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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第24章 神様の究極1000フロアダンジョン――強くても、外れたら死ぬ

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レベル稼ぎの沼

強くなれば勝てる(・・・)

そう思ったコヨリは、低層(ていそう)で稼ぎすぎて飢える。


 1Fの空気は、930Fよりずっと軽かった。


 床も壁もきれいで、敵は弱く、宝箱(たからばこ)も小さい。ここだけ見れば、|神様の究極1000フロアダンジョン《かみさまのきゅうきょくせんフロアダンジョン》なんて名前は嘘みたいだ。コヨリは木の短剣(たんけん)を握り、HP15の自分を見下ろした。さっきまでLv86だった手は、また小さく頼りない。


死亡処理(しぼうしょり)

【Lv86 → Lv1】

【HP947 → HP15】

【シード内装備:消失】

【保存:死因ログ/識別メモ/装備外し深層警戒そうびはずししんそうけいかい


「レベル返して――いや、返してっていうか、せめて分割払いで返して!」

「返りません」

「せめて小盾(こだて)だけ」

「930Fにあります」

「言い方が遺品!」


 怒っても腹は減る。動けば満腹度(まんぷくど)が減り、敵を倒せば経験値(けいけんち)が入る。最初の方針は分かりやすかった。低層(ていそう)で稼ぐ。経験値(けいけんち)を稼ぎ、装備を鍛え、食料も集める。930FでLv86まで育てて死んだのなら、次はLv90で行けばいい。


 コヨリはそう思った。


 ログルは、少し嫌な顔をした。カーバンクル型の小さな顔なので、嫌な顔をしてもかわいい。かわいいが、言うことは刺さる。


勇者(ゆうしゃ)様。全探索は安全確認ではありますが、食料を消費します」

「でも――アイテム落ちてるかもしれない」

「落ちています。ただし、歩くたびに腹が減ります」

「じゃあ拾えばいいじゃん。食料も落ちてるでしょ」

「その考えで、前回はおにぎりを形見扱いしました」

「形見って言わないで! まだ食べる予定だったの!」


 10F、20F、40F。コヨリは丁寧に部屋を回った。敵を倒してレベルを上げ、未識別(みしきべつ)の草は階段(かいだん)上で試し、巻物(まきもの)は安全そうな通路で読む。経験値(けいけんち)は入る。装備も少し強くなる。だけど、満腹度(まんぷくど)の数字は思ったより早く減っていく。


 60Fを越えたあたりで、ログルの宝石が黄色く光った。


満腹度(まんぷくど)18です」

「まだある」

階段(かいだん)は左上の部屋です」

「でも右の部屋、未探索」

「未探索です」

「食料があるかも」

「爆裂草かもしれません」

「でも――おにぎりかも」

勇者(ゆうしゃ)様。今の声は、宝箱(たからばこ)を二度見した時の声です」


 コヨリはむっとした。事実なので言い返せない。


 右の部屋へ行く。弱い敵が三体いた。倒せる。余裕で倒せる。倒した。経験値(けいけんち)が入った。Lv19になる。最大HPが伸びた。少し回復もした。嬉しい。嬉しくて、足元を確認するのが半拍遅れた。


 部屋の奥にあった(つぼ)は、保存壺(ほぞんつぼ)ではなかった。


 【空腹(つぼ)】と表示された瞬間、腹の音が床に響いた。満腹度(まんぷくど)がごっそり減り、コヨリの視界が揺れる。ログルが何か言っているが、言葉が遠い。階段(かいだん)は左上。遠い。遠いけど見えている。見えているのに、体が重い。


「おにぎり......」

「ありません。さっき、満腹度(まんぷくど)が70の時に食べるべきでした」

「だって、まだもったいなかった......」

「命のほうが高価です」

「正論でお腹はふくれない!」


 コヨリは階段(かいだん)へ向かった。敵は弱い。だが、満腹度(まんぷくど)0の一歩はHPを削る。HPは多い。さっきまでよりは多い。けれど、距離も長い。通路の曲がり角で、眠り粉コウモリ(ねむりこコウモリ)が待っていた。


 眠らされた。


 腹は減り続ける。敵は弱い。弱い敵なのに、眠っている間はどうしようもない。


死亡ログ(しぼうログ)

【死因:低層(ていそう)で全探索しすぎて飢えた】

【評価:経験値(けいけんち)より、おにぎりの賞味期限】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点(きょてん)反省会(はんせいかい)テーブルに、コヨリはおにぎりの絵を描いた。食べる前に死んだおにぎりの絵である。丸いのに腹が立つ。


