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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第23章 千回死亡条件――死ぬのは、わたしじゃない

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一フレーム未満の死亡判定

一フレームで見えていたはずの前兆が、今回は見えない。

死亡判定は、表示される前の処理に隠されていた。


 一フレーム未満の空白を前にして、コヨリはまず深呼吸した。叫ぶと一手に数えられる可能性がある。泣いても、床が気を遣ってくれるとは限らない。理不尽への怒りを、いったん小さな拳の中に押し込める。


 一フレーム道場の床にある空白は、罠の形をしていない。けれど、そこだけ世界が先回りしてコヨリを死者扱いする気配があった。


 一フレーム道場の床が、いつもの青ではなく薄い灰色に光っていた。コヨリは入る前から嫌な予感で足を止める。ログルの宝石も、普段なら見えるはずの前兆を拾えていない。見えない攻撃ではない。見える前に終わっている処理だった。


「死亡判定が表示される前に置かれています」

「見える前に死ぬの、反則じゃん」

「反則寄りの仕様です。攻撃ではなく、置き場所を見ます」

「一フレーム道場なのに、一フレームより短いものを出すなああ――小声で。小声で怒る」

「怒りの制御が上達しています」


 これまでの【一フレームの神様 Lv.2】は、神様操作の始まりをかろうじて見せてくれた。けれど今回の死亡判定は、その一フレームより手前に置かれている。表示される前の決定。音が鳴る前に終わる罠。コヨリは「反則」と言いかけて、反則を仕様と言い張る神様の顔を思い出した。


 床には、マス目の代わりに小さな空白が散っていた。踏めば死ぬ罠ではない。踏んだことになる前から、すでに死亡処理が始まる場所だ。ログルはそれを赤く表示できず、ただ宝石を曇らせる。コヨリは青い安全マスがない盤面を見て、喉が乾いた。


「ログル、見えてない?」

「見えてからでは遅いです」

「じゃあどうするの」

「見えるものではなく、置かれている場所を読みます」

「場所なら読める?」

「少しだけ。勇者様が動く前提なら」

「動いたら死ぬやつじゃん!」


 逃げ場はあるようで、どれも細い。右へ行けば空白、左へ行けば倍速処理、後ろへ下がれば壁の判定が先に来る。コヨリは泣きたくなったが、涙で視界がにじむとマスがさらに見えない。泣くのもあとにする。命がけの後回しだった。


 コヨリは白銀の帰還ピンを、空白そのものではなく、その隣の境目へ投げた。直接触らない。境界を縫い止める。


 ピンは刺さり、灰色の空白が一瞬だけ輪郭を持った。ログルが息を呑む。成功だ。少なくとも、死亡判定の置き場所は見えた。だが、投げる一手で背後の倍速処理が二つ進んでいる。


 コヨリが振り返るより早く、背中側の空気が白く割れた。攻撃された感覚はない。ただ、結果だけが追いついてくる。避けたはずの死亡判定に、別方向から追い抜かれるのは、あまりに理不尽だった。


【死亡ログ】

【死因:死亡判定を避けたあと、倍速処理に追いつかれた】

【評価:一フレーム未満は反則です】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 戻ったコヨリは、椅子の背に額を押しつけた。見えていたのに死んだわけではない。見えなかったから死んだのでもない。見えた瞬間には、別の処理がもう走っていた。そのズルさに、文句の言葉がすぐ出てこなかった。


「ログル、Lv.2じゃ足りない?」

「足りません。でも、無駄ではありません」

「足りないけど無駄じゃない、いちばん悔しいやつ」

「はい。見えた場所は残りました」

「じゃあ次は、見えたあとじゃなくて、見える前を捕まえる」


 反省会テーブルに、灰色の空白を描いた地図が広げられた。コヨリはそこへ矢印を書き込み、倍速処理の動きを別の色で囲む。絵は下手だったが、下手なりに逃げ道が一つだけ浮かんだ。


【死亡対象ずらし Lv.1 兆候】


 【死亡対象ずらし Lv.1】は、まだ完全な獲得札ではなく、端が半透明のまま置かれた。発現兆候。ログルはそう言った。コヨリは半透明の札を見て、「じらすな」と小さく文句を言った。


