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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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1000F、千回目の死亡

1000F。

最後に死ぬのは、コヨリではない。

 1000Fの床には、コヨリの名前が白く浮かんでいた。


【1000F】

【第1000死亡】

死亡対象(しぼうたいしょう)勇者(ゆうしゃ)コヨリ】

【送信先:主神(しゅしん)アドミニス】

処理(しょり)千回死亡条件せんかいしぼうじょうけんによる世界切替】


 広い部屋だった。敵はいない。宝箱(たからばこ)もない。階段(かいだん)もない。床、壁、天井、全部が白い。神様の管理画面(かんりがめん)を、そのままダンジョン最深部にしたような場所だ。


 コヨリは、怖かった。


 怖い、と言葉にする必要もないくらい、手が震えている。白紙巻物(はくしのまきもの)を持つ指が冷たい。ここで失敗すれば、千回目の死亡対象(しぼうたいしょう)勇者(ゆうしゃ)コヨリで確定する。世界が切り替わる。死亡ログ(しぼうログ)は神様側へ送られる。自分がどうなるのか、アドミニスは答えなかった。


 逃げ道はない。


 でも、一人ではない。


 ネムが窓口を開く。ベルが正式文面を広げる。ゼルドが魔王条件札(まおうじょうけんふだ)を黒い炎で押さえる。ミネルが欠けた仕様書の赤線部分だけを読む。ログルが、ひびの入った宝石を高く掲げる。


 アドミニスの窓が開いた。


勇者(ゆうしゃ)ちゃん」

「今は、ちゃん付けやめて」

「......コヨリ」


 その声は、いつもの軽さを失っていた。


「世界を救うためだったんだ」

「うん」

「本当に、滅びないシードが必要だった」

「うん」

「でも」

「でも――説明しないで、わたしの死を使った」


 アドミニスは黙った。


 コヨリは泣きそうだった。怒っている。怖い。帰りたい。ログルを失いたくない。ネムにも、ベルにも、ゼルドにも、ここまで残った消えたシードの墓標にも、勝手に消えてほしくない。


「わたし、神様を死なせたいんじゃない」


 白紙巻物(はくしのまきもの)の端が震える。


「仕様を、死なせたい」


 死亡判定(しぼうはんてい)が落ちてくる。


 攻撃ではない。()でも爪でも魔法でもない。白い確定処理(しょり)。名前を持った死が、コヨリの頭上からまっすぐ降りてくる。


一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.2】が、音を立てて割れた。


 割れた中から、さらに細い光が走る。


一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.3】


 世界が止まる。


 いや、止まったのではない。確定する直前の、名前がまだ空欄でいる一瞬に、コヨリだけが手を伸ばしている。床の表示がほどけ、【死亡対象(しぼうたいしょう)勇者(ゆうしゃ)コヨリ】の文字が、白い空欄に戻る。


 ベルの声。


「正式文面、今です!」


 ミネルの声。


「欠落部分、補完済みです!」


 ネムの声。


「対象欄、開けた」


 ゼルドの声。


魔王条件札(まおうじょうけんふだ)、こちらで止める!」


 ログルの声。


「送信先、拠点(きょてん)側へ差し戻します。勇者(ゆうしゃ)様、書いてください!」


 コヨリは、白紙巻物(はくしのまきもの)に書いた。


死亡対象(しぼうたいしょう):|千回死亡条件による世界切替処理《せんかいしぼうじょうけんによるせかいきりかえしょり》】


 長い。間に合わないくらい長い。だが、ベルの文面が文字を支え、ミネルの正式名(せいしきめい)が欠落を埋め、ログルの光が送信線を折り返し、ネムの判子が対象欄を受け、ゼルドの魔力が魔王(まおう)条件を切り離す。


 22章で保存した世界種が、足元で光った。消えたシードの墓場から、名前のない墓標たちが一斉に白い粒を送ってくる。23章でずらしかけた死亡対象(しぼうたいしょう)名が、今度は揺れるだけで終わらない。


 確定する。


【第1000死亡】

死亡対象(しぼうたいしょう):|千回死亡条件による世界切替処理《せんかいしぼうじょうけんによるせかいきりかえしょり》】

【死因:勇者(ゆうしゃ)コヨリに攻略された】


 千回カウンター(せんかいカウンター)が、止まった。


 音は派手ではなかった。カチリ、という、小さな鍵の音だけ。けれど、その瞬間、神様側へ流れていた死亡ログ(しぼうログ)が逆流し、拠点(きょてん)の棚が一斉に光る。死因図鑑(しいんずかん)室のページがめくれ、墓標ログ分類台の黒い札が白く縁取られ、帰還門(きかんもん)建設予定地に青い線が走った。


 コヨリは床に座り込んだ。


 死んでいない(・・・・・・)


