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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第23章 千回死亡条件――死ぬのは、わたしじゃない

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ベルの死亡ログ所有権裁判

魔王相談窓口が、なぜか法廷になった。

争点はひとつ。コヨリの死亡ログは、誰のものか。


 死亡ログ(しぼうログ)所有権裁判を前にして、コヨリはまず深呼吸した。叫ぶと一手に数えられる可能性がある。泣いても、床が気を遣ってくれるとは限らない。理不尽への怒りを、いったん小さな拳の中に押し込める。


 白い契約書が相手席に立つ。紙なのに偉そうで、紙なのにこちらを見下している感じがする。ベルの羽ペンが、剣より鋭く光った。


 魔王相談窓口は、朝から法廷のようになっていた。机の上には白い契約書、黒い契約書、ベルの赤い訂正紙。コヨリは証言台代わりの踏み台を見て、また踏み台か、と嫌な顔をした。幼女用に調整された設備は、だいたい罠に近い。


「死亡ログは本人の経験、記憶、痛み、選択の記録です。召喚契約に基づく主神管理資産ではありません」

「勇者は死亡に同意済み」

「してない! 死ぬなんて聞いてない。何度も死んで、何度も忘れられるなんて聞いてない!」

「ただいまの発言を、説明不足による同意無効の証言として採用します」

「怒鳴ったの、役に立った? ならよかった......でも次は合図して」


 争点は、死亡ログの所有権だった。神様側の契約書は、勇者死亡ログを主神管理資産だと言い切る。ベルはそれを聞いて、羽ペンを折らなかった。折らなかっただけで、目はかなり怖い。コヨリは「資産」という言葉で少し黙った。自分の痛みが、棚卸しされる商品みたいに扱われている。


 法廷はターン制だった。一つ発言すれば、相手の条項も一つ進む。余計なツッコミは不利になる。コヨリは口を押さえ、ベルの合図があるまで黙る訓練をした。黙ることがこんなに難しいとは思わなかった。神様仕様より、自分のツッコミ欲のほうが先に暴れそうだ。


「勇者様、ここでは叫ぶ前に私を見てください」

「叫びたくなったら?」

「羽ペンを立てます」

「羽ペンが折れたら?」

「その時は私も怒っています」

「合図として分かりやすすぎる」


 契約書が【勇者は死亡に同意済み】と読み上げた瞬間、コヨリの我慢は限界に近づいた。聞いていない。説明されていない。死んでも次があるから実質セーフ、なんて軽い言葉は、同意ではない。ベルの羽ペンが机に立つ。叫んでいい、という合図だった。


「してない! してないしてないしてない! 説明受けてない!」

 コヨリの声が法廷に響き、同時に床のマス目が赤く光った。


 神様側の契約書が勝ち誇ったようにページをめくる。だが、ベルはその瞬間を待っていた。説明不足による同意無効。彼女の羽ペンが、契約書の白い余白へまっすぐ線を引く。


 勝った、と思った直後が危ない。契約書は自爆条項を発動し、ページの端を紙刃に変えた。コヨリは机の下へ潜ろうとして、踏み台に足を取られる。だから踏み台は嫌いだ。


【死亡ログ】

【死因:契約書の自爆に巻き込まれた】

【評価:勝訴後も足元確認】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 戻ったコヨリは、椅子の上で膝を抱えた。怒鳴った喉が少し痛い。けれど、言えたことへの後悔はなかった。ベルは契約書の焦げた切れ端を拾い、いつもより丁寧に封筒へ入れている。


「ベルさん、勝ったのに死んだ」

「勝訴後の自爆対策が不足していました」

「裁判にも爆発あるの?」

「神様側の契約書ですので」

「法務に爆発を持ち込むなあああああ!」

「その点も抗議します」


 反省会テーブルには、【同意なし】【説明不足】【自爆条項注意】の三枚が並んだ。コヨリは最後の札にだけ、爆発マークを三つ描いた。ベルは四つ目を足した。


【死亡ログ所有権確認 Lv.2】


 【死亡ログ所有権確認 Lv.2】は、ベルの抗議文の上に重ねられた。Lv.1では「誰のものかを見る」だけだったが、今は「勝手に渡したことにされていないか」を疑える。


