表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第23章 千回死亡条件――死ぬのは、わたしじゃない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
199/340

ゼルド、魔王死亡条件に巻き込まれる

魔王がいても詰み。いなくても詰み。

ゼルドの胃に、魔王死亡条件札が山ほど降ってくる。

 反省会テーブルの上に、見覚えのないものが置かれていた。魔王死亡条件(しぼうじょうけん)札。名前だけなら攻略道具に見えなくもないが、コヨリはもう、便利そうなものほど先に疑う勇者になっている。


 魔王関連札の山がゼルドの黒マントへ貼りつく。魔王討伐済でも未討伐でも終了するなら、役割とはただの重石だ。


 魔王相談窓口の扉を開ける前から、ゼルドは胃を押さえていた。札の匂いがする、とベルが言う。魔王がいるだけで世界終了、魔王がいなくても世界終了。どちらへ転んでも仕事が増える気配に、魔王の顔色はすでにラスボス戦後だった。


「余は魔王であって、世界終了の釦(ワールドエンドボタン)ではない」

「釦って言い方、ちょっと重くて好き」

「魔王様を終了処理名として扱うのは、役割の濫用です。正式抗議文にします」

「ベルさんの抗議文、神様より強そう」

「余の胃も、その文面で少し救われる」


 部屋に入ると、魔王関連の条件札が壁一面に貼られていた。討伐済、未討伐、不在、再配置、仮登録。ゼルドの名前は出ていないのに、全部が彼へ向いている。役割とは便利な言葉だ。便利すぎて、本人を押しつぶす。コヨリはその重さを、第22章の墓場で見ていた。


 ベルは生存証明書を出し、ログルは札の向きを読む。コヨリはゼルドのマントの裾を引いた。魔王本人が前に出ると、札が一斉に反応するからだ。魔王なのに、自分の名前が書かれた部屋で一番動けない。そんな理不尽に、ゼルドの角がしょんぼりして見えた。


「余、存在しても不在でも終了扱いなのだが」

「魔王さん、詰み将棋の駒にされてる」

「余は駒ではない。魔王である」

「魔王である札もあります」

「ベル、それを読み上げるでない。胃が痛む」

「胃薬の申請も必要ですね」


 コヨリは笑いかけたが、笑いきれなかった。ゼルドが苦労人だから面白いのではない。神様が「魔王」という役割を何度も使い回し、そのたびに本人の都合を札の下へ押し込めてきたことが、もう見えてしまう。なら今回の一手は、魔王を倒すことでも守ることでもない。役割を札から引き剥がすことだ。


 白紙巻物へ、コヨリは【魔王の生死を世界終了条件にしない】と書いた。長い。だが短くすると、どこかに穴が開く。


 巻物は光り、数枚の札が壁からはがれた。ゼルドが「おお」と息を漏らす。次の瞬間、はがれた札が全部ゼルドの足元へ集まり、重りのように積み上がった。


 助けようと踏み出したコヨリの前に、【魔王代理】の札がすべり込む。踏んだ瞬間、肩に黒いマントの重みが乗った。幼女勇者に魔王業務は重すぎる。物理的にも、精神的にも。


【死亡ログ】

【死因:魔王代理札を踏んだ】

【評価:代理就任は慎重に】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 戻ってきたコヨリは、椅子の上で肩を回した。マントは消えているのに、まだ重い気がする。ゼルドは窓口の向こうで深々と頭を下げ、ベルがその横に胃薬らしき小瓶を置いた。


「魔王さん、代理って大変だね」

「分かってくれたか、幼き勇者よ」

「うん。二度とやりたくない」

「余も毎回やりたくない」

「魔王本人が言うと重い」

「重いのだ。マントも、条件も」


 反省会テーブルでは、魔王札を三つに分けた。本人、役割、神様都合。コヨリは最後の皿にだけ、黒いドクロを描いた。ゼルドはそれを見て、初めて少し笑った。


【役割死亡条件分離 Lv.1】


 【役割死亡条件分離 Lv.1】は、魔王相談窓口の壁に貼られた。ゼルドの名前を守るためでもあり、コヨリ自身が勇者役に潰されないための札でもある。


 ゼルドは魔王代理札の破片を見て、深くため息をついた。重かったのは札だけではない。自分が何度も世界終了の釦にされてきた事実そのものだ。コヨリは紅茶を受け取りながら、魔王を倒すだけの物語には戻れないと、改めて思った。


