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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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全探索を捨てる日

強くなるために歩く。

生き残るために、歩かないことも覚える。

 反省会(はんせいかい)テーブルの上に、地図が五枚並んだ。


 一枚目は、部屋を全部塗りつぶした地図。二枚目は、階段(かいだん)だけを赤丸で囲んだ地図。三枚目は、モンスターハウスを大きなバツで避けた地図。四枚目は、食料がない時に右半分を丸ごと捨てた地図。五枚目は、まだ白紙に近い。


 コヨリは五枚目を見て、うなる。


「これ、冒険してないみたい」

「冒険ではなく攻略です」

勇者(ゆうしゃ)なのに、部屋を見ないの?」

勇者(ゆうしゃ)様は、見たせいで何度も死んでいます」

「実績が反論してくる!」


 次の挑戦では、コヨリは低層(ていそう)の動きを変えた。敵を全部倒さない。宝箱(たからばこ)を全部開けない。店の値段だけ見て、買わないものは買わない。未識別(みしきべつ)草も、体力がある時にだけ試す。強化値が伸びなくても、階段(かいだん)が見えたら降りる。


 これが、想像以上につらかった。


 宝箱(たからばこ)は呼吸していない。中身が良いかもしれない。敵は倒せる。経験値(けいけんち)になる。床には巻物(まきもの)が落ちている。拾えば役に立つかもしれない。


 その「かもしれない」を、一つずつ捨てる。


 コヨリは唇を尖らせながら、階段(かいだん)を降りた。30F、80F、150F。Lvは低い。HPも低い。だが、満腹度(まんぷくど)(つえ)の回数が残る。保存壺(ほぞんつぼ)には空きがある。ログルの宝石も、前より穏やかな光をしている。


前より弱い(・・・・・)んだけど」

「はい」

「でも――前より荷物がきれい」

「はい」

「これ、強いの?」

「強さの種類が変わっています」

「かっこいい言い方だけど、わたしは宝箱(たからばこ)が開けたい」

「それは欲です」

「欲も勇者(ゆうしゃ)の一部!」

死亡ログ(しぼうログ)の一部でもあります」


 301Fで、階段(かいだん)の隣に大きな宝箱(たからばこ)が出た。まるで、ここまで我慢したご褒美のように。


 コヨリは足を止める。


「ログル――あれ、呼吸してる?」

「していません」

(わな)の匂いは?」

「薄いです」

「じゃあ」

「ただし、階段(かいだん)の真横です」


 その一言で、コヨリの胃がきゅっと縮んだ。階段(かいだん)の真横。ローグライクの悪意が最も濃い場所。開けてから降りるか。降りてから後悔するか。


 コヨリは宝箱(たからばこ)に背を向けた。


 背を向けた瞬間、宝箱(たからばこ)が小声で言った。


「中身、白紙巻物(はくしのまきもの)ですよ」


「しゃべったああああああああああ!」


 振り返った。振り返るだけなら行動ではない。だが、体が半歩動いた。世界がそれを行動と判定する。宝箱(たからばこ)の舌が伸び、足首をつかむ。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:階段(かいだん)宝箱(たからばこ)白紙巻物(はくしのまきもの)と言われて振り返った】

【評価:宝箱(たからばこ)の営業トークを信じない】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)で、コヨリは宝箱(たからばこ)に向かって説教する練習をした。相手は空箱である。


白紙巻物(はくしのまきもの)って言うの禁止! そういうのは広告審査に引っかかるべき!」

「広告審査がある世界なら、かなりの神様仕様(かみさましよう)が落ちます」

「全部落ちて!」


 それでも、収穫はあった。301Fまで、前よりずっと消耗が少なかった。死因は宝箱(たからばこ)営業だが、道中の方針は間違っていない。


 ログルが地図の五枚目に線を引いた。白紙に近かった地図は、必要な部屋だけを結ぶ細い道になった。


「全部見なくても、進めるんだね」

「はい」

「見ないの、すごく気持ち悪い」

「慣れます」

「死ぬのは慣れないのに?」

「見ない勇気は、覚えられます」


 コヨリは壁に書いた。


【未探索は負けじゃない。命の節約】


死亡回数(しぼうかいすう):965回 → 968回】

【新規獲得:未探索許容 Lv.1】


 未探索を残す練習は、思ったより心に悪かった。白い地図に空白が残っているだけで、コヨリの頭の中に宝箱(たからばこ)が並ぶ。もしかしたら復活草(ふっかつそう)。もしかしたら白紙巻物(はくしのまきもの)。もしかしたら(わな)消しの巻物(まきもの)。想像の中のアイテムは、全部都合よく輝いている。


「ログル――空白の中身って、実際は何だったと思う?」

「確認していないので不明です」

「そこを、優しく」

「爆裂草だったかもしれません」

「優しさの方向がひねくれてる!」


 それでも、コヨリは空白を塗りに行かなかった。行かなかった事実を、ログルは成功ログとして保存した。死ななかった行動は、死亡ログ(しぼうログ)より地味だ。音も鳴らない。神様は拍手しない。でも、1000Fへ向かうには、その地味な成功が必要だった。


 ネムは、空白の地図を見てぼそりと言った。


「死んでない空白、いいと思う」


 その一言で、コヨリは少しだけ救われた。空白は取りこぼしではない。そこへ行かなかったから、ここに戻ってこられた。そう考えると、白いままの部屋が少しだけ頼もしく見えた。

【登場人物紹介】

コヨリ:低層(ていそう)全探索を捨てる練習を始めた。宝箱(たからばこ)を見ないことに成功しかけたが、白紙巻物(はくしのまきもの)という営業文句に振り返って死亡。

ログル:階段(かいだん)前の宝箱(たからばこ)がどれだけ危険かを、呼吸や(わな)の有無ではなく位置で判断した。かなりローグライクらしい相棒ムーブ。

階段(かいだん)宝箱(たからばこ)(わな)っぽくない顔で、最後に広告トークをしてくる最悪の誘惑。白紙巻物(はくしのまきもの)という単語だけでコヨリを振り向かせた。

空箱:拠点(きょてん)で説教されるだけの練習台。宝箱(たからばこ)ミミック被害者の会があれば議長にされそう。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):965回 → 968回

代表到達階層(とうたつかいそう):301F

攻略傾向:低層(ていそう)全探索から階段(かいだん)優先へ移行中

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

効率化系:【稼ぎ切り上げ判断かせぎきりあげはんだん Lv.1】【即時使用品配置 Lv.1】【モンハウ欲張り抑制 Lv.1】【装備はじき後退判断そうびはじきこうたいはんだん Lv.1】

継続基礎:【足元確認 Lv.5】【未識別(みしきべつ)警戒 Lv.5】【逃走判断 Lv.3】【死因学習(しいんがくしゅう) Lv.3】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【未探索許容 Lv.1】

内部登録:【階段(かいだん)前広告警戒】


【ローグライクあるあるネタ】

階段(かいだん)前の宝箱(たからばこ)やアイテムは、「降りれば助かったのに、最後に一つだけ拾って死ぬ」事故を誘います。全探索は安心材料になりますが、長階層(かいそう)では時間・満腹度(まんぷくど)・事故率が増えるため、見ない選択も重要です。今回は未探索を残す気持ち悪さと、階段(かいだん)前の誘惑を組み合わせました。


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