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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第25章 帰還門ダンジョン――神様、今さら案内役になる

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千一回目からは自腹です

1000回で終わったと思った。

けれど、死亡回数(しぼうかいすう)は普通に増えた。

|停止した千回カウンター《ていししたせんかいカウンター》は、拠点(きょてん)中央で黒く固まっていた。


 数字は【1000】。ぴたりと止まっている。白く回っていた神様側の針は折れ、周囲に散った破片が薄い霜みたいに床へ張りついていた。コヨリはその前で腕を組み、胸を張り、できるだけ勝者らしい顔を作った。作っただけだ。膝はまだ笑っているし、1000Fで見た白い空欄の感触が指先に残っている。


「ログル」

「はい」

「勝ったよね」

「はい。千回死亡条件せんかいしぼうじょうけんによる世界切替処理(せかいきりかえしょり)は破壊されました」

「じゃあ、もう死なない?」

「それは別です」

「そこは一回、夢を見せて!」


 ログルの額の宝石は、前より少し濁った光を帯びていた。それでも声はいつも通り、腹立つほど正確だった。


 コヨリは停止カウンターに近づいた。危険地帯ではない。拠点(きょてん)だ。だから一手一動ワンターン・ワンアクションの緊張は少し薄い。けれど、白い数字の残骸は、どう見ても安全な置物ではなかった。ネムは受付票を抱え、ベルは羽ペンを構え、ゼルドはカウンターを魔王(まおう)城の呪具を見る目でにらんでいる。


「片づけよう。こんなの拠点(きょてん)の真ん中に置いたままだと、インテリアが最悪」

「触る前に所有権を確認します」

「ベル、カウンターに所有権とかあるの?」

「あります。神様の物か、勇者(ゆうしゃ)様の傷跡か、粗大ごみかで処理が変わります」

「粗大ごみ扱いでお願いします」

「神様由来の粗大ごみは、自治体が泣きます」


 その時、カウンターの横に小さな白札が出た。


【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】

【神様側死亡ログ(しぼうログ)送信:遮断】

総死亡回数(そうしぼうかいすう):記録継続】


 最後の一行だけ、字が妙に生き生きしていた。


総死亡回数(そうしぼうかいすう)、記録継続......?」

「はい。勇者(ゆうしゃ)様の死亡そのものは、世界仕様として残っています」

「待って。千回で終わりじゃなかったの?」

「千回で終わったのは、神様側の条件です」

「わたしの死亡は終わってないの!?」

「残念ながら」

「何回死ねばいいの、わたし!」


 コヨリが叫んだ拍子に、指先がカウンターへ触れた。


 かち、と音がした。


 止まったはずの針は動かない。かわりに、カウンターの底から白い電流が跳ね、コヨリの腕を通って頭のてっぺんまで駆け抜けた。視界が真っ白になる。一瞬だけ、1000Fの床に浮いていた【死亡対象】の欄が見えた気がした。


死亡ログ(しぼうログ)

総死亡回数(そうしぼうかいすう):1000回 → 1001回】

【|千回死亡条件カウンター《せんかいしぼうじょうけんカウンター》:1000/1000 停止】

【神様側送信:遮断】

死因(しいん):停止したカウンターを粗大ごみ扱いしようとして感電した】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 白い椅子ではなく、返還炉の横で目が覚めた。


 コヨリは跳ね起き、両手を見た。焦げていない。髪も無事。けれど、ログ表示は無情に増えている。


「増えてるううううううううううううう!」

「はい。総死亡回数(そうしぼうかいすう)です」

「1001って何!? 千回死亡幼女勇者(ゆうしゃ)、タイトルを越えたらどうなるの!? 千一回死亡幼女勇者(ゆうしゃ)に改名!?」

「作品名の処理は管轄外です」

「管轄して!」


 空中に白い窓が開いた。いつもの笑顔を浮かべたアドミニスが、少し気まずそうに手を上げる。24章の最後に見た時よりも、輪郭が薄い。勝った相手、というより、壊れた仕様の向こうで残業している管理者みたいだった。


