表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
224/340

一手前の墓場

あと一歩。あと一振り。あと一口。

全部、死んだあとに分かるやつです。


 997Fには、墓標がなかった。


 代わりに、床の上へ小さな手形が並んでいる。右へ一歩下がれば助かった手。(つえ)を振れば助かった手。おにぎりを食べれば助かった手。盾を拾わなければ助かった手。全部、コヨリの手と同じ大きさだった。


 コヨリは、最初の手形の前で止まる。


【一歩下がれば助かった】


 隣の手形には、こうある。


階段(かいだん)を降りれば助かった】


 その次。


保存壺(ほぞんつぼ)から出していれば助かった】


「やめて」


 声は小さかった。ツッコミではない。怒鳴りでもない。ただ、胸から漏れた。


 ログルは隣に立ち、何も急かさなかった。ネムも判子を出さない。ベルは書類を閉じ、ゼルドはマントの音を立てないようにしている。


 ここは、過去の死因を笑う部屋ではなかった。


 コヨリはよく死ぬ。死因ログは笑える。神様の仕様は腹立たしい。だけど、この手形の数は、笑いにするには少し多すぎた。


「わたし、死ぬの慣れたって」


 言いかけて、止まった。


 ログルが静かに言う。


「慣れていません」


 コヨリはうつむく。


「覚えただけです。怖さも、痛さも、悔しさも、記録になっただけです」


 床の手形が、ひとつずつ淡く光った。黒狼、ミミック、飢え、(わな)(つぼ)装備外し(そうびはずし)死亡条件(しぼうじょうけん)札。全部が、コヨリを責めるために並んでいるわけではない。ここまで来た道を、最後の一手へ渡すために並んでいる。


 コヨリは膝をつき、手形の一つに自分の手を重ねた。


「ごめんね」

「誰にですか」

「前のわたし」


 言葉にした瞬間、床が沈んだ。墓場は慰めだけでは終わらない。手形が白い札に変わり、全部こちらへ伸びてくる。


【もう一度】

【今度こそ】

【取り返す】

【戻る】


 過去を取り返そうとすると、足が止まる。過去の一手を全部やり直したくなる。その時間はない。1000Fは近い。


 コヨリは立ち上がろうとした。だが、【取り返す】の札が足首に巻きつく。ログルが噛み切ろうとする。ベルが切断文を投げる。ネムが受付不可印を押す。


 それでも、コヨリ自身が手を離さなければ、札は離れない。


「取り返さない」


 コヨリは言った。


「覚えて、行く」


 札が一枚、剥がれた。だが残りが一斉に重くなる。過去の死因は、忘れないと決めた瞬間に重くなるものでもある。


 コヨリは進もうとした。進めなかった。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:一手前の墓場で、取り返したい過去に足を止められた】

【評価:取り返すのではなく、持って進む】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)に戻った時、コヨリはすぐに喋らなかった。


 ログルも待った。ネムも待った。ベルも、ゼルドも、誰も死因を急かさない。白い部屋の静かさが、今日は少しだけ優しかった。


「ログル」

「はい」

「わたし、慣れてなかった」

「はい」

「でも――覚えた」

「はい」

「じゃあ――覚えたまま行く」

「ぼくも、記録したまま行きます」


 壁に書く字は、震えていた。


【取り返さない。持って進む】


死亡回数(しぼうかいすう):996回 → 998回】

【新規獲得:一手前確認 Lv.1】


 一手前の墓場から戻ったあと、コヨリは死因図鑑(しいんずかん)室へ行った。いつもなら、笑える死因を探して少し気を楽にする。今日は違った。棚の前に立ち、ひとつずつ背表紙に触れていく。黒狼。ミミック。飢え。(わな)(つぼ)装備外し(そうびはずし)。どれも嫌いだ。嫌いだけど、いまの自分をここまで運んだものでもある。


「ログル――これ、全部持っていくの重いね」

「はい」

「捨てたら楽?」

「一時的には」

「でも――また同じ死に方する?」

「可能性が高いです」

「じゃあ持つ」


 コヨリは、死因図鑑(しいんずかん)の中から一冊だけ抜き取った。最初の黒狼の記録。ページを開くと、まだ何も分からなかった頃の自分がいた。怖くて、痛くて、神様の説明を信じていた自分。


「この子も、わたしなんだよね」

「はい」

「じゃあ――置いていかない」


 ログルは何も言わず、隣に座った。


 壁の【取り返さない。持って進む】は、少しだけ光っていた。過去をやり直すことはできない。でも、持っていくことはできる。1000Fに持っていくには、少し重い。けれど、コヨリはその重さを忘れたくなかった。


【登場人物紹介】

コヨリ:過去の「あと一手あれば助かった」死因と向き合い、死ぬのに慣れたのではなく覚えただけだと認めた。かなりシリアス寄りの回。

ログル:コヨリの「慣れた」を否定し、怖さも痛さも記録になっただけだと伝えた。相棒として一番大事な言葉を出している。

ネム:今回は受付を急がず、静かに待った。死亡処理(しぼうしょり)担当だからこそ、死因を笑いにしない時間も分かっている。

ベル:書類を閉じて、コヨリの言葉を待った。法務ではなく、仲間としてそこにいる。

一手前の手形:過去の失敗そのもの。責めるためではなく、最後の一手へ持っていくために並んでいる。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):996回 → 998回

到達階層(とうたつかいそう):997F

心理状態:過去死因の受容

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

感情・記録系:【死因学習(しいんがくしゅう) Lv.3】【世界の死因学習(しいんがくしゅう) Lv.1】【世界種保存 Lv.1】【死亡ログ(しぼうログ)返還 Lv.1】【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.3】

決戦系:【対象名精査(たいしょうめいせいさ) Lv.1】【魔王条件切り離しまおうじょうけんきりはなし Lv.1】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【一手前確認 Lv.1】

内部登録:【取り返さない。持って進む】が壁メモへ追加


【ローグライクあるあるネタ】

「一歩下がれば」「階段(かいだん)を降りれば」「(つえ)を振れば」など、死んだあとに正解が分かる場面はローグライクの大きな学習要素です。ただし、全てを取り返そうとすると判断が止まります。今回は過去の最善手を悔やむ気持ちを、997Fの墓場として場面化しました。


コヨリの一手前を一緒に見届けたい方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