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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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高レベルモンスターハウスで気持ちよくなる

強い巻物(まきもの)、強い装備、強いコヨリ。

モンスターハウスは、そこをきっちり狙ってくる。


 862Fの大部屋に入った瞬間、床が歌った。


【モンスターハウスだ!】


 文字が出るより先に、コヨリの背筋は固まっていた。部屋が広い。入口が遠い。敵が多い。床には(わな)が多い。見えているものだけで危険なのに、見えていないものがたぶん(・・・)もっと多い。


 だが、この時のコヨリは強かった。


 Lv79。HP881。神銀の短剣(しんぎんのたんけん)+31。盾は+29。巻物(まきもの)もある。保存壺(ほぞんつぼ)の中には部屋全体へ効く真空斬り(しんくうぎり)巻物(まきもの)らしきものが入っている。未識別(みしきべつ)だが、店の値段と過去のメモから八割くらい当たり。


 八割。


 ローグライクで一番、人を調子に乗せる数字だ。


「ログル――読む?」

「入口まで戻れるなら、戻ってから考えたいです」

「でも――読めば経験値(けいけんち)すごいよね」

「それは死亡ログ(しぼうログ)側の声です」

「さっきから死亡ログ(しぼうログ)側、わたしの中に住みすぎでは?」

「はい。かなり広い家に住んでいます」


 敵が詰めてくる。コヨリは巻物(まきもの)を出した。手が震える。怖いからではない。少し、気持ちよくなっている。これだけ敵がいて、これだけの巻物(まきもの)がある。読めば一掃できるかもしれない。経験値(けいけんち)が入る。レベルが上がる。HPも回復する。


 通路へ逃げればいい。分かっている。だが、通路まで三マス。その三マスに(わな)があるかもしれない。なら、巻物(まきもの)で片付けた方が早い。


勇者(ゆうしゃ)様、(わな)の密度が高いです。歩くより巻物(まきもの)が安全な可能性はあります」

「でしょ!」

「ただし、未識別(みしきべつ)です」

「八割真空斬り!」

「二割、大部屋化かもしれません」

「もう大部屋じゃん!」

「さらに大きくなる可能性があります」

「部屋に天井って概念ないの!?」


 コヨリは読んだ。


 巻物(まきもの)の文字が光る。風が渦巻く。敵の群れが一斉に怯む。


 成功した。


 ように見えた。


 真空斬りの風は敵を削ったが、倒しきれなかった。深層(しんそう)の敵は硬い。削られた敵たちが怒り、部屋の端にいた経験値(けいけんち)喰らいが、倒れかけた敵を食べる。レベルアップ音が三つ重なった。


「あ」

「敵が育ちました」

「育ててない!」

「結果として育ちました」

経験値(けいけんち)、わたしに来て!」


 さらに床(わな)が起動した。真空の風で飛んだ小石が見えない(わな)を叩き、睡眠、鈍足、混乱の粉が部屋に広がる。コヨリは逃げようとしたが、足がもつれた。強い。強かった。だが、強い敵をまとめて中途半端に削るのは、だいたい最悪だった。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:高レベルモンスターハウスで気持ちよくなり、敵を育てた】

【評価:気持ちよさは経験値(けいけんち)ではありません】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)反省会(はんせいかい)テーブルに、コヨリは巻物(まきもの)を置くふりをした。実物はない。死んだので消えた。だが、気持ちよくなった記憶だけは残っている。


「ログル」

「はい」

勝てる(・・・)と思った」

「はい」

「敵いっぱい倒せると思った」

「はい」

「気持ちよかった」

「それを記録する勇気は評価します」

「評価しないで、恥ずかしい!」


 モンスターハウスの対処表が作られた。倒す、逃げる、止める、飛ぶ、通路へ戻る。コヨリは【倒す】の横に大きな三角を書いた。できる時もある。でも、いつでも正解ではない。


 壁には、こう書いた。


【モンハウは勝つ場所じゃない。生きて出る場所】


死亡回数(しぼうかいすう):962回 → 965回】

【新規獲得:モンハウ欲張り抑制 Lv.1】


 コヨリは、モンスターハウスの絵を描いた。敵を丸で、(わな)をバツで、入口を青で塗る。描いてみると、あの時の自分がどれほど部屋の中央ばかり見ていたか分かった。敵が多い。経験値(けいけんち)が多い。巻物(まきもの)が刺さる。その派手な部分だけを見て、入口までの距離や(わな)の密度を小さく扱っていた。


「わたし、勝ち画面を想像してた」

「はい」

「敵を全部倒して、レベルが上がって、ちょっとかっこいい感じ」

「実際は、敵が上がりました」

「そこ、もう少し柔らかく言って!」


 ログルは柔らかく言い直そうとして、数秒悩んだ。


経験値(けいけんち)の行き先を間違えました」

「柔らかいけど痛い!」


 ベルは、モンスターハウス対処表の一番上に【目的確認】と書いた。倒すのが目的なのか、階段(かいだん)へ行くのが目的なのか、道具を温存するのが目的なのか。それを間違えると、強い行動がそのまま死因になる。


 コヨリは巻物(まきもの)の絵に、小さな注意書きを足した。


【強い巻物(まきもの)は、気持ちよくなる前に読む理由を見る】


 長い注意書きだった。けれど、短くするとまた調子に乗る気がしたので、そのまま残した。


【登場人物紹介】

コヨリ:高レベル・強装備・強そうな巻物(まきもの)の三点セットで気持ちよくなり、敵を中途半端に削って育ててしまった。勝てそうな時ほど事故る、という深層(しんそう)の洗礼を受けた。

ログル:通路退避と未識別(みしきべつ)リスクを示しつつ、巻物(まきもの)を読む選択にも可能性があると判断。正解が一つではない場面で、結果だけがひどかった。

経験値(けいけんち)喰らい:倒れかけた敵を食べて育つ嫌な敵。コヨリの攻撃を、勝利ではなく敵強化へ変換した。

モンスターハウス:強いほど気持ちよくなりやすい部屋。大量経験値(けいけんち)の誘惑と(わな)密度の高さがセットになっている。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):962回 → 965回

代表到達階層(とうたつかいそう):862F

死亡時目安:Lv79/HP881

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

戦術表示:【総合盤面確認そうごうばんめんかくにん Lv.2】【逃走判断 Lv.3】【未識別(みしきべつ)警戒 Lv.5】【稼ぎ切り上げ判断かせぎきりあげはんだん Lv.1】【即時使用品配置 Lv.1】

継続する神様仕様(かみさましよう)対策:【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.2】【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.2】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【モンハウ欲張り抑制 Lv.1】

内部登録:【敵レベルアップ警戒】


【ローグライクあるあるネタ】

モンスターハウスは、通路へ下がって一体ずつ処理(しょり)する、巻物(まきもの)(つえ)でまとめて対処する、高飛び系で離脱するなど選択肢があります。ただし、(わな)が多く、敵を中途半端に削ると別の敵がレベルアップするような事故も起きます。今回は「大量経験値(けいけんち)が欲しくて全体巻物(まきもの)を読んだら、敵を育てた」回です。


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