「おめでとう、勇者(ゆうしゃ)ちゃん。千一回目からは、きみ自身のログだ」

「言い方ァ! 自腹みたいに言うな!」

「神様側のポイントには加算されない、という意味だよ」

「ポイントって言ったのはわたしでも、神様が言うと一気に腹立つ! 死ぬたびに世界滅亡スタンプ押してた側が、急に会員規約みたいな顔しないで!」

「......うん。そのたとえは、僕にも刺さるね」


 アドミニスは逃げなかった。言い訳を飲み込んだ顔をした。だが、コヨリはその顔だけで許す気にはならない。


「死ぬのは嫌だよ。嫌だけどさ」

「はい」とログルが言う。

「でも、わたしの死に方を、神様のポイントカードにするのはもっと嫌」


 ログルの宝石が一度だけ光った。


「現在、神様側ポイントカードは停止しています」

「わたしが言うのはいいけど、ログルが()()()()()()()()言うと急に腹立つ!」

「正式名称ではありません。勇者(ゆうしゃ)様の比喩を処理状況に合わせて引用しました」

「その冷静な引用がいちばん刺さるんだよ!」


 コヨリが床に座り込むと、停止カウンターの横へ新しい白札が滑り出た。今度の札は、さっきより文字が多い。多い時点で嫌な予感がした。


【総死亡回数:本人死亡ログとして記録】

【帰還門ダンジョン内死亡:帰還因子反動ログを追加記録する場合あり】

【例:名前/記憶/縁/座標/時間/扉に干渉して死んだ場合、本人死亡+因子反動で二件扱い】

【千回死亡条件カウンター:加算なし】


「待って。二件扱いって何」

「帰還門ダンジョン内では、勇者様の肉体死亡と、帰還因子側の反動損壊が別ログとして保存される場合があります」

「つまり、一回死んだだけなのに二回ぶん増えることがある?」

「はい」

「やだああああああああああああ! 死の会計だけ複式簿記にしないで!」


 ベルが羽ペンを止めずに言った。


「正確には、神様側へ送信されていた頃は一つに圧縮されていました。遮断後は、拠点側が詳細に分けて保存します」

「詳細に分けるな! 痛みは一括でいい!」

「一括にすると、どの帰還因子が壊れたか分かりません」

「正論で死亡回数を増やすなあ!」


 アドミニスは、少しだけ気まずそうに視線をそらした。


「以前は、そういう細かい反動を世界切替処理へ吸わせていた。だから、見かけ上は一回にまとめられていた」

「見かけ上って言った。つまり、今まで見えてなかっただけ?」

「うん。見えないところで、帰還門の因子は傷んでいた」

「最悪の家計簿を後出しで見せられてる気分!」


 ログルの宝石が静かに光る。


「ただし、すべての死亡が二件扱いではありません。帰還門の外での事故、純粋な肉体死亡、または記録領域だけを守った場合は一件扱いになることがあります」

「ややこしい!」

「帰還門がややこしいためです」

「扉なら開くか閉じるかにして!」


 ネムが眠そうに受付票をめくった。


「死んだ、死にかけた、死んだことにされた、帰還因子が死んだ、書類が死んだ。分けます」

「最後の書類が死んだは絶対いらない!」

「神様の書類は、よく死にます」

「神様ァ、死ぬものの種類を増やすな!」


 笑いながら怒ったせいで、胸の奥が少しだけ軽くなった。千回で終わらない。帰るまで、まだ死ぬ。しかも、帰還門の中では一回の失敗が二つのログに割れることもある。けれど、もう神様の条件には使わせない。コヨリは停止したカウンターを見上げ、焦げ跡の残る指で床に線を引いた.