「稼ぎ、だめ?」

「だめではありません。稼ぎすぎがだめです」

「じゃあ――どこまで稼ぐの」

階段(かいだん)までの距離、食料、(つえ)の残数、敵の強さで変わります」

「答えが毎回変わるの、ゲームとして性格悪くない?」

「ローグライクです」

「神様ァ! ジャンル名を免罪符にするな!」


 ログルは低層(ていそう)地図に赤い線を引いた。全部屋を回る線と、階段(かいだん)へ直行する線。前者は経験値(けいけんち)が多い。後者は満腹度(まんぷくど)が残る。どちらが正しいかではなく、いつ捨てるかが大事だった。


 壁に新しいメモが増える。


【全探索は勇気じゃない。食費】


死亡回数(しぼうかいすう):953回 → 956回】

【新規獲得:稼ぎ切り上げ判断かせぎきりあげはんだん Lv.1】


 そのあと、コヨリは低層(ていそう)の地図をもう一枚広げた。今までなら、空白の部屋が残っているだけで背中がむずむずした。何か見落としているかもしれない。食料があるかもしれない。強い腕輪(うでわ)があるかもしれない。その「かもしれない」は、ひどく甘い声をしている。


「ログル、空白が気持ち悪い」

「はい。攻略者の習性です」

「でも――全部塗ると飢える」

「今回は、それをかなり分かりやすく死にました」

「分かりやすさが痛い!」


 コヨリは赤い線で、低層(ていそう)の回り道を一つずつ消した。消すたびに、そこに落ちていたかもしれないアイテムの幻が浮かぶ。白紙巻物(はくしのまきもの)復活草(ふっかつそう)腹減らずの腕輪(はらへらずのうでわ)。全部、欲しい。でも、欲しいものを拾うために歩いた結果、命を落としたのだ。


 最後に、コヨリは地図の端へ小さく書いた。


【拾えなかった道具より、残った満腹度(まんぷくど)


 書いたあとで、かなり大人っぽい反省をした気がして少し胸を張った。ログルはそれを見て「よい反省です」と言ったあと、同じ紙の下に【ただし、おにぎりは早めに食べる】と追記した。胸を張った分だけ、コヨリの肩がしゅんと落ちた。


【登場人物紹介】

コヨリ:Lv86死亡の反省から、次はもっと強くなればいいと考えて低層(ていそう)全探索へ走った。経験値(けいけんち)は稼げたが、食料管理に負けて飢えるあたり、かなりローグライク主人公らしい失敗。

ログル:稼ぎすぎの危険を早めに警告。食料と階段(かいだん)距離を同じ盤面で見るよう促したが、コヨリのおにぎり温存癖には勝てなかった。

眠り粉コウモリ(ねむりこコウモリ)低層(ていそう)では弱いが、満腹度(まんぷくど)0と組むと急に殺意が上がる敵。弱敵でも状況次第で死因になる。

空腹(つぼ)保存壺(ほぞんつぼ)に見せかけて満腹度(まんぷくど)を吸う嫌な(つぼ)。コヨリの「(つぼ)は便利」という信仰をまた少し削った。


【今回の勇者(ゆうしゃ)ステータス】

死亡回数(しぼうかいすう):953回 → 956回

主な到達階層(とうたつかいそう)低層(ていそう)〜中層手前

代表死亡時:Lv19/満腹度(まんぷくど)0

クラス:帰還者候補/死因学者(しいんがくしゃ)系統

基本スキル:【|基本ローグライクスキル《きほんローグライクスキル》:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

継続中:【死因学習(しいんがくしゅう) Lv.3】【未識別(みしきべつ)警戒 Lv.5】【足元確認 Lv.5】【(わな)感知 Lv.4】【逃走判断 Lv.3】

神様仕様(かみさましよう)対策:【死亡条件識別しぼうじょうけんしきべつ Lv.1】【死亡ログ所有権確認しぼうログしょゆうけんかくにん Lv.2】【ログ差し戻し(ログさしもどし) Lv.2】【死亡対象ずらししぼうたいしょうずらし Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【稼ぎ切り上げ判断かせぎきりあげはんだん Lv.1】

内部登録:【おにぎり温存しすぎ警戒】


【ローグライクあるあるネタ】

もっと不思議系ダンジョンでは、低層(ていそう)で稼ぐほどレベルや装備は整いますが、歩数が増えれば満腹度(まんぷくど)も減ります。全探索は安全確認にもなりますが、食料が薄い時はその確認自体が死因になります。今回は「強くなれば勝てる(・・・)」という考えを、低層(ていそう)の飢え死にで折る回です。


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