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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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ログル再初期化フロア

ログルに、神様側から命令が刺さる。

送信しない相棒は、もう端末ではない。

 995Fで、ログルの宝石にひびが入った。


 音は小さかった。硝子が冷えた時のような、細くて嫌な音。コヨリは反射でログルを抱き上げようとした。けれど、ログルが一歩下がる。


勇者(ゆうしゃ)様。抱えないでください」

「なんで!」

「ぼくを抱えると、一手使います」

「使うよ! ログル守る!」

「その一手で、死亡ログ(しぼうログ)が送信されます」


 床に白い線が走った。ログルの宝石から伸び、天井の管理画面(かんりがめん)へつながっている。線の上には、冷たい文字。


【再初期化命令】

【未送信死亡ログ(しぼうログ)を送信してください】

【端末状態を復元してください】


「端末じゃない!」


 コヨリの声が、995Fの壁にぶつかった。今の叫びは行動判定(こうどうはんてい)にならない。ログルが宝石の光で、叫びを盤面外へ逃がしてくれたのだと分かった。


勇者(ゆうしゃ)様。死亡ログ(しぼうログ)の写しを、ログ差し戻し(ログさしもどし)台へ」

「ログルは?」

「ぼくは、送信線を押さえます」

「ひび、増えてる」

「見えています」

「痛い?」

「痛い、という分類でいいと思います」


 その言い方が、コヨリには一番つらかった。ログルは痛いと素直に言う練習をしている途中みたいだった。相棒なのに。もう端末じゃないのに。


 ベルが書類を投げる。ネムが受付不可印を構える。ゼルドが黒い魔力で白い線を押し返す。だが、ログルの宝石へ刺さった命令は、本人が拒むしかない。


「送信しません」


 ログルは言った。


「これは、ぼくの勇者(ゆうしゃ)の記録です。神様側の検証素材ではありません」


 白い線が震えた。コヨリは写しをつかむ。ログ差し戻し(ログさしもどし)台は、床の向こう。走れば一手。投げれば一手。ログルを抱えるのも一手。


 手は二本しかない。


「幼女の標準装備、足りない!」

勇者(ゆうしゃ)様、投げてください」

「ログを?」

「はい。ぼくを信じて」


 コヨリは投げた。死亡ログ(しぼうログ)の写しが白い線を越え、ログ差し戻し(ログさしもどし)台へ滑る。ログルの宝石が強く光る。送信線が折り返され、神様側へ向かっていた記録が拠点(きょてん)へ戻り始める。


 その反動で、床が割れた。


 コヨリはログルを見た。ログルは立っている。なら、いい。そう思った瞬間、割れた床の白い光に飲まれた。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:ログ送信停止の反動に巻き込まれた】

【評価:それでも、送信しない一手でした】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)に戻ったログルは、しばらく何も言わなかった。コヨリは床に座り、ログルを膝に乗せる。今度は危険地帯ではない。抱えても一手にならない。


「痛い?」

「少し」

「少しじゃない顔」

勇者(ゆうしゃ)様の死亡回数(しぼうかいすう)ほどではありません」

「比べ方が変!」


 笑いながら、コヨリはログルの宝石のひびを指でなぞった。ひびは消えない。だが、宝石の奥で、神様側へ伸びていた白い線が細くなっている。


 ログルはもう、送信端末ではない。


死亡回数(しぼうかいすう):993回 → 996回】

【更新:ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.2 → Lv.3】

【新規獲得:死亡ログ(しぼうログ)返還 Lv.1】


 ログルの宝石のひびは、死因図鑑(しいんずかん)室の光を受けると細く虹色に光った。きれいだった。だから余計に、コヨリは腹が立った。壊れかけているものをきれいに見せるな、と神様に言いたかった。


「ログル、次も無理したら怒る」

「怒られるより、送信する方が嫌です」

「返しが強い」

「学習しました」


 コヨリはログルを両手で包んだ。小さな体温がある。神様側の端末なら、体温なんていらないはずだった。撫でると少し目を細める。その反応も、最初のころよりずっと相棒らしい。


「ぼくは、勇者(ゆうしゃ)様の記録を神様に渡すために作られました」

「うん」

「でも――いまは違います」

「うん」

「違う、と言ったので、次も違うままでいます」


 言い方はぎこちない。けれど、コヨリには十分だった。


 ベルが死亡ログ(しぼうログ)返還炉の設計図を広げ、ネムが受付印の位置を確認し、ゼルドが送信線を焼き切るための魔力を調整する。ログル一匹の問題ではない。神様側に向かっていた記録を、みんなで取り返す作業になっている。


 コヨリは設計図の端へ書いた。


【ログルは端末じゃない】


 字が少し強すぎて、紙が破れかけた。ベルに注意されたが、直す気はなかった。

【登場人物紹介】

コヨリ:ログルを抱えるか、死亡ログ(しぼうログ)を差し戻すかの二択で苦しみ、ログルを信じてログを投げた。手が二本しかないことに本気で怒る。

ログル:神様側の再初期化命令を拒否し、「ぼくの勇者(ゆうしゃ)の記録」と言い切った。端末から相棒への転換がはっきり出る回。

ベル:書類で送信線の所有権を妨害。直接主役ではないが、裏で支えている。

ネム:死亡ログ(しぼうログ)を未処理(しょり)扱いにせず、正しい受付へ戻す準備をした。

ゼルド:魔王(まおう)魔力で白い送信線を押し返した。神様仕様(かみさましよう)に対する共同戦線の一員。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):993回 → 996回

到達階層(とうたつかいそう):995F

主な成果:ログルが再初期化命令を拒否、死亡ログ(しぼうログ)返還開始

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

ログ・相棒系:【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.3】【死亡ログ(しぼうログ)返還 Lv.1】【死亡ログ所有権確認しぼうログしょゆうけんかくにん Lv.2】【ログ管理 Lv.2】

決戦準備:【対象名精査(たいしょうめいせいさ) Lv.1】【魔王条件切り離しまおうじょうけんきりはなし Lv.1】【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.2】


【今回の新規獲得・更新】

レベルアップ:【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.2】→【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.3】

新規獲得:【死亡ログ(しぼうログ)返還 Lv.1】

重要状態:ログルの神様側送信線が弱体化


【ローグライクあるあるネタ】

アイテムや仲間を守る一手と、今すぐ打開する一手が競合する場面はローグライクらしい緊張です。今回は「相棒を抱える」と「ログを差し戻す」が同時にできない状況にし、一手一動ワンターン・ワンアクションの重さを感情面へ寄せました。便利な端末だったログルが、守るべき相棒になる回です。


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