 法廷の線は消えたが、テーブルには白い紙の焦げ跡が残った。ベルはそれを見て『勝訴後に爆発する契約書など、最低です』と静かに言う。コヨリは『最低の種類が増えていく』と返し、少しだけ笑った。


 法廷になった魔王相談窓口は、妙に静かだった。静かだからこそ、契約書のめくれる音がよく響く。一枚めくれるたびに、コヨリの死が別の言葉に置き換えられていく。検証。資産。素材。合意。

「ベルさん。言葉を変えると、痛くなくなるの?」

「いいえ。痛みを見えにくくするだけです」

「じゃあ、ずるい」

「はい。だから、こちらも言葉で取り返します」

 ベルの羽ペンは、剣ではない。でも、白い契約書の嘘を切るには十分だった。コヨリは、自分の怒りがただのわがままではないと初めて感じた。死ぬのが嫌だと言っていい。説明されてないと叫んでいい。ベルの書類が、それを正式な言葉にしてくれる。


 白い契約書は、コヨリが黙るほど有利になるようにできていた。難しい言葉を並べ、同意済みと決めつけ、説明されたことにしてしまう。分からなかった子どもが悪い、という顔をする。その顔に、コヨリは見覚えがあった。神様が最初に笑っていた顔に少し似ている。

「ベルさん。わたし、難しい言葉で負けそう」

「負けません。難しい言葉は、こちらでほどきます」

「じゃあ、わたしは?」

「あなたは、説明されていないと正直に言ってください」

 それならできる。できすぎて、怒鳴ってしまった。でもベルは、その怒鳴り声を証言にしてくれた。コヨリの痛みが、初めて正式な形で紙に残った。


 裁判のあと、コヨリはしばらく声がかれていた。怒鳴ったせいだ。ベルは温かい飲み物を出し、ネムは受付票の裏に【のど休め】と書いてくれた。ゼルドは『裁判とは戦闘より疲れる』と言い、誰も否定しなかった。言葉で戦うのは、剣で戦うより地味なのに、あとからずしりとくる。


 コヨリは壁に【説明を聞いてない同意は同意じゃない】と書いた。字が長くて曲がったが、ベルは直さなかった。まっすぐすぎる書類より、曲がっていても本人の字のほうが強い時がある。


【登場人物紹介】

コヨリ:死亡ログ所有権裁判で、死亡への同意などしていないと叫んだ。感情が先に出たことで罠も動いたが、その叫びがベルの主張を通す鍵にもなった。

ベル:今回の主役。死亡ログは本人の経験と痛みの記録であり、神様の管理資産ではないと法廷で戦った。勝訴後に契約書が自爆するあたり、法廷もダンジョン。

ログル:発言ターンと契約書の進行を読み、余計な一言が不利条項になることを警告した。会話すらターン制になる回の管理役。

白い契約書:本人不在の神様側代理。都合のいい条項を増やし、負けると自爆するあたり、契約書というより爆ぜ岩。


【今回の勇者ステータス】

死亡回数:894回 → 900回

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

(第200話時点)

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【罠感知 Lv.4】

【逃走判断 Lv.3】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.2】【神様操作前兆 Lv.1】【滅亡前兆視認 Lv.1】【世界の死因学習 Lv.1】

【世界種保存 Lv.1】【墓標ログ読解 Lv.2】【残影識別 Lv.1】【死亡条件識別 Lv.1】

【仕様札識別 Lv.1】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】【死亡回数価格確認 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.1】

【死亡予定拒否 Lv.1】【役割死亡条件分離 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

更新:【死亡ログ所有権確認 Lv.1】→【死亡ログ所有権確認 Lv.2】


【ローグライクあるあるネタ】

契約書を巻物として扱った回です。ローグライクの巻物は読む場所とタイミングが大事で、部屋全体に効果が出るものもあれば、読んだ瞬間に不利な状態になるものもあります。ここでは発言が一手で、相手の条項も一項目進むため、ゲーム的には「法廷という部屋で、読むたびに敵ターンが進む巻物戦」。勝訴しても紙片自爆が残るので、ボスを倒した直後の足元確認までが攻略です。


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