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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第3章 食料不足シードと料理人クラス

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食料庫ダンジョンと、縁のスープ

第3章ラスト。

ここまでの食材死を全部使います。

料理人クラス、正式解放です。

 食料庫の奥には、まだ扉があった。


 昨日は、歯のあるパンを処理するだけで精一杯だった。

 でも、あれは入口にすぎない。


 扉の向こうから、ぐううう、と大きな音が聞こえる。


「ログル」

「はい」

「今の、お腹の音?」

「食料庫の奥からです」

「食料庫がお腹を鳴らすな!」


 ミーナは、わたしの腰にパン切りナイフを結び直してくれた。


「無理はしないんだよ」

「うん」

「食べ物は大事だけど、命の方が大事だからね」

「それ、神様にも聞かせたい」

「神様は聞く耳あるのかい?」

「たぶん、ログ提出しないと読まない」


 ログルが小さく咳払いした。


「勇者様。奥の反応ですが、食料、魔物、罠、満腹度吸収、ミミック反応が混在しています」

「全部盛りやめて」

「章末ダンジョンのようです」

「章末とか言わない!」


 わたしは深呼吸して、扉に手をかけた。


 開ける。

 1ターン進む。


 奥から、冷えた空気が流れてきた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 地下食料庫の最奥は、広い部屋になっていた。


