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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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999F、最後の準備部屋

999F。

敵より怖いのは、最後の確認ミスです。

 999Fは、拠点(きょてん)に似ていた。


 白い床。反省会(はんせいかい)テーブル。壁の【帰る】。死因図鑑(しいんずかん)室の棚。魔王(まおう)相談窓口の小さな看板。ログ差し戻し(ログさしもどし)台。全部が揃っている。けれど、ここは拠点(きょてん)ではない。|神様の究極1000フロアダンジョン《かみさまのきゅうきょくせんフロアダンジョン》の中に作られた、最後の準備部屋だった。


 コヨリは入ってすぐ、足元を見た。


(わな)は?」

「あります」

拠点(きょてん)の顔して(わな)あるの、最悪」

「ここは拠点(きょてん)ではありません」

「似せるなあああああ!」


 (わな)は、机の脚にあった。椅子の下にもある。壁の【帰る】の文字の横には、薄い白い札が貼られている。【帰ったつもり】。コヨリは見つけた瞬間、ものすごく嫌な顔をした。


 最後の準備は、実物を並べて行うことになった。言葉だけで確認すると、神様仕様(かみさましよう)に別の意味を挟まれる。だから、ネムは判子を置く。ベルは正式文面を置く。ゼルドは魔王条件札(まおうじょうけんふだ)の切れ端を置く。ミネルは欠けた仕様書の赤線部分だけを置く。ログルは、ひびの入った宝石からログ差し戻し(ログさしもどし)の光を伸ばす。


 コヨリの前には、白紙巻物(はくしのまきもの)が一枚。


「役割確認」

「ネムさん、死亡受付(しぼううけつけ)の対象欄を開く」

「開く。でも、死んでない人の名前では受けない」

「ベルさん、正式文面」

「【死亡対象(しぼうたいしょう):|千回死亡条件による世界切替処理《せんかいしぼうじょうけんによるせかいきりかえしょり》】です。読点なし、略称なし」

魔王(まおう)さん」

魔王条件札(まおうじょうけんふだ)は余が引き受ける。勇者(ゆうしゃ)死亡条件(しぼうじょうけん)へ戻させぬ」

「ミネルさん」

正式名(せいしきめい)の欠落部分だけ読みます。全文説明は」

「しない」

「......しません」

「ログル」

「送信先を神様側から拠点(きょてん)側へ差し戻します」


 最後に、全員がコヨリを見る。


 コヨリは白紙巻物(はくしのまきもの)を握った。


「わたしは、第1000死亡判定だいせんしぼうはんていの一フレームに手を伸ばす」


 口にすると、怖さが現実になる。逃げたくなる。けれど、言わないまま1000Fへ行く方がもっと怖い。


 確認は終わった。


 終わったのに、コヨリはもう一度見た。判子。文面。札。仕様書。ログル。白紙巻物(はくしのまきもの)。足元。階段(かいだん)。もう一度。さらにもう一度。


勇者(ゆうしゃ)様」

「分かってる。確認しすぎも危ない」

「はい」

「でも――最後だから」

「最後だからこそ、終える判断も必要です」


 その時、机の上の【帰ったつもり】札が動いた。確認を繰り返すほど、準備部屋が拠点(きょてん)に見えてくる。拠点(きょてん)に見えると、気が緩む。気が緩むと、ここで眠りたくなる。


 コヨリのまぶたが重くなった。


 ログルが額をぶつけてくる。痛い。目が覚める。でも、一手遅れた。床の白い札が足に巻きつく。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:最後の確認を確認しすぎて、帰ったつもり札に眠らされた】

【評価:準備は終えて、階段(かいだん)へ】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)へ戻ったコヨリは、すぐに立った。泣かない。騒がない。もう、確認するものは分かっている。


「次、行く」

「はい」

「確認は一回。足元は見る。帰ったつもりにならない」

「はい」


 反省会(はんせいかい)テーブルに、最後の札が置かれる。


第1000死亡判定だいせんしぼうはんてい接触:条件達成】


 ログルの宝石が、今までで一番静かに光った。


死亡回数(しぼうかいすう):998回 → 999回】

【条件達成:第1000死亡判定だいせんしぼうはんてい接触】


 次の挑戦で999Fへ戻る前、コヨリは前髪を結び直した。戦闘力は上がらない。HPも増えない。けれど、視界が少しだけ広くなる。そういう小さな準備を、今のコヨリは馬鹿にしなかった。


「ログル、髪、邪魔じゃない?」

「大丈夫です。右目の視界が前回より広いです」

「それ、数値で出る?」

「出せますが、やめておきます」

「なんで」

勇者(ゆうしゃ)様が数値に文句を言うからです」

「よく分かってる」


 反省会(はんせいかい)テーブルには、最後の持ち物が並んだ。白紙巻物(はくしのまきもの)、手元の復活草(ふっかつそう)場所替えの杖(ばしょがえのつえ)、短い拒否文の札、正式対象名の札。(つぼ)は一つだけ。空きはある。詰め込みすぎない。


 ベルが文面を読み、ネムが判子を確認し、ゼルドが魔王条件札(まおうじょうけんふだ)を折りたたむ。ミネルは、説明したい顔をしながら赤線部分だけを差し出した。コヨリは、全員の顔を見た。


「次、1000Fだよね」

「はい」

「怖い」

「はい」

「でも――確認は一回」

「はい」


 コヨリは深呼吸した。確認しすぎて眠るのは、もうやった。確認しなさすぎて死ぬのも、何度もやった。だから、今度は一回だけ見る。見たら進む。


 壁の【帰る】の下に、最後の小さな文字を書いた。


【行ってくる】


 それは作戦名ではなく、出発の挨拶だった。

【登場人物紹介】

コヨリ:999Fの準備部屋で全員の役割を確認したが、確認しすぎて帰ったつもり札に眠らされた。最後の最後まで一手の終え方を学んでいる。

ログル:確認しすぎるコヨリを止め、最後は額をぶつけて起こした。相棒としてかなり直接的な介入。

ネム:死亡受付(しぼううけつけ)の対象欄を開く役を確認。死んでいない(・・・・・・)人の名前では受けないという姿勢を維持した。

ベル:正式文面を読点なし、略称なしで固定。契約文の最終チェック担当。

ゼルド:魔王条件札(まおうじょうけんふだ)を引き受け、勇者(ゆうしゃ)死亡条件(しぼうじょうけん)へ戻させない役割を確認した。

ミネル:長い説明を我慢し、正式名(せいしきめい)の欠落部分だけ読むと約束した。かなり偉い。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):998回 → 999回

到達階層(とうたつかいそう):999F

主な成果:第1000死亡判定だいせんしぼうはんていへ接触する条件を達成

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

最終準備:【対象名精査(たいしょうめいせいさ) Lv.1】【死亡予定拒否(しぼうよていきょひ) Lv.2】【魔王条件切り離しまおうじょうけんきりはなし Lv.1】【死亡ログ(しぼうログ)返還 Lv.1】【一手前確認 Lv.1】

継続中核:【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.2】【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.3】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】【世界種保存 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

条件達成:【第1000死亡判定だいせんしぼうはんてい接触】

内部登録:【確認終了判断】が反省会(はんせいかい)テーブルへ追加


【ローグライクあるあるネタ】

最終盤では、アイテム確認・装備確認・識別メモ確認が重要ですが、確認に時間をかけすぎると満腹度(まんぷくど)や状況が悪化したり、気が緩んだりします。今回は「最後の準備部屋」を、拠点(きょてん)に似せた(わな)として描き、準備を終える判断そのものを攻略対象にしました。


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