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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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951F、階段前の楽になる草

深層(しんそう)階段(かいだん)前には、だいたい欲しいものが落ちている。

欲しい時点で、もう危ない。

 951Fの階段(かいだん)は、白い小島の上にあった。


 部屋の中央に階段(かいだん)。周囲は細い水路。敵は少ない。(わな)の匂いも薄い。ここまで来たコヨリには、逆に不自然なくらい優しい配置だった。


 階段(かいだん)の横に、草が一本落ちている。


【千回目が少し楽になる(・・・・)草】


 コヨリはその名前を見た瞬間、足を止めた。


「ログル」

「はい」

「名前がずるい」

「かなりずるいです」

「少し楽になる(・・・・)んだって」

「少し、という語は危険です」

「でも――楽になりたい」


 それは、宝箱(たからばこ)欲とは違った。白紙巻物(はくしのまきもの)が欲しいとか、強い腕輪(うでわ)が欲しいとか、そういうきらきらした欲ではない。千回目が近い。自分の死を、最後に別の対象へずらさなければならない。怖い。痛いのは嫌だ。失敗したくない。少しでも楽になる(・・・・)なら、欲しい。


 コヨリは、自分が本気でその草を見ていることに気づいた。


勇者(ゆうしゃ)様。階段(かいだん)を降りれば、次へ進めます」

「うん」

「草を拾うには一手です」

「うん」

「拾った草が本当に楽になる(・・・・)とは限りません」

「うん......でもさ、ログル」


 コヨリは階段(かいだん)を見たまま、声を小さくした。


「死ぬの、怖い」


 ログルはすぐ答えなかった。水路の向こうで、白い札が揺れる。敵はまだ動かない。コヨリが動かなければ、盤面は止まる。だが、怖さだけは止まらない。


「怖いまま降りましょう」

「楽にならない?」

「楽には、ならないと思います」

「正直すぎる」

「でも――草に任せるより、ぼくと一緒に確認する方が安全です」


 コヨリは、草から目をそらした。


 そらしたはずだった。


 階段(かいだん)へ足をかける瞬間、草の葉が小さく鳴った。母親の声にも、ネムの声にも、アドミニスの声にも似ていない。ただ、弱っている心にだけ届く音。


「少しだけ」


 コヨリは振り返らなかった。だが、指先が半歩分だけ伸びた。神様のダンジョンは、それを拾う意思と判定した。


 草が飛んでくる。口に入る。味は甘い。


 甘いものが安全だったことは、あまりない。


 体が軽くなる。確かに楽になった。痛みも怖さも、少し遠くなる。その代わり、足元の確認も遠くなった。階段(かいだん)の一段目に、薄い死亡条件(しぼうじょうけん)札が貼られている。


 見落とした。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:楽になる草で怖さごと足元確認を薄めた】

【評価:怖さも安全確認の一部です】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)に戻ると、コヨリはしばらく黙っていた。怒鳴る死因ではなかった。笑えなくもない。草に負けた自分は少し情けない。でも、その草を欲しがった気持ちまで否定すると、次がもっと苦しくなる。


「怖いの、だめ?」

「だめではありません」

「怖いとミスる」

「怖さを消してもミスります」

「じゃあ――どうするの」

「怖いまま、確認します」


 コヨリは壁に書いた。


【怖さを消さない。足元を見る】


 その字は、少し小さかった。けれど消さなかった。


死亡回数(しぼうかいすう):977回 → 981回】

【新規獲得:怖さ保持確認 Lv.1】


 楽になる草の記録は、食材棚ではなく死因研究室へ置かれた。メリメルが見たら「まあ、草ですのに」と言いそうだったが、これは食べ物ではない。恐怖を薄める代わりに警戒も薄める、神様仕様(かみさましよう)の甘い(わな)だ。


 コヨリは、草の絵を描いてから、その横に小さな顔を描いた。困った顔の自分だ。笑っている顔ではない。


「怖かったから欲しかった」

「はい」

「それ、メモに書くの恥ずかしい」

「書いたほうが、次に見分けやすいです」

「弱点公開じゃん」

拠点(きょてん)内限定の弱点台帳です」

「名前が強敵っぽい!」


 ログルは台帳の上に、そっと前足を置いた。隠すためではない。押さえて、飛ばないようにするためだ。コヨリはその仕草を見て、少し肩の力を抜いた。怖いことをメモにするのは嫌だ。でも、メモにすれば、次に草が同じ声で呼んできた時、これは恐怖に差し込まれた(わな)だと分かる。


 壁のメモには、もう一行だけ足した。


【怖いから欲しいものは、だいたい高い】


 値段は金ではなく、一手で払う。今回の草は、少し高すぎた。


【登場人物紹介】

コヨリ:千回目が近づく怖さから、階段(かいだん)前の「楽になる草」に心を引かれた。欲張りではなく恐怖由来のミスとして描かれる回。

ログル:楽にならないまま一緒に確認しようと提案。怖さを消すのではなく、怖いまま進む方向へコヨリを支えた。

楽になる草:痛みや恐怖を薄める代わりに、足元確認まで薄める危険草。優しい顔をした深層(しんそう)(わな)

死亡条件(しぼうじょうけん)札:階段(かいだん)の一段目に貼りつき、草で注意が薄れたところを狙った。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):977回 → 981回

到達階層(とうたつかいそう):951F

心理状態:千回目への恐怖が明確化

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

心理・深層(しんそう)系:【再到達油断警戒 Lv.1】【未探索許容 Lv.1】【死因学習(しいんがくしゅう) Lv.3】【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.2】

神様仕様(かみさましよう)系:【死亡条件識別しぼうじょうけんしきべつ Lv.1】【千回予約拒否 Lv.1】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【怖さ保持確認 Lv.1】

内部登録:【楽になる草警戒】


【ローグライクあるあるネタ】

階段(かいだん)前のアイテム誘惑は定番ですが、今回は単なる欲ではなく「怖いから楽になりたい」という心理へ変換しました。ローグライクでは、状態異常を消す薬や強化アイテムに見えても、使うタイミングや副作用次第で足元確認が雑になります。怖さも警戒心の一部として扱う回です。


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