 壁には空の棚が並び、床には蔓が張っている。

 中央には巨大な木箱が置かれていた。


 木箱のふたは閉じている。

 でも、わたしはもう知っている。


 宝箱は呼吸する。

 食料箱も、たぶん呼吸する。


「ログル。あれ」

「はい。呼吸しています」

「ミミック!」

「ただし、通常の宝箱型ではありません」

「嫌な追加情報!」


 木箱の表面が、ぐにゃりとゆがんだ。


 ふたが開く。

 中には、麦袋も干し肉もない。

 代わりに、大きな口があった。


 棚ごと食べそうな口。

 部屋の食料を全部吸い込んできたような、腹ぺこの口。


【警告】

個体名候補:《腹ぺこ貯蔵庫ミミック》

危険:満腹度吸収

弱点候補:過食/睡眠/爆裂反応/食材処理


「貯蔵庫がミミック化するなあああああああああああああああ!」


 貯蔵庫ミミックが、ぐううう、と鳴いた。

 床の蔓が一斉に揺れる。


 満腹度が、68から63へ落ちた。


「何もされてないのにお腹減った!」

「部屋全体に満腹度吸収です」

「幼女の腹から取るな! 村から取った分を返せ!」


 ミミックは動かない。

 でも、口の中に吸い込む力がある。

 わたしが一手動くたびに、満腹度が減る。


 長引いたら負ける。


 手持ちは、パン切りナイフ、鍋のふた、小石三つ、眠り草の切れ端、爆裂キノコ一つ、スープ入り小瓶。


 HPは15。

 満腹度は63。

 距離は五マス。


「ログル、直接殴るのは?」

「おすすめしません。噛まれます」

「爆裂キノコを投げる」

「口内で爆発すれば有効。ただし距離と角度が必要です」

「眠り草」

「先に食べさせれば、吸引が弱まる可能性があります」

「スープは?」

「飲めば回復。投げれば、匂い誘導になるかもしれません」

「わたしの料理、ついに武器判定!」


 貯蔵庫ミミックが、また大きく息を吸った。

 棚の破片が口へ飛んでいく。


 このまま近づけば吸われる。

 でも、遠くから投げても、外したら終わる。


 わたしは床を見る。

 蔓のないマス。

 蔓のあるマス。

 壊れた棚。

 赤いキノコの胞子がこびりついた壁。


「ログル。あの壁、爆発で壊れる?」

「可能性があります」

「壊したら?」

「棚が倒れ、ミミックの口元に遮蔽物ができます」

「じゃあ、先に壁」


 小石を投げる。

 赤い胞子の壁に当たる。


 ぼふっと赤い煙が出た。

 壁が崩れ、古い棚が倒れる。


 ミミックの吸引が、棚にぶつかって弱まった。


「よし!」

「満腹度、58」

「減るの早い!」


 次に、眠り草を棚の上に投げる。

 吸引で草が口へ吸い込まれる。


 貯蔵庫ミミックの目のような節穴が、とろんとした。


「効いた?」

「吸引低下。ただし、完全睡眠ではありません」

「じゃあ爆裂キノコ!」


 わたしはキノコを持った。

 でも、手が止まる。


 食べ物かもしれないものを、爆弾として投げる。

 昨日から何度もやっているけれど、やっぱり少し変な気持ちになる。


 ミーナの声を思い出す。


 食べられるところだけ食べな。


「......ログル」

「はい」

「あれ、全部倒すんじゃなくて、食べられるところだけ残せる?」

「難しいですが、可能性はあります。口の奥ではなく、右側の木部に爆発を当てれば、外殻だけを割れるかもしれません」

「じゃあ、それで」

「失敗すると、爆発と吸引が同時に来ます」

「いつも通り、失敗したら死ぬやつ!」

「はい」

「はいじゃない!」


 床のマス目が、青白く浮かぶ。

 敵は半分眠っている。

 吸引は弱い。

 距離は四マス。

 右側の木部を狙う。


 投げる。


 爆裂キノコが弧を描き、ミミックの右側に当たった。


 赤い光。

 爆発。

 棚の破片が飛ぶ。


 わたしは鍋のふたを構えてしゃがんだ。

 爆風が耳元を抜ける。

 HPが15から9へ減った。


 でも、生きている。


 貯蔵庫ミミックの外殻が割れ、中から大量の乾いた豆と、固い穀物の塊がこぼれた。


「食料!」

「可食反応があります」

「やった!」


 ミミックが最後の力で口を開く。


 わたしは一歩踏み込んだ。

 パン切りナイフを抜く。


 敵を斬るのではない。

 食べられるところと、食べちゃだめなところを切り分ける。


「ミーナおばちゃんに、返す!」


 ナイフを振る。

 刃が、黒ずんだ外皮を裂いた。


 貯蔵庫ミミックは、ぐうう、と情けない音を立てて崩れた。


【攻略成功】

《腹ぺこ貯蔵庫ミミック》無力化

食料回収:成功

満腹度吸収床:停止

クラス判定:料理人 確定


「勝った......」

「勇者様」

「なに?」

「料理人クラス、正式解放です」

「やった! ......勇者としては?」

「生存しました」

「そこ大事だけど!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 食料庫から戻ると、村の人たちが集まっていた。


