復活草は壺の中で泣く
復活草は持っているだけでは働かない。
壺の中で大事にされすぎると、普通に間に合わない。
744Fで、コヨリはかなりいい走りをしていた。
稼ぎすぎない。装備に執着しすぎない。階段前の宝箱も、三回に一回しか見ない。ログルに「まだ多いです」と言われたが、コヨリとしては大進歩だ。Lv68。HP744。満腹度は41。保存壺の中には白紙巻物、場所替えの杖、復活草。復活草があるというだけで、胸の奥に小さな余裕が生まれる。
その余裕が、罠だった。
744Fは、床がところどころ濡れていた。水たまりに見える場所には、白い小さな文字が浮かぶ。
【安心】
【予備】
【あとで使う】
「床が言っていい言葉じゃない」
「同感です」
「でも復活草あるから、一回は大丈夫」
「勇者様。復活草は保存壺の中です」
「壺から出せばいい」
「出す一手が必要です」
「深層、何でも一手一手うるさい!」
「世界法則です」
「知ってるけど腹立つ!」
敵は、眠り粉コウモリと深層狙撃鬼。直接殴れば勝てる。逃げてもいい。杖もある。だが、コヨリは復活草の存在で一拍だけ雑になった。危険な床を避ける角度が甘くなり、水たまりの縁を踏む。
足元から、白い手が生えた。
保存壺荒らし。
小さな手は、コヨリの腰の壺を叩いた。割れるのではない。中身の順番が入れ替わる。復活草が一番奥へ沈み、かわりに呪われた雑草が上へ来る。壺の口から、ひゅう、と間抜けな音がした。
「ログル、復活草!」
「奥です。取り出すには二手かかります」
「二手!?」
「一手目で雑草、二手目で復活草です」
「雑草、どいて!」
「草に交渉しないでください」
深層狙撃鬼が弓を引いた。眠り粉コウモリが羽を広げる。コヨリは壺へ手を入れるか、場所替えの杖を振るか迷った。復活草がある。なのに、使えない場所にある。
場所替えの杖を振れば逃げられる。だが、杖を取り出すにも壺を開ける必要がある。腰の別ポケットには未識別巻物。読めば助かるかもしれない。大部屋化するかもしれない。
コヨリは壺に手を入れた。
一手目。雑草が出た。
「おまえじゃなああああああああああい!」
叫びは行動判定にならなかった。ありがたい。だが、敵のターンはもう来ている。矢が飛び、眠り粉が舞う。復活草は、壺の奥で静かに守られていた。
守られすぎて、間に合わなかった。
【死亡ログ】
【死因:復活草を保存壺の奥に入れたまま倒れた】
【評価:保存したいのは命です】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
拠点で、コヨリは保存壺の模型を前に正座した。
「復活草、壺に入れない方がいい?」
「場合によります。安全に保管するなら壺です。即時使用したいなら手元です」
「両方したい」
「できません」
「世界が不便!」
ログルは壺の中身順を紙に描いた。上から取り出せるもの、割らないと出ないもの、手元に置くべきもの。コヨリは復活草に丸をつけ、横に【過保護禁止】と書いた。
ネムが死亡受付票を片手に言う。
「復活草があるのに死ぬ人、そこそこいる」
「いるの!?」
「壺の中、未識別、呪い、拾う前、食べ忘れ」
「死因、親戚多すぎる」
壁のメモが増える。
【復活草は、復活できる場所に置く】
【死亡回数:959回 → 962回】
【新規獲得:即時使用品配置 Lv.1】
復活草の配置会議は、思ったより白熱した。手元に置けば即座に使えるが、呪いや盗みで失うかもしれない。壺に入れれば守れるが、取り出す一手が重い。リュシアは温かい茶を置きながら「あんたたち、草一本で会議しすぎじゃない?」と笑ったが、コヨリは真剣だった。
「草一本で死ぬんだよ」
「それはそうねえ。ちび勇者ちゃんの場合、草一本どころか床の線一本で死ぬものね」
「慰め方!」
ベルは復活草に赤い紐を結ぶ案を出した。ログルは手元ポケットの位置を決めた。ネムは、復活草があるのに死んだ票を別棚に移す。コヨリはその棚名を見て、机に突っ伏した。
【あったのに死んだ棚】
「棚の名前、もう少し優しくできない?」
「事実です」
「事実が一番痛い!」
結局、復活草は壺に入れるものと手元に残すものを分けることになった。全部守ろうとしない。全部使おうとしない。必要な時に必要な場所へあること。それが、深層での本当の安全だった。
【登場人物紹介】
コヨリ:復活草を持っている安心感で一拍だけ雑になり、保存壺の奥に沈んだ復活草を取り出せず死亡。便利な保管が、即応性を奪うことを学んだ。
ログル:壺の中身順と使用までの手数を冷静に説明。復活草を持っていることと、使える状態にあることは違うと突きつけた。
ネム:復活草があるのに死ぬ受付票を普通に知っている死神。死因の親戚一覧を持っていそうな顔をしていた。
保存壺荒らし:壺を割らず、中身の順番だけを狂わせる嫌な敵。見た目よりずっと深層向け。
呪われた雑草:なぜか一番上に出てきた草。役に立たないのに存在感だけ強い。
【今回の勇者ステータス】
死亡回数:959回 → 962回
代表到達階層:744F
死亡時目安:Lv68/HP744
クラス:帰還者候補/死因学者系統
基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
主要表示:【未識別警戒 Lv.5】【罠感知 Lv.4】【逃走判断 Lv.3】【装備外し深層警戒 Lv.1】【装備はじき後退判断 Lv.1】
千回条件系:【死亡条件識別 Lv.1】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】【ログ差し戻し Lv.2】【死亡対象ずらし Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【即時使用品配置 Lv.1】
内部登録:【保存壺過保護警戒】
【ローグライクあるあるネタ】
復活草や打開アイテムは、持っているだけで安心しがちですが、壺の奥、呪い状態、取り出しに手数がかかる場所では間に合わないことがあります。保存壺は便利でも、即座に使うべきものをしまい込みすぎると事故ります。今回は「大事に保管したせいで助からない」あるあるを、深層の一手制限へ変換しました。
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