3】【死亡ログ所有権確認しぼうログしょゆうけんかくにん Lv.2】

帰還門攻略:【千回後死亡ログ確認せんかいごしぼうログかくにん Lv.1】【神様案内警戒かみさまあんないけいかい Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【神様案内警戒かみさまあんないけいかい Lv.1】

内部更新:帰還門ダンジョン(きかんもんダンジョン)攻略ログを拠点(きょてん)側へ保存。


【ローグライクあるあるネタ】

案内NPCや説明板を信用しすぎる事故の変換です。看板やチュートリアルが正しくても、読んだ後の一歩で罠を踏むことがあります。さらに同意床、店の出口、初見の床効果のように、文章より足元の方が危険な場面が多いので、アドミニスの案内役化を“信頼度:要確認”として処理しました。


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