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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第23章 千回死亡条件――死ぬのは、わたしじゃない

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死亡対象名を書き換える部屋

白い石板に刻まれた死亡対象名。

消すべきなのはコヨリの名前ではなく、死亡対象という枠そのものだった。


 反省会テーブルの上に、見覚えのないものが置かれていた。死亡対象名石板。名前だけなら攻略道具に見えなくもないが、コヨリはもう、便利そうなものほど先に疑う勇者になっている。


 中央の石板には【死亡対象:勇者コヨリ】と刻まれている。文字が丁寧なほど、コヨリは腹が立った。


 墓場の奥の石板には、白い文字で【死亡対象:勇者コヨリ】と刻まれていた。コヨリはそれを見た瞬間、手を伸ばしかけ、ベルに止められる。名前を消せばいい、というほど単純なら、神様仕様はここまで人を苦しめていない。


「神様を対象にするんじゃない。神様の仕様を対象にする」

「誰かを身代わりにする文面ではありません。処理自身へ死亡判定を返す文面です」

「正式名に近いのは、千回死亡条件です」

「書けば部屋全体が敵になります」

「書かなくても、もう敵みたいな部屋だよ」


 消すべきなのはコヨリの名前ではない。死亡対象という矢印そのものだ。ベルは石板の構造を読み、ミネルは欠けた仕様名を補う。ログルは、名前の周りにある白い枠が存在証明にもつながっていると警告した。雑に削れば、コヨリ自身の輪郭まで削れる。


 候補は石板の周りに浮いていた。勇者コヨリ、現行シード、死亡ログ、神様仕様、千回死亡条件、主神アドミニス。最後の名前を見た時、コヨリは一瞬だけ黙る。腹は立つ。けれど、殺したいわけではない。倒したいのは、誰かを使い潰す仕組みだ。


「アドミニスって書けば、楽?」

「楽ではありません。別の破綻が起きます」

「だよね。わたしも、そう思った」

「勇者様」

「神様を死なせたいんじゃない。仕様を死なせたい」

 ベルが羽ペンを止めた。ログルは何も言わず、ただ宝石を明るくした。


 白紙巻物に書く文は短くなければならない。長いと発動前に石板が先に動く。短すぎると対象が曖昧になる。ミネルが欠けた仕様書から拾った正式名を、ベルが契約文に整え、ログルが発動に必要な一語だけ残す。コヨリは震える手で、その一語を受け取った。


 【死亡対象:千回死亡条件】

 コヨリはそう書いた。書いた瞬間、石板の白い文字が黒く裏返る。


 部屋全体が敵になった。床の継ぎ目が口を開き、壁の文字が槍のように伸びる。死亡対象をずらされることを、仕様そのものが拒んでいる。コヨリは巻物を胸に抱えず、石板へ押しつけた。抱えたら守る対象が変わる気がした。


 書き換えは成功しかけた。対象名の先頭が、ほんの一瞬だけ【勇者】から【千回】へ揺れる。だが確定にはまだ届かない。石板が割れ、破片が白い鳥のように舞った。きれいだった。きれいなものほど、だいたい刺さる。


【死亡ログ】

【死因:死亡対象名を書き換えかけた】

【評価:惜しい。対象は見えました】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 白い椅子に戻ったコヨリは、手のひらを開いた。巻物の煤が残っている。完全には書き換えられなかった。それでも、石板の文字が揺れた瞬間を覚えている。失敗ではある。でも、見えなかった出口に指がかかった失敗だった。


「ログル、今の、見えた?」

「見えました。対象名が揺れました」

「ゼロじゃない?」

「ゼロではありません」

「じゃあ次は、揺れたところをつかむ」

「はい。ただし、確定には第1000死亡判定が必要です」

「そこが一番嫌!」


 反省会テーブルに、割れた石板の欠片が置かれた。ベルはアドミニスの名が書かれた候補札を封筒へしまい、コヨリはその封筒に【使わない】と書いた。怒りの行き先を間違えないための印だった。