 いや、死亡は発生した。第1000死亡は確定した。ただし、死んだのはコヨリではない。神様が作った、|千回死亡条件による世界切替処理《せんかいしぼうじょうけんによるせかいきりかえしょり》。


 ログルが、ふらふらとコヨリの膝へ落ちてきた。コヨリは今度こそ抱きしめる。ここはもう、1000Fの処理(しょり)中ではない。抱きしめても一手ではない。


「ログル」

「はい」

「生きてる?」

「はい。勇者(ゆうしゃ)様も、ぼくも」


 アドミニスの窓が、白く揺れた。彼は何か言おうとして、言葉を失っている。コヨリは涙を拭いた。勝ち誇るほど元気ではない。怒鳴るほど軽くもない。でも、最後に言うことは決めていた。


「神様ァ」


 声は少し震えた。


仕様、死んだよ(・・・・・・・)


死亡回数(しぼうかいすう):999回 → 1000回】

【第1000死亡:対象上書き完了】

【新規獲得:一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.3】

【新規獲得:死亡対象上書きしぼうたいしょううわがき Lv.1】

【新規獲得:千回死亡条件せんかいしぼうじょうけん破壊 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:1000Fで第1000死亡判定だいせんしぼうはんていに触れ、死亡対象(しぼうたいしょう)を自分から【|千回死亡条件による世界切替処理《せんかいしぼうじょうけんによるせかいきりかえしょり》】へ上書きした。死ぬのが怖い(・・・・・・)まま、最後の一手を選んだ。

ログル:送信先を神様側から拠点(きょてん)側へ差し戻し、コヨリに最後の文を書く時間を作った。ひびだらけでも、完全に相棒として立った。

ネム:死亡受付(しぼううけつけ)の対象欄を開き、死んでいない(・・・・・・)コヨリではなく、正しい対象を受け付けた。死神としての筋を通した。

ベル:正式文面を支え、対象名が逃げないよう契約上の穴を塞いだ。最後の勝利に必要な法務の柱。

ゼルド:魔王条件札(まおうじょうけんふだ)を引き受け、勇者(ゆうしゃ)魔王(まおう)を殺し合わせる処理(しょり)から最終判定を切り離した。共闘魔王(まおう)として大きな役目を果たした。

ミネル:正式仕様名の欠落部分を補完。長い説明を飲み込み、必要な一語だけを届けた。

アドミニス:世界救済のためにコヨリの死を使った主神(しゅしん)。今回は本人ではなく、彼の作った仕様が敗北した。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):999回 → 1000回

到達階層(とうたつかいそう):1000F

第1000死亡対象(しぼうたいしょう):【|千回死亡条件による世界切替処理《せんかいしぼうじょうけんによるせかいきりかえしょり》】

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統/帰還者本登録候補

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

最終決戦時:【死因学習(しいんがくしゅう) Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別(みしきべつ)警戒 Lv.5】【総合盤面確認そうごうばんめんかくにん Lv.2】【世界種保存 Lv.1】

神様仕様(かみさましよう)攻略:【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.3】【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.3】【死亡ログ(しぼうログ)返還 Lv.1】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】【死亡対象上書きしぼうたいしょううわがき Lv.1】

所有権・条件系:【死亡ログ所有権確認しぼうログしょゆうけんかくにん Lv.2】【死亡予定拒否(しぼうよていきょひ) Lv.2】【魔王条件切り離しまおうじょうけんきりはなし Lv.1】【対象名精査(たいしょうめいせいさ) Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

レベルアップ:【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.2】→【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.3】

新規獲得:【死亡対象上書きしぼうたいしょううわがき Lv.1】

新規獲得:【千回死亡条件せんかいしぼうじょうけん破壊 Lv.1】

章末更新:【帰還者クラス:本登録候補】

拠点(きょてん)施設更新:【千回カウンター(せんかいカウンター)監視台】→【停止した千回カウンター(せんかいカウンター)

拠点(きょてん)施設更新:【ログ差し戻し(ログさしもどし)台】→【死亡ログ(しぼうログ)返還炉】


【ローグライクあるあるネタ】

最終フロアでは、強敵を倒すのではなく、条件・対象・持ち物・位置を正しく合わせることが勝利条件になる場合があります。今回は1000Fを「ボス撃破」ではなく、「死亡対象(しぼうたいしょう)名の上書き」として処理(しょり)しました。過去の死因ログ、識別、(つぼ)装備外し(そうびはずし)、モンスターハウス、階段(かいだん)前誘惑、全部が最後の一手へ集約されています。


ここまで読んでくださりありがとうございます。コヨリの千回死亡攻略を見守っていただけた方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると、今後の帰還門(きかんもん)攻略もとても励みになります!

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