 札の山は、ゼルドの威厳を簡単に押し潰した。けれど、コヨリはそこで笑いきれなかった。いつもの胃痛ネタに見える。魔王がまた苦労している。ベルが抗議文を書いている。そこまではコメディだ。でも、札が重い理由は笑えない。

「魔王さん。わたし、魔王を倒せば帰れるって、まだどこかで引っかかってたかも」

「神が最初にそう言ったのなら、当然だ」

「でも、それって魔王さんを処理のボタンにする話だった」

「余も、勇者を処理の刃と見ていた時期がある。お互い様、では済まぬがな」

 ゼルドは札の重さに膝をつきながら、それでも視線を下げなかった。コヨリはその目を見て、白紙巻物(はくしのまきもの)の文面を決めた。魔王は処理名ではない。たったそれだけの文が、妙に重かった。


 ゼルドに貼りついた札を剥がすには、力ではなく文面が必要だった。魔王だから倒す。魔王だから世界が終わる。魔王がいないから代わりを置く。神様側の札は、どれも役割を先に見て、本人をあと回しにしている。

「魔王さん、魔王じゃなかったら何したい?」

「急に難しいことを聞くな」

「紅茶屋さん?」

「余の威厳をどこへ置いた」

「胃に優しそう」

 ゼルドは少しだけ笑った。魔王が笑うだけで、札の山の重さがほんのわずか軽くなる。本人がいる。役割の下に、ちゃんと誰かがいる。それを確認できたから、コヨリは巻物に短く書けた。魔王は処理名ではない。


 魔王代理札は、破片になってもまだ重い。コヨリはそれを持ち上げようとして、両手で抱えることになった。ゼルドが苦笑しながら片手で受け取る。役割の重さに慣れている手だった。コヨリはそれを見て、慣れてしまう前に軽くする方法を探したいと思った。魔王も勇者も、札より先に本人であるべきだ。


 記録の最後に、コヨリは【魔王さんは最終試験官じゃない】と書いた。ゼルドは「そこまで言わずとも」と言ったが、ベルが無言で二重丸をつけた。


【登場人物紹介】

コヨリ:魔王関連の死亡条件札に巻き込まれるゼルドを助けようとして、魔王代理札を踏んだ。助けたい気持ちは本物だが、代理就任は踏むものではない。

ゼルド:魔王がいてもいなくても世界終了という理不尽札の山に胃を痛めた。魔王なのに完全に労災被害者で、コメディと同情を同時に背負っている。

ベル:ゼルドの生存証明書を出し、魔王を条件札から切り離そうとした。秘書としても法務担当としても有能。

ログル:魔王札の重さと配置を読み、役割押しつけの危険を示した。魔王関連でも容赦なく盤面を見る。


【今回の勇者ステータス】

死亡回数:888回 → 894回

クラス:帰還者候補/死因学者系統

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

(第199話時点)

【死因学習 Lv.3】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【罠感知 Lv.4】

【逃走判断 Lv.3】【帰還門感知 Lv.3】【ログ管理 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.2】

【一フレームの神様 Lv.2】【神様操作前兆 Lv.1】【滅亡前兆視認 Lv.1】【世界の死因学習 Lv.1】

【世界種保存 Lv.1】【墓標ログ読解 Lv.2】【残影識別 Lv.1】【死亡条件識別 Lv.1】

【仕様札識別 Lv.1】【死亡ログ所有権確認 Lv.1】【死亡回数価格確認 Lv.1】【ログ差し戻し Lv.1】

【死亡予定拒否 Lv.1】【役割死亡条件分離 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【役割死亡条件分離 Lv.1】


【ローグライクあるあるネタ】

呪い装備や外れない腕輪に近い事故です。拾った瞬間に能力が上がる装備なら嬉しいですが、今回の札は「魔王代理」「仮魔王」といった役割を貼りつけ、外す前に死亡条件を進めてきます。ゲーム的には、強そうな装備品を未識別のまま装備したら呪われて外せず、しかも重量で移動まで悪くなる状況。ゼルドの胃痛は、装備欄に勝手に入った呪い札の悲鳴です。


コヨリの死に覚え攻略を見守っていただける方は、ブックマーク・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