 一フレーム未満の空白を見たあと、コヨリはしばらく瞬きを意識してしまった。目を閉じた間に死ぬのではないかと怖くなる。ログルは『瞬きは行動判定ではありません』と説明したが、コヨリは『その仕様、変えられたら困る』と真顔で返した。


 空白を前にすると、コヨリは瞬きすら怖くなった。見えないものを見る練習ではない。見える前に置かれたものの場所を想像する練習だ。

「ログル。わたし、今まで一フレームを見ればなんとかなるって思ってた」

「Lv.2では、多くの前兆を見られます」

「でも、神様はその前に置いてくる」

「はい」

「ずるいね」

「ずるいです」

 ログルがここまではっきり言うと、コヨリは逆に落ち着く。ずるいなら、ずるいものとして攻略する。正々堂々を期待しない。小石を投げる前に、罠を疑う。神様仕様(かみさましよう)にも同じことをする。


 空白を避ける道は、だんだん細くなった。右へ逃げれば次は左が消え、左へ逃げれば背後の処理が速くなる。ローグライクの盤面はいつもそうだ。逃げ道があるように見えて、選んだ一手が次の逃げ道を消していく。

「ログル、これ詰んでる?」

「まだ詰んでいません」

「まだ、って言った」

「正確さは大事です」

「希望を細く出すなあ」

 それでも、細い希望があるなら使う。コヨリは白銀の帰還ピン(きかんピン)を握った。踏まない。避け続けない。死亡判定が置かれた場所そのものを留める。攻撃ではない一手が、今回は一番攻撃に近かった。


 空白へ刺した帰還ピン(きかんピン)は、戻ってこなかった。だが、ピンが刺さった感触だけはコヨリの手に残っている。何もない場所にも、触れられる瞬間がある。死亡判定も、神様仕様(かみさましよう)も、完全な雲ではない。どこかに置かれ、どこかを通る。そこを探せば、いつか一手が届く。


 その日の道場には、いつもの掛け声がなかった。代わりに、コヨリは床に小さく【一フレーム未満を疑う】と書いた。まだ届かない。けれど、届かない場所の名前を知った。それだけでも、次の一手は少し変わる。


【登場人物紹介】

コヨリ:一フレームでも見えない死亡判定に追い込まれ、空白へ白銀の帰還ピンを投げた。正しい一手を選んでも背後の倍速処理で死ぬ、かなり理不尽な回。

ログル:【一フレームの神様 Lv.2】では足りないことを認めつつ、Lv.3をここでは出さずに死亡判定の置き場所を読む補助をした。

倍速処理:敵ではなく処理なのに、倍速敵のように背後から追いついてくる。ゲーム的な理不尽を神様仕様へ変換した相手。

白銀の帰還ピン:今回は攻撃ではなく、死亡判定の空白を縫い止める道具として使われた。


【今回の勇者ステータス】

死亡回数:922回 → 928回

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

(第204話時点)

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【罠感知 Lv.4】

【逃走判断 Lv.3】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.2】【神様操作前兆 Lv.1】【滅亡前兆視認 Lv.1】【世界の死因学習 Lv.1】

【世界種保存 Lv.1】【墓標ログ読解 Lv.2】【残影識別 Lv.1】【死亡条件識別 Lv.1】

【仕様札識別 Lv.1】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】【死亡回数価格確認 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.1】

【死亡予定拒否 Lv.1】【役割死亡条件分離 Lv.1】【欠落仕様読解 Lv.1】【死亡ログ先行感知 Lv.1】

【死亡回数圧縮耐性 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

発現兆候:【死亡対象ずらし Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

盤面詰み回です。ローグライクでは、敵そのものより「次に安全な一マスがない」状況が怖い。今回は見える攻撃ではなく、死亡判定が置かれている空白マスを避け続けるうちに、逃げ道が狭まります。投擲で処理する発想は正しいのですが、投げるのも一手なので背後の倍速処理が動く。ゲーム的には、罠を解除した一手で倍速敵に追いつかれる事故です。


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