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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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弾かれた腕輪を追うな

弾きよけの腕輪(はじきよけのうでわ)があれば安心。

ただし、その腕輪(うでわ)が弾かれた時の顔は安心ではない。


 次の大きな失敗は、512Fで起きた。


 低層(ていそう)の稼ぎすぎをやめ、コヨリは少しだけ早く潜れるようになった。全探索はしない。食料が薄い時は階段(かいだん)を優先する。未識別(みしきべつ)腕輪(うでわ)は価格と効果の匂いで仮名をつける。ここまで来ると、Lvは72。HPは812。装備は前より少し弱いが、それでも十分に強い。


 だから、コヨリはまた安心しかけた。


「今回、かなりいいよね」

「はい。保存壺(ほぞんつぼ)に空きがあります。(つえ)も残っています」

弾きよけの腕輪(はじきよけのうでわ)もある」

「それは大きいです。装備はじき(そうびはじき)系への対策になります」

「前回の盾ぽろり事件、もうしない!」

「その言い方は軽いですが、方針は合っています」


 512Fの通路は、妙に広かった。敵が一体ずつ来るには広すぎる。逃げるには曲がり角が少ない。壁際に置かれた白い像が、どれも剣を持っている。コヨリは嫌な予感を覚えた。


 深層(しんそう)剣豪(けんごう)


 黒い鎧を着た敵が、通路の奥に立っていた。目はない。だが、こちらの装備だけを見ているような圧がある。コヨリは身代わりの杖(みがわりのつえ)を取り出した。距離は三マス。振れば間に合う。弾きよけの腕輪(はじきよけのうでわ)があるから、最悪、近づかれても一度は耐える。


勇者(ゆうしゃ)様、封印の(つえ)を優先してください」

「身代わりじゃなくて?」

「特技を封じた方が安定します」

「分かった。封印――」


 (つぼ)から(つえ)を出そうとした瞬間、床の白い像が動いた。


 深層(しんそう)剣豪(けんごう)は一体ではなかった。像のひとつが斜めから踏み込み、コヨリの腕へ刃を当てる。斬られたのではない。触れられただけだ。だが、その一手で腕輪(うでわ)が外れた。


 弾きよけの腕輪(はじきよけのうでわ)が、床を転がる。


「え」

「拾わないでください。今の盤面で拾う一手は、救出ではなく自殺予約です」

「でも――弾きよけ!」

腕輪(うでわ)拾う一手(・・・・)で、次の剣豪(けんごう)が盾を弾きます」

「じゃあ盾を守る!」

腕輪(うでわ)を諦めれば、まだ場所替えがあります」

諦める(・・・・)って、ここまで守ってくれた(・・・・・・・・・・)腕輪(うでわ)を!?」


 コヨリは知っている。拾いに行くな。知っている。知っているのに、弾きよけの腕輪(はじきよけのうでわ)は、これまでの安心そのものだった。それが床の上でくるくる回る。白い床の上で、小さな輪が光る。


 深層(しんそう)剣豪(けんごう)の二体目が動く。盾が飛ぶ。三体目が武器を弾く。装備品が通路の向こうへ散る。


 コヨリは腕輪(うでわ)へ手を伸ばした。今度も、伸ばしてしまった。


 倍速ヤマネコ(ばいそくヤマネコ)が角から飛び出す。腕輪(うでわ)まで一マス。敵まで一マス。拾う、逃げる、(つえ)を振る。選べるのはひとつだけ。コヨリは腕輪(うでわ)を拾った。


 拾った瞬間、ヤマネコの二撃が入った。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:弾かれた腕輪(うでわ)を拾いに行って倍速敵に挟まれた】

【評価:対策装備も、拾い直す一手は別料金】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)に戻ったコヨリは、腕を抱えた。そこに腕輪(うでわ)はない。だが、外された時の軽さだけが残っている。


「ログル――対策って、外れたら対策じゃないんだね」

「はい。対策装備は、装備している間だけ対策です」

「すごく当たり前なのに、ひどい」

深層(しんそう)では、当たり前が死因になります」


 ベルが、弾かれた装備品の優先順位表を作った。武器。盾。腕輪(うでわ)(つぼ)復活草(ふっかつそう)。どれを拾いに戻るか、どれを捨てるか。コヨリは表を見て、口を尖らせる。


