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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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たぶん救済の巻物

白い巻物(まきもの)に「たぶん(・・・)救済」と書いてある。

たぶん(・・・)、の時点でだいぶ嫌です。


 960Fの通路には、白い巻物(まきもの)が落ちていた。


 紙はきれいで、汚れも破れもない。巻物(まきもの)の端には金色の紐が結ばれ、いかにも神様からの救済品です、という顔をしている。コヨリは近づく前に、小石を投げた。小石は巻物(まきもの)の手前で止まり、床に小さな文字が浮かぶ。


たぶん(・・・)救済の巻物(まきもの)


たぶん(・・・)

たぶん(・・・)ですね」

「救済に、たぶん(・・・)をつけるな」

「同意します」


 階段(かいだん)は遠い。敵は少ないが、通路の先に白い霧がある。霧の中では、神様仕様(かみさましよう)の札が読みづらくなる。巻物(まきもの)を読めば、霧が晴れるかもしれない。帰還門(きかんもん)の反応が出るかもしれない。千回目が少し安定するかもしれない。


 全部、かもしれない。


 コヨリは巻物(まきもの)を拾わず、まず周囲を見た。読むなら階段(かいだん)上。あるいは、後ろが通路で、前方に敵がいない場所。ミネルなら識別を勧めるだろう。ベルなら「たぶん(・・・)」と書かれた契約文を破るだろう。ネムなら受付不可の判子を用意する。


 ログルは、巻物(まきもの)を見つめていた。


勇者(ゆうしゃ)様。文字の端に、送信線があります」

「読んだら神様に何か送る?」

「可能性があります」

「救済って言いながら、こっちのログを取るやつ?」

「はい。かなり、それです」


 コヨリは巻物(まきもの)を拾わず、白紙巻物(はくしのまきもの)を取り出した。自分で書けるなら、神様の巻物(まきもの)に頼らなくていい。そう思った瞬間、床文字(ゆかもじ)が増えた。


【ここは安全地帯です】


 赤いマスの上に。


「安全地帯が自称してる!」

「床が嘘をついています」

「床が嘘つく世界、いやすぎる!」


 コヨリは赤いマスを避ける。だが、巻物(まきもの)が勝手にほどけ始めた。拾っていない。読んでいない。なのに、向こうから読ませにくる。文字が空中に浮き、目に入りそうになる。


 目を閉じるか。閉じると足元が見えない。読むか。読むと送信される。白紙巻物(はくしのまきもの)で上書きするか。発動に一手かかる。


 コヨリは白紙巻物(はくしのまきもの)を掲げた。


「ログル、文!」

「【救済未同意】」

「短い!」

「長いと読まされます」


 書く。文字が光る。たぶん(・・・)救済の巻物(まきもの)が一瞬だけ止まった。だが、向こうも神様仕様(かみさましよう)だ。金色の紐がほどけ、床の赤いマスが一歩広がる。コヨリは退く。退いた先に、さっき小石が止まった場所がある。


 小石の下に、薄い(わな)があった。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:たぶん救済の巻物(まきもの)を拒否したあと、小石で隠れた(わな)を踏んだ】

【評価:拒否成功後の足元確認】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)で、コヨリは【たぶん】という文字を大きくバツで消した。


「たぶん帰れる。たぶん救える。たぶん大丈夫」

「アドミニス様がよく使う系統です」

「たぶんは敵」

「敵ではありませんが、契約文には不向きです」


 ベルがうなずき、【たぶん禁止】の札を仕様書保管棚へ貼った。ミネルは何か言いたそうだったが、ベルの札を見てそっと黙った。


 コヨリは白紙巻物(はくしのまきもの)の残り煤を指でこすり、壁に書く。


【救済は、読ませるものじゃない】


死亡回数(しぼうかいすう):981回 → 984回】

【新規獲得:神様仕様(かみさましよう)仮名づけ Lv.1】


 【たぶん】禁止の札は、思ったより存在感を持った。アドミニスの窓が遠くで開きかけた瞬間、ベルが無言でその札を持ち上げる。窓は少しだけ閉じた。神様にも効く札だった。


「たぶんって、便利な言葉だよね」

「便利ですが、責任を薄めます」

「わたしも使ってる?」

「使っています」

「うわ」

「たぶん大丈夫、と言ったあとに死んだ記録が複数あります」

「自分にも刺さった!」


 コヨリは、たぶん禁止を神様への文句だけにしないことにした。自分の作戦にも貼る。たぶん行ける、たぶん間に合う、たぶん(わな)じゃない。深層(しんそう)では、そういう言葉ほど白く光って足元に落ちる。


 白紙巻物(はくしのまきもの)へ【救済未同意】と書けたことは、大きな成果だった。神様側の巻物(まきもの)を読むだけではなく、こちらの言葉で拒否できる。けれど、拒否したあと(わな)を踏んだのも事実だ。勝ちかけた瞬間こそ、床を見る。


 ログルが、台帳の最後に小さく書いた。


【拒否成功は、まだ帰還ではない】


 コヨリはその一文を見て、深くうなずいた。厳しい。でも、今ほしい厳しさだった。


【登場人物紹介】

コヨリ:たぶん救済の巻物(まきもの)を読まされそうになり、自前の白紙巻物(はくしのまきもの)で【救済未同意】と拒否した。拒否は成功したが、小石で隠れた(わな)を踏むあたり油断できない。

ログル:巻物(まきもの)に送信線があることを見抜き、短い拒否文を提示。長文説明ではなく、発動に間に合う一語へ削った。

ベル:たぶん禁止の札を仕様書棚へ貼った。曖昧な契約文を許さない有能秘書。

ミネル:説明したそうだったが、今回はベルの札に押されて黙った。説明過多が少しだけ抑制された。

たぶん救済の巻物(まきもの):救済顔でログを取ろうとする白い巻物(まきもの)。拾わなくても読ませにくるのでかなり悪質。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):981回 → 984回

到達階層(とうたつかいそう):960F

使用道具:白紙巻物(はくしのまきもの)による拒否文作成

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

識別・仕様系:【高速識別整理 Lv.1】【未識別(みしきべつ)警戒 Lv.5】【仕様札識別 Lv.1】【死亡条件識別しぼうじょうけんしきべつ Lv.1】【死亡ログ所有権確認しぼうログしょゆうけんかくにん Lv.2】

継続重要:【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.2】【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.2】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【神様仕様(かみさましよう)仮名づけ Lv.1】

内部登録:【たぶん禁止】が仕様書保管棚へ追加


【ローグライクあるあるネタ】

未識別(みしきべつ)巻物(まきもの)は、読む場所を選ぶだけでなく、そもそも読むべきかの判断が重要です。店価格や過去メモで候補を絞っても、危険な効果なら読まない選択があります。今回は「救済」と名乗る未識別(みしきべつ)巻物(まきもの)を、神様仕様(かみさましよう)の曖昧な救済に重ねました。


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