魔法使いクラス、火球で自爆する
第4章、魔法使いシード開始です。
火球です。ロマンです。
ただし、床を見ないと燃えます。
拠点厨房の小鍋から、湯気が上がっていた。
白い部屋に台所があるだけで、少しだけここが家みたいに見える。死因図鑑室の隣に厨房があるのは、まだどうかと思うけれど。
「ログル、次は食べ物以外がいい」
「食料不足シードは、かなり濃い経験でしたからね」
「逃げ芋、生きてるパン、おにぎり化。濃いっていうか、味が全部おかしい」
リュシアが奥で果実水を注ぎながら笑った。
「ちび勇者ちゃん、次は魔法らしいわよ」
「魔法!」
わたしは椅子から飛び上がった。
魔法。剣と魔法の異世界。その魔法。
食材に噛まれるより、ずっと勇者っぽい。
白い天井から、神様の明るい声が落ちてきた。
「魔法使いシードだよ! 火球とか撃てたら異世界っぽいよね!」
「神様にしては、まともなこと言ってる!」
「勇者様。その反応は危険です」
「ログル、魔法だよ? わたし、ついに遠くから安全に戦えるんだよ?」
「安全、という単語が魔法と一緒に出た時点で不安です」
白い床に転送光が広がる。
わたしは腰に【ミーナのパン切りナイフ】をつけ、小さな鞄に【縁のスープ】の小瓶を入れた。
「今回は火を通すんじゃなくて、火を出す」
「似ているようで、事故の方向が違います」
「事故前提で話さないで!」
床が抜けた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
次に足がついたのは、初期村ミルカの近くだった。
でも、村の外れに見慣れないものがある。
丘の下に、七色に光る石造りの入口が口を開けていた。壁には赤、青、黄、白の光がまだらに走り、入口の草は半分焦げ、半分凍っている。
「ログル。あれ、魔法っぽい」
「はい。《属性迷宮》と思われます」
「名前からして、めちゃくちゃ魔法っぽい!」
「同時に、めちゃくちゃ事故りそうです」
「ログル、テンション下げるのうまいね!」
迷宮の前には、小さな木箱が置いてあった。
宝箱ではない。呼吸していない。たぶん。
箱の上には、神様の字で札が貼ってある。
【魔法使いスターターセット】
「スターターセット!」
「勇者様。まず罠確認を」
「宝箱じゃないよ?」
「神様の支給品です。宝箱より信用できない場合があります」
「それはそう!」
慎重に蓋を開ける。
中に入っていたのは、幼女の身長に合った短い杖と、赤い文字で書かれた札だった。
【こども杖】
【初級魔法:ころころ火球】
「ころころ火球」
「嫌な名前ですね」
「かわいいじゃん」
「火球に、ころころ、がついています。直線で飛ぶとは限りません」
「魔法って普通、びゅーんって飛ぶでしょ?」
「普通の魔法を、勇者様はまだ見ていません」
わたしは杖を握った。
手の中で、ぽっと温かくなる。
【クラス適性:魔法使い 兆候】
【仮登録:ころころ火球】
「おおお、来た! 魔法使い!」
「勇者様。まず床を見てください」
「分かってるって。前のシードで、食べる前に確認を覚えたもん」
「今回は、撃つ前に確認です」
「魔法も未識別食材みたいな扱いなの!?」
「かなり近いです」
迷宮の一階へ入ると、石の床が薄く光った。
赤い床。青い床。黒く湿った床。ところどころに油のようなぬめりがある。
前方三マスに、ぷるぷるした小さなスライムがいた。
「敵だ」
「低危険度です。ただし、床が油床です」
「じゃあ、離れて火球!」
「勇者様、待ってください」
「魔法使い初戦! いっくよー!」
杖を構える。
一手。詠唱。
スライムが一マス近づく。
「敵、待ってくれない!」
「詠唱も行動です」
「詠唱中くらい空気読んで!」
杖の先に小さな火の玉が生まれた。
「ころころ火球!」
火球は、びゅーんとは飛ばなかった。
名前の通り、床をころころ転がった。
「本当に転がったああああああ!」
火球が油床に触れた瞬間、赤い線が床いっぱいに走った。
次のターン、炎が一気に広がる。
「ログル! 火がこっち来る!」
「油床です。火は床を伝います」
「魔法って前に飛ぶやつじゃないの!? なんで床を走るの!? 神様ァ! 魔法名に使用上の注意を書いてえええええええええ!」
炎が足元に届いた。
HP15が、赤い数字になって消える。
視界が白く弾けた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
死亡回数:22回目
死因:【ころころ火球が油床で大炎上した】
評価:【魔法を撃つ前に床を見ましょう】
新規獲得:【詠唱前確認 Lv.1】
新規獲得:【魔法誤爆警戒 Lv.1】
白い拠点で、わたしは床に正座していた。
「勇者様」
「はい」
「撃つ前に」
「床を見る」
「詠唱すると」
「敵も動く」
「ころころ火球は」
「転がる」
「油床では」
「撃たない」
「ログルの反省会、完全に小学校の先生!」
リュシアが厨房から顔を出した。
「火傷は戻った?」
「体は戻った。でも心が焦げた」
「スープ飲む?」
「飲む」
温かいスープを飲んでから、わたしはもう一度こども杖を握った。
「次は床を見る」
「はい。今回の第一歩です」
「食べる前に確認。撃つ前に確認」
「生存率が上がります」
「勇者というより、危険物取扱いじゃん!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
再挑戦。
同じ迷宮、同じ一階、同じスライム。
でも、わたしは今度こそ床を見た。
「油床。赤い床。石の床。スライムは三マス先」
「右側の石床へ火球を転がせば、油床に触れません」
「よし。魔法は敵じゃなくて、床にも撃つ」
詠唱。
スライムが一歩。
火球がころころ転がり、石床で小さく弾けた。
爆風だけがスライムに当たり、ぷるんと崩れる。
「やった!」
「成功です」
「魔法、こわいけど便利!」
「順番としては、こわい、を忘れないでください」
ログルの宝石が光った。
【ころころ火球 Lv.1 仮習得】
わたしは杖を握り直し、迷宮の奥を見た。
魔法は強い。
でも、油床で自分も燃える。
この世界、ロマンに必ずトゲがついている。
「神様ァ! 次から説明書もスターターセットに入れて!」
あとがき
【今回の死亡ログ】
死亡時レベル:Lv1
死亡時HP:0/15
死亡時満腹度:62/100
今回の死因:【ころころ火球が油床で大炎上した】
評価:【魔法を撃つ前に床を見ましょう】
ロスト:【未登録探索成果】
新規獲得:【詠唱前確認 Lv.1】【魔法誤爆警戒 Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード019
次回開始:Lv1/HP15
死亡回数:22回
クラス:勇者
クラス適性:魔法使い適性 兆候
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【危険察知 Lv.2】
【足元確認 Lv.2】
【未識別警戒 Lv.3】
【食材識別 Lv.2】
【満腹度節約 Lv.1】
【スープ回復 Lv.1】
【食べて識別 Lv.1】
【レシピ記録 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【詠唱前確認 Lv.1】
新規獲得:【魔法誤爆警戒 Lv.1】
仮習得:【ころころ火球 Lv.1】
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