「全部拾いたい」

「その意見は、死亡ログ(しぼうログ)側の意見です」

「ベルさんまでひどい」

勇者(ゆうしゃ)様を生かすためです」


 コヨリは壁に書いた。


【床の装備は、思い出じゃない。拾う前に生きる】


 文字が少し曲がった。悔しさで手が震えていた。


死亡回数(しぼうかいすう):956回 → 959回】

【新規獲得:装備はじき後退判断そうびはじきこうたいはんだん Lv.1】


 弾かれた腕輪(うでわ)の記録片は、小さな輪の形をしていた。コヨリはそれを指でつまみ、反省会(はんせいかい)テーブルの上を転がしてみる。輪はまっすぐ転がらず、机の端でくるりと曲がった。あの時も、こんなふうに視線だけ持っていかれたのだと思うと、腹立たしいより先に少し怖くなった。


「これ、拾いに行かない練習できる?」

「できます」

「どうやって?」

「床に置きます。勇者(ゆうしゃ)様は見ます。拾わずに十秒待ちます」

「拷問では?」

「訓練です」


 ログルは真顔だった。ネムが横から「拾ったら受付票(うけつけひょう)」とだけ言ったので、訓練の圧が急に上がる。コヨリは腕輪(うでわ)を見た。光っている。便利そう。拾いたい。とても拾いたい。けれど、両手を膝の上に置いたまま我慢した。


 十秒後、コヨリは大きく息を吐いた。


「拾わなかった!」

「はい。今の十秒は、深層(しんそう)の一手より価値があります」

「じゃあ褒めて」

「かなりえらいです」


 その日の訓練名は【床装備見送り】になった。名前は地味だが、コヨリにとってはかなり強いスキルの種だった。


【登場人物紹介】

コヨリ:弾きよけの腕輪(はじきよけのうでわ)を手に入れたことで安心しかけたが、その腕輪(うでわ)外れた瞬間(・・・・・)に判断を崩した。装備への愛着と生存判断がぶつかった回。

ログル:封印の(つえ)を優先するよう提案し、腕輪(うでわ)を拾いに行くなと二度止めた。止めたうえで死なれるので、相棒としてかなりつらい。

ベル:装備品の拾い直し優先順位表を作成。全部拾いたいというコヨリの感情を、きっちり死亡ログ(しぼうログ)側へ分類した。

深層(しんそう)剣豪(けんごう):装備を外す・弾く・散らす嫌な敵。対策装備があっても、複数体や不意打ちで崩してくる。

倍速ヤマネコ(ばいそくヤマネコ)拾う一手(・・・・)を待っている深層(しんそう)の処刑役。落ちた装備に目を奪われた瞬間を狙う。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):956回 → 959回

代表到達階層(とうたつかいそう):512F

死亡時目安:Lv72/HP812

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

継続主要:【死因学習(しいんがくしゅう) Lv.3】【逃走判断 Lv.3】【総合盤面確認そうごうばんめんかくにん Lv.2】【ログ管理 Lv.2】【一フレームの神様いちフレームのかみさま Lv.2】

深層(しんそう)対策:【装備外し深層警戒そうびはずししんそうけいかい Lv.1】【稼ぎ切り上げ判断かせぎきりあげはんだん Lv.1】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【装備はじき後退判断そうびはじきこうたいはんだん Lv.1】

内部統合候補:【装備外し深層警戒そうびはずししんそうけいかい】+【装備はじき後退判断そうびはじきこうたいはんだん】→【装備ロスト判断(そうびロストはんだん)


【ローグライクあるあるネタ】

ケンゴウ系のような装備はじき(そうびはじき)敵は、武器・盾・腕輪(うでわ)を外したり飛ばしたりするため、強装備ほど被害が大きくなります。弾きよけの腕輪(はじきよけのうでわ)などで対策できますが、対策装備そのものが外れたり、複数敵に囲まれたりすると一気に事故ります。今回は「拾えば助かる」ように見える装備を追う一手が死因です。


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