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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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識別は速く、雑にはしない

未識別(みしきべつ)品を全部試す時間はない。

でも、雑に試すとだいたい床が笑う。

 420Fで、コヨリは店に入った。


 店といっても、白い棚が三つ並び、奥に無表情な札が浮いているだけだ。店主はいない。代わりに、床に【価格は神様の気分です】と書いてあった。コヨリはその一文を見て、すぐ出ようとした。


「ログル――帰ろう」

「店識別だけはしていきましょう」

「神様の気分価格だよ?」

「だからこそ、気分の偏りを記録します」

「ログル、神様の情緒までデータにするの?」

「使えるものは使います」


 棚には腕輪(うでわ)巻物(まきもの)(つぼ)がある。買う金は少ない。全部は持てない。試す場所も限られる。前のコヨリなら、まず拾って、名前をつけて、うっかり装備して呪われるところまでセットだった。


 今は違う。


 まず値段を見る。似た価格帯の候補を二つまで絞る。巻物(まきもの)階段(かいだん)上か、逃げ道のある通路で読む。(つぼ)は入口に近い場所で押す。腕輪(うでわ)は装備前に呪いの気配を見る。ログルの宝石が小さく光るたび、コヨリはメモを増やしていった。


「この腕輪(うでわ)、遠投っぽい」

「価格と重さは近いです」

「装備する?」

「まず、投げる予定のない場所で」

「遠投の腕輪(うでわ)で回復薬を敵に投げた時の話、まだする?」

「必要なら何度でも」

「やめて。心に刺さった薬草が抜けない」


 識別は早くなった。だが、早くなった分、油断も早く来る。


 コヨリは(つぼ)を一つ手に取った。価格から見て保存壺(ほぞんつぼ)識別壺(しきべつつぼ)。押すなら通路出口。部屋中央では押さない。分かっている。


 分かっているのに、床の札が言った。


【ここで押すと時短】


「時短......」

勇者(ゆうしゃ)様」

「分かってる。時短って言うやつ、だいたい後で時間取られる」

「その理解は正確です」


 コヨリは通路へ移動した。そこまでは良かった。(つぼ)を押す。中から白い煙が出る。煙の中に、過去に見たことのある道具名が並んだ。


保存壺(ほぞんつぼ)

識別壺(しきべつつぼ)

合成壺(ごうせいつぼ)

死亡回数(しぼうかいすう)圧縮の(つぼ)


「最後だけ違う!」


 (つぼ)は、識別結果を圧縮して投げ返してきた。候補名が一気に頭へ流れ込み、コヨリは一瞬だけ混乱する。足元には見えている(わな)。混乱中の一歩は、だいたいそれを踏む。


 踏んだ。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:(つぼ)の候補名を浴びて混乱し、見えている(わな)を踏んだ】

【評価:識別は速く、脳内表示は少なめに】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)の鑑定机に、コヨリは【候補は二つまで】と書いた紙を貼った。


「全部分かるのも危ないんだね」

「情報量が多すぎると、行動が乱れます」

「識別したのに(わな)踏むの、悲しくない?」

「とても悲しいです」

「ログルが素直!」


 店識別メモは、前よりずっと整った。(つぼ)の押し場所、腕輪(うでわ)の試し方、巻物(まきもの)を読む位置。コヨリは過去の死因を横に書き、同じ失敗を避けるための小さな()印を足した。


 速くする。ただし、雑にはしない。


 それが、1000Fへ向かう新しい識別方針になった。


死亡回数(しぼうかいすう):968回 → 971回】

【新規獲得:高速識別整理 Lv.1】


 識別台帳は、ページが増えすぎていた。草、巻物(まきもの)腕輪(うでわ)(つぼ)(つえ)。名前の横には値段、使った場所、死因、ログルの評価、コヨリの文句まで書かれている。情報としては有用だが、深層(しんそう)で全部を読む時間はない。


「これ、試験範囲広すぎない?」

勇者(ゆうしゃ)様が死ぬたびに増えています」

「わたしのせい!?」

「主に神様のせいです。ただし、一部は勇者(ゆうしゃ)様の欲です」

「割合を出さないでね。怖いから」


 コヨリは、台帳に色をつけることにした。絶対に読む項目。余裕があれば見る項目。もう覚えたので見なくていい項目。ベルが分類名を整え、ミネルが説明を足そうとして、コヨリがそっと赤線だけ残した。


 最終的に、深層(しんそう)用の小さな札ができた。


巻物(まきもの):読む場所】

(つぼ):押す場所】

腕輪(うでわ):装備前】

【草:飲む理由】


 たった四枚。けれど、それで十分だった。全部覚えようとして混乱するより、行動直前に見るべきことだけを残す。コヨリは四枚の札を腰の内側にしまい、少しだけ顔を引き締めた。


「これ、かっこいい?」

「実用的です」

「かっこいいって言って」

「かなり実用的で、少しかっこいいです」

「妥協された!」

【登場人物紹介】

コヨリ:店価格や試す場所を使って識別速度を上げたが、候補名を一気に浴びて混乱し、見えている(わな)を踏んだ。成長しているのに、成長したからこそ新しい事故が出る。

ログル:価格、重さ、過去メモを組み合わせて候補を絞る役。情報量が多すぎると危ないと、今回はかなり人間寄りの感想も出した。

神様の店札:価格は神様の気分などと書いてくる迷惑な店員代わり。信用できないが、偏りまで記録される。

候補名の煙:識別結果を親切そうに出すが、出しすぎて混乱させる。情報過多も(わな)である。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):968回 → 971回

代表到達階層(とうたつかいそう):420F

攻略傾向:店価格・位置・過去メモによる識別高速化

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

識別関連:【未識別(みしきべつ)警戒 Lv.5】【仕様札識別 Lv.1】【神様仕様(かみさましよう)仮名づけ 兆候】【死亡回数圧縮耐性しぼうかいすうあっしゅくたいせい Lv.1】

攻略継続:【未探索許容 Lv.1】【稼ぎ切り上げ判断かせぎきりあげはんだん Lv.1】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【高速識別整理 Lv.1】

内部更新:【店価格メモ】が識別台帳へ追加


【ローグライクあるあるネタ】

未識別(みしきべつ)アイテムは、使う・読む・装備するだけでなく、店の価格、売値、重さ、過去のメモなどで候補を絞ることがあります。ただし、候補を抱えすぎると判断が遅れたり、試す場所を間違えたりします。今回は識別の高速化を、情報過多で(わな)を踏む事故へ変換しました。


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