 豆。

 穀物。

 食べられる根。

 ぜんぶ少しずつだけど、空っぽだった棚に戻っていく。


 ミーナは、何も言わずにわたしを抱きしめた。


「おばちゃん、苦しい」

「悪いね」

「でも、ちょっとだけならいいよ」


 ミーナは笑って、すぐに鍋を火にかけた。


 回収した豆を煮る。

 穀物を砕く。

 根っこを薄く切る。

 わたしも横で手伝った。


 村の子供が、店の前に並ぶ。

 大人たちも、静かに待つ。


 やがて、鍋から白い湯気が上がった。


「勇者ちゃん、名前は?」

「縁のスープ」

「やっぱり大げさだねえ」

「いいの。忘れたくないから」


 ミーナが、最初の一杯をわたしにくれた。


 飲む。

 まずい。

 少し焦げている。

 豆は固い。

 でも、温かい。


「ログル」

「はい」

「おいしいとは言えない」

「はい」

「でも、生きてる味がする」

「成功ログに、そう記録します」


 ログルの宝石が、今までで一番やさしく光った。


【帰還因子候補:縁】

初期反応を確認

対象記録:【ミーナ】【縁のスープ】【食べさせてくれた人】


「帰還因子......」

「まだ欠片にも届きません。ただ、方向性は見えました」

「帰るために、縁がいるんだ」

「おそらく」

「じゃあ、忘れないようにしなきゃ」


 このシードが終われば、ミーナはわたしを忘れるかもしれない。

 この村も、次は違う形になるかもしれない。


 でも、拠点には残る。


 死因だけじゃなく、こういうものも残せる。


 わたしは椀を両手で持って、白い湯気の向こうを見る。


「ログル。帰ったら、厨房にこれ登録しよう」

「はい。レシピ名は」

「縁のスープ」

「登録します」


 ミーナが、わたしの頭をまた撫でた。


「腹が減ってちゃ、勇者もできないよ」

「うん」

「だから、食べてから行きな」

「うん。食べてから帰る」


 わたしはスープを飲み干した。


 まずい。

 でも、忘れたくない味だった。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【クラス解放:料理人】

【拠点施設:拠点厨房 正式稼働】

【レシピ登録:縁のスープ】

【拠点登録候補:ミーナのパン切りナイフ】

【帰還因子候補:縁 初期反応】


 白い拠点に戻ると、厨房の壁に新しい絵が浮かんでいた。


 木の椀。

 湯気。

 パン切りナイフ。

 そして、ミーナの言葉。


【腹が減ってちゃ、勇者もできないよ】


 わたしは壁の文字を見る。


【帰る】

【食べてから帰る】


 その横に、もう一つだけ書き足した。


【忘れない】


 ログルが、何も言わずに隣へ座った。

 リュシアが奥で静かに鍋を磨いている。


 死因ログだけじゃない。

 成功ログも、思い出ログも、ここに残る。


 それなら、わたしはまだ進める。


「次は?」

 ログルが聞いた。


 わたしは、厨房の小鍋を見てから答えた。


「次は、魔法かな」

「属性反応の強いシード候補があります」

「食べ物の次が魔法。これ絶対、爆発する流れ」

「かなり爆発すると思います」

「神様ァ! 予告爆発やめろおおおおおおおおおおおお!」


 白い拠点に、わたしの叫びが響いた。


 料理シード、クリア。

 勇者コヨリは、料理人になった。

あとがき


【今回のクリアログ】


現在シード:シード012

クリア時レベル:Lv2

クリア時HP:14/19

クリア時満腹度:52/100

クラス:料理人

死亡回数:17回

クリア対象:《腹ぺこ貯蔵庫ミミック》

持ち帰り成功:【縁のスープ レシピ】

拠点登録候補:【ミーナのパン切りナイフ】

解放施設:【拠点厨房】正式稼働

帰還因子候補:【縁】初期反応


【今回の勇者ステータス】


基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】


【恐怖耐性 Lv.1】

【危険察知 Lv.2】

【足元確認 Lv.2】

【罠感知 Lv.1】

【未識別警戒 Lv.3】

【ミミック警戒 Lv.1】

【食材識別 Lv.2】

【非常食変換 Lv.1】

【満腹度節約 Lv.1】

【スープ回復 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


クラス解放:【料理人】

新規獲得:【食べて識別 Lv.1】

新規獲得:【レシピ記録 Lv.1】

統合:【食べる前に疑う Lv.1】+【食材識別 Lv.1】→【食材識別 Lv.2】

レシピ登録:【縁のスープ】


【登場人物紹介】


コヨリ:第3章で料理人クラスを解放。敵を倒すだけでなく、食べられるところを持ち帰る勇者になった。

ログル:死因ログだけでなく、成功ログと思い出ログを大事にし始めた解析神獣。

ミーナ:第3章の心。食べさせてくれた人。

リュシア:拠点厨房を見守る酒神。コヨリにはもちろんスープ担当。

メリメル:豊穣神。善意で爆裂キノコを増やす危険なお姉さん神。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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