【神様側送信、禁止】

総死亡回数(そうしぼうかいすう)は増える】

【でも、()()()()()()


 ベルがそれを契約文へ写し、ネムが受付票に小さな丸をつけた。ゼルドは鼻を鳴らし、「ようやく、勇者(ゆうしゃ)の死が勇者(ゆうしゃ)へ返ったか」と低く言った。


 帰還門(きかんもん)建設予定地の奥で、扉のような音がした。開く音ではない。泣き声に似た、細いきしみだった。


 ベルが停止カウンターの脇へ札を立てた。


神様側送信(かみさまがわそうしん):封印中】

拠点側記録(きょてんがわきろく):継続中】

総死亡回数(そうしぼうかいすう):本人に通知】


「本人に通知しなくていい! 死んだ本人が一番知ってる!」

「通知を切ると、死因学習(しいんがくしゅう)に支障が出ます」

「ログル、冷静な顔でひどいこと言うよね」

「ひどい現実を、柔らかい声でお伝えしています」

「そこは包む努力をして!」


 アドミニスが小さく咳をした。言い訳の予告みたいな咳だったので、コヨリは先に指を突きつける。


「今から『でも』って言ったら、返還炉に投げる」

「......でも、とは言わない。補足をする」

「補足も言い訳の親戚だからね」

「それでも必要だ。千回死亡条件せんかいしぼうじょうけんを止めたことで、僕の干渉は大幅に切れた。きみの死を世界切替の燃料にする線は、もう動かない。ただ、異世界の危険は残る。(わな)も、敵も、帰還門(きかんもん)の反動も」

「そこだけ現実的! 神様なら危険も消してよ!」

「消せたら、最初からこんな遠回りをしていない」


 その答えは、少しだけ本音に聞こえた。コヨリは唇を尖らせたまま、すぐには言い返さない。代わりに、停止カウンターの黒い面を指でつつかず、少し離れた位置からにらんだ。さっき死んだので、学習はした。


「じゃあ、これから死んだ分は?」

「きみ自身の記録として残る」

「神様に盗まれない?」

「盗ませません」とログルが言った。アドミニスより先だった。


 その一言で、コヨリは少しだけ笑った。頼もしい。だが、頼もしいからこそ、次にログルの宝石が割れないかが怖くなる。


 停止カウンターの裏側には、細い溝があった。ベルがそこへ紙片を差し込むと、焦げたような小さなログが吐き出される。


【返却不能】

【返却済】

【返却中】

【本人へ確認】


「本人へ確認って、今さら?

「これまで本人確認なしで進めていた処理が、壊れたことで逆に確認を求めています」

神様仕様(かみさましよう)、壊れてから礼儀を覚えるのやめて!」


 アドミニスが困ったように笑い、すぐに笑みを引っ込めた。笑う場面ではないと、ようやく判断したらしい。コヨリはそれを見て、ほんの少しだけ鼻を鳴らす。


「今のは、ちょっとだけまし」

「採点が厳しいね」

「千回ぶん減点スタートだから」

「それは、そうだ」


 カウンターはもう進まない。けれど、コヨリの足元には次の死因(しいん)がいくらでもある。帰還門(きかんもん)のきしみ、返還炉の白煙、未識別(みしきべつ)のログ片。全部が、帰るために触らなければならないものだった。

【登場人物紹介】

コヨリ:千回を越えても死ぬと知り絶叫。ログル:ポイントカード比喩を真面目に拾い、逆に怒られる。アドミニス:千一回目の意味を説明するが、言い方で燃える。ベル:所有権を確認し、ネム:送信遮断後の受付を見直す。


【今回の勇者ステータス】

総死亡回数:1000回 → 1001回

千回死亡条件カウンター:1000/1000 停止/千一回目からは自腹です後も不動

神様側死亡ログ送信:遮断維持/拠点保存ログ確認番号01

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】


【獲得済み主要スキル】

神様仕様突破:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡対象上書き Lv.1】【千回死亡条件破壊 Lv.1】

ログ・所有権:【死亡ログ返還 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】

帰還門攻略:【千回後死亡ログ確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【千回後死亡ログ確認 Lv.1】

内部更新:帰還門ダンジョン攻略ログを拠点側へ保存。


【ローグライクあるあるネタ】

ローグライクでは、クリアしたと思った後の確認行動で事故ることがあります。階段を降りる直前に見えている罠を踏む、帰還床の横の道具を拾いに行く、報酬部屋の停止装置を不用意に触る、という“終わった後の一手”が死因になる形です。今回は、千回条件を倒した直後の油断を、停止カウンター感電死と神様側送信停止の確認ログへ変換しました。


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