【死亡対象ずらし Lv.1】


 【死亡対象ずらし Lv.1】は、半透明ではなくなった。けれど、札の端はまだ揺れている。確定には届かない。その不完全さが、次の一フレームへつながっていた。


 石板の破片を持ち帰れたことは、大きかった。そこにはまだ【勇者コヨリ】の影も残っている。完全に消えていないから怖い。けれど、【千回死亡条件(しぼうじょうけん)】という文字も同じ場所に刻まれた。候補は置けた。それだけで、次へ行ける。


 対象候補にアドミニスの名が出た時、部屋の温度が変わった。コヨリは、その名前を選びたくなるほど怒っている自分を知っている。でも、選んだら違う物語になることも分かっていた。

「ベルさん。神様を対象にしたら、楽?」

「楽ではありません。別の罪になります」

「だよね」

「勇者様が望んでいるのは、誰かを代わりに死なせることではありません」

「うん。わたしは帰りたい。誰かを死なせて帰りたいわけじゃない」

 その確認が必要だった。石板は、怒りの勢いで間違うのを待っている。コヨリは深呼吸し、神様ではなく仕様の名を書いた。


 石板へ書く文字は、何度も頭の中で読み直した。死亡対象。千回死亡条件(しぼうじょうけん)。短い。短いのに重い。白紙巻物(はくしのまきもの)の文面は、長すぎると間に合わない。短すぎると誤爆する。コヨリは文字の一つ一つを、罠床のように確認した。

「ログル。これで、わたしが消えたりしない?」

「候補を置くだけなら、消えません」

「確定したら?」

「第1000死亡判定直前まで分かりません」

「そこ、正直でありがとう。怖いけど」

「嘘をつくほうが怖いです」

 コヨリはうなずいた。怖い情報でも、ちゃんと知っているほうがいい。未識別のまま飲むより、毒草だと知って持つほうがまだマシだ。


 死亡対象名石板の破片を棚に置く時、コヨリは手袋をした。素手で触るのが怖かったからだ。怖がる自分を、もう笑わない。怖いものは怖い。そのうえで触る。ログルは棚札に【対象名注意】と書き、ベルはその下に【消すのではなく、ずらす】と追記した。言葉を二重にしておくと、間違いにくい。


 壁の【帰る】の下に、コヨリは【代わりに誰かを死なせない】と書いた。長い文ではない。けれど、第1000死亡判定へ進む前に、どうしても必要な線引きだった。


【登場人物紹介】

コヨリ:死亡対象名の石板を前に、アドミニスを対象にする誘惑を退け、殺したいのは神様本人ではなく千回死亡条件だと選んだ。震えながら書く一文が章の山場。

ベル:対象名を雑に消すとコヨリの存在証明まで消えると止めた。法務担当として、勝つための線引きを守っている。

ログル:死亡対象名の候補と危険度を読み、書き換えが確定するには1000回目の一瞬が必要だと示した。

ミネル:欠けた仕様書から正式名の一部を読み、【千回死亡条件】という対象名を支えた。

白い石板:書けば勝ちではなく、書いた瞬間に部屋ごと敵化する危険物。成功直後が一番危ない。


【今回の勇者ステータス】

死亡回数:941回 → 947回

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

(第207話時点)

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【罠感知 Lv.4】

【逃走判断 Lv.3】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.2】【神様操作前兆 Lv.1】【滅亡前兆視認 Lv.1】【世界の死因学習 Lv.1】

【世界種保存 Lv.1】【墓標ログ読解 Lv.2】【残影識別 Lv.1】【死亡条件識別 Lv.1】

【仕様札識別 Lv.1】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】【死亡回数価格確認 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.2】

【死亡予定拒否 Lv.1】【役割死亡条件分離 Lv.1】【欠落仕様読解 Lv.1】【死亡ログ先行感知 Lv.1】

【死亡回数圧縮耐性 Lv.1】【千回予約拒否 Lv.1】【死亡対象ずらし Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【死亡対象ずらし Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

白紙巻物の文面指定ミスに近い回です。強い効果ほど、対象名や範囲指定を間違えると取り返しがつきません。今回は【勇者コヨリ】を消せばいいように見えますが、それをやると存在証明まで消える。ゲーム的には、ボスに撃つべき杖を自分に振る、敵に投げるべき草を飲む、そんな対象選択ミスの神様仕様版です。成功しかけた直後の破片事故も含めて、油断禁止の締めです。


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